IPCC執筆者とマスメディア関係者の対話:統合報告書とその先へ向けて

  • 日程:
    2022年12月21日(水)
  • 時間:
    13:30~16:00
  • 会場:
    オンライン(一般参加者)・対面(登壇者のみ)のハイブリッド形式
  • 主催:

    気候変動研究プロジェクト間のシナリオに関する協⼒イニシアティブ

  • 共催:

    東京大学気候と社会連携研究機構
    東京大学未来ビジョン研究センター JMIP研究ユニット
    環境研究総合推進費2-2104プロジェクト
    JSPS科研費JP21H03668プロジェクト

  • 後援:

    日本環境ジャーナリストの会

2022年12月21日、「気候変動プロジェクト間のシナリオに関する協力イニシアティブ」は、科学者とメディア関係者の対話集会「IPCC執筆者とマス・メディア関係者の対話:統合報告書とその先へ向けて」を開催しました。登壇者らの対面での議論に、オンラインの参加者が加わるハイブリッド形式で実施されました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の3作業部会で第6次評価報告書の執筆を担当した科学者と、報道現場のジャーナリストの視点がそれぞれ紹介され、活発に意見が交わされました。2023年春のIPCC第6次評価報告書統合報告書の公開を前に、日本の気候変動問題の解決に向けて当事者の問題意識が共有される貴重な場となりました。会議は気象キャスターネットワークの井田寛子氏の全体司会の下、チャタムハウスルールに基づいて開催されました。

冒頭で開会挨拶をした東京大学気候と社会連携研究機構の沖大幹教授は、自身も査読編集者を担当した第2作業部会の第6次評価報告書においては、政策決定者向け要約(SPM)で「気候変動が既に人間と自然のシステムを破壊していることは疑う余地がない」と危機感が表現され、呼応するように2022年11月に開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)では、気候変動の悪影響に伴う損失と損害に係る基金の設立が合意されたことを指摘しました。国際政治にも影響を及ぼすようになったIPCCですが、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻のように新たな課題が生じると、気候変動への相対的な関心が下がってしまう状況にあります。社会とどんなコミュニケーションをとっていくのがいいのか、交流会で様々な議論がされることに期待を込めました。

最初のセッション「気候変動と報道:IPCC執筆者からの視点」では、東京大学未来ビジョン研究センターの杉山昌広准教授の司会の下、執筆を担当した研究者3名が3つの作業部会の報告書の概要と、アウトリーチの取り組みについて紹介しました。

気候変動の自然科学的根拠に関する最新知見をまとめた第1作業部会では、理解の促進のための様々な取り組みがなされており、例えば政策決定者向け要約に加えて「サマリー・フォー・オール」を公開し、オンラインで報告書の図を作るためのデータやプログラムコードまで公開していることが紹介されました。

気候変動の影響や適応、脆弱性について最新の科学的知見をまとめた第2作業部会の執筆担当者は、IPCCでは国際的なアセスメントが主眼で国別の評価は基本的に行っていないため、個別の国について問われた時には報告書の執筆者としてではなく別の立場で答えることや、「メディア側が知りたいことと、自分たちが伝えたいことをコミュニケーションの中でうまく摺り合わせをすることの重要性に気付いた」としました。

第3作業部会では、2030年に向けて温室効果ガスの削減を実現するために取りうる対策など気候変動を緩和するための最新知見がまとめられました。2022年4月のSPM公表後、報道は日本国内の課題が中心となり、開発途上国等への国際協力の話が取り上げられることが少なく、生物多様性の保全や循環経済との関係についてもっと論じられることを期待したいという意見が執筆者からありました。また、若い人たちの関心を高めるためにワークショップなどを開催していますが、「メディアでももっと気候変動について取り上げてもらいたい」という要望もありました。

2つ目のセッション「気候変動と報道:メディアからの視点」では、日本環境ジャーナリストの会/NHKエンタープライズの堅達京子氏の司会の下、メディアがどうIPCCの報告書を伝えたか、記者らが具体例を交えて紹介しました。

テレビのニュース報道の場合、現場取材した映像なしには成立せず、撮影など事前の準備が必要で、「深く広く報道していくためには、執筆者と信頼関係を構築して事前にコミュニケーションをとることが非常に重要」という意見がありました。

第1作業部会のSPMの公表時、ある新聞社では事前に用意してあった記事をすぐにウェブサイトに上げ、内容を補強したものを翌日の朝刊に掲載しました。報告書の内容だけでは読者に「自分ごと」として関心を持ってもらえないため、紙面では日本の異常気象についても触れる工夫をしたといいます。どうしても紙面のスペースは限られるため、公表から1〜2ヶ月の間に子供向け新聞の記事、解説記事、インタビュー記事と切り口を変えながら報告書の内容を紹介しました。報告書は今後数年間の政策の基盤になるため、アーカイブとしてウェブサイトを作成した新聞社もありました。

「気候変動の記事はあまり読んでもらえない。読んでもらえるように模索中だ」という率直な意見もありました。また、産業革命以後の世界全体の平均気温上昇が1℃、1.5℃、2℃で極端な気象が起きる頻度がどれくらい変わるかを比較した図が報告書の内容を分かりやすくまとめていて、「コンパクトで汎用性があるものは使いやすい」という複数の声がありました。

最後のセッション「IPCC執筆者とマス・メディア関係者の対話」では、東京大学未来ビジョン研究センターの江守正多教授が司会を務め、メディアで報道に携わる3人と執筆者3人がIPCCや気候変動に関する報道の量と質について議論を深めました。

IPCCの知名度は順調に高まっているものの、IPCC関連の記事は反響があまりなく、新聞によってはIPCCや気候変動の科学的な解説よりも、目先の政策についての記事が読まれる傾向にあり、対策をとにかく早く実行することが求められている雰囲気があるといいます。江守教授は、こうした傾向について「個人で心配しても仕方がない大きなテーマと捉えられているのかもしれない」としました。すでに2050年までに温室効果ガスの排出量の「ネットゼロ」を目指すことなど、日本が進むべき道が明確で、気候変動の具体的な解決策に関心が移っている可能性も指摘されました。一方で、「IPCC」や「気候変動」というキーワードがない記事でも、例えばロシアのウクライナ侵攻の報道ではエネルギー不足解消のための化石燃料の利用と脱炭素化の両立について言及され、「それほど悲観することではないのかもしれない」という意見もありました。

欧米メディアは数年に一度のIPCCの報告書が公表されるタイミングだけではなく、日頃から基礎研究のニュースも数多く報道しており、気候変動について社会のリテラシーを高めるためにも報道の継続的な「量」が不可欠だとメディア側の反省もありました。社会的に関心がないから記事や番組が少なく、記事や番組が少ないために関心を持ってもらえない「鶏と卵」の関係になっている可能性を江守教授も指摘しました。また、英語圏では気候変動問題に特化したオンライン・メディアが研究・政策とマス・メディアの仲介役になっていますが、日本ではそのような取り組みが見られないことが指摘されました。

報告書のSPMからは一般の人の興味を持ってもらえる切り口が見つかりにくい、という意見が執筆者からも出ましたが、研究者が説明の仕方を工夫すると興味を持つ学生もいるなど、「質」についても議論されました。新聞の記事でも、熱意ある研究者の話を記者がきちんと書くと読者にも伝わる、というメディア側の体験談もありました。

今後は気候変動対策について経済に絡む話も増えていくため、「科学的な根拠をきちんと示しながら中立な記事を書いていくのが我々メディアの役割」という意見がありました。次の第7次評価報告書では世界の平均気温の上昇幅を1.5℃以内に収めるのは不可能という話が展開される可能性もあり、「どう報道するのか、考えていかなければならない」という記者もいました。

閉会の挨拶では、堅達京子氏が改めて地球の環境が悪化し続けている現実について危機感を共有しました。「科学者の生の声を今後も積極的に伝えて、より多くの人の行動の変化を促したい」と話しました。