「ダウンサイドリスクを克服するレジリエンスと実践知の探究」第2回シンポジウム
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日程:2024年02月09日(金)
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時間:18:30-20:30 (JST)
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会場:Zoomウェビナーによるオンライン開催となります。
ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします。 -
主催:
東京大学未来ビジョン研究センター(IFI) SDGs協創研究ユニット
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共催:
日本アフラシア学会(JSAS)
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言語:
英語(日本語同時通訳あり)
※未来ビジョン研究センターと日本アフラシア学会(JSAS)は、本イベントのZoom URL情報を提供するため、また、今後の活動についての情報を提供するため皆様の個人情報を収集させていただいております。この情報はいかなる第三者にも開示いたしません。
東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)SDGs協創研究ユニットと日本アフラシア学会(JSAS)は、2021年12月より日立感染症関連研究支援基金の助成による国際共同研究プロジェクト「ダウンサイドリスクを克服するレジリエンスと実践知の探究―新型コロナ危機下のアフリカにおける草の根の声」を実施しています。
本研究の目的は、アフリカにおいて新型コロナの感染拡大と各国政府による対応策の両方が人々にもたらすリスクとリスク認知の実態をとらえたうえで、人々が実践知を駆使してリスクを克服していく過程を明らかにし、政府機関や援助機関等による感染症対策に対する政策提言を行うことにあります。そのため、コンゴ民主共和国、ケニア、南アフリカ、タンザニア、ウガンダ、ジンバブエ、エチオピアにおいて人々の草の根の声を集めて分析しています。
共同研究開始から2年を迎えた今回のシンポジウムでは、2年間の研究進捗とともに、エチオピア、ウガンダ、南アフリカにおける現地調査の成果をご報告します。エチオピアチームは、信仰や信念、あるいは誤情報の流布が新型コロナのワクチン接種率に及ぼす影響を調査しました。ウガンダチームは、政府の新型コロナ対策とその政治化に関する草の根の見解や認識を探るため、都市部4地区と農村部6地区で調査を実施しました。南アフリカチームは、パンデミック下での経験について大規模な質問紙調査と聞き取り調査を実施しました。報告をもとに、参加者のみなさまと研究の改善に向けた議論ができれば幸いです。
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趣旨説明
華井和代 東京大学 特任講師
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プレゼンテーション 1
「Beliefs and Shots: エチオピアのCOVID-19ワクチン接種率における信仰、宗教、誤報のダイナミクスを理解する」
クリスチャン・S・オチア 名古屋大学 准教授
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プレゼンテーション 2
「ウガンダにおけるCovid-19パンデミック時の政府介入に対する草の根の認識を検証する」
大平和希子 ハーバード大学 ポストドクトラルフェロー
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プレゼンテーション 3
「南アフリカにおける中産階級のCOVID-19経験」
細井友裕 東京大学 博士課程
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コメント
稲場雅紀 アフリカ日本協議会 国際保健部門ディレクター
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質疑応答
2024年2月9日、東京大学未来ビジョン研究センターSDGs協創研究ユニットは日本アフラシア学会(JSAS)と連携し、「ダウンサイドリスクを克服するレジリエンスと実践知の探究―新型コロナ危機下のアフリカにおける草の根の声」の第二回目のシンポジウムを共催しました。2023年2月に開催した第1回シンポジウムの開催報告はこちらです。
はじめに、司会の華井和代特任講師(東京大学)がシンポジウムの概要を説明しました。このシンポジウムは、2021年から実施している研究プロジェクトの進捗報告であり、現地調査に基づいて、COVID-19によって多様なリスクに直面しているアフリカ現地の状況と人々の実践知を明らかにすることを目的としています。今回は、研究プロジェクトのメンバーであるクリスチャン・S・オチア氏(名古屋大学准教授)、大平和希子氏(ハーバード大学ポストドクトラルフェロー)、細井友裕氏(東京大学博士課程)が研究成果を発表し、稲場雅紀氏(アフリカ日本協議会国際保健部門ディレクター)からコメントをいただきました。
オチア氏ははじめに、SNSやアフリカにおける人々の民間療法的な対策を紹介し、人々のリスク認識の多様性を示しました。オチア氏とエチオピアチームは、アフリカにおけるCOVID-19のワクチン接種率が国によって大きく異なる点に着目し、①一般的な誤情報信念、②陰謀論的信念、③宗教的な誤情報信念の3つの要因がエチオピアの人々のワクチン接種行動にどのような影響を与えたのかを量的調査から分析しました。そして、①②はネガティブに影響したものの、③は影響しないという結果を示しました。アフリカではワクチンへの需要が高い一方、人々のコロナ対応は現地の歴史や文化に加えて、誤情報の流布に大きく影響されています。現地のリスクを軽減するため、信頼できる機関や特定の中心人物を活かした的確なコミュニケーションが必要です。
大平氏の発表では、半権威主義国家と形容されるウガンダにおける政府の介入に焦点を当てました。具体的な分析は、現政権によるパンデミックの政治的利用と政府の介入に対する市民の捉え方を主軸に行われました。現地調査(172人名への半構造化インタビュー)に基づき、与党が公的な集会への制限をはじめとし、野党候補者による選挙運動を阻止したことが明らかになりました。市民は、不公正な選挙運動が中央政府によって行われたことを認識していながらも、中央政府の施策がCOVID-19の感染拡大拡散防止につながったと評価しています。一方、与党が長年行ってきた中央集権化が、地方自治体がパンデミックに対応できない状況を作り出したことも明らかになりました。人々の地方自治体への不信感が、ウガンダの今後の選挙に影響を与える可能性があると指摘しました。
最後の発表は、細井氏による南アフリカの事例の紹介です。低所得層や脆弱な人々にフォーカスしてきた先行研究と異なり、本発表は、南アフリカのミドルクラス(中産階級)に焦点を当てました。COVID-19パンデミックと予防政策の影響、人々の政策評価とリスクを緩和するための実践知を明らかにするために、オンライン調査と質的インタビューが行われました。その結果、COVID-19の多面的な影響を受けた中産階級は日常的なコミュニケーション、娯楽や消費などの様々な手段を通じてストレスを軽減しようとしたことがわかりました。彼らは概して政府を信頼していないものの、政府による初期の対応やロックダウン政策を好意的に評価していました。一方、不十分な貧困層への支援やアルコール・タバコの販売禁止などの政策に対して批判的な評価も併せ持っていました。
3つの発表に対し、稲場氏は国際的な視点からコメントを行いました。稲場氏によると、複合的危機の時代において、パンデミックによって浮き彫りにされたのは、一国内の深刻な社会的不平等だけでなく、グローバル・サウスとグローバル・ノースの格差でもあります。一方、国際保健の文脈でのパンデミックへの政策的対応をみると、マクロな国際政治と開発資金に関わる視点が中心であり、現地の状況を踏まえた法的・政治的アプローチに関する言及や提案が少ないのが現状です。こうした欠落に対し、3つの発表とも、政府の介入に伴うリスクの増減とそれに対する民衆の政策評価との間の(非)対称性を示す内容であったことは、重要な発見といえます。稲場氏は、偽・誤情報への対応や、途上国における脱植民地化の潮流が国際的な課題となっている中で、これらの発表事例は、これからの具体的な政策の方向性を照準する視点を提供したと指摘しました。
質疑応答では、宗教・信念の違いや対応策の実効性などといった、COVID-19をめぐる現地のメカニズムに関する質問が寄せられました。リスクへの対策は、アフリカ現地の既存の権力構造だけでなく、人々の政治・文化・社会への関与を変える可能性もあります。複数の危機に直面する現代において、リスクの所在と連動を見極める能力が私たちに求められています。
*本シンポジウムは日立感染症関連研究支援基金の助成によって開催いたしました。