総長メッセージ

藤井 輝夫 東京大学総長

現代はパンデミック、気候変動、戦争など、私たち人類社会の目前に次々と地球規模課題が突き付けられる時代であると言ってよいと思います。これらに関連して世界の様々な場所で差別や分断が広がり、社会の中で格差の問題や閉塞感が露わになってきています。

このように、これまで前提としていた諸条件や常識が大きく変化する今日だからこそ、私たちは、学術が果たすべき役割をしっかりと意識しつつ、過去から未来に向けて長期を見渡す視野に立って、新しい社会の構築に取り組まねばならないと考えています。

こうした考え方に基づいて、2021年9月には東京大学の基本方針であるUTokyo Compassを公表しましたが、そこでは我々が大事にすべき実践として「対話」を掲げています。東京大学は、学知を生み出す存在として、大学と社会の間で、そして世界の中で「対話」を通じて立場や価値観が異なる人と人、組織と組織を繋いでいくことにより、世界の公共性に奉仕していきたいと考えています。

さて、「SDGs」の語が広く使われるに伴い、「誰一人取り残さない」Developmentを成しとげる必要性は認識されつつありますが、この「Development」が意味するものは決して自明ではなく、共有されているともいえません。

得てして経済成長や物質的な豊かさの増大を思い描きがちですが、かつてであれば各々の未来への責任を問わずに資源を調達し廃棄物を処理すれば達成できた、そうした「Development」はいまや実現できません。もう地球上には「外部化」できる環境が残っておらず、地球が許容できる限界点に近づきつつあるからです。この現実に正面から向き合う「知」の醸成に、東京大学として是非とも貢献したいと考えます。

2019年に発足した未来ビジョン研究センター(Institute for Future Initiatives: IFI)は、本学の学際融合研究施設の一つに位置づけられるもので、東京大学が地球規模課題に取り組む際の司令塔的な役割を果たすことが期待されており、たとえばSDGsを中心とした未来社会の課題について分野横断型の研究を進めています。2020年にはグローバル・コモンズ・センター(Center for Global Commons: CGC)を発足させ、「地球という人類の共有財産(グローバルコモンズ)」をはじめとする公共財の責任ある管理(stewardship)のための研究を開始しました。これまでにグローバル・コモンズ・スチュワードシップ・フレームワークの発表、COP27のジャパンパビリオン内でのセミナー開催など、精力的に活動を展開しています。

IFIの特徴は、異なる分野の研究者同士ならびに研究者と社会のステークホルダーとの協創を促す「対話の場」であることです。東京大学は、今後も引き続き、多様な人々や組織と組織をつなぐ存在として、対話の実践を通して知の共有と協創を広げていき、地球規模課題の解決に貢献できるよう努力して参りたいと考えております。そのためにも、この未来ビジョン研究センターのより一層の発展を大いに期待しているところです。皆さまのIFIへのご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。