SSUフォーラム”先端技術開発をめぐる米中競争の現状と今後の展開:政府主導のアプローチの功罪”
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日程:2021年12月09日(木)
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時間:10:00-11:10
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会場:Webexによるオンラインセミナー
ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします -
言語:
英語 (日本語による同時通訳あり)
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主催:
東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット
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近年、先端技術開発をめぐる米国と中国の競争は激しさを増している。その中で、中国の軍民融合政策の行方がされている。一方、米国では、今年1月に発足したバイデン新政権下は、トランプ前政権の政策を一部修正しつつも対中デカップリング政策を継続している。
今回のセミナーでは、中国政府の軍民融合政策の実像に迫るとともに、米国政府はそれをどのようにとらえて対応してきたのか、また、そもそもそのような政府主導のアプローチにはどのような功罪があるのか等について、日米の著名な研究者が多角的視点から議論する。
開会挨拶: 藤原帰一 (東京大学法学部教授)
基調報告 1: Jacqueline Deal (The Long Term Strategy Group, President and CEO)
基調報告 2: 林載桓 (青山学院大学国際政治経済学部教授)
ディスカッサント: 森聡 (法政大学法学部教授)
ディスカッサント、モデレーター: 佐橋亮 (東京大学東洋文化研究所准教授)
12月9日午前、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)は、ロング・ターム・ストラテジー・グループのジャクリーン・ディール最高経営責任者(CEO)(Dr. Jacqueline Deal, The Long Term Strategy Group)、 林載桓 青山学院大学国際政治経済学部教授、および森 聡 法政大学法学部教授をお招きし、公開ウェビナーを開催しました。モデレーターは、佐橋 亮 東京大学東洋文化研究所准教授が務めました。なお本シンポジウムは、外務省補助金事業「米中競争による先端技術分野の安全保障化の背景とグローバル経済への影響」の一環として開催されたものです。今回のシンポジウムの概要は以下のとおりです。
1.基調報告
冒頭、ジャクリーン・ディールCEOおよび林載桓 教授より、中国の「軍民融合」政策をどのようにみるべきかについて基調報告が行われました。その概要は以下のとおりです。
基調報告1:ジャクリーン・ディールCEO(ロング・ターム・ストラテジー・グループ)
中国の「軍民融合」の考え方は、米国や日本にはない特異なものである。中国がいう「軍民融合」とは、一党支配体制により長年中国を支配してきた中国共産党が、自国の経済、社会、軍事、産業をどのように管理するか、そしてどのようにして自国の富と軍事力を高めていくか、さらに各セクターを相互に強化し合うようにするにはどうすればよいかという発想である。このような発想は米国にも日本にもない。つまり現在の状況は、日米と中国との間には、異なる国家統治の考え方が競合している状態である。中国共産党の視点から、軍民融合やその背景にある各セクター間の動的な関係を理解することは、日米両国が協力して中国に対応するうえで重要である。競合関係を考えるうえで重要なことは、同盟関係にある日米が、中国の体制との違いを踏まえて、従来の同盟の枠を超えた協力の在り方を具体化することである。
異なる体制間の競合という視点からみれば、中国は国際社会に対して新たな選択肢を示そうとしている。つまり中国は、国を富ませ国力を増進させるためには、西側諸国とは異なる優れた新たな選択肢があると主張したいのである。ここには従来にはない競合関係がみられる。競合と代替といえば、それぞれに強みを持った2つのシステムがあるかのようにと思われている。しかし、実際にはそうではない。2つのシステムの間には非対称な関係がみられる。中国は、たとえ自国が世界の工場になることを達成できても、独自のイノベーションを産みだすことができなければ将来的には立ち行かない。西側先進諸国の最先端技術が中国に遮断されてしまえば、中国は世界の工場の機能も果たすことはできない。
今年、中国科学院に招集された政策当事者間の議論を踏まえて中国共産党が作成した中長期的な科学技術政策が発表された。そこでは自給体制や自国独自の技術革新を育てていく方針が示されており、その実現目標期限として20年程度と設定している。それまでの間、自国が不足している部分をどのように戦略的に補完していくか、また当面は世界の工場としてどのように富を蓄積していくかについて示されている。我々西側先進国には基本的にそのような考え方はない。西側先進国には、国の富を蓄積させるために中長期の計画をつくるよりも、国家はイノベーティブな環境を提供し、民間企業が各々成長することで国の富を蓄積させてきた。少なくとも、科学技術や産業の計画を作るという手法は、西側先進国では平時の状態でとられることはない。習近平政権が掲げている目標では、自国発のイノベーションが、あるいは中国が体現する資本主義経済に代わる新たなモデルが優れていることを世界に示そうとしている。しかし中国は、半導体などの分野では、西側先進国が持っている技術に依存せざるをえないし、自国独自のイノベーションの創出はまだ難しい状況である。
現在の競合関係には非対称性があり、そこを中国が利用していることを強調しておきたい。中国はもっと競争力を高めようとしているが、現時点で中国の技術はそれほど価値が高いわけではない。中国の軍民融合政策には、工業情報化部や革新委員会、軍民委員会、またさらに軍と産業の間にまたがる科学技術育成に関係する大小さまざまな組織が関わっている。軍民融合や技術開発セクション、あるいは学界や軍事関連の技術を1つの領域に集中させようとしている。その中で、他国の最高学府で教育を受けた人材も集められている。このような人材は、外国の研究機関にもアクセスできるのであり、中国共産党はその点を活用しようとしている。他方、同時に、中国共産党は、外部からの自国の標準やデータへのアクセスをコントロールしている。このような管理が中国へのインプットに対して重要な役割を果たしている。その中で、中国の人材の努力の結果、中国が独自のイノベーションを産み出すことを可能にしようとしている。豪州で行われた中国の人材育成プログラムには、日本の元首相が参加し、また日本のベンチャーや大手の企業が資金提供をしていたようである。つまり、ケミカルフィルムなどの最先端技術開発において、一部の日本企業は、中国からの研究成果というインプットを得ようとしている。このような中で、日米には、ミサイルなどの軍事的な面に留まらない協力が必要となっている。
習近平氏は年齢の問題もあって、自分の政権中に何かを成し遂げようと焦っているようにみえる。今年7月に中国共産党設立100周年を迎え、中国は重要な記念となる一年を迎えている。変わりゆく技術の中で、一刻も早く自国の優位性を確立しようとして焦っている。他国に対して、自国の新たな国力を尊重しろと言えば、抵抗が発生するのは当然である。それが悪循環にもなる。中国のビジョンを踏まえて、西側諸国が自分たちの技術を守ろうとすれば、中国はさらに焦り、それが他国にも影響を与えることになる。
結論として、改めて次の点を強調しておきたい。今、日米両国には、今まで以上に協力が必要な時期を迎えている。その協力関係は、従来の軍事による抑止力の維持、あるいはこの地域の不安定化につながるものを抑止していくという発想に留まらず、中国の野心的な政策に対抗していくという点でも重要である。中国は、外国が中国市場にアクセスしたいと思っていることを前提として、それを利用しようとしている。逆に、世界の市場に中国製品を広める機会ともとらえている。資本主義は社会主義よりも劣っていることを示そうとしている。日米には今まで協力してこなかった分野でも協力が必要であることは明らかである。
基調報告2: 林載桓 教授(青山学院大学)
政府主導の最先端技術競争に関して次の4つの問いを設定してそれぞれ回答していく。第1に、米中技術開発競争の本質とは何か。第2に、中国の国家資本主義はよりイノベーティブな形で資源を動員することと定義されているが、実際にそれがどのように進化してきたのか。第3に、現在、中国政府が推進している軍民融合政策とは、具体的にどのようなものか。第4に、今後の中国の軍民融合政策について、どのように計画が作成されており、実際にどの程度実践に移されているのか。以上の4点の問いについて回答していく。
第1に、米中技術競争の本質とは何か。技術をめぐる米中間の競争は、いまや異なる体制あるいはシステム間の競争の性格を帯びるようになってきた。米国も自立的なエコシステムを打ち立てなければならない。国家と市場の関係性の構築について、国家をどのように位置づけるのか。国家がどのように市場と接し、また得られた富をどのように再分配していくのかが重要になる。
第2に、中国の国家資本主義はどのように進化してきたのか。それは、リソースの動員の在り方が変化してきた点にみられる。1980年代は中国政府のインセンティブが中心であった。個々の企業の経済成長が認められ、つまり民間企業への制約が解かれた。この部分が中国の経済成長において不可欠な要素であった。2000年代に入ると、新たに国家セクターの重要性が認識された。国営企業が主たる役割を果たすことで発展を実現するということであり、「中国株式会社(China Inc.)」が機能するということである。中国共産党が目立った形で経済・通商分野の組織化を進めた。つまり、官民協働によるハイブリッドな資本主義である。国家が民間企業を保有するだけではなく、投資家としての役割を果たして民間企業に投資を行う。そのようにして経済をマネジメントしていく。このような中国における国家資本主義の確立の過程について、さらに検証が必要であり議論する価値はある。
第3に、中国政府が推進する軍民融合政策とは具体的にどのようなものか。中国の国家資本主義は野心的で新しい形の資本主義であり、ハイテク産業の能力を高めることに主眼がおかれている。そのうえで、軍民融合政策では、軍部は必ずしもメイン・アクターではない。軍事部門と民間部門の間で、技術・資本・知識・人材といった様々なリソースの流れを加速させ融合を進めていく。そして既存の軍事と民間との融合を新しいレベルに進化させるということがねらいである。つまり、中国の軍民融合政策は、野心的で新しいタイプの産業政策とみるべきである。その中で、中国政府の目標は、ハイテク産業および戦略産業のイノベーション能力を高めることにある。
第4に、今後の中国の軍民融合政策について。すでに述べたように、これは野心的な産業政策である。他方、野心があるからと言って、必ずしも計画どおりすべてが実践されるわけではない。実際にどの程度まで実現されているのかを検証する必要がある。2つの政策実施領域がある。ひとつは国防産業である。ここでは、前政権から習近平政権への継続性が見られる。もうひとつは、各セクター内の閉鎖的で独占的な構造を打破していくことである。特に国防のコングロマリットを打破する必要がある。これはセクター間の障壁を取り除き、リソースの流れを加速させるためには不可欠な要素である。しかし、現時点であまり進展は見られていない。軍民融合における主要セクターのひとつとして国防産業を高度化することは以前の政権から受け継がれたが、さらにそれを高度化しようとしている。地方での産業化の促進策として、新しい金融スキームを活用して地方自治体に民間資金を活用するインセンティブを与えようとしている。これは注目を集めてきた政策であり、現在、具体的に進められようとしている。しかしながら、地方自治体側は懐疑的にみており、おそらく共産党や国有企業が中心となってマネージすることになるだろう。
結論として、現在の軍民融合政策の実施状況を踏まえると、中国が自らイノベーションを高めるべく能力を強化しようとしている。新たな調整も行われている。しかし、この取組みには高いコストがかかるだろう。国防産業側には、抵抗というよりもそもそも自律的な姿勢があり、外部から制限をかけるべきではないかという考えもある。長期的なイノベーションを構築するには、国家全体でのイノベーティブなシステムを構築する必要がある。成功するか否かは、中国自身がシステムを構築できるのか、さまざまな側面からみる必要がある。
2.パネル討論・質疑応答
以上のジャクリーン・ディールCEOおよび林載桓 教授の基調報告を受けて、ディスカッサントとして森聡教授と佐橋亮准教授が発言を行ったうえで、パネル間で議論が行われました。その際のやりとりの概要は以下のとおりです。
ディスカッサント1:森 聡 教授(法政大学)
ディールCEOに次の2点を質問させていただきたい。第1に、中国が外国製の先端技術への依存から脱却しようとする試みの成否についてどうご覧になられているのか。現在、中国は依然として外国に先端技術を依存している実態があるにもかかわらず、南シナ海、香港や新疆ウイグル問題などで諸外国から反発を受けており、外国製の先端技術への中国のアクセスは狭まるばかりである。今後、中国は国産の先端技術の開発をどんどん成功させていくのではないかとの見方もあり、それは一定程度妥当であろうが、西側諸国からの反発が激しくなるなかで、あらゆる先端技術について独自のブレークスルーを果たしていくことは本当に可能なのか、あるいは、中国がやがて外国製技術からの決定的な自立が困難だという判断に至り、対外行動を穏健化させていく可能性はあるのだろうか。第2として、日米はどのように協力できるとお考えか。中国の軍民融合に関わっている企業は限られているが、これから状況は変わるだろう。今後、軍民融合に参加する中国の民間企業が増えていくとみられるが、そうなれば、どの企業またはどの組織が軍民融合に関わっているかを判別し、それに応じて日米の企業や研究機関が中国側のカウンターパートとの協力の態様を変えるといったアプローチをとることが難しくなるのではないかと思う。だとすれば、中国側の主体ごとに協力の可否を判断するのではなく、分野ごとに協力の可否を判断するといった踏み込んだ措置が必要になりそうな気もするが、こうした中国との科学技術分野における協力のあり方をめぐって日米間で歩調を揃えていくことについてどうお考えか。
林教授に次の点について質問させていただきたい。中国の軍民融合は今に始まった取り組みではなく、旧くは鄧小平の時代にまでさかのぼれる。かつては軍民統合といわれ、現在の軍民融合は、こうした取り組みを再活性化させるべく、中国が本腰を入れ始めたとみる向きもある。このようにみれば、中国の野心もさることながら、これまでの進展の不十分さに対する不満や懸念から軍民融合という名の下で改めて力を入れているという見方もできる。つまり、軍民間の障壁が取り除けないから軍民融合が必要だという発想である。そもそも何が軍民融合の障壁になっているのか、国家主導アプローチの中でなぜ進展が遅いのか。習近平氏が直々に指揮を執っているのに目立った進展がないのはなぜか。逆に、進展を果たすとすれば、どのような条件が必要なのだろうか。結局はリーダーの権限の強さなのか、あるいは官僚組織の政治力学なのか、それとも中国の安全保障環境の厳しさが重要なのか。
ディスカッサント2:佐橋亮 准教授(東京大学)
ディールCEOに次の点をご質問したい。学術界のエコシステムを守るために必要なことは何か。学術界からは、政府に対して学術研究に対する規制が過剰であり、差別が発生しているという批判がある。その一方で、エコシステムを守る最適な方法とは何か。国家間の協力枠組みとしては、EU、G7、OECD、日米同盟などいろいろある。国家間の枠組みの役割とは何か。第4次産業革命の中で、これらをどう活用していけばよいのか。
林教授に次の点をご質問したい。なぜ習近平政権は軍民融合を実現できないのか。つまり、実効性のある軍民融合を構築する鍵とは何か。どれくらいの時間が必要なのか。習近平政権下で可能となるのか。あるいは次期政権になるか。
ジャクリーン・ディールCEO(ロング・ターム・ストラテジー・グループ)
軍民融合政策の成否について、国際関係論や政治学の知見から言えば、バランスが重要であるということなのだろう。競合関係にある中で、一方の国が攻撃的になれば、それをもう一方の国は脅威と認識して、他国と協力して対抗しようとする。攻めてくる国に対しては現状を維持しようとする。攻撃をかけ過ぎれば、それに対する反動が生じる。中国がどの程度まで成功するか、自国の国際的な義務や現状をどう変えようとするか。現在の問題は、協調した対抗勢力がまとまる前に、すでに中国が現状を変えようとしていることである。
現時点で、必ずしもバランスをとろうとする力の結集は十分に実現していない。それはこれから実現するのかもしれない。あまり攻撃しすぎても、反発の種が生まれのみである。日本、米国、EU、豪州などで、それぞれ政策判断が行われることになるだろう。しかし調整された協力のための取組みの下で努力が行われたとしても、中国がどこかを切り崩して協調が崩れてしまうかもしれない。中国への反発から生まれた協力関係であっても、ある程度抑えることができてしまうのかもしれない。いずれにせよ、反発の在り方次第で効果は決まるだろう。中国の軍民融合は小宇宙のようなもので、民間企業だと言いながらも安全保障への野心を持つ会社が、単なるテレコムや5Gといいながら頭角を現してきた。これは成功または失敗と言えるのか。ある中国企業が5Gのすべてを設計することは防げたが、もっと早く取り組んでいたら状況は違ったのではないか。他国の競合他社の対応が少し遅すぎたのだろう。
どのような重要技術が保護の対象になるのかについては見極めが必要だろう。中国に重要技術を取得するようなことを許してしまえば、中国は食物連鎖を一気に駆け上がり、マーケットでの優位と資金を得て、さらに高い技術を得ようとするであろう。機微な分野においてきちんと歯止めをかけることが重要である。
大学や研究機関の在り方についてはこれも重要な問題である。米国の学術界の研究者は国際的な公共財のようなものであり、基本的に国家安全保障の対象になるべきではない。他方、中国は、日本、米国、欧州に留学生を送りつつ、帰国するインセンティブを与えて帰国を促している。これも軍民融合の政策の一部である。新疆ウイグルでは顔の認証システムが使われているが、これには帰国した研究者の持ち帰った技術が活用された。外国企業はそうした技術に敏感であるべきであり、留学してくる学生の背景を精査することが必要である。また同時に、自由主義国に残るインセンティブを与えてとどまらせることも必要である。軍関係者はもともと帰国が前提で留学しており、受入れの段階での精査が特に必要であろう。
林載桓 教授(青山学院大学)
なぜ国防セクターの改革は難しいのかについて。これは長きにわたって存在している問題である。これまでミサイル関係で国営企業は成功を収めており発言力もある。また国防と一口に言ってもその中で分断がみられる。政治的な意思のみで国防企業を改革するのはなかなか難しい。そもそもその巨大さゆえに国防コングロマリット自体を解体することも難しい。このような背景の中で、中国が国内で自らイノベーションを創出できる体質になるためには、国防セクターの改革は不可避であり、ここにジレンマがある。
軍民融合をめぐる政策調整メカニズムについては、胡錦涛前政権時代から調整委員会が設置されている。ここが中央における政策調整機能を果たしている。ここでは軍民融合のインセンティブを作る一環として、財務的あるいは金融的なスキームを整備しようとしている。あまり悲観はしていないが、やがて軍民融合はそれなりに整うのではないかと考えている。
ジャクリーン・ディールCEO(ロング・ターム・ストラテジー・グループ)
(一般参加者より、中国政府が西側諸国の企業の誘致にどの程度成功しているのかとの質問を受けて)かなり成功しているのではないかと思う。すでに90年代に、人件費の安さや生産性の高さから、西側企業の中国進出はすでにモデルとして確立している。米国のあるIT巨大企業は、中国に進出してそこで多くの人々を育成しており、それは米国国内での人材育成よりもはるかに大きな規模で成果を上げている。また中国は西側諸国の企業の物理的な誘致だけでなく、中国の人材を派遣して研修させている。さらには、サイバー的な手段により西側企業のデータを盗み取る等のいろいろなやり方があったと思う。中国企業の研究開発費をみてみると、基礎分野より応用分野に多く配分される傾向にあることから、サイバーを通じた技術窃取は明らかにあるのではないかと思う。中国はリスクを放念して先行する西側諸国の企業に猛追することに専念してきたわけだから、ある程度成功できるは当然である。このような非対称的な状況が、日本や米国にとって自国の安全保障環境に悪影響を与えるのは回避しなければならないことは明らかであろう。