『未来探究2050』× IFIセミナー「知の未来を探究する」第2回:人がくらす地球の未来

  • 日程:
    2021年11月19日(金)
  • 時間:
    10:30-12:00 am
  • 会場:
    ZOOMでのオンライン開催となります
  • 言語:

    日本語
    ※英語同時通訳あり

  • 定員:

    200名

  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター

  • 協力:

    日経BP社

  • 対象者:

    一般公開

  • 申込締切:

    2021年11月18日(木)正午まで
    ※ご登録完了後、11月18日(木)午後に事務局より招待URLをお送りします。定員に達し次第、受付を終了いたします。予めご了承ください。

定員に達したため申込みを締め切りました。
概要

科学技術が加速度的に進歩し、国際社会が激動する21世紀において、未来への関心はますます高まっています。情報通信技術やバイオテクノロジーの進展を目の当たりにし、2020年から始まった世界的な新型コロナウイルス禍で激動している国際社会を振り返ると、今までの経験や出来事から単純に未来を展望するのが不十分なのは明白でしょう。

未来に向かって確実に役割が増えると思われるのが知識です。現代社会は知識により新たな価値を作り出していく知識集約型社会の側面がますます強くなっており、未来社会を展望するには、これから産み出されていくであろう知識について熟慮する必要があります。しかも、多様な分野の研究者同士の協創と、社会のステークホルダーとの協創が重要になるのです。

3回連続で開催する本セミナーでは、2021年3月に東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)が出版した『未来探究2050―東大30人の知性が読み解く世界』(日経BP)をベースとして、異なるけれどシナジーが生まれそうな分野の講師とIFIの教員が分野横断型の議論を展開することで、複雑で重層的な未来について深く考える端緒を開きます。

第2回は、気象学と化学システム工学の専門家を講師にお招きし、科学イノベーション学の専門家が司会を務めて 「人がくらす地球の未来」 というテーマでの議論に挑みます。

プログラム
  • 10:30-10:35
    趣旨説明

    梶川裕矢 東京大学未来ビジョン研究センター教授(イノベーション科学)

  • 10:35-10:55
    講演1 「地球温暖化と降水 ー衛星観測から見えてくることー」

    高薮縁 東京大学大気海洋研究所教授・副所長(気象学)

  • 10:55-11:15
    講演2 「持続的な植物資源生産のための化学産業の役割」

    菊池康紀 東京大学未来ビジョン研究センター准教授(化学システム工学)

  • 11:15-11:35
    パネルディスカッション
  • 11:35-11:55
    質疑応答
  • 11:55-12:00
    まとめ
講演者

高薮 縁 東京大学大気海洋研究所教授・副所長(気象学)

1983年東京大学理学部地球物理学科卒業、1985年東京大学理学系研究科地球物理学科修士課程修了。凸版印刷株式会社勤務を経て1987年より国立公害研究所(現 国立環境研究所)研究員。1993年東京大学理学系研究科博士号取得。論文題目 「熱帯太平洋における積雲対流の組織化」 。2000年東京大学気候システム研究センター(現 大気海洋研究所)助教授、2007年同研究センター(現 大気海洋研究所)教授、2019年より大気海洋研究所副所長。1998年日本気象学会賞、2007年猿橋賞を受賞。2021年米国気象学会フェロー。

菊池 康紀 東京大学未来ビジョン研究センター准教授(化学システム工学)

2009年に東京大学工学系研究科化学システム工学専攻博士課程修了 博士(工学)、2019年4月より、現職、東京大学未来ビジョン研究センター・准教授。学内にて工学系研究科化学システム工学専攻、 「プラチナ社会」 総括寄付講座(代表) を兼務。専門は、プロセスシステム工学、エネルギー工学、ライフサイクル工学。日本LCA学会および化学工学会研究奨励賞、World Cultural Council: Special Recognitionsなどを受賞。近年は、最先端技術を社会に実装するために必要となる産学公民の連携に向けた、技術システムの設計・評価を研究。

司会

梶川裕矢 東京大学未来ビジョン研究センター教授(イノベーション科学)

2017年より東京工業大学環境・社会理工学院教授。研究テーマは知識の構造化、システム設計、行動の構造化の方法論の研究、サステイナビリティ学の知識の体系化、イノベーション学の知識の体系化、環境・エネルギー、情報・IoT、健康医療情報等の分野における実践的研究。

問い合わせ

fe-seminar★ifi.u-tokyo.ac.jp(★→@に置き換えてください)

東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)は2021年3月に書籍『未来探究2050―東大30人の知性が読み解く世界』(日経BP)を出版しました。本書に依拠しつつ、複雑で重層的な未来についてさらに深く考えるための手がかりを得るために、本セミナーシリーズでは、本書にも登場した専門家を交え、分野の垣根を越えて議論を展開します。2021年11月19日に開催された第2回では、気象学の高薮縁・東京大学大気海洋研究所教授・副所長と、化学システム工学の菊池康紀・IFI准教授を迎え、「人がくらす地球の未来」というテーマで二人が講演し、司会のイノベーション科学の梶川裕矢・IFI教授を交えたパネルディスカッションを行いました。

 

「地球温暖化と降水––衛星観測から見えてくること––」高薮縁・東京大学大気海洋研究所教授

高薮教授は、この約100年の間に生じてきた大雨の増加と地球温暖化の関係について、人工衛星に搭載されている降雨レーダのデータを具体的に示しながら、そのメカニズムについて講演しました。これまで豪雨は、不安定な大気の下で起こる高い対流からもたらされているとされていましたが、2001年から2012年までの8500万個以上の雨域の雲の中を降雨レーダで立体的に観測した結果から、高い位置での対流と強い雨とが必ずしも関連していないことが分かりました。実際、九州地域を襲った2017年の豪雨と2018年の豪雨とでは、それぞれ、不安定な積乱雲からの激しい雷を伴う狭い範囲・短時間の豪雨、安定的だが湿った大気への上昇流の寒気の流入による広範囲・長時間の豪雨というように、異なるメカニズムの雨でした。各地で増えている豪雨災害に備えるためにも、気候変動と豪雨の関係をより深く理解し、豪雨発生のメカニズムを解明することが重要だと指摘しました。

 

「持続的な植物資源生産のための化学産業の役割」菊池康紀・東京大学未来ビジョン研究センター准教授

続いて菊池准教授は、農林業と地域の持続可能性、気候変動と地球の持続可能性という2つの持続可能性を両立させるために必要となる化学産業の役割にについて講演しました。例えばサトウキビの利用を考えた場合、砂糖とバイオエネルギーの両方の原料になりますが、エネルギー利用向けに搾りかすであるバガス分となる繊維率が高くなると砂糖の原料となるショ糖を回収しにくくなるなど、両方の収量を増やすための品種改良には課題があります。これに対し、農業側の開発に限らず、新たな酵母や選択的発酵プロセスの開発、農業残渣の変換プロセスや用途開発を行うこと、生産者である農林業にも目を向けてバイオマスを作るメリットがある仕組みを構築し価値を生産者に還元していくことで、両方の持続可能性を達成可能であることを示しました。現在は枯渇資源の石油から様々な化学物質を作っている化学産業ですが、再生可能な植物資源からの生産への移行または活用していくことは、化学産業の持続可能性のみならず、地域や地球の持続可能性の観点からも意義が大きく、貢献できる余地が大きいことを指摘しました。

 

パネルディスカッション

2つの講演を受けて、梶川教授がまず豪雨予測の可能性について、高薮教授に質問しました。高薮教授は現在の気候モデルは約100km四方の格子の範囲をひとまとまりとして捉えていて、豪雨のような幅数kmと格子よりも小さく地域が限定される現象をどのようにモデルに組み込むか、まだ定まった方法がない現状を説明しました。観測からの知見を活用して気候モデルを改善し、豪雨が発生する可能性がある範囲を予測していくことで、これまであまり豪雨に見舞われてこなかった地域でも起こりうる将来変化に備えて防災につなげていくることが重要と指摘しました。

菊池准教授には、グローバルに「カーボンニュートラル」な循環型社会を目指す動きがある中で、ローカルな視点はどのようにあるべきか、梶川教授が意見を求めました。ゼロカーボンのようなグローバルな目標達成へ貢献するだけでは、地域は発展できないのではないか、人口減少や地域の持続可能性など地域が直面しているより重要な課題があるのではないかということを指摘しました。菊池准教授は、地域のビジョンはグローバルなビジョンをそのまま採用するだけではなく、地域自らが創りだすものである。その将来ビジョンを実現するために、必要あればグローバルな手を借りればよいということを回答しました。

気候変動による様々な変化が起きうる中で、高薮教授も菊池准教授も不確実性を減らすこと、予測できる変化の幅を伝えていくことの重要性を強調しました。変化に対応しながら、自然の恵をこれからも享受できる世界を未来に残すために、若い世代の人たちと一緒に考えていきたい、と高薮教授は締め括りました。

第2回『未来探究2050』×IFIセミナー(前半)

第2回『未来探究2050』×IFIセミナー(後半)