コンゴの平和構築プロセスにおける市民社会のリーダーシップ

  • 日程:
    2021年10月09日(土)
  • 時間:
    18:00-20:00
  • 会場:
    ZOOMでのオンライン開催となります
  • 言語:

    日本語・フランス語(通訳あり)

  • 主催:

    NPO法人RITA-Congo

  • 共催:

    東京大学未来ビジョン研究センターSDGs協創研究ユニット
    三菱財団助成研究「コンゴの紛争資源問題と性暴力に対する先進国の責任」

  • 参加登録:

    *参加登録締め切り:10月07日(木)23時59分

  • お問合せ先

    NPO法人RITA-Congo事務局 office★rita-congo.org (★→@)

概要

紛争影響地域において平和構築を実現するためには、抑圧と暴力によって築き上げられた紛争主体間の利害構造を解体し、市民の生命と人権が守られる社会へと転換することが必要です。しかしながら、国連を中心とする国際社会が実施する平和構築策はときに、紛争主体間の利害構造を維持したまま「非武装化」のみを目指し、脆弱な土台の上に平和と安全を築こうとすることによって、社会の中に支配的な権力構造と暴力を残存させています。武装勢力が紛争に勝利して政権を奪取したり、不正選挙によって民主主義が損なわれたりするなかで、それでもなお正義、平和、繁栄をめざす国づくりへと転換するためには、市民の生命と人権の尊重を第一義におく市民社会のリーダーシップを平和構築の中核に据える必要があります。しかし、長年の直接的暴力と構造的暴力にさらされてきた紛争影響地域において、市民社会が主体性を持ち、平和構築の中核を担うことは容易ではありません。
本セミナーでは、アフリカの紛争影響地域における市民社会のリーダーシップの貴重な事例として、2018年にノーベル平和賞を受賞したコンゴ民主共和国のデニ・ムクウェゲ医師の活動とその広がりを取り上げます。中央政府が抑圧と暴力による支配に拘泥し続ける紛争影響国において、市民の生命と人権の尊重を第一義におく市民社会のリーダーシップが、平和構築の実現に向けて果たす役割を検討します。

プログラム

開会あいさつ:華井和代(東京大学講師)
基調講演:アルフォンス・マインド(コンゴ・キサンガニ大学教授)
コメント:ジャン-クロード・マスワナ(立命館大学教授)
司会:鈴木千花(立命館アジア太平洋大学学生/RITA-Congoユース)

開会あいさつ:華井和代 東京大学未来ビジョン研究センター講師/NPO法人RITA-Congo共同代表

はじめに、研究代表者の華井がセミナーの趣旨とコンゴ紛争の概要を説明した。コンゴ東部では複数の武装勢力と国軍部隊、さらに外国の反政府武装勢力が混在して紛争が続いており、違法な鉱物採掘・取引が紛争の資金源となっている。2000年代から世界最大規模の国連PKO(MONUSCO)が派遣され、治安部門改革支援などを行っているが、平和構築は実現していない。武装解除した武装勢力兵士を国軍に統合する仕組みが、不処罰や離反の原因になっている。エボラ出血熱対応の際に国連職員が現地女性に性的虐待を行った問題にも触れ、コンゴ国民が守られていない実態があることを説明した。

基調講演:アルフォンス・マインド コンゴ・キサンガニ大学教授

マインド教授は、コンゴが抱える複雑な問題を説明した。長引く紛争と不安定な政治、不十分なインフラなどの問題が絡み合い、慢性的な暴力と貧困で国民は疲弊している。本来コンゴは広大な土地と人口を抱え、農作物や鉱物などの資源が豊富で、輝かしい未来が約束されていた。しかし実際は、400万人以上のコンゴ人が難民あるいは国内避難としての生活を余儀なくされている。国として崩壊の可能性が危ぶまれる中、「いつまで、どれだけの人が苦しめばいいのか」という悲痛の訴えとともに、コンゴへの適切な支援が行われていないことを主張した。(コンゴでの深刻な人道法違反を記録し、正義の実現を推奨した)国連マッピングレポートは10年以上経った今でも実行に移されず、幾度にもわたって行われた国際会議や人道介入も成果を出していない。
続いてマインド教授は、講演の主題である「平和のための市民社会のリーダーシップ」の理念として、哲学者や先人の言葉を紹介し、平和とは何か、またどのような、どういった形でのリーダーシップがコンゴを永続的な平和に導いていくために必要かを語った。現在は、海外の支援に頼って市民社会のリーダーシップが欠けており、コンゴの問題を放置する状況を生み出している。尊重、信頼、称賛され、使命を抱く人をリーダーが率いる市民社会こそが、市民の求める国を構築できる。市民社会の役割は、平和の再建、社会組織の再構築、基本的インフラの復興、政治家への情報提供やトレーニング、さらに国民に生きる喜びを与えることである。市民社会はレジリエンスを得ることで行動に移すことが出来る。国際社会はコンゴ国民に対して物理的支援だけでなく、精神的支援も行うべきである。市民社会がリードする中で、法律を、人権を守るものにし、平和の文化を家族、学校、教会などの社会を通して学べる環境を作ることで、持続的な平和を求めることが出来る、と訴えた。

コメント:南博之 駐コンゴ民主共和国日本大使

南大使はコンゴの現状について4つの観点から話された。
1つ目はチセケディ大統領が行った改革について、2つ目はその改革の評価についてである。2020年12月に前カビラ大統領に近い政党を切り離して連立政権を解体した改革は、現在のところ順調である。しかし、コンゴは国土が広大で人口も多く、まとめるのが難しいため、様々な点において統一が必要である。例えばコンゴ活動するNGOの数があまりにも多く、議員が政治活動に利用している側面も見られる。団体の規模が小さいものはある程度まとまり、協力して活動した方が効果的である。また援助国が資源を取り合い、統一的な支援が出来ていない。さらに現在の組閣の仕組みでは各州から大臣を出す必要があり、時間がかかる上まとまりがない。支援や政治など様々な場面においてまとまりがないため、改革が政治的にはうまくいっていても、市民社会に裨益されていない現状がある。
3つ目はMONUSCOの縮小計画について。既に撤退計画は進んでおり、残るは4州のみである。MONUSCOに支えられている人もいるため、慎重に撤退をすべきである。
最後に、市民社会のリーダーシップについて。市民社会の強化は必要だが、それだけでは不十分で、政府がリーダー達を支えていくべきである。活動している人が命を狙われることもあるため、政府は、国のアンバサダーとなる大事な国のリーダー達を守らなければならない。政府が敵対してしまうと国が破綻してしまう。リーダー達を大切にしていくことで、人権や市民社会を大切にしていることを国際社会に示すことも出来ると語った。

コメント:ジャン-クロード・マスワナ 立命館大学教授

以前は、コンゴにも活発な市民社会が存在した。コンゴの国の基盤は、1885年のベルリン会議でベルギー国王レオポルド2世の私的所有地になったところから始まる。特徴的だったのは、国づくりの初期から教会の存在があったことである。教会が国を支えていた。1960年の独立後、モブツの独裁が強くなっても教会を中心に抗議の動きが生まれ、市民社会の様なグループが出来ていった。その流れの中で国民の要請により議会も作られた。これは貴重な体験でとても良い動きであったが、東部がルワンダやブルンジに侵略されたことからその動きは止まり、様々な主体の思惑により現在の紛争へと繋がってしまった。現在、コンゴ国内ではMONUSCOが活動しているが、彼らの使命は達成されておらず、撤退の計画が進んでいる。既に国は崩壊に向かっており、緊急性が高い。そのためにも、かつては存在した市民社会の力をもう一度取り戻さなければならない。国際社会は様々な努力を行っておりそれ自体には感謝すべきだが、ドナー国の一部は、市民社会を助ける、平和をもたらすといったポジティブな役割を果たしていない。みんなが世界の市民・アクターとして誇りに思うことが出来ることを望む、と締めくくった。

質疑応答
マインド教授への質問
Q. ムクウェゲ医師以外にコンゴでリーダーシップを発揮している人はいるか。
A. アボンゴ枢機卿、コンゴキリスト教会(ECC)の牧師、在外の思想家などが活動している。

Q. 平和構築の中で市民が良い生活を送るために、資源はどのような役割を果たせるか。
A. コンゴの資源は平和への障害になってしまっている。資源の豊富な地域は、インフラや安全保障を構築するためにうまく活用しなければならない。

Q. 国家資産である資源の恩恵を国民自身が受けるには、そして資源を多国籍企業から守るにはどうすればいいのか。
A.鉱物認証システムのように、多国籍企業が鉱物を購入する際に透明性をもって公表することで、市民が実態を把握することが出来る仕組みが必要。企業が社会的責任を果たし、どのような目的で資源を採掘しているのか透明性をもって説明し、市民社会が恩恵を受けることが出来る仕組みの整備につなげることが必要。

Q. ネオリオリベラルの観点におけるコンゴの展望は。
A.コンゴの状況を変えるためには、市民社会が第一線で活躍できる社会が作られなければならない。教育を普及させ、選挙に市民社会のリーダー達が参加することで、透明性のある自由な選挙ができ、信頼性のあるリーダーが選ばれる。そうすれば、任期5年の間に国民が求めている変革が行われるだろう。

Q. 人権・治安が脅かされている中で、市民社会のリーダーには直接的な暴力が及ぶ恐れがある。外部者はどのように市民社会のリーダーシップを強化させることが出来るか。
A. 人権侵害は不処罰からきている。司法が機能していないため、裁判所が必要である。また、直接的・間接的に人権侵害に関わっている人たちを対象として制裁を課すべきである。人権が守られているかを市民が監視する。さらにアラートの制度を作り、人権侵害が見つかったら指摘していく。こうすることで透明な選挙を行うこと、また不処罰を防ぐことが出来る。人権を守るために国の制度を作り直すことが必要であり、そこに市民社会を連帯させることが大切である。

南大使への質問
Q. 日本はコンゴにどういった支援ができるか
A. 草の根支援という仕組みが日本政府にある。金額は限られているがきめ細やかな支援が出来る。しかし日本だけだと限界があるため、ドナー国間での協力が必要である。

Q. 日本の市民に対するメッセージ
A.かつてのように投資環境を整えて日本企業にコンゴに戻ってきてほしい。コンゴ国内で操業できなくても現地企業に投資して、日本から支援することもできる。コンゴ国民に経済的なマインドを持たせることが可能となり、結果的にそれが支援につながる。

華井への質問
Q. 紛争鉱物に関する各国の意識改革のために必要な事とは。また資源の密輸に対して現在どのような対応がされているのか。
A. 2010年以降は、OECDのガイドラインに沿って鉱物の取引がされている。さらに2021年1月からEUの紛争鉱物取引規制が実施されている。企業はこの問題に熱心に取り組んでいるが、それによってコンゴ東部での紛争鉱物の違法取引が完全に無くなる訳ではないため、引き続き取り組みを続ける必要がある。

参加者の感想
参加者からは、「現地の方から直接コンゴの現状について聞けたことや、色々な立場の人からお話を聞けたのがよかった」という感想が多く、「構造的な課題の解決は、特に難しいと感じるので、継続的にこのような機会を頂けるとありがたい」という要望の声もあった。また、南大使のお話を受け、「現実的にどう支援していくべきかということへの理解が深まった」という言葉も寄せられた。他には、「教授お二人のお話は、現状の大変さと経緯はある程度分かったが、コンゴの今後~将来に向けての話となると『…であるべき、…が必要』に止まり、具体策はなかなか出て来なかった感じがする。それ程、根の深い大変な状況ということでしょうが。」というご意見もいただいた。
本セミナーは、コンゴの平和構築における市民社会の役割について参加者にも深く考えてもらう機会になったのではないかと、アンケート結果から窺うことができた。

上段 左:マインド教授 右:南大使
下段 左:マスワナ教授 右:華井講師