SSU Forum “海底通信ケーブルの安全保障:重要なグローバル・インフラと地政学的な戦い”
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日程:2023年10月31日(火)
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時間:10:30-12:00 (JST)
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会場:ハイブリッド
【会場 (対面)】東京大学 本郷キャンパス,国際学術総合研究棟 (4階),講義室B MAP / 【オンライン】Zoom ウェビナー *ご登録完了後、 会議前日に事務局より招待URLをお送りします。 -
主催:
東京大学未来ビジョン研究センター 安全保障研究ユニット(SSU)
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共催:
日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(GIF)
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言語:
英語(日本語同時通訳なし)
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お申込み:
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海底通信ケーブルは、世界の通信の97%以上を担う、重要なグローバル・インフラです。世界経済におけるその重要性は⾔うまでもありません。海底通信ケーブルによって、機密情報の伝送や⾦融取引などを含む国際的な通信が可能になっています。
しかし海底通信ケーブルは、⾃然災害だけではなく、意図的な攻撃からの脆弱性にも直⾯しています。政治的な敵対者は、こうした脆弱性を悪⽤するかもしれず、海底通信ケーブルは地政学的な戦いの場になり得ます。海底通信ケーブルへの攻撃は、深刻な経済的・軍事的混乱を引き起こす可能性があります。海底通信ケーブルの多くは⺠間企業が所有権を持つため、防護策を講じることは容易ではありません。
強靱性を⾼める対策としては、センサーの利⽤、適切な埋設深度の設定、敷設ルートの地政学的な多様性確保、などが挙げられます。ソフトパワーによる対応も海底通信ケーブルを防護する上で重要な役割を担うでしょう。
開会挨拶:高原 明生
東京大学 大学院法学政治学研究科 教授/SSUユニット長
歓迎の辞・セミナー紹介:中山 幹康
GIF 専務理事/東京大学 名誉教授
プレゼンテーション1:Brendon Cannon
UAEハリファ大学 国際安全保障研究所 准教授
プレゼンテーション2:矢野 哲也
大阪経済法科大学 法学部 教授
司会/閉会挨拶:Yee Kuang Heng
東京大学 公共政策大学院(GraSPP) 教授
開会挨拶
高原 明生 東京大学 大学院法学政治学研究科 教授/SSUユニット長
日本は島国であり、通信の海底通信ケーブルへの依存度は非常に高いです。日本に初めて海底通信ケーブルが引かれたのは、明治4年、1871年のことでした。その事実からも、海底通信ケーブルが国家の近代化や発展を支える公共インフラとして重要であることがわかります。本日は活発な議論に期待します。
歓迎の辞・セミナー紹介
中山 幹康 日本GIF 専務理事/東京大学 名誉教授
ここ数年、海底通信ケーブルが「特定できない」理由により切断される事例が相次いでいます。日本でも、海底通信ケーブルのサイバーセキュリティだけではなく、物理的な安全保障への関心が高まっているところです。本日のテーマは非常に時節を得ていると思います。
プレゼンテーション1
The Quad’s trust deficit and the protecting undersea communication cables in the Indo-Pacific
Brendon Cannon UAE(アラブ首長国連邦)ハリファ大学 国際安全保障研究所 助教授
中国とQUAD諸国(オーストラリア、インド、日本、米国)の地政学的競争が激化するにつれ、海底通信ケーブルが重要な戦場となる可能性があります。実際、中国の領海や南シナ海を避け、インド太平洋や東南アジア周辺に新しいケーブルが敷設されつつあります。
QUADは2023年5月に「ケーブルの接続性と回復力のためのQUADパートナーシップ」を発表しました。これは重要な進展です。また、米国が後援する「クリーン・ネットワーク・イニシアチブ」と「オルタナティブ・ケーブル・コンソーシアム」の影響力を高めることも期待されます。しかし、QUADは非公式な政府間組織であり、ルール作りや条約締結を避け、安全保障問題での非公式な協力を優先しています。日本、オーストラリア、米国は非常に緊密な関係にありますが、それでもQUAD内の信頼関係や集団行動には乗り越え難い問題があります。特に、情報収集と共有、最先端技術の共有に関わる調整は複雑です。
悪意のある脅威から海底ケーブルを守ることに関しては、国際ケーブル保護委員会(ICPC)との連携が、QUADにとって実現しやすい(そして現在可能な)選択肢であります。海底通信ケーブルを「グローバル・コモンズ」に指定し、通信ネットワークに関するグローバルな行動規範を含む規範を策定・公表することを提案します。QUAD加盟国は、個別にケーブル陸揚げ地点の監視とスパイ対策を優先すべきと考えます。中国が支援するプロジェクトに代わるものとして、日米欧が主導する太平洋横断QUADまたは3極海底通信ケーブル敷設プロジェクトへの資金提供も検討すべきでしょう。民間のケーブル産業に対する規制を強化する代わりに、「友好的な」ケーブル敷設会社とルートを開発すべきです。
プレゼンテーション2
Submarine Cable Security and Japan
矢野 哲也 大阪経済法科大学 法学部 教授
海底通信ケーブルに対する脅威は、自然災害、漁業活動、悪意ある行為の3つに分類されます。海底通信ケーブルを保護するための民間セクターの対応は、企業間のケーブル敷設船保守協定と、国際ケーブル保護委員会(ICPC)です。ICPCは1958年に英国で設立された国際的な非営利団体で、人災や自然災害に対する海底通信ケーブルの保護を推進しています。
各国政府や国際機関の対応としては、海軍演習、ケーブル保護区域の設定、「海底戦のための国家戦略」の策定、海底通信ケーブル保護船の就役、国連と国際刑事警察機構が連携した対テロ犯罪作戦が挙げられます。また、重要なインフラのレジリエンスに関するNATO・EUの専門タスクフォースが2023年に設置され、レジリエンスや軍事的モビリティに関する構造的対話の強化、サイバー、宇宙、海洋、エネルギーに関する協議の拡大などが提言されています。
日本政府に対しては、海洋における戦略的コミュニケーションの強化、海上自衛隊に「海底通信ケーブル防護室」を新設すること、海底通信ケーブルの保守を担う海自と国内通信ケーブル所有者そしてICPCとの協力、サイバー戦争における海底通信ケーブルの保護を含む新たな国際ルール作りに参加することを提言します。これは日本にとって極めて重要な国益です。また、海底通信ケーブルの修理作業を迅速化するための民間企業への支援も必要です。
質疑応答
QUAD各国の海底通信ケーブル防護に対する優先度の違い、海底通信ケーブルの防護についての日本の各機関(自衛隊、警察、海上保安庁、総務省など)の役割分担、すべての国が加入する国際的な枠組みはあるか、QUADとNATOあるいはEUの連携について、民間企業が所有する海底通信ケーブルに対する法的な防護とは、制定が望まれる新たな国際法の具体的な内容、などについての質疑応答がありました。
閉会挨拶
Yee Kuang Heng 東京大学 公共政策大学院(GraSPP) 教授
ポイントを3つにまとめたいと思います。第一に、両氏とも海底通信ケーブルがグローバル・コモンズとして重要であることを強調されました。環境をもう一つのグローバル・コモンズと考えると、「コモンズの悲劇」という集団行動の問題の難しさを思い起こし、海底ケーブルを守るために官民がどのように協力できるかを考える必要があります。第二に、海底通信ケーブルに対する脅威には、事故と悪意ある攻撃の両方があります。これらをどのように区別するかは、加害者の責任や帰属を考える上で重要です。最後に、海底ケーブルの保護に基づいた軍事演習が実施されていますが、このような演習には民間部門も参加する必要があります。おそらく彼らは私たち全員が依存している重要なインフラを守る上で、重要な役割を担う最前線のファーストレスポンダーであるからです。