SSUフォーラム『習近平政権下における技術安全保障国家の台頭』

  • 日程:
    2022年09月20日(火)
  • 時間:
    16:30-17:40
  • 会場:
    ZOOMウェビナーでのオンライン開催となります
    ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします
  • 言語:

    英語

  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット

    ※未来ビジョン研究センターは、本イベントのZoom URL情報を提供するため、また、今後の活動についての情報を提供するため皆様の個人情報を収集させていただいております。この情報はいかなる第三者にも開示いたしません。

定員に達したため申込みを締め切りました。
概要

中国は軍事、技術、経済力が交差する分野において、世界を牽引する国の一つとなるべく、早いスピードで大きな進展をみせています。これは、一体どのように達成されるのでしょうか。習近平政権下で中国が技術安全保障面での変革を行う上で、国家としての長期的戦略的な思考や目標はどういったものなのでしょうか。また、世界全体に与える影響はどのようなものでしょうか。タイミン・チュン教授は、自身が最近コーネル大学プレスから出版した『支配のためのイノベーション~習近平政権下での技術安全保障国家としての中国』と称する書籍を参照しながら、これらの課題について議論を行います。

登壇者略歴

講演者:タイミン・チュン
カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル政策・戦略スクール教授。ロンドン大学キングス・カレッジで博士号(紛争学)を取得。中国、安全保障、イノベーションを専門とする。カリフォルニア大学のグローバル紛争・協力研究所の所長も兼任する。

討論者:林載桓(イム・ジェファン)
青山学院大学国際政治経済学部教授。東京大学で博士号(法学)を取得。専門は現代中国政治、特にエリート政治と外交安全保障政策。

司会:佐橋亮 
東京大学東洋文化研究所准教授。東京大学で博士号(法学)を取得。専攻は国際政治学、特に米中関係、東アジアの国際関係、秩序論。

米中の覇権争いが激化する中、経済開発、国家安全保障、技術革新が相互に複雑に交差する分野を活用できる能力が、ますます重要になっています。習近平は、どのようにして、中国を「技術安全保障国家」へと変貌させ、拡大する国家安全保障上のニーズを満たすために、技術、安全保障、防衛の強化を優先してきたのでしょうか。中国は、米国を凌いで、世界一の卓越した技術大国、安全保障大国となることができるのでしょうか。できるとしたら、どのように、でしょうか。これら重要な疑問への答えを提示しているのが、技術安全保障国家としての中国の台頭を取り上げた、カリフォルニア大学サンディエゴ校のタイミン・チュン教授の新著『支配のためのイノベーション』です。

2022年9月20日、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)は、タイミン・チュン教授を招き、新著に関する基調講演をお願いしました。基調講演後、林載桓(イム・ジェファン)教授(青山学院大学)が議論に加わり、その後に、会場からの質問を受け付けました。フォーラムの司会は、佐橋亮准教授(東京大学東洋文化研究所)が務めました。

基調講演

チュン教授は講演の冒頭、中国は、習近平の指導の下「安全保障を極大化する国家(security-maximizing state)」となり、その権力と威信は、堅固な経済的・技術的基盤の上に成り立っているという見解を述べました。チュン教授によると、21世紀において中国が世界的優位性を巡って競争するためには、技術安全保障分野への投資が不可欠であること、そのためには、国家安全保障、イノベーション、経済開発の協調がカギとなることを、習近平は認識したとのことです。チュン教授は、中国を技術安全保障国家へと変えるために習近平が発表した五つの国家戦略・指針、すなわち、国家安全保障戦略(National Security Strategy)、イノベーション駆動型発展戦略(Innovation Driven Development Strategy)、新時代の軍事強化(Military Strengthening in the New Era)、軍民融合発展戦略(Military Civil Fusion Development Strategy)、経済安全保障戦略(Economic Securitization Strategy)について、その概要を紹介しました。

技術安全保障国家を目指す習近平の戦略を紹介する中で、習近平の認識では、中国にとって最も危険な脅威とは「国内的、非伝統的、政治的、新興的」なものだと、チュン教授は語りました。このような習近平の認識、国家安全保障に対する理解が、彼の「総合的安全保障観」の土台を形成するとともに、イデオロギーの純粋性を強調し、抑圧的な安全保障国家を建設する習の政策のコンテキストとなっています。このような習の国家安全保障観を説明した上で、チュン教授は、技術安全保障国家中国を構成する他の要素について詳しく説明しました。その国家戦略には、大きいばかりでなく「強い」中国軍を創るという軍事的方向性が表れています。その一環として、軍民のイノベーションをシームレスに統合し、技術安全保障の覇権追求を支える産業システム(ただし、ボトムアップや市場の影響を欠いている)という設計図と「レジリエンスと経済的・技術的自立を通じ」中国のマクロ経済基盤を守る計画が含まれています。

チュン教授は、選択的権威主義的動員・イノベーション(Selective Authoritarian Mobilization and Innovation;SAMI)モデルを紹介し、中国による戦略的・防衛的イノベーションの実施方法へと、話の焦点を移しました。このモデルは、「中国の政治、経済、社会、防衛、科学技術システムの中核的な強み」を活用し、基幹技術たる戦略的技術力の発展を図るやり方を示しています。説明の中で、このトップダウン型の選択的発展モデルには、ふたつのタイプのイノベーションがあることを、チュン教授は指摘しています。「リイノベーション」(SAMI-A)すなわち、既存の知識・技術の向上を通じて既存の発明を発展・拡大するプロセスと「発明型イノベーション」(SAMI-B)すなわち新しいものを生む独創的なイノベーションの重視の二つです。チュン教授によると、習近平は、技術安全保障における優位性の獲得を目指し、SAMI-AからSAMI-Bへの移行を決定したとのことです。移行に当たっては様々な課題や抵抗に直面すると考えられますが、習近平はこの路線をあくまで貫き通し、中国の世界的優位性を追求し続けるであろうと、チュン教授は予想しています。

ディスカッションおよび質疑応答

チュン教授による基調講演の後、林(イム)教授が議論に加わりました。林教授は、チュン教授の研究を称え、習近平は、発展から安全保障へと、中国の国家的狙いの舵を切ることによって、世界の技術安全保障秩序の支配を目指したという、チュン教授の新著に記された説得力のある主張を賞賛しました。
林教授は、国家建設の取り組みの中で、習近平が中国国内および海外で直面する可能性がある機会と課題について質問しました。技術安全保障国家中国は、国内的にどれくらい効果的かつ持続可能なのか、また、そのシステムの有効性は、どの程度、習近平の権力と権威に依存しているのかといった点についても、問いかけました。それを受け、チュン教授は、中国の戦略的防衛イノベーションの策定・実施に関する記録には、問題と成功が相半ばして表出していると説明しました。習近平は、米国との厳しい戦略的競争に加えて、技術安全保障国家建設に必要なリソースの再配分に当たっては中国の官僚組織からの頑なな抵抗に直面しました。にもかかわらず、安全保障の強化に向けた改革を、それまでの中国指導者らよりも速いペースで推し進めることに成功しています。

林教授は、中国国外に目を向け、中国が効果的な技術安全保障国家の確立という目標を達成する上で、他国との同盟を築く必要があるか、特に米国との戦略的競争の中で米国に対抗する同盟の構築が必要かどうかを尋ねました。チュン教授は、その答えとして、中国は、他国からの支援なしに自らの野心的目標を達成することの難しさを理解している(中国の改革には海外および輸出市場からのリソースが必要である)ものの、同盟相手を選ぼうにも、その選択肢は限られるであろうとの見解を示しました。また、米国主導による米中間の経済的デカップリングを阻止するため、中国は他国を懐柔して引き入れ、世界経済におけるシェアを確保する取り組みを強化するであろうと述べました。

最後に会場からの質問を受け付けました。質問の多くは、極めて不確かな国際情勢の中での中国の課題に集中しました。中国軍と関係のある中国企業から投資を引き揚げるようワシントンは米国投資家に圧力をかけていますが、そのことの影響について問われると、チュン教授は、米国の制裁により中国は経済的自立の達成に向けた取り組みを強化せざるをえなくなる可能性があると答えました。米中間の緊張緩和を実現するには、両国の政治指導者や政策立案者が、あらゆることをゼロサム思考で捉えるのではなく、それぞれの国の安全保障にとって真に決定的なものは何かを理解する必要があるというのが、チュン教授の見解です。さらに、今回のウクライナでの戦争から中国が学んだ軍事的教訓についても質問が出ました。それに対し、チュン教授は、現在進行中の戦闘から、どんな教訓が得られるのかについて議論するのは未だ時期尚早であるが、戦争とは技術的な強さや軍事力だけで決するものではなく軍の士気も重要だということを、ウクライナでの戦争から中国政府は学んだはずだと答えました。

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