センター長挨拶

城山 英明 東京大学未来ビジョン研究センター センター長

未来ビジョン研究センターは、多様な研究者やステークホルダーが連携して現代世界の抱える課題に取り組むことを通して、未来社会のデザインを提案する研究機関です。

大学における研究は、自発的な好奇心を基礎に行われます。そのため、大学での研究は研究者による研究者のための研究にとどまっており、現実社会との間に溝が開いているのではないか、といった疑問が提起されます。そのような疑問に答えるために、未来ビジョン研究センターは東京大学におけるシンクタンクとして2019年に設立されました。様々な分野における研究者が分野を超えて連携し、現代世界の抱える課題に取り組み、未来の選択肢を社会にフィードバックすることで、大学と社会を結びつけるチャネルとなることを目指しています。研究者が政府、企業、そして広く市民社会と対話をしながら、提起された選択肢が政策や社会の転換を実現するプロセスをつくりだしてゆく。それが未来ビジョン研究センターの任務です。様々な個別的な課題への対応を通して、大学という場を活用した社会的移行(トランジション)の方法論を構築します。また、このような活動は、各分野における基礎研究の展開を刺激する思わぬヒントともなるものであり、基礎研究の発展にも寄与することが期待されます。

対象となる世界的課題は様々です。17の目標により構成される持続可能な開発目標(SDGs)は課題の全体像を俯瞰するチェックリストです。具体的には、地域紛争や地政学対立の激化にみられる分断の課題、医学的健康だけではなく社会活動や経済活動とのバランスも含む健康確保の課題、人間と環境との関係に関わる人新世の課題、デジタル技術やAIの活用など人と技術との関係の課題など多岐にわたります。

ところで、未来を構想するということはどういうことでしょうか。経路依存という概念がありますが、一方で未来は過去=歴史に規定されています。例えば、エネルギーシステムや医療システムといった社会的インフラも、技術と社会制度が一体化した社会技術システムとして一定の慣性を持っています。そして、世の中に存在するエビデンスの多くはこのような過去に関するものです。他方、自己実現的予言という概念からもわかるように、未来は人々がどう考えるのかによって変わってきます。その意味で、価値や認識は未来の変化のドライバーになります。未来を構想するには、歴史的エビデンスを冷静に踏まえるとともに、未来の兆しを発見し、多様なシナリオを考える柔軟な想像力が求められます。このような未来構想の方法は、社会的移行の方法論の重要な部分でもあります。東京大学は全学的レベルで未来社会の協創に向けた活動を進めています。未来ビジョン研究センターは、東京大学の中の様々な部局や組織の個別の活動と連携することで、よりよい未来社会の協創に向けて具体的な成果を挙げていくためのハブあるいは触媒となりたいと考えています。

現代世界では、国境を越えた課題に答えるのではなく、自国の利益を擁護することを優先し、国際協力から遠ざかる政策への支持が各国に生まれがちです。このような世界だからこそ、大学は国境を越えた課題を直視し、国際的連携のなかで課題解決に取り組む必要があります。未来ビジョン研究センターは、そのような大学の営みにおける中核的拠点となることを目指しています。2020年には、海外の主要なシンクタンクと連携して、気候システムや生物多様性といったグローバルレベルのコモンズを確保するためのガバナンスの在り方を研究する拠点として、グローバル・コモンズ・センター(CGC)を設置しました。今後、様々な分野において、大学と社会との結びつきを強め、学術知を基礎に現代世界の抱える課題に解決を与えることが可能であることを、具体的な形によって示してゆく必要があります。

本センターの事業にぜひご参加いただき、ネットワークに加わっていただきたく存じます。