2023年度第1回 JSAS研究セミナー

  • 日程:
    2023年04月15日(土)
  • 時間:
    10:00-13:00
  • 会場:
    Zoomウェビナーによるオンライン開催
  • 主催:

    日本アフラシア学会

  • 共催:

    東京大学未来ビジョン研究センター(IFI) SDGs協創研究ユニット

  • 言語:

    英語(日本語同時通訳なし)

    ※日本アフラシア学会(JSAS)と未来ビジョン研究センターは、本イベントのZoom URL情報を提供するため、また、今後の活動についての情報を提供するため皆様の個人情報を収集させていただいております。この情報はいかなる第三者にも開示いたしません。

定員に達したため申込みを締め切りました。
開催概要

JSASは、アフロ・アジア研究、特にアフロ・アジア関係研究、アフリカ・アジア地域研究、開発研究を推進し、若手研究者の育成と複数の研究成果の発信を行い、世界、アフリカ、アジア、日本の学術界に貢献するために設立された学術団体です。JSASでは、その目的を達成するために、アフリカ研究に関する情報共有や意見交換を行うミニ研究セミナーを定期的に開催しています。2023年度第1回のセミナーとなる今回は、ウガンダ研究の若手研究者2名を講演者として招き、研究発表をもとに参加者と討論を行います。

プログラム
  • 10:00-10:10
    趣旨説明

    司会:ヴィック・サリ (JSAS会長/愛知学院大学 講師)

  • 10:10-11:10
    プレゼンテーション 1

    講演者:大平 和希子 (ハーバード大学 客員研究員)
    「伝統的権威の制度的変容: ブニョロキタラ王国とムセヴェニ政権」

  • 11:10-11:20
    *** 休憩 ***
  • 11:20-12:20
    プレゼンテーション 2

    講演者:イアン・カルシガリラ (政策研究大学院大学 講師)
    「暴力の犠牲者か、英雄主義の犠牲者か?: ウガンダの革命的体制文化と生存黙示録の関係学的歴史分析」

  • 12:20-13:00
    ディスカッション

2023年4月15日、東京大学未来ビジョン研究センターSDGs協創研究ユニットは日本アフラシア学会(JSAS)と連携し、「日本アフラシア学会(JSAS) 研究セミナー」を開催しました。

はじめに、司会のヴィック・サリ氏(JSAS会長/愛知学院大学講師)は本セミナーの趣旨を説明しました。ポストコロニアルの世界におけるアフリカ各国の葛藤は深刻なテーマです。本セミナーは、アフリカの政権・ガバナンスのあり方を考察し、この大陸の未来を共創するための歴史的・社会的立脚点を定めることを目的としています。

今回のセミナーではウガンダに焦点を当てました。大平和希子氏(ハーバード大学客員研究員)とイアン・カルシガリラ氏(政策研究大学院大学講師)が、それぞれの博士論文をもとに報告を行いました。

大平氏の報告は、ウガンダにおいて王国や首長制などといった「伝統的権威」が独立後の期間には廃止されたものの、1990年代以降復活し、さらに地方政府における影響力を増大している現象に着目しました。具体的には、そのメカニズムをウガンダ西部のブニョロキタラ王国(Bunyoro Kitara Kingdom: BKK)が地域社会で力を持つようになった事例から紐解きました。インタビュー調査とドキュメント分析の結果は以下です。ムセヴェニ政権下で、地方議会(Local Councils: LCs)が政治化されたことにより、LCsの公共サービスを提供する機能が低下しました。それにより、本来は地方分権化への期待が非常に高かった人々の不満を招きました。その結果、LCsを補完するアクターとしてBBKへの人々の期待が高まり、人々の期待に応え得るべくBKKの制度的変容が起きました。人々の声を代弁し、ブニョロ地域の教育・衛生等の課題を非政治的な目線で政府に提起できる伝統的権威への期待が高まっています。アフリカ農村部における国家のプレゼンスの高まりが結果的に伝統的権威の影響力を強化させているという本研究の結論は、既存の弱い国家論を刷新するものと言えます。

カルシガリラ氏の報告は、ウガンダにおける革命体制(ムセヴェニ主義) の構築・維持・強化を、文化の(再)生産の角度から解釈しました。具体的には、ルウェロ・トライアングルでの現地調査を通して、戦争・国家・民族をめぐる個人的・世代的・集団的記憶を操作する国家の力の政治性を明らかにしました。戦争をはじめとする悲惨な過去、国家主義、軍事的支配、腐敗、抗議・暴動にまつわる表象と政権が絡み合った結果、体制の支配を成功させる文化的システムが生み出されたと言えます。ウガンダの国家表象は、選択的な忘却が記録とともに行われ、さらに植民地主義の残響も入り混じっています。他方、民衆も政権の再生産に加担してきました。強いリーダー像を求める文化や、デモをはじめとする抗議活動の中で政権は再生してきました。このように、権力性はすでに現地社会の隅々に浸透している中、政治体制の変革だけではなく、文化的な脱構築も求められています。

以上の2つの報告は、ウガンダの歴史と現状の連続性・非連続性がどのように社会変化に伴う組織的・文化的再編の中で築かれてきたかを、それぞれの角度から鮮やかに描き出していました。質疑応答では、ウガンダの政府運営の詳細や発表者が用いた概念の有効性の確認が行われ、また、アフリカが抱えている歴史的宿命と不確定な未来に向き合うための姿勢も問われました。現地社会のその時々の疑似的な閉鎖性・開放性を批判したり称揚したりすることは、出口ではありません。アフリカの経験と丁寧に付き合う力が、その未来に関心を持つ全員に求められていると言えます。