『未来探究2050』× IFIセミナー「知の未来を探究する」第1回:美術史と環境倫理学から「人間らしさ」を問う

  • 日程:
    2021年09月14日(火)
  • 時間:
    10:00-11:30 am
  • 会場:
    ZOOMでのオンライン開催となります
  • 言語:

    日本語
    ※英語同時通訳あり

  • 定員:

    200名

  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター

  • 協力:

    日経BP社

  • 対象者:

    一般公開

  • 申込締切:

    2021年9月13日(月)正午まで
    ※ご登録完了後、9月13日(月)午後に事務局より招待URLをお送りします。
    定員に達し次第、受付を終了いたします。予めご了承ください。

定員に達したため申込みを締め切りました。
概要

科学技術が加速度的に進歩し、国際社会が激動する21世紀において、未来への関心はますます高まっています。情報通信技術やバイオテクノロジーの進展を目の当たりにし、2020年から始まった世界的な新型コロナウイルス禍で激動している国際社会を振り返ると、今までの経験や出来事から単純に未来を展望するのが不十分なのは明白でしょう。
未来に向かって確実に役割が増えると思われるのが知識です。現代社会は知識により新たな価値を作り出していく知識集約型社会の側面がますます強くなっており、未来社会を展望するには、これから産み出されていくであろう知識について熟慮する必要があります。しかも、多様な分野の研究者同士の協創と、社会のステークホルダーとの協創が重要になるのです。
本連続セミナーでは、2021年3月に東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)が出版した『未来探究2050―東大30人の知性が読み解く世界』(日経BP)をベースとして、異なるけれどシナジーが生まれそうな分野の講師とIFIの教員が分野横断型の議論を展開することで、複雑で重層的な未来について深く考える端緒を開きます。
第1回は、美術史と環境倫理学という一見するとかけ離れた分野の専門家を講師にお招きし、科学技術社会論の専門家が司会を務めることよって「美術史と環境倫理学から「人間らしさ」を問う」というテーマでの議論に挑みます。

プログラム
  • 10:00-10:05
    趣旨説明

    江間有沙 東京大学未来ビジョン研究センター准教授(科学技術社会論)

  • 10:05-10:25
    講演1 「らしさの輪郭:魚と人間の関係学」

    福永真弓 東京大学新領域創成科学研究科准教授(環境倫理学)

  • 10:25-10:45
    講演2 「人間にとっての美術」

    三浦篤 東京大学総合文化研究科教授(美術史)

  • 10:45-11:05
    パネルディスカッション
  • 11:05-11:25
    質疑応答
  • 11:25-11:30
    まとめ
講演者

福永真弓 東京大学新領域創成科学研究科准教授(環境倫理学)

1999年3月津田塾大学 学芸学部 国際関係学科卒業、2001年3月津田塾大学大学院 国際関係論専攻 修士課程修了。その後、2008年3月東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻 博士課程修了(博士:環境学)。立教大学社会学部の助教、大阪府立大学 21世紀科学研究機構エコサイエンス研究所の准教授、UCバークレー客員研究員などを経て2015年4月から現職。

三浦篤 東京大学総合文化研究科教授(美術史)

1957年島根県生まれ。1981年東京大学教養学部卒、1984年同大学大学院人文科学研究科美術史学修士課程修了。
1985年に渡仏し、パリ第4大学で西洋近代美術史を学ぶ。東京大学教養学部助教授、東京大学大学院総合文化研究科助教授などを経て2006年より現職。
パリ第4大学博士、フランス共和国芸術文化勲章シュヴァリエ。
主要著書に『近代芸術家の表象-マネ、ファンタン=ラトゥールと1860年代のフランス絵画』(2006年、サントリー学芸賞)、『エドゥアール・マネ 西洋美術史の革命』(2018年)、『移り棲む美術-ジャポニスム、コラン、日本近代洋画』(2021年)など。

司会

江間有沙 東京大学未来ビジョン研究センター准教授

2017年1月より国立研究開発法人理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員。専門は科学技術社会論(STS)。人工知能やロボットを含む情報技術と社会の関係について研究。主著は『AI社会の歩き方-人工知能とどう付き合うか』(化学同人 2019年)、『絵と図で分かるAIと社会』(技術評論社、2021年)。

問い合わせ

fe-seminar★ifi.u-tokyo.ac.jp(★→@に置き換えてください)

東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)は2021年3月に書籍『未来探究2050―東大30人の知性が読み解く世界』(日経BP)を出版しました。複雑で重層的な未来について深く考えるための手がかりをさらに得るために、本セミナーシリーズでは本書にも登場した専門家が分野の垣根を越えて議論を展開します。2021年9月14日に開催された第1回では、美術史の三浦篤・東京大学総合文化研究科教授と環境倫理学の福永真弓・東京大学新領域創成科学研究科准教授を迎え、「美術史と環境倫理学から「人間らしさ」を問う」というテーマで二人が講演した後、司会の科学技術社会論の江間有沙・IFI准教授を交えたパネルディスカッションを行いました。

「らしさの輪郭:魚と人間の関係学」 福永真弓・東京大学新領域創成科学研究科准教授
福永准教授は、他の生き物や地球全体にまで影響が及ぶようになった人間活動を捉えるために魚のサケを具体例に挙げて講演しました。近代化の過程で人間よりも大きく偉大な存在としての自然が意識されるようになり、自然を体現する野生という概念が出てきて、稀少な水質資源として「真正性」を持つ「野生のサケ」が保護されるようになりました。一方で、漁獲量を維持するために科学技術を活用した「人工孵化放流のサケ」が生まれ、高まる消費ニーズに応えるために美しく高品質な切り身になる規格化された「養殖のサケ」が量産されるようになり、さらには生き物としての形を経ずに切り身としてデザインされる「細胞農業のサケ」が登場しました。4つのサケのどれもが、気候変動対策や健康維持などの人間の特定の思考を体現するために作られていて、「サケらしさ」を問うことは背後にある「人間らしさ」を問うことになるとしました。

「人間にとっての美術」 三浦篤・東京大学総合文化研究科教授
続いて三浦教授は、人間にとっての美術について講演しました。先史時代の洞窟壁画などの画像を見ながら、こうした「作品」が言語の発明される以前からあったことから、言語による観念「イデア」に先行して視覚的な像「イコン」があり、生存に不可欠な獲物など、ヒトが根源的に極めて重要なものをイコン化・イメージ化する中で美術は生まれた、と推論しました。福永准教授の話を受けて、19世紀のスペインのフランシスコ・デ・ゴヤの「三つの鮭の切り身」や、日本の高橋由一の「鮭」など、魚が描かれた作品を複数挙げ、また、日本近代画家の黒田清輝の作品などと合わせて「移り棲む美術」という異文化間の影響を作品の中で追う自身の関心テーマにも触れながら、それぞれの美術作品は各時代や地域の作家の感覚や価値観を視覚化したもので、自然と共生しながらイメージが生み出されてきた側面もあることを紹介しました。

パネルディスカッション
2つの講演を踏まえて、江間准教授がまず、美を追求していくことが倫理的問題につながる可能性について言及しました。福永准教授は切り身の美しさを追求した結果、泳ぐのに適さないほど筋肉質でデコボコしたフォルムになったニジマスの例を挙げ、三浦教授は「サケらしさ」を作ることや自然をデザインするという表現自体に人間の傲慢さが垣間見えると指摘しつつ、人間らしい欲望をどう自然と折り合いをつけるかが難しいが考えていかなければならない、としました。また、それぞれの時代のアーティストが敏感に感じ取った社会や個人の問題の作品化して見せるという美術のポジティブな面が担う役割にも触れました。
他の参加者からの質問に答える中で、福永准教授は民間の自然保護が進んでいる現状と、全ての生物を平等に守ることはできないという現実に対して、人間の選択が生態系に与える長期的な影響についても考えていかなければならないとしました。
ディスカッションを通して、福永准教授も三浦教授も実は人間は色々なことが見えていないということを指摘し、福永准教授は身近な食について考えることを通じて得られる気付きがもたらす可能性、三浦教授はイメージをじっくり見て考える習慣を身につけることの重要性を強調し、それぞれ意識的に見るための具体的な手立てを勧めました。江間准教授は、本セミナーのような異分野の交流によって見えてくることもあるとし、「人間らしさ」や美意識、倫理を引き続き考えていく契機にしたいとして、締めくくりました。

第1回『未来探究2050』×IFIセミナー(前半)

第1回『未来探究2050』×IFIセミナー(後半)