SSUフォーラム「FTAにおける安全保障例外条項の展開」

  • 日程:
    2023年02月28日(火)
  • 時間:
    10:30-12:00
  • 会場:
    ZOOMウェビナーでのオンライン開催となります
    ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします
  • 言語:

    日本語(英語による同時通訳あり)

  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター 安全保障研究ユニット

    ※未来ビジョン研究センターは、本イベントのZoom URL情報を提供するため、また、今後の活動についての情報を提供するため皆様の個人情報を収集させていただいております。この情報はいかなる第三者にも開示いたしません。

定員に達したため申込みを締め切りました。
概要

自国の安全保障を理由とした貿易制限措置は、表面上は自由貿易の精神と反するため、それを例外的に認める根拠が必要とされ、その中心的な役割を果たすのがGATT第21条です。しかし、この条項(及びその解釈)に対しては批判的な見解も強く、異なる規律を設ける動きも見られます。その代表例が米国のFTAにおける安全保障例外条項です。ワーキング・ペーパーでは、WTOとFTAにおける安全保障例外条項がどのように展開されているのか、そしてFTAにおける展開がGATT第21条にどのような影響を与えるのか論じています。本フォーラムではペーパーでは論じきれなかった論点を含めて議論いたします。

ワーキング・ペーパーは以下のリンクからご覧いただけます。

登壇者

講演者:関根豪政
横浜国立大学 大学院 国際社会科学府・国際社会科学研究院 教授

討論者:髙山嘉顕
日本国際問題研究所 研究員

司会:佐橋亮
東京大学 東洋文化研究所 准教授

 

 

※本フォーラムは、外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたします。

2月28日、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは、横浜国立大学大学院国際社会科学府・国際社会科学研究院関根豪政教授をお迎えし、基調講演としてFTAにおける安全保障例外条項に関するワーキング・ペーパーについてお話しいただきました。関根教授のスピーチの後、高山嘉顕研究員(日本国際問題研究所)が議論に加わり、その後、聴衆から質問を募りました。同フォーラムでは、佐橋亮准教授(東京大学東洋文化研究所)が司会を務めました。

基調講演

関根教授から、冒頭、本セミナーにおける結論として、今日、GATT第21条の安全保障例外条項をFTAにおいて「黙示的に書き換える」傾向が見られること、現状ではこのことが有する効果は小さいものの、今後FTAの重要性が高まることになると、その影響を軽視することはできなくなる可能性があることが指摘できる旨発言があり、その後、その結論に至るまでの分析の過程について説明がありました。

まず、GATT第21条に関する判断が問われた最近のWTOパネル事案について言及した上で、GATT第21条の意義や課題について説明がありました。その上で、TPPにおける安全保障例外条項(第29.2条)とGATT第21条の内容を比較しつつ、米国が近年締結したFTA(TPP型の措置発動国の判断が尊重されやすい条項)とそうでないFTA(GATT21条の複製型)の紹介とともに、FTAにおける近年の安全保障例外条項の発展について説明がありました。近年の「TPP型の措置発動国の判断が尊重されやすい条項」を含むFTAの展開は、措置発動国が政策を安保例外条項で正当化する余地が広まったことを意味する一方で、米国のFTA及び貿易協定の締結数は13件(20か国)に留まっており、安保例外条項もFTAが規律する貿易関係の範囲でしか有効でないことから、その効果は限定的であるとの指摘がありました。

また、GATTの締約国でかつ「米国型」のFTA締約国である場合(特に、GATTとFTAで重複する義務が紛争の対象となる場合)のGATT第21条とFTA上の安保例外との関係の整理ついても、重要な論点の一つとして提起がありました。この点、米国とのFTA締結国が米国をGATT違反で提訴した場合、米国はFTAの安保例外条項を援用できるかについて、最近のパネル判断の事例にも触れつつ、結論としてはその可能性は限定的に留まる旨の指摘がありました。最後に安保例外条項に関する日本の立場について、部分的には米国の傾向に同調的な状況はあるものの、日EU・EPAに見られるようにGATT型の安保例外条項を採用するのが一般的な方向性と理解できるとの説明がありました。

ディスカッション及び質疑応答

以上の発表を受け、高山研究員から、国際政治学の観点からのコメントがあり、特に、近年の経済安全保障を巡る国際的な動きに代表されるように、元々GATTが想定していなかったシナリオが発生する中で、安保例外条項の意義をどう捉えるかについて提起がなされました。また、米国を中心にWTOの射程外で経済ルールの形成を行う動きがある中で、GATTの規律を対象とする安保例外には限界があるのではないか、そうした状況においては、既存の枠組みの是正や枠組みからの退出、新たなフォーラムやルールの形成といった動きが活発になっていくのではないか、といった問題提起もありました。関根教授からは、まさにWTOが想定していなかった国際的な動きがある中で、貿易分野における安全保障との調整規定をGATT第21条のみに頼る状況には限界があり、今後は一層きめ細やかなルールの修正やバランスのとれた包括的な安保例外条文の検討を行っていく必要があると言える旨の指摘がありました。

その後、フロアからは、紛争当時国がGATT第21条で米国を提訴したとしても、WTOが機能停止する中でその効果は限定的ではないか、GATT第21条の改正といった動きはあるか、国は貿易を推進したい国内利害関係者と国家安全保障上の利益をどう調整すべきか、安保例外を広く取りたい米国とそうでない国とのねじれ(ギャップ)をどう考えるか、半導体やデジタル製品、データなど、安保例外の対象はどこまで広がり得るかといった質問がなされました。

これに対し、関根教授から、WTO上級委員会の機能停止は重要な考慮要素ではあるものの、それでもなお、米国を提訴する側としては安保例外が狭く捉えられやすいGATT第21条を主張すると考えられる、GATT第21条については、米国がWTOにおいて解釈に係る指針を出させる動きが見られるが、コンセンサス方式を採用するWTOにおいてどこまでそれが実現可能かは未知数である、米国と貿易協定を締結する相手国とのギャップについては、本来は二国間の協定である以上、(相互主義的な観点から)双方に同様の状況が生じることになる(米国の相手国にとっても安保例外は広く読めることとなる)が、そのバランスが近年崩れてきており、今後の動きを注視する必要がある、安保例外の対象の拡大可能性については、そもそも国際貿易法の分野においては、モノ、サービス、それ以外(例えばデジタル分野)をしっかり分けて検討する必要があり、それぞれの分野に応じて結論が変わってくる旨の応答がなされました。

*本フォーラムは、外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたしました。
                                                               
                                                                                     

                                                                                

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