SSUフォーラム「中国・EUに関する経済安全保障政策」
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日程:2023年08月07日(月)
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時間:15:00-16:30
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会場:Zoomによるオンライン
ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします。 -
主催:
東京大学未来ビジョン研究センター 安全保障研究ユニット
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言語:
日本語(英語同時通訳あり)
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お申込み:
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本フォーラムでは、中国とEUの専門家を招き、中国及びEUにとって経済的安全保障がどのようなものを意味するかについて議論します。中国政府の「安全」をめぐる理解がどのように同国の経済安全保障政策に影響を与えてきたか、2019年に公式に中国を経済的競争相手と位置付けたEU政府として、中国との経済関係において何を得ようとしているのか、その中で経済安全保障がどのような役割を果たしているのか、等について幅広い議論が行われる予定です。
基調講演者1:町田穂高(パナソニック総研 主幹研究員)
基調講演者2:鶴岡路人(慶應義塾大学 総合政策学部 准教授)
討論者:井形彬(東京大学 先端科学技術研究センター 特任講師)
司会:佐橋亮(東京大学 東洋文化研究所/未来ビジョン研究センター 准教授)
※本フォーラムは、外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたします。
8月7日、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは、町田穂高主幹研究員(パナソニック総研)及び鶴岡路人准教授(慶應義塾大学総合政策学部)をお迎えし、中国とE Uの経済安全保障政策について基調講演をいただきました。両者の発表の後、井形彬特任講師(東京大学先端科学技術研究センター)が議論に加わり、その後、聴衆から質問を募りました。同フォーラムでは、佐橋亮准教授(東京大学東洋文化研究所)が司会を務めました。
基調講演
町田研究員
中国政府が経済安全保障や「安全」という概念をどのように位置付けてきたかについて、過去の経緯や最近の政策動向にも触れつつ、発表いただきました。具体的には、中国における「経済安全保障」が多義的な概念であり、中国語においても明確な定義がない状況であるとし、主要な先行研究に触れた上で、中国政府が「経済安全保障」をどのように扱ってきたかを、過去の指導者の発言や国内法整備の過程に触れながら説明されました。
また、関連する中国の取組についても、これまでは自国経済の保護や安定性確保が中心とされてきたが、2018年以降変化(知的財産・国内産業保護、サプライチェーン確保等に拡大)しているとの指摘も最近見られるとの説明がありました。実際、トランプ政権下での米中対立、その後も続く欧米によるデカップリングや対中輸出制限措置によって、中国は「安全」に関する認識を変えつつあり、「国内国際双循環」の概念に代表されるように、欧米経済への依存低下や国内経済の自律性、自国の能力確保をより意識するようになっている旨指摘されました。その上で、具体例として、①国内で完結するサプライチェーン(製品の国産化や生産拠点の国内移転を求める動き)、②人民元の国際取引の範囲の拡大(米ドルの国際決済システムから排除されても中国経済が安全であることを確保する取組)、③科学技術イノベーション(自律的イノベーション、高度技能人材の育成を狙う動き)を挙げてそれぞれにつき最近の動向とそれに対する分析を紹介されました。最後に日本への示唆として、日本政府や企業への具体的提言がありました。
鶴岡准教授
EUの経済安全保障政策、中国との経済関係について、EU内での議論や政策の経緯を踏まえつつ説明いただきました。
まず、EUにとって中国がどう位置づけられているか、「パートナー」、「競争相手」「ライバル」という3つの柱の比重がどのように変化してきているか、E Uが述べる「リスク軽減(de-risking)」とは具体的にどういったものか等につき説明がありました。次に、EUにおける経済安全保障の背景として、米中対立を背景としたEUの「危機感」と、EUの経済分野における比較優位を生かした「可能性」についての分析に触れながら、EUの経済安全保障は、対中のみならず全世界対象であること(WTOルールへの考慮、中国を不必要に刺激することの回避、米国による措置への根強い懸念(IRA、GAFA等)等の事情)、それでも対中「防波堤」「包囲網」としての経済安全保障ツールも様々に拡充させてきていることについて指摘がありました。ツールの具体例として投資審査や経済的威圧への対抗措置(ACI)といった事例の紹介もありました。また、2023年6月に発表されたEUの経済安全保障戦略にも触れ、欧州が直面する様々なリスクへの対応として残された最大の課題が対外投資規制とされていること等の紹介がありました。最後に、欧州の対中・経済安全保障戦略の課題として、経済安全保障と自由貿易・自由市場原則の対立、EU加盟国間の意識や利害の相違、米国や同志国との連携、米国の保護主義的傾向への懸念等が挙げられるとのまとめがありました。
ディスカッション
以上の発表を受け、井形講師からコメントがあり、まず町田研究員の発表に関しては、「経済」と「安全保障」とが重なる分野という意味での「経済安全保障」は古くから存在しており、最近議論されている「経済安全保障」概念との違いを意識して分析することが重要、その意味で、中国における昨今言われているところの「経済安全保障」概念のルーツはどの時点と分析するか、中国における経済安全保障概念の発展の経緯の中で中国製造2025を加えなかった理由、①サプライチェーン、②人民元、③イノベーション・科学技術政策という3つの視点を選択した理由について質問があり、さらに、経済的威圧、中国における官民連携の変化、一帯一路といった事例を加えれば一層有意義な分析になるのではないか、中国によるリショアリング、フレンドショアリングの試みの実態はどうなっているか、日本政府による企業支援、特に経済安保推進法の下でのサプライチェーン支援について不十分と考える部分があればそれはどういったものかにつき質問がありました。
次に鶴岡准教授の発表に関しては、EUの経済安全保障政策を理解する上で、特にエネルギー安保の観点からロシアを含めて考える必要があるのではないか、経済安保政策を実施する上でEUと加盟国の役割分担(権能の違い)はどうなっているのか、人権や投資協定も「経済安全保障」として括るのが良いか(EU自身や鶴岡准教授が経済安保の範囲をどう捉えているか)、EU加盟国の間で、経済安保の定義や政策の優先度等にどのような差があり、それがEUの経済安保政策にどのような影響を与えているかの分析を今後聞いてみたいといった指摘がありました。
これに対して、町田研究員からは、自身の発表においては、説明をまとめる観点から便宜上「経済と安全保障が重なる部分」と広く定義した上で議論した旨を述べた上で、中国における昨今の「経済安全保障」のルーツとしては、具体的な時期を指摘するのは困難だが、トランプ政権以降米中対立が長引いてきたあたりから、中国の「安全」概念に関する認識が強まったと考えられる、①②③と3つ挙げた例については、中国が昨今自律性を高める取組を強化する中で、それが最も見える分野を選択したところである、「一帯一路」に関連しては、中国は現在自律性を高めることで欧米への依存を減らしつつ、「一帯一路」を利用した自国企業による発展途上国への展開を支援する方にカネや技術を回しつつある段階ではないかと考えている旨の応答がありました。
鶴岡准教授からは、今回はテーマの設定上中国に引きつけて発表を行ったが、EUの経済安全保障ということであれば、エネルギー面での脱ロシア、対露制裁は死活的に重要といえる、EUとEU加盟国の間での権能を巡る考えの違いは、例えば半導体製造装置に関する輸出管理でEUではなくオランダが主導権をとっているように、至るところで見られ、EUが長年抱えている課題でもある、経済安保の定義の範囲については、日本とEUでは異なり、日本においては狭く捉える傾向があるように思われるが、EUでは例えば人権や制裁等も一緒に議論されることがある点については留意が必旨の応答がありました。
質疑応答
その後、フロアから、町田研究員に対して、中国はEUの経済安保政策をどのように見ているか、中国の双循環の範囲は「重要分野」以外の技術や産業を含めて今後どこまで広がっていくか、 反スパイ法をどう考えるか、経済安保という概念をG7や民主主義国側のみの視点ではなく、例えば中国側から捉えることの是非をどう考えるか、といった質問があり、鶴岡准教授に対しては、EUの経済安保政策における日本の位置付け、EUと米国の軍事的な結びつきが緊密な中で、EUは米国を考慮に入れつつ中国との経済・経済安保関係をどうマネージしようとしていくか(EUにとっての米国ファクター)、EU加盟国内の温度差、特に東欧諸国の立場はどうなっているか、といった質問が寄せられました。
これに対して、町田研究員からは、中国が現在最も気にしているのは米国であり、EUについては米国との関係においてどう味方につけておけるか、どう協力できるかとの観点から見ているのではないか、双循環の広がりについては、今後全てに広がる可能性は低く、今後国内の自律性を高めていくという方針を進めてはいくものの、鎖国のような状況までに至ることはないと考えられる、反スパイ法は、中国の視点から見れば、これまで中国が実施してきたことを法制化しただけと言えるかもしれないが、「安全」に対する意識が強まっていることの表れでもあり、その点は注意して見ていく必要がある、「経済安全保障」の捉え方については、自分は日本の経済安保、対中政策は欧米とは違うべきだと考えており、実際これまでの日本の対中政策はそうしてきた、中国当局の中にも完全に「安全」重視に振り切れていない考えを持つ人もいるので、彼らとの関係も大切にしつつ、日本独自の政策を検討していくことが重要である旨述べられました。
鶴岡准教授からは、日EU関係で経済安保は大きなアジェンダになっているが、協力の具体化はまだこれからといった状況である、それを進める上で人権や制裁といった分野が一つ課題となり得る、その観点から、日本の経済安保の範囲を狭めて考える際には、欧米との価値の共有を強調する必要もある中において、それをどう整理すべきかを真剣に検討すべき、EUにとっての米国ファクターについては、EUのいう戦略的自律性は、結果の自律性というより、プロセスの自律性であり、米国と求める結果は同じになったとしても、そのプロセスにおいては自律的に維持したいというEU側の発想を理解することが重要、EU内の温度差は顕著に見られ、中東欧では対内投資審査等で守るべき技術がそもそもないという議論がある一方でエネルギー安保では対ロシアで急先鋒だが、そのような温度差は東西で単純に分けられるものではなく、分野によって様々なグラデーションが混在しているのが現実であるとの応答がありました。
*本フォーラムは、外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたしました。