SSUフォーラム/GraSPPリサーチセミナー “インド太平洋戦略:オランダ政府のインド太平洋政策指針と欧州連合(EU)の取り組み”
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日程:2021年06月11日(金)
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時間:10:30-11:30
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会場:Zoomによるオンライン(Webinar)
ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします -
言語:
英語 *同時通訳あり
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主催・共催:
東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット
駐日オランダ王国大使館
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過去10年間、インド太平洋地域は、急速な世界経済成長の牽引役を担ってきました。しかしながら、この世界規模の経済成長は、インド太平洋の海上通商路における地政学的係争と緊張の高まりを伴うものでした。そのような状況の中で、オランダとEUは、インド太平洋地域の安定を重視するのみならず、同地域における法の支配、と人権の尊重、自由貿易の重要性に強い関心を持ってきました、
オランダ政府は、インド太平洋地域とのさらなる関係強化を目的として、2020年に独自のインド太平洋政策指針を策定しました。それ以来、オランダ政府は、この政策指針の履行に向けて行動してきました。2021年3月22日、オランダ政府はフリゲート艦(HNLMS Evertsen)をインド太平洋地域に派遣することを発表したように、オランダはインド太平洋地域に関与する姿勢を示しきています。
これらの進展を背景に、このたび東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニットが主催するウェビナーでは、ペーター・ファン・デル・フリート在日オランダ王国大使(H.E. Peter van der Vliet)をお招きし、インド太平洋政策指針に基づくオランダ政府の取り組みについて講演いただきます。具体的に、ファン・デル・フリート大使より、オランダ政府のインド太平洋政策指針の策定の経緯、またこの政策指針で達成しようとしている目標、およびEUインド太平洋戦略に基づくヨーロッパ全体の政策形成過程におけるオランダの関与について説明します。このウェビナーでは、イー・クワン・ヘン東京大学公共政策大学院教授が討論者として参加し、また全体の議論のモデレーターは、藤原帰一東京大学法学政治学研究科教授が務めます。
オランダ政府のインド太平洋政策指針をテーマとしたこのたびのウェビナー、ぜひご参加ください。
ペーター・ファン・デル・フリート閣下 (駐日オランダ王国大使)
藤原 帰一 (東京大学法学政治学研究科教授)*開会挨拶、司会、ディスカッサント
イー・クアン・ヘン (東京大学公共政策大学院教授)*ディスカッサント
2021年6月11日午前、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)、東京大学公共政策大学院(GraSPP)および駐日オランダ大使館の共催により、「インド太平洋戦略:オランダ政府の政策指針と欧州連合の取組み」と題したSSUフォーラム/GraSPPリサーチセミナーが開催されました。ペーター・ファン・デル・フリート駐日オランダ大使が基調講演者としてお迎えし、藤原帰一・法学政治学研究科教授およびイー・クアン・ヘン公共政策大学院教授が討論者を務めました。
冒頭、藤原教授は、ファン・デル・フリート大使を歓迎する旨を述べたうえで、オランダの歴史的重要性を次の点から指摘しました。鎖国制度が採られた江戸時代、オランダ人は日本で通商貿易が許された唯一のヨーロッパ人であるとともに、日本にとってオランダは西洋世界への窓口でもあったこと。オランダの歴史的重要性はそれに留まらず、国際法の父といわれるフーゴー・グローティウスはオランダ出身であり、そのことからもオランダは現代の国際法とルールに基づく国際秩序の構築・維持に尽力してきたこと。さらにオランダは、紛争解決のための国際的な取組みを支援しており、その中で国際平和維持ミッションに対する積極的な貢献を続けてたきたこと。また昨年、オランダ政府は初めてインド太平洋戦略を策定し、世界におけるインド太平洋地域の重要性を踏まえ、この戦略を通じた多国間の協力について考えるよい機会を提供していることを指摘しました。
ファン・デル・フリート大使は、基調講演の冒頭、オランダ政府による2020年のインド太平洋戦略指針の策定の背景を多面的観点から説明しました。世界の戦略的・経済的重心が東にシフトする中、インド太平洋地域の重要性が高まっていること。また政治的には、持続可能な開発、気候変動、貧困など世界規模の課題がインド太平洋地域に関係して発生していること。さらに言えば、オランダ政府のインド太平洋戦略は、他国に不公正な取決めを受入れることを強いる単一の覇権国が出現する可能性、言い換えれば、単極支配下のインド太平洋地域の状況を防ぐことを目的としています。つまり、オランダの国益を保護する最善の方法は、すべての国の主権と選択の自由を確保することにあります。この目的と戦略はオランダだけではなく欧州連合(EU)全体に共有されているものです。 EUは遠く離れているように見えても、実際には、世界の相互接続性により、距離はほとんど無関係になっています。たとえば、最近発生した事故によりスエズ運河が一時的に閉鎖された結果、ロッテルダム港とヨーロッパの小売業者に直接的な影響を与えました。実際、EUの輸出の35%はインド太平洋地域に向かい、またEUの主要貿易相手国の10か国中4か国はアジア地域に所在しています。他の多くの国際的かつ世界的な問題は、EUとインド太平洋地域の両方に影響を及ぼすものが多いです。たとえば、貿易戦争、重要な物品について特定の供給チェーンへの過度の依存、フェイク・ニュース、権威主義の台頭、多国間組織における議論の強化などです。 これらすべてが、オランダや日本、より広くはEUや日本などの志を同じくする国々の間のより深い協力の必要性を浮き彫りにしています。このような協力は、近年ますます挑戦を受けている法の支配、航行の自由、自由貿易、民主主義の強化を必要としています。
オランダは比較的小さな国ですが、EUのメンバー国として世界に大きな影響を与える可能性があります。また、EUの主要なメンバー国であるドイツとフランスもすでにインド太平洋戦略を発表しています。 EU全体として、日本を含むインド太平洋地域の志を同じくするパートナー国とともに、単一の地域覇権主義の出現を防ぐための他国間の取組みを支援することができます。これには海洋法の遵守などの問題で特に重要です。この取組みの一環として、日本とオランダの両方がASEAN諸国の能力構築支援のためのリソースを提供しています。他の例では、サイバーセキュリティ、不拡散、軍縮、武器輸出管理の分野にあります。
ここで述べている単に高尚な理想に留まるものではありません。オランダとEUは、「有言実行」が必要であることを認識しています。英国主導の海軍空母打撃群21(CSG21)の一部として最近行われたオランダのフリゲート艦エヴァーツェンの配備は、まさにこのような認識に基づいた行動です。ただしこれは、有志国との協調姿勢と国際的な規範や規則の順守によって示されるように、かならずしも単一の国への合図を意味するものではありません。オランダとEUは、民主的な価値観と規範、そして人権の促進にも取組んでいます。全体として、EUと日本の戦略目標はある程度収斂しつつあり、それを通じた両国の協力と、双方独自のイニシアチブの強化を補完しながら達成することができます。この点については、EU-日本首脳会談中に発表された最近の共同宣言でも強調されました。さらに、これらの努力は、志を同じくする民主主義諸国の協調・連携を推進している米国のバイデン真政権の政策を直接補完するものです。
討論者を務めたヘン教授からは、オランダのインド太平洋政策指針が、ASEAN加盟国によって日常的に賞賛されている概念である「ASEANの中心性」を維持するうえで役立つことを強調したファン・デル・フリート大使の発言を評価する旨を述べました。さらに、オランダがインド太平洋地域で関心を持つ事項のリストが幅広い事項を扱っていることを強調するとともn、ヘン教授は、国際的な法的秩序とその維持については、そのリスト内でどの程度の優先度を持つのかについて尋ねました。
ファン・デル・フリート大使は、インド太平洋地域へのオランダのアプローチは、世界中の国家の独立と主権を尊重することに基づいていると答えました。ファン・デル・フリート大使は、国際的な法的秩序の重要性について尋ねられたとき、この法的秩序が私たちのグローバル化した世界の機能の基盤を形成していると答えました。このため、インド太平洋地域におけるオランダの利益を保護するには、前提条件として、健全な国際秩序が必要になることを強調しました。