SSUフォーラム/GraSPPリサーチセミナー “米軍のアフガニスタンからの撤退−教訓と示唆−”
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日程:2021年07月07日(水)
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時間:9:00-10:00
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会場:Zoomによるオンライン(Webinar)
ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします -
言語:
英語 (同時通訳無し)
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主催・共催:
東京大学公共政策大学院
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登録方法:
バイデン政権は、20年に渡るアフガニスタン介入に終止符を打ち、米軍を早急に撤退させることを発表しました。しかし、アフガニスタンの将来については、未だ多くの不確定要素があります。本セミナーでは米コロンビア大学・外交評議会のスティーブン・ビドル教授をお迎えし、20年間のアメリカのアフガニスタンへの関与を評価していただきます。アメリカや国際社会が過去に得た成果や問題点を精査した上で、アフガニスタンの平和と安定への道筋と課題、政策・ドクトリン上の教訓、和平合意への影響等、米ーアフガニスタン関係について多岐にわたり議論します。
基調講演:スティーブン・ビドル(コロンビア大学国際公共政策大学院教授)
ディスカッサント:イー・クアン・ヘン(東京大学公共政策大学院教授)
司会:青井千由紀(東京大学公共政策大学院教授)
2021年7月7日午前、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)および東京大学公共政策大学院(GraSPP)の共催により、「米軍のアフガニスタンからの撤退:その教訓と示唆」をテーマとして、SSUフォーラム/GraSPPリサーチセミナーが開催されました。今回のセミナーにおいて、基調講演者としてお招きしたのは、スティーブン・ビドル氏です。ビドル氏は現在、コロンビア大学国際公共政策大学院教授を務めるとともに、アーノルド・ザルツマン戦争・平和研究所所員、および米国外交問題評議会防衛政策担当非常勤シニア・フェローを兼任しています。
このウェビナーでは、公共政策大学院より、青井千由紀教授が司会者として、またイー・クアン・ヘン教授が討論者として登壇しました。冒頭、青井教授は今回の基調講演者を紹介する際、ビドル教授がたいへん著名な研究者・著述家であるだけでなく、米国政府が関与する多くの委員会や調査パネルに参加していることから、米国の安全保障政策、特にアフガニスタン政策について、非常に豊かな知見と多角的な視点を提供してくれるだろうと述べました。
基調講演の冒頭、ビドル教授は、現在、アフガニスタンで起きていることについて率直な感想を述べたいとして、米軍の撤退は誤った政策であるとの見解を示しました。その予想される結果として、今後、アフガン政府軍が単独でタリバンとの戦いを続けることになるだけではなく、アフガン政府が急速に弱体化していく中で、同国が再び混沌とした内戦状態に陥るだろうとビドル教授は述べました。またビドル教授は、米軍撤退後のアフガン政府は、2001年の米国の介入以来、ある意味でアフガン政府の存在を保証してきた特定の同じ軍閥に取って代わられる可能性が高く、つまりこのことは、アフガニスタンにおける紛争が継続し、少なくとも、さらにもう一世代のアフガニスタン人に不要な苦痛を与えることになるのではないかと述べました。
米国にとって適切な政策はどのようなものでしょうか。ビドル教授は、限られた軍事的プレゼンスをアフガニスタンに残しつつ、和平交渉を行うことであると述べました。ビドル教授によれば、そのような政策は、おそらく、あともう10年ほどのコミットメントを要するかもしれないが、しかし米国にとって不可能なものではないと述べました。今回のバイデン政権による米軍撤退の判断は、トランプ前大統領がタリバンとの交渉に失敗したことを踏まえたものでした。この交渉は、タリバンがアルカイダとの関係断絶と暴力行為の自粛を約束することと引き換えに、米国が軍事的プレゼンスを半減させることを約束するものでしたが、タリバンがこの約束を守ることはありませんでした。
米軍のアフガン撤退には、どのような背景があるのでしょうか。ビドル教授は、端的に、2001年以降行われてきたアフガニスタンの民主国家化の試みが失敗したことにあると述べました。ビドル教授の説明によると、アフガニスタンには、弱い中央政府は存在するものの、実際の権力は各地方の軍閥、さらに言えば、この地方軍閥が支配するクライアント・ネットワークと各軍閥の下にある武装組織が握っています。このような権力構造は、汚職や縁故主義によって支えられています。カブールの中央政府は、対立する各軍閥間の軍事的均衡と、それぞれの各軍閥グループが支配する資源配分の均衡で成り立つ二重の権力を維持できる限り、存続することができるのではないかというのです。
さらに分析の視点を拡大した上で、ビドル教授は、アフガン紛争は全体として、この地域の地政学、特にパキスタンの安全保障とその核兵器を中心に展開されていると説明しました。パキスタンは、アフガニスタンが民主主義国家として成功した場合、自国がインドによって包囲されるのではないか、あるいはパキスタンの北西部にあたるアフガンに生じる地政学的空白をインドが埋めるのではないかということを怖れています。その結果、パキスタンは、アフガニスタンへの影響力を拡大するために、タリバンの結成を支援し、また米国からの信用を失うことになってまでも、過去30年間にわたってタリバンを支援し続けてきたというのです。
ビドル教授によれば、米国のアフガニスタンに対する関心は限られています。米国の関心の中心は、パキスタンが崩壊した場合に起こりうる地域的・世界的な波及効果にあります。このようにアフガニスタンに対する限定的な関心の結果、米国政府は、少ない資源で低強度の紛争に対処することが可能だと考えています。このような考えの下で、米国政府が期待したのは主にアフガン政府軍と国家警察でしたが、すでに指摘したように、アフガン政府軍と国家警察は汚職や根本的な権力構造のためにうまく機能していないのが実態です。
アフガニスタンの民主国家化という当初の計画を米国が放棄した現在、今後の展開は明確になりつつあります。タリバンがカブールに迫る中、多くのアフガン国軍兵士が離反し逃亡しています。今後、タリバンがアフガニスタンを完全に支配することになるのでしょうか。その可能性は低いだろうとビドル教授は述べています。2001年以前にも、タリバンは必ずしもアフガニスタンの国土全体を支配していたわけではありません。さらに、タリバンは強固な組織ではなく、把握しきれないほどの無数のグループやネットワークで構成される緩やかな組織であり、またその内部には敵対や紛争があります。その結果、アフガニスタンは、ソ連撤退後の1990年代の状況とよく似た、新たな紛争の局面に向かっているのではないか、とビドル教授は指摘しています。他方、このような状況は、パキスタンの安定性に重大な影響を及ぼす可能性があり、最終的に、誰もが怖れるパキスタンの崩壊というシナリオが現実のものとなるかもしれないとビドル教授は警告しました。
続いて行われたパネル討論では、ヘン教授より、アフガニスタンに物理的なプレゼンスを維持しなくとも、米軍が「超水平線」能力(Over the horizon capabilities)を持つことによって、必要な場合にはいつでも介入を可能であるという構想の実効性について質問しました。この質問に対しビドル教授は、この構想が機能する可能性はあるものの、実際にこのような軍事能力の課題は、標的に確実に命中させられるかどうかであり、そのためには正確な情報が必要となるが、実際にアフガニスタンに地上のプレゼンスを持たないままに正確な情報を得ることは難しいのではないかと述べました。さらに、ビドル教授が指摘したのは、ワシントンの政策実務者のみならず国内の有権者の大勢がそうであるように、バイデン政権は、アフガニスタンを重要な問題とはとらえていないことです。特に、選挙の観点からみれば、米国民は米軍の撤退を選好しており、アフガン問題を重視すべきとの声は極めて少数です。このような中で、ビドル教授は、バイデン政権はアフガン問題を米国に対するテロの脅威という観点から見ているが、本当のリスクがパキスタンの安定とこの地域の地政学にあることを改めて認識する必要性があると強調しました。