SSUフォーラム「イノベーション戦略の観点からみた米中対立:ハイテク産業育成策の現状と課題」

  • 日程:
    2022年03月08日(火)
  • 時間:
    9:30-10:40 (JST)
  • 会場:
    ZOOMウェビナーでのオンライン開催となります
    ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします
  • 言語:

    英語・日本語(日英同時通訳あり)

  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット

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定員に達したため申込みを締め切りました。
概要

先端技術分野における米国と中国の競争は、近年、激しさを増している。今次セミナーでは、イノベーション戦略およびハイテク産業育成策の観点から、米中両国における政策動向の現状と今後の方向性について日米の有識者から基調報告を得る。その上で、今後の米中対立の展開について検討し、今後の日本の政策のあるべき方向性についても議論する。

登壇者

基調報告者:アダム・シーガル(Ira A. Lipman最先端技術・国家安全保障担当議長、米外交問題評議会(CFR) デジタル・サイバースペース政策プログラムディレクター)
基調報告者:伊藤 信悟(国際経済研究所主席研究員)
討論者:丁 可(アジア経済研究所主任研究員)
開会挨拶:藤原 帰一(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
司会:佐橋 亮(東京大学東洋文化研究所准教授)

3月8日午前、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット主催により、「イノベーション戦略の観点からみた米中対立:ハイテク産業育成策の現状と課題」と題して公開ウェビナーを開催しました。この際、基調講演者として、アダム・シーガル氏((Ira A. Lipman最先端技術・国家安全保障担当議長、米外交問題評議会(CFR) デジタル・サイバースペース政策プログラムディレクター)および伊藤信悟氏(国際経済研究所主席研究員)を、また討論者として丁可氏(アジア経済研究所主任研究員)を、それぞれお招きしました。冒頭、藤原帰一・東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)が開会挨拶を行いました。またモデレーターは、佐橋 亮 東京大学東洋文化研究所准教授が務めました。なお本シンポジウムは、外務省補助金事業「米中競争による先端技術分野の安全保障化の背景とグローバル経済への影響」の一環として開催されたものです。今回のシンポジウムの概要は以下のとおりです。

1. 基調報告
アダム・シーガル氏および伊藤信悟氏より、米国および中国のイノベーション政策の現状と課題について基調報告が行われました。主要点は以下のとおりです。

最初に、アダム・シーガル氏より、「中国の科学技術大国化に対する米国の対応」と題して報告が行われました。この報告の中で、シーガル氏は、中国の科学技術分野における台頭によって米国のイノベーション・システムがどのようなストレスを受けているのかを考察した上で、これまで米国政府および連邦議会が採ってきた政策対応の特徴を説明し、そして今後の米国の課題を明らかにしました。

まず、戦後70年の米国のイノベーション・システムの特徴として、連邦政府による研究・開発への巨額の投資、大学における先端研究と人材育成の促進、そして民間セクターにおける商業化の3点を指摘しました。その上で、中国の台頭は、現在、このような米国のイノベーション・システムの真価を問うていると述べました。具体的には、産業政策はどのような役割を担うべきか、米国はどの程度開放的な経済であるべきか、グローバルな米国の役割はどうあるべきか、軍の民間セクターとの関係はどうあるべきかについて問われていると指摘しました。その中で、中国の台頭を踏まえた米国の産業政策の動向としては、「より早く成長し自国の優位性を強化すること(ラン・ファスタ―)」、半導体製造分野等でみられる「サプライ・チェーンの強靭化」、技術規制や中国企業に対する制裁等の措置による「中国の成長の鈍化(スローダウン・チャイナ)」、中国の千人計画を念頭においた「研究の一貫性の確保」の4点を志向していることを指摘しました。今後の米国の課題として、次の3点が指摘されました。第1に、中国自身が自らデカップリングを行っている状態、つまり自らの経済力に反してグローバル経済への関与が不十分な点があること(非公平な産業政策の側面)、第2に、これはもっとも懸念すべき点であるが、連邦議会において、産業政策の必要性について超党派で合意があるものの、速やかに採られるべき具体的な法的措置については合意に達していないこと、この背景には今年10月の中間選挙を念頭に野党共和党がバイデン政権に得点を与えたくないとして抵抗していること、他方、この間にも中国は自国の科学技術への投資を進めており、米国にとっては「失われた2年」となる可能性があること、第3に、米国の政府機関および連邦議会の政策決定者たちが伝統的な産業政策の枠組みに基づく思考に陥りやすく、現在の状況に即した政策的知見を十分に有していないことにあると述べました。いずれにせよ、現在、米国のイノベーション・システムは再編される過程にあることが強調されました。

続いて、伊藤信悟氏より、「中国のハイテク産業育成策をめぐるジレンマ~半導体産業に対する資金支援策からの考察~」と題する報告が行われました。この報告の中で、伊藤氏は、これまでの習近平政権のハイテク産業育成策の特徴のひとつとして、製造業への資金的支援の強化とその「ステルス」化に着目しています。ここでいう「ステルス」化とは、中国政府による既存の「補助金」的性格の支援策強化に加えて、「民間資金」の誘導を以前に増して重視していること(具体的には商業性金融機関に対する中長期貸出の強化要求等)、その結果、ハイテク産業育成の加速化で一定の成果が上がっているものの、副作用として日米欧等からその政策の不透明性に批判が集まっていることに加え、重複投資・投資プロジェクトの粗製乱造の問題が生じています。中国の半導体自給率はまだ低く、また半導体材料・製造装置等の世界シェアも限定的な状況であるため、育成策の拡充が求められる一方、上記の副作用も抱えるというジレンマの中、中国政府が足元資金的支援策をどのように運営しているのか、またその政策的含意について検討することが、伊藤氏の報告の主な内容です。

今後の展望と日本への示唆としては、伊藤氏は次の点を指摘しました。中国政府の半導体関係産業に対する資金援助は一段と積極化が図られていること、また重複投資の解消等のため進められる半導体関連企業の合併は今後も進むものの、それ以上のペースで半導体関連企業自体は大幅に増加していること。その中で、今後の影響として予想されるのは、現在、中国への製造装置の輸出規制がなされている線幅10nm以下の先端プロセスの半導体では中国発の過剰供給問題が生じる可能性は低いものの、10nm超の成熟プロセスの半導体では、中国に加え、他国も半導体分野への支援・投資を活発化していることから、世界規模での今後過剰供給が生じるリスクは高まっています。また、OECDで言われる、いわゆる「ビローマケット・ファイナンス」(有利な条件での政府主導による出資や銀行による低利の投資等)のモニタリングは、世界における半導体産業の公平な競争を確保する上では重要になってきます。加えて、財政余力を欠く日本を含む先進諸国にとって、WTOルール軽視のハイテク産業への補助金競争が世界大に広がっていくことは必ずしも得策ではなく、WTOルールとの整合性確保が課題となることが指摘されました。

2. パネル討論
シーガル氏および伊藤氏による基調報告を踏まえ、丁可氏が討論者として発言を行いました。冒頭、丁氏からは、シーガル氏および伊藤氏の基調報告に共通するのは、米国および中国における科学技術政策を含む広義の産業政策が分析の対象となっており、そこでは具体的に政策の目標、手段、そして効果について取り上げられていると指摘しました。その上で、丁氏は、シーガル氏と伊藤氏に対して次の3点の質問を行いました。

第1に、米国および中国は、相互依存の軽減を政策目標とする産業政策について、そのような政策によるコストをどの程度許容するのだろうか、という質問です。ここで丁氏が言及したのは、米国半導体大手企業の中国市場におけるシェアが、米中対立が激化する中で、一時低下したものの、ここ数年では再びシェアを拡大している傾向です。つまり、ビジネスの論理を度外視しても、政府は産業政策を採り続けるのだろうかとの問いです。また第2の質問として、産業政策の手段において、米中対立が深まるほど相互学習のメカニズムが働いている、つまり、相手の政策手段の模倣がみられる点をどうとらえることができるのか、という点です。第3として、産業政策は、どのような条件下で機能するのかという質問です。ここで丁氏が言及したのは、たとえば、中国における半導体のバリューチェーンでいえば、上流の半導体製造技術から下流のリチューム・イオンバッテリーを用いたEVにいくほど政府の政策が機能する傾向があり、これをどうとらえることができるかという質問です。

この丁氏のコメントについて、モデレーターを務めた佐橋氏より、政府主導のアプローチには長所と短所があることが改めて想起されたのではないかと指摘するともに、ロンドン大学のマッツカート氏が、政府は調査研究・技術開発により投資すべきでありそこからイノベーションが生まれるのではないか述べた議論を紹介した上で、丁可氏の指摘はこの議論と対称的な視点を提供しており興味深いと述べました。

続いて、丁氏が提示した3点の問題提起を踏まえ、シーガル氏および伊藤氏が回答しました。

シーガル氏からは、デカップリングのコストについて、現時点で米国の現政権はまだ明確な答えを持っていないのではないかと述べました。また、市場における相互依存性はたしかに無視できるものではなく、このことからも米国政府の半導体産業に対する支援策は、おそらく大槌を振るというよりも、外科手術的な対応になるのではないかと述べました。また、米国として、自国の優位性を守りつつ、他方、中国企業の強みも考慮に入れざるを得ず、どの分野の商業化をめざすべきかについての見極めは難しい判断が迫られるだろうと述べるとともに、政策ツールについては、究極的には、基礎研究の部分で時間を費やすというよりも、明確な成果が見込まれる分野に絞られていくことになるのではないかと述べました。

伊藤氏からは、完全なデカップリングは不可能であることを前提とした上で、安全保障上不可欠な領域をどのように設定するのかが鍵であり、その場合に、安全保障を意識しつつ一定のコストを許容した上で、いかにして自国の産業を育成していくべきかが検討されていくのであろうと述べました。他方、デュアル・ユースが広がっているとはいっても、しばしば「スモールヤード・ハイフェンス」の重要性が指摘されているように、経済安全保障の領域を際限なく広げていくのは財政上からみても非現実的であり、その点では国際協調に基づいてルールを設定していくことが重要であり、それを通じて最適な解を見いだしていくべきだろうと述べました。また、丁氏の指摘のように中国の産業政策の特殊性は過度に強調されている面はあるが、透明性の向上が中国政府に求められていることであり、透明性の向上は中国も交えた国際ルールの形成のためにも重要だと述べました。産業政策の効果については、川下産業への支援が川上産業の育成で活きる面があることは確かだが、川下部門で過剰投資の問題が起きているという事例もみられるだけに、そこも含めて産業政策の成否を判断することが必要ではないかと述べました。最後に、資金支援策だけでなく、人材育成なども含めたナショナルイノベーションシステム全体の制度設計の重要性を強調しました。

3. 質疑応答
最後に、一般参加者からの質問に対して、シーガル氏、伊藤氏および丁氏がそれぞれ回答しました。

シーガル氏に対しては、日本が他のパートナー国とともに米国が主導する技術同盟に参加することの是非について、中国のイノベーションを「スローダウン」させることはどの程度可能なのか、80年代の日米の技術競争と現在の米中競争の状況の類似性、また日本は今後どのような政策をとるべきなのか、について質問がありました。

シーガル氏は回答として、現在、米国はQUAD諸国と連携して中国を封じ込める以上のことを検討しているが、その中で焦点が置かれているのは二国間のアプローチであり、たとえば、日米による共同投資についての検討が進められていることを指摘しました。その検討においては、5G等の日米が技術力や財源で優位性を持っている分野に優先的に投資することにより、一定のチョークポイントが明確になるのではないかと述べました。また、「ラン・ファスタ―」と自分の基調報告の中では述べたが、米国一国では中国のイノベーションの鈍化を図ることは難しく、やはり何らかの国際連携が鍵となるだろうと述べました。そして、米国にとって日本は同盟国であり敵国ではないこと、この点で日本と中国には明確な違いがあることを指摘するともに、ドュアル・ユースが広がる中で「スモールヤード・ハイフェンス」にはコストが少なくないことを上げました。この点については、たとえばAI分野をみてもわかるように、中国から留学してくる米国の大学の大学院博士課程への研究者にイノベーションを依存しているというような、これまで言われてきた形とは異なる相互依存の形がみられることを指摘しました。

伊藤氏に対しては、日本は今後どのような政策をととるべきか、なぜ、安全保障上、技術とデジタルが食料やヘルスケアよりも重要な分野だと考えるのか、特になぜ半導体分野が重要なのか、そして中国における人材育成の現状について質問がありました。

伊藤氏は回答として、今後の日本の政策においてはイノベーションを担う人材育成が鍵であることを強調しました。外国からの半導体製造企業の誘致に留まることなく、人材育成・供給、それを担う大学の役割の強化、国際的な研究協力の促進も重要な施策であり、産業界からもその重要性が指摘されていると述べました。中国における人材育成の動向については、AIや半導体分野を中心に、人材育成に巨額の投資がなされているともに、中長期の観点から、発明に対する報酬を手厚くするなどのインセンティブの供与が行われていること、また中国にとって依然食料安保なども極めて重要な課題だと位置づけられているが、近年、第4次産業革命といわれてるように、データの活用による新たな産業の創出が注目されている中で、最先端の半導体技術の確保が必然的に国家の産業競争力、さらには安全保障上の課題として認識されていることが指摘されました。

丁氏に対しては、なぜ、中国がリチューム・イオンバッテリーの開発で成功したのかとの質問がありました。この点について、中国では、政府によりホワイトリスト制度が設けられており、そのリストに掲載された企業のバッテリーを搭載した車を購入すると、政府からEV購入の補助金が提供される仕組みになっていることが背景にあると丁氏は説明しました。

=SSU Forum=