GPAI雇用の未来:Future of Work Survey Report 2021
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日程:2022年03月09日(水)
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時間:10:00-12:00 (JST)
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会場:オンライン(Zoom)
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主催:
東京大学未来ビジョン研究センター
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共催:
同志社大学働き方と科学技術研究センター
理化学研究所未来戦略室
経済産業省
総務省 -
協力:
日本ディープラーニング協会
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言語:
日本語(日英同時通訳あり)
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参加費:
無料
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参加申込み:
要事前申込み。
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※未来ビジョン研究センターと株式会社ピーアンドピービューロゥは、本イベントのZoomURL情報を提供するため皆様の個人情報を収集させていただいております。この情報はいかなる第三者にも開示いたしません。
2020年6月に設立されたGPAI (Global Partnership on AI、AIに関するグローバルパートナーシップ) は、「人間中心」の考えに基づく責任あるAIの開発と使用に取り組む国際的なイニシアティブです。GPAIにはいくつかの作業部会が設置されており、その中には「雇用の未来(Future of Work)」を議論する部会があります。
この部会のプロジェクトとして、職場にAIが導入されていく中、どのように私たちの働き方が変化していくのかについて国際的なインタビュー調査を世界各国で行っています。本調査のユニークな手法として、これから未来を担っていく学生たちがインタビューを企業にしている点にあります。
2021年度は日本からも調査に参加し、報告書を公開して国内外に発信していく予定です。本イベントでは、今年度日本で行われた調査の概要を紹介するほか、実際にインタビューに関わった学生の皆さんにもご登壇いただいて、方法論的な点についても議論を行います。本調査にご関心をお持ちの企業や組織の皆さんや学生の皆さんとともに、今後の展開について議論していきたいと思います。
参考:
GPAIウェブサイト(英語): https://gpai.ai/
GPAI Future of Work作業部会ウェブサイト(英語): https://gpai.ai/projects/future-of-work/
GPAI Future of Workの2021年報告書(英語): https://gpai.ai/projects/future-of-work/ai-at-work-observation-platform/
GPAIの紹介(日本語): https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200616004/20200616004.html
GPAI Future of Work Group Video (英語): https://magazine.gpai.paris/en/futur-of-work/
GPAI Interview with Yuko Harayama (英語): https://magazine.gpai.paris/en/interview-with-yuko-harayama/
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10:00開会挨拶
城山英明(東京大学未来ビジョン研究センターセンター長・教授)
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10:05GPAI Future of Work紹介
原山優子(理化学研究所・理事)
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10:20日本の調査概要報告
江間有沙(東京大学未来ビジョン研究センター・准教授)
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10:40学生からの報告
井上瑞紀(同志社大学社会学部・学部生)
池田梨恵子(同志社大学社会学研究科・博士課程)
工藤龍(東京大学大学院学際情報学府・修士課程) -
11:00パネルディスカッションと質疑応答
パネリスト:
原山優子(理化学研究所・理事)
藤本昌代(同志社大学社会学部・教授)
松本敬史(東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)
井上瑞紀(同志社大学社会学部・学部生)
池田梨恵子(同志社大学社会学研究科・博士課程)
工藤龍(東京大学大学院学際情報学府・修士課程) -
11:50閉会挨拶
飯田陽一(総務省国際戦略局情報通信政策総合研究官)
東京大学未来ビジョン研究センター
技術ガバナンス研究ユニット事務局
ifi_tg★ifi.u-tokyo.ac.jp (★→@に置き換えてください)
2020年6月に設立されたGPAI (Global Partnership on AI、AIに関するグローバルパートナーシップ) は、「人間中心」の考えに基づく責任あるAIの開発と使用に取り組む国際的なイニシアティブです。GPAIにはいくつかの作業部会が設置されており、その中には「仕事の未来(Future of Work)」を議論するワーキンググループがあります。
このワーキンググループのプロジェクトとして、どのように私たちの働き方が変化していくのかの国際的なインタビュー調査を世界各国で行っています。本調査のユニークな手法として、これから未来を担っていく学生たちがインタビューを企業にしている点にあります。本イベントでは、今年度日本で行われた調査の概要を紹介したのち、実際にインタビューに関わった学生の皆さんにもご登壇いただいて議論を行いました。
開会の挨拶として、東京大学未来ビジョン研究センターセンター長の城山英明氏より、AIの利活用やリスクに関する議論が、日本では総務省、経産省や内閣府、国際的にはOECDやG7などで様々に行われてきたことが紹介されました。その中で、本イベントで紹介するGPAIは事務局がOECDですが、実運営は専門家によるボトムアップで行われるというユニークな組織運営であると紹介されました。学生が調査を行う方法も、「未来」を考えるうえで重要だと指摘し、大学としてもどのように関われるかを考えることも必要だとして挨拶を締めくくられました。
最初の話題提供として、理化学研究所の原山優子氏よりGPAIの紹介がありました。原山氏はGPAI「仕事の未来」2020-2021年の共同議長も務められました。
GPAIを組織するのに主体的な役割を果たしたのはカナダとフランスです。2018年カナダがG7で議長国であったときに開催された「AIの責任ある利用を可能にするためには(Enabling the responsible adoption of AI)」と、2019年フランスが議長国の時のデジタル大臣会合で提案されたヒューマニティに関するサミットでの議論がGPAI設立の核となっています。そして2020年6月のG7で共同声明が発出されてGPAIが誕生しました。創設メンバー国が自国の専門家を推薦し、学術界、産業界などマルチステークホルダーの議論が行われています。このマルチステークホルダーのワーキンググループの上で、OECDが事務局を担うという組織構造となっています。
GPAIには4つのワーキンググループがあり、そのうちの一つ「仕事の未来(Future of Work)」について本日は議論を行います。このワーキンググループで共有すべき価値として重視しているのが多様性と協働です。仕事の未来やAIによる影響は、国や地域によって多様でありつつも共有すべき価値について議論していくのが基本的な活動方針です。
具体的にはAIと働き方に関する事例を集めていき、それを未来につなげるためにリビングラボを構築するのがこのワーキンググループの目的です。また、職場の仕事の質を高めたり労働環境を守ったりすること、そのためにどのような設計が必要かも現在、議論していると紹介されました。
続いて、同じくGPAI「仕事の未来」専門会員でもある江間有沙が、日本で行われた事例調査概要を紹介しました。本調査の特徴は学生が主体となって行う一方、日本調査ではサポートとして教員らからなるマネジメントチームを組織しました。結果として2021年は11件の企業・組織にインタビューを行いました。すでに海外で欧米中心に行われていた調査が対象としていたAIシステムはPoC(概念実証)段階のものが多かったのですが、日本ではサービス運用段階が多かったのも特徴の一つでした。調査項目自体も国際的な調査と合わせつつも、AI利活用の背景となる課題に関する質問など、日本独自の調査項目を入れました。
調査結果からは、日本ではAI導入目的としては人手不足への対応のほか、より多様性や生産性を上げるためという観点からという理由が見られました。AI導入の課題に関しては、透明性や公平性の確保、個人情報の保護といったAI倫理で既に議論されているような観点もあれば、人と機械のタスクの割り振りをどのようにしていけばいいのかという役割分担の在り方や、過度にAIに依存してしまうのではないかといの懸念もありました。これらの調査の全体は、現在報告書としてウェブサイトに公開しています。
次に、実際に調査に参加した9名の学生のうち3名から参加した感想や今後の課題についてフィードバックをもらいました。東京大学大学院学際情報学府の修士課程である工藤龍さんは、自身がリーダーとなってインタビューした企業のほか、他学生が行ったインタビューにも参加したことによって、業界ごとにAIの利活用や影響が全く異なるという発見があったとコメントされました。そこから、AIの技術というよりは業界そのものの課題が背景にあるため、AIの仕事への影響を一般化することの難しさを感じたそうです。また、同志社大学で社会調査を学んだ学生と共同でインタビューを行うことで、インタビューのやり方の学びになったとコメントされました。
次にお話いただいた同志社大学社会学部4年生の井上瑞紀さんからは、GPAIという組織が背後にあるからこそ様々な企業さんにインタビューできたことを言及されました。また、今回の調査は学生自らがインタビュー先を選定できたことが有益であったとコメントされました。一方、今回は時間的な制約があったため、満足のいく調査票を作ったり事前調査が満足にできなかったりしたことがあったとも指摘されました。また事前にインタビューの練習をする機会がもっとあれば、より足並みのそろった調査が行えるのではとの指摘もありました。
最後に、マネジメントチームにリサーチアシスタントとして参加いただいた同志社大学社会学研究科の博士課程の池田梨恵子さんからは、国際的調査の運営方法を体験できたことは、今後自ら調査を行っていく院生としては貴重な体験であったとのポジティブな側面があったと同時に、複数の大学にわたる学生のマネジメントに関しては十分なサポートができなかったのではないかとの課題も感じたとのコメントがありました。特にコロナのためすべての会議やインタビューがオンラインで行われたため、オンライン掲示板を駆使したり教員とのタッチポイントを頻繁に設けたりすることでカバーできた点もあれば、全体の運営法を確立するまでは学生、教員ともども、不安や負荷がかかる点があったとの指摘がありました。
パネルディスカッションからは、調査のマネジメントチームにご参加いただいた同志社大学社会学部の藤本昌代氏と東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員の松本敬史氏も交えて、調査の振り返りと今後の展望について議論を行いました。
江間の司会のもと、最初のテーマとして、学生が主体となって調査を行うことを議論しました。原山氏からは、なぜこのような方法になったかの経緯がまず紹介されました。国際的な事例を収集する段階で、GPAIの専門会員の一人が自分の学生と協力して調査を行ったのがきっかけでした。コンサルや教員が行うよりも学生が行うことで新たな視点が得られることが期待され、さらには将来を作り出す学生の国際的なコミュニティを作ることの重要性も構想されました。
指導教員としての立場から、藤本氏はこのような国際的な社会調査に学生がかかわることで調査のマネジメント法を学べる意義を強調されました。また他大学や専攻の学生と協力することで、自分たちの専門性に改めて気づく効果もあります。さらに同志社大学の学生は学部3年生が多数を占めていましたが、GPAI調査を通して、AIと未来の働き方に関する様々な知見を得ました。彼らが現在就職活動をする中で、AI導入する企業への刺激にもなっていってほしいとコメントされました。
また今回のGPAI調査でプロジェクトのマネジメントを支えた松本氏は、今回の調査プロジェクトに従事した学生が改めて各産業が抱える課題や社会問題を調べなおした上で、AIの利活用への目的から質問を実施していたことを指摘されました。各産業ともこの数年でビジネス環境が著しく変化しており、学生たちが「調べなおし」を行うことによってインタビュー先である企業担当者と理解のギャップを低減できたとコメントされました。このような学生と社会人が協力して調査を進めること自体が、国際調査のリーダーのファガーソン氏が期待するような新たな発見などにつながっていくのではないかと指摘されました。
パネルディスカッションの次のテーマとして、日本ならではの調査の特徴を議論しました。学生からのフィードバックでもAI技術を一般化して語ることの難しさや、働き方や産業や社会全体が持っている課題についての知見をもってインタビューすることの大切さが指摘されてきました。
藤本氏からまず、日本の産業や就業人口について概説いただきました。日本では農業や土木・建設などの分野で高齢化による人材不足が課題となっており、そのような分野にAIが利活用されることで安全性の確保や負荷軽減が期待されます。そのためIT人材が多く求められるものの、ニーズに全然追いついていないのも現状です。また、日本の産業構造、職業構造において、製造業は工場を海外移転して多国籍化している企業が多いため、国内で就業する製造職が減少し、ホワイトカラーが非常に多い社会になっています。このような観点から労働力不足の産業へのAI導入だけではなく、長時間労働になりがちなホワイトカラーに、さらに高度なサービスが求められる社会になりつつある中、非定型的な業務に対するAI導入も求められているのが現状であると指摘されました。
学生からもインタビュー先を選ぶときに、「仕事を奪うAI」や「人手不足に対応するAI」の実態を知りたかったからというコメントがありました。しかしインタビューを通して、産業が持つ課題解決やルーティンワークの解消、人でなくてもできる仕事を機械に任せてその余剰分で人間が創造的な仕事をしていくためにAIが活用されることもわかり、単純に人を減らすだけではない使い方があることへの学びがあったとのコメントがありました。また、現在就職活動をしていく中でAIやDXに文系としてどのように関わっていけるかを考える意識が芽生え、その業界に対する知識が増えて就職をしてみたいと思うようになったとのコメントもありました。
松本氏からも、今回のような調査から問題提起を行う際に「AIによって仕事が奪われる」等の企業で実践されるAI利活用目的と乖離したマイナスのイメージが世間に広がることで、調査プロジェクトへの協力に消極的になってしまう企業や組織もあるのではないか、との指摘がありました。今回、学生コメントから、AI利活用に伴う様々な発見があったことは素晴らしいことであり、GPAI調査としても働き方とAIに関する新たな価値や可能性を発信していくことが、調査に協力いただく企業や組織を増やしていくうえでも重要ではないかとのコメントがありました。
最後に、今後の展望として藤本氏から、新しい技術導入によって労働の現場が変わることは過去になんども経験のあることであるため、AI特有の影響を考えることがGPAI調査でも重要となるとの指摘がありました。またAI導入で問題が全て解決することはなく、人と機械の関わり方は継続して注視していく必要があるとコメントされました。方法論としても、今回はコロナのためオンラインで1回だけの調査であったが、信頼関係を調査対象者と作り上げられるような体制を作っていくことも重要だと指摘されました。
また原山氏からも、今年度「走りながら考える」として行ってきた調査であったが、そこで得られた成果や課題も見えてきたので、来年度もっと良い調査を行っていきたいとの意気込みが語られました。そのためにも、今後ご協力いただける企業・組織や学生の皆さんの参加をぜひお待ちしているとのメッセージがありました。
閉会の挨拶は総務省国際戦略局情報通信政策総合研究官の飯田陽一氏からいただきました。GPAIには総務省と経産省が日本政府を代表して参加をしており、日本は2022年の後半からGPAIの議長国に就任し、11月か12月には東京でGPAIサミットが開催される予定です。GPAIに参加している専門家だけのクローズドなセッションだけではなく公開イベントとして多くの皆さんにGPAI活動に参加いただけるような機会を設けたいと紹介されました。現在OECDやユネスコでAIに関する原則は作られたもののそれをどのように実装していけばいいのかが課題となっており、GPAIの活動はそれをプロジェクトベースで進めることを目的としています。今回の「仕事の未来」の日本調査は、その点からすると正にGPAIの活動に貢献する大変実践的な取り組みであり、これを日本や海外に発信していくことが重要であるとコメントをいただき、イベントを終了しました。