• 政策提言

    No.30

    国際エネルギー分析と政策研究ユニット

洋上風力発電に関する分野を超えた開発政策の提案
港湾/港湾都市の視点から

概要

脱炭素社会における主⼒電源の⼀つと期待される洋上⾵⼒の開発に関して、とりわけ⾵⾞の⼤型化や事業リスクの増⼤が続く中で、洋上⾵⼒発電を⽀える持続可能なサプライチェーンの開発が各国の共通課題となっている。本研究では、洋上⾵⼒産業の関係者が直⾯しているリスクや障害、また政府への期待などについて調査し、分析することによって、⽇本政府に対する提⾔を導いた。調査は、国内外の関係者、とりわけ洋上⾵⼒開発に積極的に取り組んでいるアジアの港湾/港湾都市(⽇本の北九州港、台湾の台中港、ベトナム・バリアブンタウ省)の関係者を対象に、⽴場に囚われず意⾒を述べてもらえるよう⼯夫し、ワークショップやヒアリングの形で⾏った。

その結果、まず国内の開発プロセスについて、関係省庁が連携し電源開発促進区域の指定や事業者公募を⾏うなど、中央政府が主要な役割を果たす形の枠組みがある⼀⽅で、縦割りの壁が残り、地⽅/地⽅⾃治体や⺠間企業に負担が集中している課題もあることが分かった。また、東アジア地域についてみると、各国の規制により市場が分断され、市場規模が⼩さいために、現在も投資が進まず、健全な競争が妨げられており、今後も⾵⾞の⼤型化が続けば、将来的にはどの国もサプライチェーンが⽴ち⾏かなくなる懸念があることが明らかになった。

そこで本研究では、国が掲げる洋上⾵⼒開発⽬標を実現するために必要だと考えられる、中央政府レベルで議論し取り組むべきこととして、次の4点を整理し、提⾔を⾏った:

提⾔1. 省庁間の連携:電源開発と産業開発を⼀体として捉え、インフラ(港湾)の開発戦略 の策定等および必要な⺠間への⽀援を⾏うこと。

洋上⾵⼒電源の開発は産業およびインフラの開発と不可分であり、⽇本でも経済産業省と国⼟交通省が連携して当たっているものの、特に産業拠点としての港湾開発において、依然として縦割りの弊害がみられ、中央政府の役割が⼗分に定まっていない。

港湾開発は多⼤なリスクを伴い、円滑な開発のためには、省庁間の連携強化により電源開発と産業開発とを⼀体と捉えた洋上⾵⼒拠点港湾の開発戦略の策定や、その他の⺠間への⽀援が重要だと考えられる。

提⾔2. 拠点港湾の開発をめぐる意思決定における中央政府としての役割:

提⾔2‐1.
役割1:拠点港湾の⽴地に関する戦略や考え⽅を提⽰すること

拠点港湾の開発の是⾮やあり⽅は、第⼀義的にその港湾の管理者や⽴地地域が主体となって議論し意思決定すべきことであるが、同時に、このような港湾は⽇本全体で掲げられた開発⽬標を実現するための拠点でもある。このため、中央政府が⽴地に関して、考慮されるべき⾃然的・社会的・経済的条件や、国内外の開発情勢等に関する考え⽅や戦略を責任を持って提⽰し、発信することで、地⽅における開発をめぐる意思決定の負担を軽減できると考えられる。

提⾔2‐2.
役割2:地⽅における開発のあり⽅や意義に関する議論を促進すること

拠点港湾の開発にあたっては、狭義の経済波及効果にとどまらず、地域の社会課題の解決や将来像実現のためのインフラとして、地⽅レベルで多⾯的な議論が⾏われ、意思決定がなされることが望ましい。これは地域の発展だけでなく、リスクの⼤きい港湾開発への投資を促進する上でも有効な可能性がある。

中央政府においては、電源開発、産業開発、そして地域社会の開発を複眼的に議論するためのガイドラインや調査報告等を⾏うことが必要だと考えられる。

提⾔3. 国内産業の育成や短期的な技術開発競争への参加のみならず、早期にアジア⼤での協 調による市場およびサプライチェーン構築にも取り組むこと。

洋上⾵⼒サプライチェーンは⾵⾞の⼀層の⼤型化により、参⼊障壁や不確実性がますます⼤きくなり、市場規模の確保による事業の安定を図ることがより重要になっていると考えられる。これに対し、東アジアでは各国が⾃国内の産業育成のための政策や競争的な開発に注⼒していることもあって市場が分断されており、産業の実態に即した健全な競争が阻害されるといった弊害が既に現れている。このため、中央政府は東アジアや東南アジア諸国との協⼒の可能性を早期に検討し、⺠間企業群および港湾間の連携によりスケールメリットと効率性が実現できるような環境を整えることが重要だと考えられる。

提⾔4. 専⾨特化型の⼈材だけでなく、分野横断的な知⾒や⼈的なネットワークを有し、複雑な課題解決策をデザインできるキーパーソンの育成を⽬指すこと。

以上の提⾔を実現するためには、中央・地⽅政府、⺠間、港湾管理者など幅広い主体において、国際的視野と分野を横断した知⾒を持ち、複雑な課題に対応できるビジョンをデザインすることのできる⼈材のネットワークの形成が求められる。中央政府は、現在も⽬指されている専⾨特化型⼈材育成に加えて、こうしたキーパーソンの育成に取り組むべきだと考えられる。

この政策提言は、東京大学未来ビジョン研究センター国際エネルギー分析と政策研究ユニットの研究成果の一つです。全文は以下よりダウンロードいただけます。