『未来探究2050』× IFIセミナー「知の未来を探究する」第3回:仏教学と物理学から「世界の基本法則」を探究する
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日程:2022年02月22日(火)
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時間:10:30-12:00 am
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会場:ZOOMでのオンライン開催となります
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言語:
日本語
※英語同時通訳あり -
定員:
500名
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主催:
東京大学未来ビジョン研究センター
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協力:
日経BP社
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対象者:
一般公開
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申込締切:
2022年2月21日(月)正午まで
※ご登録完了後、2月21日(月)午後に事務局より招待URLをお送りします。定員に達し次第、受付を終了いたします。予めご了承ください。
科学技術が加速度的に進歩し、国際社会が激動する21世紀において、未来への関心はますます高まっています。情報通信技術やバイオテクノロジーの進展を目の当たりにし、2020年から始まった世界的な新型コロナウイルス禍で激動している国際社会を振り返ると、今までの経験や出来事から単純に未来を展望するのが不十分なのは明白でしょう。
未来に向かって確実に役割が増えると思われるのが知識です。現代社会は知識により新たな価値を作り出していく知識集約型社会の側面がますます強くなっており、未来社会を展望するには、これから産み出されていくであろう知識について熟慮する必要があります。しかも、多様な分野の研究者同士の協創と、社会のステークホルダーとの協創が重要になるのです。
3回連続で開催する本セミナーでは、2021年3月に東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)が出版した『未来探究2050―東大30人の知性が読み解く世界』(日経BP)をベースとして、異なるけれどシナジーが生まれそうな分野の講師とIFIの教員が分野横断型の議論を展開することで、複雑で重層的な未来について深く考える端緒を開きます。
第3回は、仏教学と物理学という一見するとかけ離れた分野の講師をお招きして「世界の基本法則を解き明かす」という学問の根源を探究します。
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10:30-10:35趣旨説明
仲浩史 東京大学未来ビジョン研究センター教授(経済学)
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10:35-10:55講演1「普遍言語のパラダイム・シフト:ひも、サンスクリット語、スリランカ」
馬場紀寿 東京大学 東洋文化研究所 教授(仏教学)
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10:55-11:15講演2「物理学の基本法則はいかに発見されてきたか」
大栗博司 東京大学 国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 機構長(物理学)
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11:15-11:35パネルディスカッション
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11:35-11:55質疑応答
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11:55-12:00まとめ
– 馬場 紀寿 東京大学 東洋文化研究所 教授(仏教学)
1973年青森県生まれ。2006年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。東京大学東洋文化研究所助教、スタンフォード大学何家基金仏教学センター客員研究員、東大東洋文化研究所准教授を経て2019年から現職。研究テーマは「初期仏教」と「上座部仏教の思想と歴史」。日本南アジア学会賞、東方学会賞、日本学術振興会賞などを受賞。最近の著作には『初期仏教 ブッダの思想をたどる』(岩波書店、2018年)などがある。
– 大栗 博司 東京大学 国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 機構長(物理学)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構機構長。カリフォルニア工科大学フレッド・カブリ冠教授およびウォルター・バーク理論物理学研究所所長。アスペン物理学センター理事長。
京都大学卒業。東京大学理学博士。東京大学助手、プリンストン高等研究所所員、シカゴ大学助教授、京都大学助教授、カリフォルニア大学バークレー校教授を経て、2000年カリフォルニア工科大学教授。07年より同大学カブリ冠教授。15年同大学ウォルター・バーグ理論研究所所長。2016年-19年アスペン物理学センター総裁。18年10月から東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構機構長も兼務。21年7月からアスペン物理学センター理事長。専門は素粒子論。アメリカ芸術科学アカデミー会員。紫綬褒章、アイゼンバッド賞、ハンブルグ賞、仁科記念賞など受賞歴多数。科学解説書『大栗先生の超弦理論入門』に対し講談社科学出版賞を受賞。科学監修をした映像作品『9次元からきた男』は、国際プラネタリウム協会最優秀教育作品賞を受賞。
– 仲 浩史 東京大学未来ビジョン研究センター教授(経済学)
1983年京都大学法学部卒。同年大蔵省(現財務省)入省。主として内外の金融に関わる職務に携わり、海外勤務計14年を経験。そのうち2014年から4年間は世界銀行副総裁兼内部監査総長として世界銀行グループの業務戦略やオペレーションの内部監査を指揮。専門領域は、金融制度(共著で「銀行法の解説」)、国際金融、マネロン・テロ資金対策、経済制裁、SDGs等の途上国の開発政策のほか、企業経営の戦略的リスク管理やコンプライアンスの監査も。公認内部監査人(CIA)。
fe-seminar★ifi.u-tokyo.ac.jp(★→@に置き換えてください)
東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)は2021年3月に書籍『未来探究2050―東大30人の知性が読み解く世界』(日経BP)を出版しました。複雑で重層的な未来について深く考えるための手がかりをさらに得るために、本セミナーシリーズでは本書にも登場した専門家が分野の垣根を越えて議論を展開します。2022年2月22日に開催された第3回では、仏教学の馬場紀寿・東京大学東洋文化研究所教授と、物理学の大栗博司・東京大学 国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 機構長を迎え、「世界の基本法則」について異なる視点から二人が講演し、司会の経済学の仲浩史・IFI教授を交えたパネルディスカッションを行いました。
「普通言語のパラダイム・シフト:ひも、サンスクリット語、スリランカ」 馬場紀寿・東京大学東洋文化研究所教授
馬場教授は、大栗機構長が専門とする物理学の「超ひも理論」の「ひも」がサンスクリット語では「スートラ」、つまりは「お経」を意味する重要な言葉で、異なる2分野の意外な共通点にまず言及してから、近代以前に人口が集中していた南アジア・東南アジアで仏教の教えを伝えた「普遍言語」の変遷を振り返りました。4世紀から13世紀まで、政治・文学・法典・仏教聖典に古代インドのサンスクリット語を使う国際空間「サンスクリット・コスモポリス」が、13世紀ごろからはスリランカを起点にパーリ語の仏教聖典を共有する「パーリ・コスモポリス」が展開しました。15世紀後半以降、この自由交易圏にポルトガル、オランダ、イギリスが参入し、その過程で資本主義が誕生しました。
仏教では、目や耳などの人間の6つの認識器官とそれぞれの認識対象を合わせた12の拠り所に沿ってしか人は世界を認識できないとしています。どんな世界像も渇望に突き動かされる個々の人間の生のあり方とは無関係ではありえないとも考えます。現代でも、12の拠り所や渇望といった世界像の根源にあるものを忘れて、科学技術が暴走することの危険性を馬場教授は指摘しました。
「物理学の基本法則はいかに発見されてきたか」 大栗博司・東京大学 国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 機構長
続いて大栗機構長は、基本法則を発見して世界の真実を見極めていく物理学では、ミクロからマクロまで、「10億」を1つの区切りに自然を理解してきたことを紹介しました。古代では身の回りの1メートルぐらいの世界しか見ていなかった人間も、ニュートンが万有引力を発見して月が10億メートルの軌道半径で地球の周りを公転することを突き止め、さらに10億倍大きい銀河、そのさらに10億倍遠い宇宙の果てへと理解を深めていきました。ミクロの世界も10億分の1メートルのスケールのDNAのらせん構造を解明し、さらに10億分の1の領域で素粒子を研究しています。
物理学の法則は、数学的な仮説の構築と、観測と実験による実証の繰り返しで定式化されてきました。数学は人間が直接認識できないものも記述できる人工的な言語で、古代ギリシャの幾何学、17世紀のニュートンが切り開いた微積分、20世紀のアインシュタインの相対性理論と、物理学とともに発展してきました。21世紀の宇宙の数学はどのようなものになるのか、それを開拓するのがまさにカブリ数物連携宇宙研究機構の役割だと、大栗機構長は締め括りました。
パネルディスカッション
大栗機構長の著作物の多くを読んでいるという馬場教授が、もし宇宙に人間とは知覚器官が異なる知的生命体がいたとしたら、人間と同じ数学を発展させるのか、SF的な質問を大栗機構長にぶつけました。全く違う感覚で異なる環境にいる生命体であれば異なる数学を発展させる可能性があり、また、世界観が違うため物理学も違ったものができるかもしれないが、同じ宇宙の中なので、記述される物理学の法則は重なりがあるだろうと大栗機構長は想像を交えて答えました。
仲教授が、仏教では人間の認識や経験には限界があるとしていて、物理学ではその限界に挑戦している、とコメントすると、大栗機構長は人間の知能の限界はあるかもしれないが、物理学は行けるところまでは行ってみようとするものだと答えました。ただ、ミクロの世界を突き詰めていくと、いずれ重力の影響を考慮して量子力学との融合が必要になるが、そこまでいくと加速器を使った実証実験ではブラックホールができて何も現象を観測できなくなるという限界が見えてきている、と話しました。これまでの物理学の進み方が一旦終わるため、融合を可能にする新たな数学的枠組みを作らなければならない、としました。
大栗機構長から、個々の経験や認識によって生じる「渇望」について、ポジティブなものなのかと尋ねられた馬場教授は、仏教では究極的には渇望は乗り越えるべきものだが、その途中段階で社会に貢献するものは評価されると答えました。一方で、研究者はみんな研究成果を出したくて「渇望しまくっている」ため、真の幸せは遠いかもしれない、と話すと他の2人の研究者も納得しました。