SSUフォーラム/GraSPPリサーチセミナー “インド太平洋ーフランスにとっての優先事項”
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日程:2022年01月21日(金)
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時間:10:30-12:00
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会場:Zoomによるオンライン(Webinar)
ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします -
題目:
インド太平洋ーフランスにとっての優先事項
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言語:
英語(同時通訳あり)
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主催:
東京大学公共政策大学院
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このウェビナーでは、フィリップ・セトン駐日フランス大使をお招きいたします。冒頭、セトン大使より、フランス政府のインド太平洋地域における戦略およびビジョンについての基調講演が行われます。その際、フランスと日本を含む地域のパートナー国との協力の具体的な事例についても説明されます。またセトン大使は、2022年前期にフランスが欧州連合(EU)理事会の議長国を務めることを踏まえ、EUのインド太平洋地域への関与の在り方についても触れる予定です。
基調講演:フィリップ・セトン氏(駐日フランス大使)
司会:藤原 帰一(東京大学法学政治学研究科教授)
ディスカッサント:イー・クアン・ヘン(東京大学公共政策大学院教授)
2022年1月21日、フィリップ・セトン駐日フランス大使は、東京大学公共政策大学院および東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニットの共催によりオンラインで開催されたSSUフォーラム/GraSPPリサーチセミナー(ウェビナー)において基調講演を行いました。藤原帰一教授(東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット長)がモデレーターを務め、ディスカッサントとしてイー・クアン・ヘン教授(東京大学公共政策大学院)がパネルに加わりました。セトン大使は、基調講演の冒頭、インド太平洋地域には160万人のフランス国民が居住するとともに、7つの海外領土がこの地域にあり、またフランスの排他的経済水域(EEZ)の93%がこの地域に集中していることを指摘しました。その上で、インド太平洋地域では、フランスにとって具体的な現実性があることを強調しました。またフランスは、ヨーロッパの国としては唯一、自国の軍隊をインド太平洋地域に持続的に駐留させており、フランスの国民ならびに国益の確保、有事の際の対応、安定性の維持のために役立っています。またフランスは、中国の役割の拡大や米中競争、および貿易やデータのオープンなフロー等のこの地域に起因する脅威から直接の影響を受けやすい状況にあります。
フランスは、インド太平洋戦略を策定した最初の欧州連合(EU)加盟国です。2018年5月に策定され、2020年7月に改定された同戦略は、安全保障・防衛、多国間主義と法の支配の推進、地球規模の公共財の促進、フランスの経済的利益の促進という4つの柱を基盤としています。フランスは、インド太平洋地域で生起する課題への対処には集団的対応が必要であるとの理由から、EU諸国に対し、同地域におけるEUのプレゼンスを確立するための独自の戦略的枠組みの採択を働きかけてきました。EUは2021年9月、戦略的共同コミュニケーションを審議し、7つの主要重点分野を特定しました。現在は、その具体的な実施にむけた検討が必要となっています。そして、フランスがEU理事会の議長国を務める今年2月、フランス主催により、安全保障・防衛、連結性の課題、および保健、気候変動、生物多様性や海洋の健全性などの地球規模課題に焦点を当てた閣僚会議が開催される予定です。各重点項目のそれぞれについて、具体的な行動を伴う必要があることを、セトン大使は指摘しました。
日本はフランスやEU にとって主要パートナー国のひとつです。そして仏日両国の間には、国益や価値観を共有するとともに、特にインド太平洋地域に関する目標で一致がみられます。そこで、具体的な行動を起こすべき分野を特定するため、二国間のワーキンググループが設置されました。安全保障・防衛分野での両国の協力は緊密であり、この間、合同演習のレベルを上げて取り組まれています。その上で、フランスとしては、仏日間の防衛協力の指針となるさらなる強固な法的枠組みを確立することが必要だと考えています。そうした考えについては、今回のウェビナーの前日夜に開催された日仏外務・防衛閣僚会合(2+2)の際にも、両国の関係閣僚間で前向きに議論が行われたところです。米英豪3か国による安全保障協力「AUKUS」に関して、フランスは、事前の十分な協議がないままに交渉が進められたことに強い反応を示すとともに、この枠組みの参加国による同盟国に対する扱いに対して疑問を提起しています。しかしながら、この件によって、インド太平洋地域に対するフランスの関心や優先課題が揺らぐことはなく、フランスとしては引き続き、多面的なアプローチを追求していく考えです。中国の大国としての台頭は無視できない問題ですが、これはフランスにとって中国と米国の間で等距離の関係を維持すればよいという類の問題ではなく、フランス自身の国益を着実に促進するうえで取り組むべき問題であると認識しています。
ディスカッサントを務めたヘン教授は、セトン大使の基調講演を受けて、次の質問を投げかけました。フランスは、世界中に幅広く関与する中で、インド太平洋地域における自国の利益の優先性をどのように判断することができるのか。またEUは、軍事演習に関し、日本とどのように協調を高めていくつもりなのか。そして、EUのグローバル・ゲートウェイ構想に関して新たなシナジーがあるのかといった点について質問しました。そのほか、フランスが現在、インド太平洋地域における経済安全保障について日本とどのような協力を行っているのかについて詳しい説明を求めました。それらのヘン教授からの質問に対し、セトン大使は、フランスのインド太平洋地域への関与は今に始まったことではなく、長年にわたり同地域でプレゼンスを維持してきたことを改めて指摘するとともに、現在は、新たな力学も考慮に入れつつ、そのプレゼンスをさらに高めているようにフランスは、多くの戦域において広く展開する能力を十分に備えている旨、回答しました。インド太平洋地域には多数の国々が関与していますが、その全てが同じ課題に直面し、同じ脅威に直面しています。そのような現状を踏まえ、フランスは、自国一国としての同地域への関与を維持しつつ、ヨーロッパ全体の関与についても具体的に促進していく考えです。たとえば、行動する用意がある国々の参加のもとで、この地域におけるEU各国の海上プレゼンスの共同展開などにより、促進していくことを予定しています。またインフラに関しては、「チーム・ヨーロッパ(Team Europe)」の結集に役立つ可能性があるグローバル・ゲートウェイ構想の枠組みの中で取り組むことを目標としています。具体的なプロジェクトの選定については、加盟国や加盟機関の間でさらに協議は必要ですが、先程述べた2月の閣僚会議を経てより明確になるだろうとセトン大使は述べました。
引き続きおこなわれた質疑応答においては、主に次のような議論がありました。台湾有事におけるフランスの潜在的役割について問われた際、セトン大使は、フランスは「一つの中国」政策を採っていることを繰り返し述べたうえで、中台間の紛争は対話を通じて解決する必要があると強調しました。また1月15日にトンガで起きた火山噴火について問われた際、セトン大使は、今のところ、フランスは援助の公式要請を受けてはいないが、支援を行うべくすでに準備に着手している旨、述べました。さらに、仏領ニューカレドニアの独立の可能性について問われた際、独立の賛否を問う住民投票がこれまでに3回行われ、3回とも独立が否決される結果となったことに言及しつつ、ニューカレドニアにおいて新たな共同プロジェクトを構築するためにも、政治的対話を継続する必要があると述べました。