SSUフォーラム/GraSPPリサーチセミナー「オーストラリアにおける中国戦狼外交との戦い」

  • 日程:
    2024年05月28日(火)
  • 時間:
    10:30-12:00 (JST)
  • 会場:
    対面開催:東京大学本郷キャンパス国際学術総合研究棟(4階) 講義室B
    MAP
  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター 安全保障研究ユニット (SSU)

  • 共催:

    東京大学公共政策大学院 (GraSPP)

  • 言語:

    英語 (日本語同時通訳なし)

  • お申込み:

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定員に達したため申込みを締め切りました。
概要

オーストラリアからのさまざまな輸入を制限するまでに至った中国からの多大な圧力の中、倫理感のない譲歩は地域秩序の崩壊を意味しました。日本の外交官はオーストラリア支援のためのたゆまぬ努力を展開しましたが、戦狼外交とその支持者により、日本大使の信用失墜と名誉棄損を招くだけでした。

今回のSSUフォーラムでは、外交の最前線での直接体験をお聞きします。

登壇者

開会挨拶 飯田 敬輔
東京大学 大学院法学政治学研究科/公共政策大学院(GraSPP) 教授
未来ビジョン研究センター 安全保障研究ユニット ユニット長

講演者 山上 信吾
元駐オーストラリア特命全権大使(2020年11月~23年5月)

司会・閉会挨拶 Yee Kuang Heng
東京大学 公共政策大学院(GraSPP) 教授

2024年5月28日、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)は、東京大学公共政策大学院(GraSPP)と共同で、元駐オーストラリア特命全権大使である山上信吾氏をお迎えし、基調講演をいただきました。中国の「戦狼」外交(中国による高圧的な外交およびプロパガンダ新戦略)に対抗するにあたり、日本の外交官としてオーストラリア支援に携わった体験をまとめた山上氏の著書をトピックとして議論を行いました。冒頭、SSUユニット長の飯田敬輔教授(東京大学)より開会の挨拶がありました。司会と閉会の挨拶は、GraSPPのイー・クァン・ヘン教授(東京大学)が務めました。

基調講演
冒頭、山上元大使は、日豪関係の重要性を強調するとともに、日豪の二国間関係が注目を集めないことが多い理由について説明しました。元大使は、最初に、日本がオーストラリアとの間で不可欠なパートナーシップを築いてきた分野として、1)オーストラリアから日本への相当量のエネルギー・食料資源の輸入;2)地域の平和・安定維持を目的としたオーストラリアとの緊密な軍事・安全保障協力、2022年に日豪円滑化協定(Japan-Australia Reciprocal Access Agreement)として具体化;3)増加を続ける人材交流;4)アジア太平洋経済協力会議(APEC)、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)など、ルールに基づく地域秩序確立のための共同の取り組み、の四つをあげました。このような緊密なパートナーシップにも関わらず、山上元大使は、日豪関係は見過ごされがちであると指摘し、その理由として、オーストラリアにおける日本メディアのプレゼンスの欠如、両政府による広報外交の取り組みが期待外れであること、国際関係における伝統的な英米中心の考え方などを挙げました。
日豪関係の現状を概観した後、山上元大使は、中国による前代未聞かつ広範な経済的威圧キャンペーンに対抗するためにオーストラリアを強力に支援した体験について語りました。山上氏がオーストラリアに大使として赴任した2020年末時点で、既に中国はオーストラリア政府が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発生源の調査を求めたことに反発し、また、中国企業ファーウェイをオーストラリアの5Gネットワークから締め出した2018年の措置への報復として、オーストラリアのいくつかの輸出品に対して貿易制裁を課しました。中国からの経済的圧力に立ち向かうオーストラリアと連帯する姿勢を示すために、山上元大使は、2021年7月のナショナル・プレス・クラブ(全豪記者協会)での講演で、オーストラリアの人々に向けて、中国との貿易戦争に「オーストラリア一国で立ち向かっている訳ではない」というメッセージを発する必要があったと説明しました。山上元大使によると、同大使の講演に対し、中国大使館からの悪意ある批判は予想されていましたが、オーストラリア社会からも中国を挑発しないでほしいという声が上がったことから、中国の圧力への対処に関して、依然オーストラリアの人々の意見は割れていることがよく分かったと述べました。
基調講演の締めくくりとして、最後に、中国の経済的威圧や恫喝的外交に対する共同戦線を維持する継続的取り組みの重要性について、いくつかの考えを述べました。山上元大使は、日本は、その地理的近接性ゆえに中国に対処してきた長い歴史を持つ「最前線」国として、また、2010年に東シナ海の尖閣諸島付近で発生した中国漁船による海上保安庁巡視船への衝突事件を受けて中国が行った希土類鉱物(レアアース)の日本への輸出制限に対処してきた経緯を踏まえ、そうした経験をオーストラリアと共有することができる点を強調しました。また、ルールに基づく地域・国際秩序を確立するためには、日米豪印による安全保障協力の枠組みであるクアッドなど、志を同じくする国々とのパートナーシップの中で協力することの重要性も強調しました。

質疑応答
山上元大使の基調講演に続いて、会場からの質問を受け付けました。オーストラリアで中国の高圧的外交に対抗した山上元大使の経験について、また圧力的キャンペーンの背後にある中国の考え方に対する山上元大使の評価について、いくつか質問が出ました。これに対し、大使は、中国の攻撃的な話術やプロパガンダに踊らされないように心掛けたと説明しました。また、キャンベラの中国外交官らは、自国のイメージを守るためにオーストラリアの人々に訴求しようとせずに、むしろ、西洋諸国政府に対する断固とした姿勢を貫き通すことを優先していたと付け加えました。そうした姿勢のおかげで、オーストラリアにおける両国の言い分を巡る戦いは、日本の外交官にとってむしろ有利に運びました。山上元大使はこうした経緯を振り返り、中国は、オーストラリアが持つ「レジリエントな闘志」や「西洋諸国に見捨てられることに対する恐れ」を過小評価し、広範な経済的威圧策を課した結果、オーストラリアを従わせるどころか中国から遠ざけてしまったと論じました。山上元大使は、中国の高圧的外交がオーストラリアの中国系移民に及ぼす影響や、禁輸を段階的に解除していくという、オーストラリアに対する中国の新たな「ほほ笑み外交」など、他のトピックにもコメントしました。

※本会議は外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたしました。