SSUフォーラム/Book Launch Event「習近平の軍事戦略」
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日程:2023年09月22日(金)
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時間:15:00-16:10
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会場:Zoomによるオンライン
ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします。 -
主催:
東京大学未来ビジョン研究センター 安全保障研究ユニット
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言語:
日本語(同時通訳あり)
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お申込み:
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中国が掲げる「強軍の夢」、「強軍目標」とはどのようなもので、何を目指しているのでしょうか。人民解放軍が中国共産党から離反しないのはなぜでしょうか。中国・習近平政権下の軍事戦略目標とエコノミック・ステイトクラフトや総体国家安全観などの概念について説明します。
また、目標に向けた体制、すなわち習近平政権下の党軍関係の頑強性を検証すべく、鍵を握る政治・思想面と資金・財務面から考察するとともに、中国の経済成長が限界に近づき、逓減していく中で、軍事力を増大し続けることができるのか、また軍事力の増大は何をもたらすのかについて検討します。
講演者1:浅野亮(同志社大学 法学部 教授)
講演者2:土屋貴裕(京都先端科学大学 経済経営学部 准教授)
討論者:林載桓(青山学院大学 国際政治学科 教授)
司会:佐橋亮(東京大学 東洋文化研究所/未来ビジョン研究センター 准教授)
※本フォーラムは、外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたします。
9月22日、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは、浅野亮教授(同志社大学)及び土屋貴裕准教授(京都先端科学大学)をお迎えし、中国・習近平政権下の軍事戦略目標とエコノミック・ステイトクラフトや総体国家安全観などの概念について基調講演をいただきました。両者の発表の後、林載桓教授(青山学院大学)が議論に加わり、その後、聴衆から質問を募りました。同フォーラムでは、佐橋亮准教授(東京大学)が司会を務めました。
基調講演
冒頭、浅野先生から、浅野先生、土屋先生の新著『習近平の軍事戦略:「強軍の夢」は実現するか』につき、その執筆に至った背景や内容について説明がありました。まず、習近平政権下の軍事戦略における様々な概念(超限戦、知能化戦争、情報化戦争等)について概要の説明がありました。次に土屋先生から、書籍の構成に沿って、1945年以降の中国の軍事戦略の変遷、中国による認知領域の戦いの在り方(党による主導や、敵対勢力のみならず国際社会が広く対象となるという特徴、超限戦、制脳権といった概念等)、人事面、政治・思想面、資金・財務面、組織面からみた党軍関係、兵営国家の考え方(経済成長が低減していく中で軍事力を増大していく策)などについて説明がありました。最後に、兵営国家化する中国(の軍事戦略)が今後もたらし得ることとして、米中間の貿易摩擦が様々な分野に波及する中で、小規模な局地戦争を含む軍事衝突に発展する懸念は今後も続く可能性がある、との見通しが示されました。
ディスカッション
次に、討論者の林先生から、総評として、本著作は、習近平時代の人民解放軍と軍事戦略の変容に関する包括的な分析であること、考察の対象が党軍関係、軍と経済、社会との関係を含め多岐にわたっていること、本著作の焦点は中国の軍事戦略に含まれた「政治性」を正確にとらえ、その影響を評価するところである旨のコメントがありました。その上で、①「知能化戦争」の意味と位置づけに関連して、「情報化」から「知能化」への変化はどこに表れているか、②習近平の軍事戦略は何が新しいのか(具体的な変化は習近平の思想的な部分のみではないのか)、③「党の軍隊」が今後持続していくことに係る課題や可能性、④中国の軍事改革により党軍関係は本当に強化されたのか、⑤習近平個人への権力集中が軍事改革にどのように影響があるか(軍や党の組織弱体化にはつながらないか)といった問いかけがありました。これに対して、浅野先生、土屋先生からは、習近平の軍のコントロールの在り方や習近平個人の思想が台湾作戦に与える影響、知能化戦争の意味づけ、軍事改革は習近平個人の思想面に留まらず資金面や組織面の体制構築を含めた幅広いものに及んでおり、必ずしも軍や党の弱体化につながるとは限らないといった応答がありました。
質疑応答
その後、フロアがオープンとなり、多数の質問がありました。例えば、中国の軍事戦略上の概念に関連して、知能化戦争の具体的な焦点は何かとの質問があり、これに対し浅野先生、土屋先生から、知能化戦争を定義するのは困難であるが、簡単にいえば情報化の高度化といえ、例えばAI技術の応用はその一つとの説明がありました。また、総体国家安全観や昨今のALPS処理水の問題等にも議論が及び、中国側の考えの考察についても議論が及びました。
また、中国が軍事戦略上台湾有事をどう位置付けているか等の質問もありました。浅野先生、土屋先生からは、中国にとっては小規模局地戦争と位置づけられる(中国からみれば国内問題)と考えられるが、あり得べき米国の介入の可能性にもよるであろう、いずれにせよ、タイミングいかんに関わらず中国が対テロ局地戦といった形で小規模な作戦を今後実施することは十分あり得る、との指摘がありました。さらに、宇宙や核兵器分野について問われ、宇宙分野もハード面での戦場になる可能性があること、核兵器に関しては、中国は通常の軍事面での弱さを補うツールとして見ている可能性があること、核の第二撃能力の確保のため潜水艦やミサイル距離の延長に取り組んでいること等の説明がありました。
加えて、経済安全保障や中国への対処の在り方も議論されました。米国による圧力の下で中国の技術の内製化が遅れているとの指摘に対し、浅野先生、土屋先生からは、中国は時間を稼いで内製化を着実に進めていくと考えられ、中国の対外姿勢は(時間を稼ぐために)今後柔らかになっていく可能性もある、米国の攻勢は短期的には中国の内製化を遅らせているが、中国の先端技術開発は一部においては米国に先行しており、それを強みに軍事力を伸ばしていくことがあり得る、と応答がありました。また、日米等の民主主義国は中国にどう対抗すべきかとの質問に対し、正解はないが自国と国際社会を健全化していく地道な努力が重要、認知能力に係る中国の攻勢に対し迅速かつ効果的にカウンターを打ち出し、また、積極的に相手国に働きかける方策の検討が重要、との応答がありました。
*本フォーラムは、外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたしました。