国連事務次長補、国連開発計画 (UNDP) 総裁補兼アラブ地域局長との対話「アラブ地域における女性のエンパワーメントを考える~女性・平和・安全保障(WPS)を進めるためには」
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日程:2024年05月30日(木)
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時間:14:00-15:30
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会場:HASEKO-KUMA HALL (東京大学工学部11号館) (オンライン配信はありません。)
https://haseko-kuma.t.u-tokyo.ac.jp/access -
主催:
東京大学未来ビジョン研究センター
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協力:
国連開発計画駐日代表事務所
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言語:
英語 (同時通訳はありません)
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参加申込み:
要事前申込み。以下の参加申込フォームからお申込みください。
(定員(約120人)に達し次第受付を終了します)
※未来ビジョン研究センターは、本イベントの情報を提供するため、また、今後の活動についての情報を提供するため、皆様の個人情報を収集させていただいております。この情報はいかなる第三者にも開示いたしません。
国連事務次長補、国連開発計画(UNDP)総裁補兼アラブ地域局長であるアブダラ・アル・ダルダリ氏をお招きし、アラブ地域の経済・社会及び開発課題の現状といったテーマについて、現場での開発支援を担う国連機関の立場からご講演いただくとともに、学生との対話を行います。特に本学学生の積極的な参加を歓迎します。
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挨拶
福士謙介
東京大学未来ビジョン研究センター センター長・教授 -
基調講演
アブダラ・アル・ダルダリ
国連事務次長補、国連開発計画(UNDP)総裁補兼アラブ地域局長 -
学生との討議
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質疑
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閉会の辞
ハジアリッチ秀子
国連開発計画駐日代表
本学学生(学部学生、大学院学生)のディスカッサントを募集します。所属学部・研究科は問いません。
ディスカッサントとして参加希望の方は、以下フォームより5月24日(金)17:00までにお申し込みください。
E-mail ifi_undp_event[at]ifi.u-tokyo.ac.jp
([at]→@に置き換えてください)
未来ビジョン研究センターでは、5月30日に、アブダラ・アル・ダルダリ国連事務次長補、国連開発計画(UNDP)総裁補兼アラブ地域局長をお招きして、「アラブ地域における女性のエンパワーメントを考える~女性・平和・安全保障(WPS)を進めるためには」というテーマで講演及び対話を行いました。
イベントの主催者である福士謙介未来ビジョン研究センター長が開会挨拶を行いました。福士センター長は、未来ビジョン研究センターは持続可能な開発及び持続可能な開発目標(SDGs)の達成といった、UNDPと共通する目標を掲げていること、この関係は平和構築及び開発の機会創出に向けたUNDPと未来ビジョン研究センターの相互協力協定に基づくものであること、さらに東京大学と未来ビジョン研究センターがジェンダー平等の推進及び公正で平和かつ包摂的な社会の実現に貢献するために、より多くの女性をエンパワーすることに取り組んでいることについて述べました。
続いて、ダルダリ博士の講演が行われ、そこではアラブ地域における女性のエンパワーメントの重要性とその世界平和にとっての意義に焦点が当てられました。講演では、5つの重要な点が指摘されました。
第一に、統計はストーリーの重要な部分を示していますが、同時に現場の現実を単純化しているということです。アラブ地域は、女性の労働参加が最も低いという点で、世界の他の地域と比較して劣っています。労働力格差による所得の損失は約53%で、GDPの20%を占めています。
しかし、これらの統計はフォーマルな経済に関するものである一方、インフォーマルな経済には(無報酬の家事労働を含め)目に見えず、数えられないままになっている多くの女性の参加があります。女性の教育水準は高く、中でもパレスチナ自治区はアラブ世界で最も教育水準の高い地域なのです。
第二に、女性のエンパワーメントはきわめて重要ですが、世界の文化的多様性を維持することも重要です。この地域の女性の状況(ジェンダー開発指数は全地域の中でワースト2位、MENA地域のジェンダー格差は37.4%)を改善するためには、様々な取組みが必要です。しかし、女性の条件を改善するためには、女性のエンパワーメントについて広く知られている概念に従うのではなく、民族や地域の文化的多様性を保護し、大切にする必要があるのです。
第三に、女性の経済的エンパワーメントは、平和と安全への重要な道筋です。競争力のある経済を育成するためには、女性を正式な経済に仲間入りさせる必要があります。女性の教育が改善されれば、有能な人材を労働力に取り込むことができます。経済的自立はまた、女性が家族の子供の数に関して発言権を持ち、全体的なウェルビーイングに貢献することを可能とするのです。
第四に、女性は危機から不釣り合いな影響を受けます。紛争では、男性が殺されると、女性も巻き添えになるのです。(難民や国内避難民の5人に1人の女性が性的暴力を経験しており、2022年に国連が確認した紛争関連の性的暴力事例の94%が女性と女児を対象としています。)
脆弱な環境では、女性は男性の4倍の時間を無報酬のケアワークに費やし、支援を必要としています。彼女たちの生存は、家族だけでなく地域社会のウェルビーイングにも貢献しています。たとえばアフガニスタンでは、UNDPがタリバン支配下で7万人の女性起業家を支援し、サービス提供、社会的結束、地域コミュニティ内の平和に貢献しました。気候変動による新たな危機を考慮すると、過去の開発経験は、女性を訓練してエンパワーする必要性を示しています。
最後に、女性を有意義な形で平和プロセスに参加させる必要があります。1992年から2023年までの主要な平和プロセスにおいて、交渉官に占める女性の割合はわずか16.5%です。2000年に採択された画期的な決議である国連安全保障理事会決議1325では、紛争予防と解決における女性の平等な参加の重要性が確認されており、女性・平和・安全保障アジェンダは、いくつかの規範的枠組みに支えられた10の国連安全保障理事会決議で構成されています。
続いて、東京大学の学生ディスカッサントを交えた意見交換が行われました。学生からの質問は、この地域にジェンダー格差が根強く残る理由、UNDPが(草の根組織を通じて、あるいは権威主義的な政府を通じて)女性をエンパワーする方法、法律と現場の現実とのギャップに対処するための国際法・人道法の役割、に焦点を当てたものでした。
ダルダリ博士は回答の中で、世界の中でも多様な部分であるアラブ地域では、社会階層が階層化していることを指摘しました。さまざまな規模で紛争が続いているため、社会内の溝が深まっています。開発への取組みに関しては、たとえ権威主義的な体制のもとで暮らしていたとしても、一般の人々を見捨てないことが最大の関心事であることは変わりません。すべての努力の目標は、長期にわたる平和に貢献することです。国際法の尊重は、あらゆる状況において最優先されるべきですが、特に紛争に関してはなおさらです。現在進行中のガザ紛争は、国際法の枠組みが侵害された一例です。UNDPでは、現在進行中の紛争だけでなく、将来展開される可能性のある紛争についても、国際基準を守ることに重点を置いています。
最後に、国連開発計画(UNDP)駐日代表のハジアリッチ秀子氏が結びの言葉として、女性の労働参加を増やし、紛争解決にジェンダーの側面を含める必要性を強調し、世界人口の50%の潜在能力を活用しなければ、世界の安定を確保することは不可能であることを述べて閉会となりました。
[上段]左から、福士教授、ダルダリ博士、ハジアリッチ氏
[下段]学生ディスカッサントによる質疑
写真提供:UNDP駐日代表事務所