センター長挨拶

藤原 帰一 東京大学未来ビジョン研究センター センター長 藤原 帰一 東京大学未来ビジョン研究センター センター長

未来ビジョン研究センターは、現代世界の抱える課題について取り組む高等研究機関です。なぜこのような組織を作るのか、何を目的として何を行おうとするのか、その一端について申し上げます。

大学を始めとした高等教育と研究に関わる機関に対する不信が表明されています。大学がその外部からはなかなか内容が見えない独立性を持つこともあって、その不信は加速しやすい。大学で行われる研究は研究者による研究者のための研究にとどまっており、現実社会との間に溝が開いているのではないか。もっといえば、大学は社会への貢献を果たしていないのではないか。いま大学に向けられる不信のなかに不信というより偏見に類する、いわば反知性主義とも呼ぶべき誹謗が含まれていることも珍しくありませんが、もし高等研究と高等教育が社会において果たす意義へ疑問が寄せられているのであれば、私たちはそれに答えなければならないでしょう。

東京大学におけるシンクタンクとして未来ビジョン研究センターが担う役割はそこにあります。このセンターは政策提言と社会発信を目的としてつくられていますが、そのメンバーはいずれも基礎的な研究で実績を上げた研究者ばかりであり、大学と社会を結びつける機会を提供しています。政策分析と提言に特化したシンクタンクとも、また基礎研究を第一の課題とする伝統的な学部・研究科とも異なるこの特長を活かし、未来ビジョン研究センターの母体となった政策ビジョン研究センターとサステイナビリティ学連携研究機構における活動をさらに拡充・発展させ、基礎研究をより実践的な応用研究と結びつけ、解決の求められる社会課題に対して研究の裏打ちのある現実の選択肢を示し、さらに政府、企業、そしてひろく市民社会との連携のなかにおいて、提起された選択が政策として実現する社会過程をつくりだしてゆく。それが未来ビジョン研究センターの任務です。
なかでも重点的な目標として取り組むのが、持続可能な開発目標、SDGsの実現です。国際連合は、世界を変革するために必要な17の目標をSDGsとして提起いたしました。現在では、実現すべき未来のビジョンとしてSDGsは世界に広く共有されています。そして、この17の目標を見れば、どれをとっても国境を越えて取り組むことがなければ実現を考えることのできないことが明らかでしょう。

しかし現代世界では、国境を越えた課題に答えるのではなく、自国の利益を擁護することを優先し、国際協力から遠ざかる政策への支持が各国に生まれていることも否定できません。そこに大学の果たす役割があります。グローバリズムへの不信が広がり、国境を越えるのではなく国境を守ることが優先されつつある世界のなかだからこそ、大学は国境を越えた課題を直視し、国際的連携のなかで課題解決に取り組まなければなりません。
そのような大学の営みのなかで、未来ビジョン研究センターは、その営為における中核的拠点となることを目指しています。既に東京大学は総長のイニシアティブによって、未来社会協創構想(FSI)に着手いたしました。未来ビジョン研究センターは、FSI構想を具体的な研究成果に反映する組織でありたいと思います。そのためには、東京大学のなかのさまざまな部局や組織を横断するばかりでなく、日本の、さらに世界各国の高等研究機関とひろくネットワークを構築してそのハブのひとつとならなければなりません。さらに、先に申し上げましたように、大学と社会との結びつきを強め、学術研究によって現代世界の抱える課題に解決を与えることが可能であることを、具体的な形によって示してゆく必要があります。本センターの事業のなかにぜひご参加いただき、ネットワークに加わっていただきたく存じます。