GPAI雇用の未来について考える:海外と日本から得られた知見
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日程:2022年02月16日(水)
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時間:18:00-19:00 (JST)
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会場:オンライン(Zoom)
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主催:
東京大学未来ビジョン研究センター
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言語:
日本語・英語(日英同時通訳あり)
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参加費:
無料
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参加申込み:
要事前申込み。参加をご希望の方は、下記の本イベント専用ウェブサイトからお申込みください。
※未来ビジョン研究センターと有限会社ビジョンブリッジは、本イベントのZoomURL情報を提供するため皆様の個人情報を収集させていただいております。この情報はいかなる第三者にも開示いたしません。
イベント概要
2020年6月に設立されたGPAI(Global Partnership on AI、AIに関するグローバルパートナーシップ)は、「人間中心」の考えに基づく責任あるAIの開発と使用に取り組む国際的なイニシアティブです。GPAIにはいくつかの作業部会が設置されており、その中には「仕事の未来(Future of Work)」を議論する部会があります。
この部会のプロジェクトとして、職場にAIが導入されていく中、どのように私たちの働き方が変化していくのかについて国際的なインタビュー調査を世界各国で行っています。本調査のユニークな手法として、これから未来を担っていく学生たちがインタビューをしている点にあります。
本イベントでは、GPAI「仕事の未来」の2020-2021共同議長であった原山優子氏、インタビュー調査をリードしているYann Ferguson氏(Toulouse Institute of Technology、フランス)を話題提供者としてお招きしました。また、江間有沙が今年度に日本で行われた調査に関してもその概要を紹介し、指定討論者である城山英明氏とともに、GPAI調査の特徴や今後の展望についてパネルディスカッションを行いました。
話題提供
GPAIについて ―原山優子氏
Global Partnership on AI (GPAI)は、人間中心の考え方に立ち、透明性や人権の尊重などの原則に基づいた「責任ある AI」の開発・利用を実現することを目指す国際的な枠組みです。GPAIは世界各国の産業界、市民社会、政府、科学技術の専門家などマルチステークホルダーによる議論を行い、AIやAIの未来について理論と実践を結びつけるべく活動を行います。
そもそもの発端はG7での議論にあり、中でも2018年にカナダが主催したサミット「AIの責任ある利用を可能にするためには(Enabling the responsible adoption of AI)」と2019年にフランス大統領府が開催したサミット「人類のための技術会議(Tech for Humanity Meeting)」がきっかけとなり、AIに関する新しい国際フォーラムを立ち上げる構想が示されました。そして2020年5月G7科学技術大臣会合(米国・オンライン開催)で立ち上げに協力するというG7の合意に至り、同年6月にGPAIは設立されました。
GPAIには4つのワーキンググループがありますが、今日はそのうちの一つ、「仕事の未来」を紹介します。私自身は昨年まで共同議長を務めており、現在はMatthais PeissnerとUday Desaiの二人が共同議長を務めています。「仕事の未来」ワーキンググループでは、AIが私たちの仕事に与える影響についての理解を深め、その知見を集約することを目的としています。そのためにも実際のケースを取り上げることと、将来ビジョンを考えるリビングラボという概念を探ることに重点を置いています。そして、AIの導入が労働者や労働環境に具体的にどのような影響を与えるのかについて調査を行っています。ワーキンググループ内にいくつかあるプロジェクトのうち、今日は「仕事場における観測プラットフォーム」を中心に議論していきたいと思います。
仕事場における観測プラットフォーム ―ヤン・ファーガソン氏
AIが仕事や労働者に与える影響、また逆に仕事や労働者がAIに与える影響を理解するために、このプラットフォームを立ち上げました。経営者や開発者、あるいは多様な産業分野における公共・民間・非営利セクターやスタートアップなど様々なカテゴリーの人たちにインタビューを行って、AIシステムのユースケースを収集し分析しています。
調査を開始した2020年はアンケート調査(オンラインも含む)とインタビュー調査を併合したアプローチを採用していました。しかし、インタビュー調査から得られるより深い知見を重視して、2021年はインタビュー調査の体系化を図りました。インタビューは5つの主となる質問項目からなります。(1)AIシステム導入の動機、(2)AIシステムの定義や設計・開発プロセスにおける人々の関与、(3) AIシステム実装における人間―機械の相互作用(Human-Machine Interaction)の役割、(4) 設計プロセスにおける倫理的考慮、そして(5)AIシステムが雇用・仕事・組織に与える影響についてです。調査機関ではなく、学生コミュニティをインタビュー調査の主体とすることがGPAI調査の特徴です。
本調査から得られた結果ですが、調査対象としたAIシステムのほとんどがPoC(概念実証)段階であったことから、この段階での評価に留まり、生産性に結び付くか否かを判断するには至りませんが、いくつかのことが明らかになりました。それは、AIは、導入する企業に3つの挑戦をもたらすという点です。AIは組織の活動を再編成(Reorganize)させる、社会化(Socialize)の側面では価値体系を不安定にさせる、実践(Practice)面では専門的な活動を変容あるいは破壊するというものです。一方でPoCを実践することにより、AIがどのようなものかより具体的に想像し、AIシステムの特性や可能性を理解することが可能になります。また組織的な学習効果も生み出す効果があります。
これらの調査結果から2021年は3つの提言を行いました。まず、AIシステムのPoCの方法論的な原則を確立すること、次に労働者にトレーニングを施すなどAIを利活用するための能力を獲得する機会を与えること、最後にデータの偏りを減らすことや独立した倫理委員会を設けるなど公正なAIを心がけること、です。
今後の展開としては、リビングラボのプロジェクトと連携してこの観測プラットフォームのデジタルプロトタイプを開発すること、そしてこの観測プラットフォームを普及させていき、より完成度の高い事例収集や分類を行っていきます。また日本、ブラジル、インド、ニュージーランドなどの学生コミュニティとの連携や、職場におけるAI利用における文化的特異性についてのさらなる調査や分析を進めていきます。
「仕事の未来」日本調査の概要 -江間有沙
本報告では日本で行われた「仕事の未来」調査の概要を紹介します。その前に、簡単に日本のAIを取り巻く産業構造について概説したいと思います。
AIと仕事を考える上では国の産業構造も重要な要素となります。日本はAIサービス利用者との距離が近いBusiness-to-Consumer(B2C)企業よりは、Business-to-Business(B2B)の企業が多い特徴があります。そのためAIの開発、データ取得、サービス提供をするのが全て別の企業の場合があります。そうすると、例えばAIに関する事故や事件が起きたときに、長いサプライチェーンの中でどこが責任を取るのか、またどこまで遡って問題再発を防ぐかが難しい。このような日本の産業構造が、AIサービス導入を難しくしています。
また日本はIT企業に所属するIT人材の登用が著しく高く、70%を超えています。これはIT企業以外にはIT人材が少ないことを意味します。AIを職場に導入しようとしても内部にIT人材が少ないため、企業がAIを職場に導入しにくい理由の一つにもなっています。
日本はこのような状況ですが、すでにAIを仕事場に導入している事例はいくつもあります。昨年の秋から冬にかけて学部生と大学院生を含む9人の学生が調査に参加しました。調査を行うにあたって、主役は学生ですが、サポートとして大学の研究者を含むマネジメントチームを組織しました。学生たちにGPAIとは何かを説明し、インタビュー先の企業との信頼関係を築くために必要だと考えたからです。
インタビュー項目は国際調査と共通ですが、インタビュー先や学生の興味に応じて、独自の質問も加えました。例えばAI活用の背景にある社会課題や、AI活用による人々の意識変化などです。
インタビューをした企業は分野も組織形態も多岐にわたっています。今年は期間が短かったこともあり予備調査と位置づけし、産業分野的な網羅性よりは学生の関心がある企業にインタビューを打診しました。結果として、金融、行政、インフラ・建設、翻訳、通信・放送、介護といった業界からご回答を得られました。
結果からは、多くの企業がAIを導入する理由を高齢化による労働力不足や働き方の変化、さらには社会の変化を上げていました。またAI利活用導入の課題として安全性や正確性といった技術課題に加え、公平性やプライバシーといった社会的な課題も指摘していました。またファーガソンさんたちの調査と比べ、日本はPoC段階ではなく実際にサービス運用をしている企業へのインタビューが多くありました。
GPAIの調査は学生が主体となって行うのが特徴ですが、学生からのフィードバックとしては、国際的なプロジェクトに参加したことに関するポジティブなコメントが大きくみられました。
パネルディスカッション
パネルでは、指定討論者である東京大学の城山英明氏から質問が寄せられました。最初にGPAIの組織的な点に関して質問がありました。GPAIにはOECDやG7のような統治体制がありますが、実質的にはワーキンググループレベルの専門家が主体となって活動をしています。このようなハイブリッドの組織にはどのような特徴があるのか原山氏に質問されました。
共同議長としてGPAIの運営をされてきた原山氏は、GPAIという組織はスタートアップ企業を作るようなものであったと話されました。何を議論するかに関しては自由な裁量を与えられており、共同議長としての最初の仕事は、取り組むべき主要な課題を特定するためにメンバー間で議論することでした。また組織体制としては、OECDが事務局としてハイレベルの会議を取り仕切り、ワーキンググループはパリとモントリオールにある専門家センターが事務局をするという役割分担になっています。GPAIは、国際的な組織としてのスタイルに移行していくのか、スタートアップのマインドセットを維持していくのか、今後どのように進化されていくのかはとても興味深い点だと原山氏は指摘されました。
城山氏の次の質問は、技術の将来的な影響評価の方法についてでした。学生が調査の主体となるのがGPAI調査の特徴ですが、若い学生がかかわることで何か新しい知見が引き出せるのだろうか。また観測プラットフォームとリビングラボをどのように結びつけるかを質問されました。
これに対してファーガソン氏は、インタビューの回答者が、先輩が後輩を助けるように、学生に理解してもらいたいと思ってポジティブな関係性が生まれることを指摘しました。また観測プラットフォームをリビングラボと連結することによって、バーチャル空間上のリビングラボの訪問者が、AIが仕事に及ぼす社会的、技術的、組織的な影響を理解、分析できるような場を作ろうとしている、つまりリビングラボの中でインタビューができ、フィードバックが得られるような場になることを目指していると回答されました。
GPAIは原山氏が指摘したように、現在もスタートアップ企業のような状況にあり、プラットフォームからリビングラボへとつなげていくためにも多くのアイディアと皆さんの参加が必要で、そのため関心のある人たちの参加をお待ちしています、とのメッセージをもって本イベントは終了しました。
イベントの様子:城山英明(右上)、江間有沙(左上)、ヤン・ファーガソン(右下)、原山優子(左下)