セミナーシリーズ Contested Urban Futures: Cities in the Age of Complex Challenges

  • 日程:
    2020年08月07日(金)
  • 時間:
    12:00-13:30
  • 会場:
    ZOOMでのオンライン開催となります
    ご登録完了後、事務局より招待URLをお送りします
  • 題目:

    Cities in the Age of Complex Challenges

  • 言語:

    英語

  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センターSDGs協創研究ユニット

  • 登録方法:

    事務局に直接参加希望の旨、ご連絡ください
    sdgs★ifi.u-tokyo.ac.jp
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    フライヤーはこちら

概要

From climate change, to influx of migrants and refugees, to resource scarcity, and now, a pandemic—cities are in the heart of action. It is here that social and political groups and governments are interacting and responding to emergent and present concerns. These interactions are producing political geographies by shaping new or revisiting pre-existing issues of contention. Concerns of potential conflict in cities and (or) violence short of conflict resonate in policy debates while academics explore the nature of topographies of discontent and vulnerability in cities. What does this mean for global security? In this event, our speakers discuss these themes

講演者

藤原 帰一 未来ビジョン研究センター長、教授
Mr. John W. Spnecer, Chair of Urban Warfare Studies at the Modern War Institute at West Point

司会:ナジア フサイン 未来ビジョン研究センター特任助教

争われる都市の未来:複雑に変化する時代の都市

SDGsユニットが主催し、ナジア・フサイン助教が司会を務めた本セミナーにおいて、ジョン・W・スペンサー氏と藤原帰一教授は、気候変動や資源不足、都市化の進展といった変化が著しい時代に都市が直面する課題について議論しました。本セミナーは、都市における暴力、ガバナンス、政治的不安定化といった喫緊の課題を取り上げる4回連続セミナーの初回にあたります。

開会にあたってフサイン助教は、都市での政治的安定性をめぐる現在の潮流は、従前より存在してきた複雑性や、複数の事象が絡まりあうプロセスと切り離しては考えられないと指摘しました。多くの都市のガバナンスは、伝統的な概念で理解できるものではなくなっています。例えば、暴力と犯罪は法と秩序の崩壊につながると同時に、都市のガバナンスを構成する要素にもなっています。また、社会的、歴史的、経済的、政治的な文脈に沿って、アイデンティティ、階級、ジェンダー、エスニシティの違いによる不平等が存在しています。加えて、外圧に対抗するために人々がとる日常的な政治行動と、それに対する政府や社会からの反応、都市空間を形づくる資本の流れを考慮することが重要です。そのため、多面的に事象を検討するためには、特定の分野を超えた横断的な分析が必要になります。紛争の前段階の状況をミクロ・レベルで理解することなしには、軍事的な対応は不完全なものとなります。

講演においてスペンサー氏は、都市自体を理解することと、人道支援や災害救援、政治的不安定への効果的な介入に備えるために都市を理解することが喫緊の課題であると強調しました。
2014年から2016年の3年間だけでも、計300の都市が世界のGDPの67%を生み出していることから、都市の重要性がうかがえます。特に、発展途上国における都市化の進展がこの潮流を生み出しています。一方で、都市が急速に発展すると、政府は社会的、政治的、経済的需要を満たすことができず、脆弱性と不安定性を高めることになります。グローバルな気候変動に加えて、こうした潮流が深刻な懸念を生じさせます。都市には、衝撃に弱い都市(あるいは都市の一部)と、強靭な都市とがあります。そのため、一部の地域では、政治的な暴力が増加し、資源不足が加速し、ガバナンスが弱体化し、統治への反発が起きる可能性があります。
軍隊での経験を踏まえてスペンサー氏は、こうした変化に備える上での重要な課題は、国家に優先順位をおいている視野をもっと拡大させることにあると強調しました。多くの組織は国家を基準とする観点で構成されています。例えば、軍隊は都市での戦闘には備えていません。そのため、都市部での軍事行動は民間人に深刻な影響を与えてしまうのです。同様に、外交の専門家は、都市ではなく国に関する知見を蓄積しています。こうした知見のギャップが政策に影響を与えています。
知見のギャップは、理論と政策の両方に存在します。分野横断型のアプローチに加えて、都市での紛争に関する研究を増やす必要があります。国際関係学や政治学の理論は国家を基本としています。一方で、既存の都市研究は主に都市計画に偏っています。
都市における紛争について知見を蓄積しないために発生するコストは急増しています。モスル(イラク)やマラウィ(フィリピン)のような都市を武装組織から救済する際には破壊がともない、民間人への影響が出ました。同様に、リオデジャネイロのように都市での暴力が増加している時期に、暴力を低下させるための軍事行動が求められる際には、楽観はできません。今後数年間、都市が紛争を経験するとは限らず、軍隊が人道支援や災害救助を求められるとも限りません。それでもなお、都市に関する深い知見を得るための投資は重要であるといえます。

講演に続く討論において藤原教授は、深刻な問題が発生する前に、都市自体と、都市における多様な形態の政治的不安定性について理解を深める重要性について説明しました。
藤原教授は、我々の対応がすでに顕在化した問題に集中していることを強調しました。新型コロナウイルスの流行や、東日本大震災、9.11テロなどです。新たなリスクに関する警告は、リスクが現実化したときにのみ注目されます。災害や紛争にまつわる都市の課題が喫緊であるにもかかわらず注目されない理由はここにあります。
一般的に、国際関係学は国家関係、国家安全保障、国民の安全に注目します。そこでは、国家の安全が脅かされるのは、外部からの脅威によると仮定されています。国家が領土を完全に支配するという理念は、三十年戦争が終結した後のヨーロッパ社会において発展しました。奇妙なことに、中世の秩序の終焉から導き出された国家に関するこの理念は、国民国家の概念に沿ったものではありませんでした。時を経て、20世紀から21世紀の間に、国内での反乱と、政治的秩序の衰退との区別が、より重要になってきたのです。
したがって、都市における紛争に注目することは、国際関係学や比較政治学といった学問の境界壁を打ち破り、概念を進化させる重要な研究につながります。都市における暴力の悪化や、かつては州警察が担ってきた都市での暴力への軍の対応は、分野間の境界を超える挑戦にもなります。都市の問題がどのようにして紛争や社会の弱体化につながるかという研究は、重要かつ必要になっています。