SSUフォーラム / Book Launch Event “Upstart-How China Became a Great Power”

  • 日程:
    2024年06月28日(金)
  • 時間:
    10:30-11:40
  • 会場:
    Zoomによるオンライン
    ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします。
  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター 安全保障研究ユニット

  • 言語:

    英語 (日本語同時通訳あり)

  • お申込み:

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概要

中国の軍事・安全保障政策、アジア太平洋の安全保障問題、戦争の終結、威圧的な外交を研究している著者によるブックトークイベントです。

本書で著者は、詳細なデータと権威ある中国の情報源を用いて、中国が国際舞台での戦略的模倣、搾取、起業家精神を慎重に組み合わせることで大国の地位に上り詰めることができたことを実証し、中国の台頭について、ビジネス戦略や国際関係に関心のある人々を融合させた形でより現実的に説明しています。また、戦略と計画における著者の豊富な軍事的経験に基づき、中国の軍事近代化と米国への挑戦について、わかりやすく解説しています。

登壇者

講演者:オリアナ・スカイラー・マストロ
フリーマン・スポグリ国際問題研究所 センターフェロー / スタンフォード大学 助教授

討論者:益尾知佐子
九州大学大学院比較社会文化研究院 教授/日本国際問題研究所 客員研究員/平和・安全保障研究所 研究委員

司会:佐橋亮
東京大学 東洋文化研究所/未来ビジョン研究センター 准教授

 

※本フォーラムは、外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたします。

過去30年間、中国の台頭は、政治の世界の決定的な特徴となっています。中国は、米国の経済的・軍事的優位性を脅かし、世界の政治情勢を作りかえてきました。中国は、いかにしてその力と影響力を高め、大国の地位に上り詰めたのでしょうか。新著『Upstart – How China Became a Great Power(アップスタート—中国はいかにして大国となったのか)』において、オリアナ・スカイラー・マストロ博士(スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際問題研究所 、センターフェロー)は、政治学やビジネスの文献を掘り下げ、中国が大国へとのし上がるまでの数十年の道のりを説明する革新的な枠組みを構築しています。
2024年6月28日、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)は、マストロ博士をお迎えし、博士の新著について基調講演をいただきました。マストロ博士による基調講演の後、益尾知佐子教授(九州大学)も加わり、質疑応答が行われました。司会は、佐橋亮准教授(東京大学)が務めました。

基調講演
マストロ博士は、講演の冒頭、大国へと上り詰めるに至った中国の戦略的選択についての研究が、全般的に不足している点を強調しました。米国では、中国は米国の物真似をして野心を遂げているにすぎない、すなわち、自国の世界的影響力を高めるため、あらゆる面で力をつけ、競争しようと、米国が用いた方法を模倣しているだけだと広く考えられているものの、博士は、こうした「ミラーイメージング(相手に自己イメージを投影すること)」に疑問を呈します。政治学や新規企業に関する文献を引用し、マストロ博士は、中国のサクセスストーリーを理解するための新たな枠組みを提案しました。さらに、中国が大国の地位に上り詰めることができたのは、競争力のある「アップスタートアプローチ」によるものだと論じました。「アップスタートアプローチ」とは、「模倣(emulation)」(確立された分野において米国の活動を模倣)、「搾取(exploitation)」(新規の競争分野において米国の方法を採用)、「起業家精神(entrepreneurship)」 (新規および既存の競争分野に革新的方法を適用)の三つの要素を組み合わせた方法です。
中国が、その時々に応じて、これら三つのアプローチのいずれを選択するか、あるいは、いつ、どこで競争するかの戦略的選択は、そのアプローチを採用することによって、米国の反発を招くことなく効果的かつ効率的に力を高めることができるかに関する中国の評価に拠ると、マストロ博士は述べました。例えば、中国が比較的優位にあり、米国を打ち負かせると思われる分野、かつ、活動を真似しても、相手に脅威だと映らないと中国が考えた場合には、「模倣」を選ぶと指摘しました。その例として、世界の仲介者としての自己イメージを築こうとする中国の試みや、人民元の国際化、平和維持活動の追求などを挙げました。
また、マストロ博士は、中国が「起業家精神」や「搾取」といったアプローチを使って、経済力や軍事力、政治力をいつどうやって高めてきたかについても、その例を示しました。「搾取」の例としては、米国から武器を購入できない国々への武器の販売、米国の影響力が低い途上国との特恵貿易協定の締結推進、アジアにおける米国の戦力投射の脆弱性につけ入るA2AD戦略(接近阻止・領域阻止戦略)などを挙げました。また、「起業家精神」が垣間見られる例として、同盟ではなく戦略的パートナーシップに依存する中国の傾向、(米国の影響力がそれほど強くない地域での)インフラ建設に焦点を当てた一帯一路構想、米国とは異なる核戦略(最小限抑止、確証報復、先制不使用)に言及しました。
締めくくりに、マストロ博士は、米国およびその同盟国が中国の台頭にいかに対処できるかについて考えを述べました。博士は、中国が力を得た方法を模倣するのではなく、米国とその同盟国は、競争優位性を維持している分野で模倣するよう中国を促し、中国が力を得るために採用する新たな方策を追跡し、中国がその力を拡大するためにつけ入る機会を与えないよう間隙を埋めるとともに、最も重要なこととして、既成概念に捉われず、自分たちの独自のアップスタート戦略を考案すべきだと主張しました。

討論と質疑応答
マストロ博士の講演後、益尾教授が討論に加わりました。益尾教授は、最初に、「戦略」と「アプローチ」にどのような違いがあると考えているのか、マストロ博士に問いかけました。博士の新著では「アップスタート」理論を表現する際に両方の用語が用いられているからです(「戦略」の方が「アプローチ」よりもより多く用いられています)。益尾教授は、戦略は意図的に計画された一連の行動で長期にわたって実施されるものであるのに対し、アプローチは当面の期間を示唆すると主張しました。それに対しマストロ博士は、米国との力の差や競争優位性が絶えず変化するダイナミックな国際環境においては、中国の国力状況も変わる可能性があり、その結果、中国の戦略も今後25年間に変化する可能性があると答えました。また、益尾教授は、習近平政権下の「戦狼外交」は、アップスタート戦略においてどのような位置付けなのか分からないと疑問を呈しました。というのも、前政権である胡錦涛政権が同様の外交術を採るとは、とても想像できないことだったからです。マストロ博士は、政権が変われば優先順位が変わることもあると述べ、中国にとって、米国にできるだけ脅威と見なされないようにすることは、もはや最優先事項ではないように思われると語りました。
続いて、益尾教授は、大国として米国と競争を続ける中国の最終目標について、中国共産党の目標は、世界を一極支配する超大国になることなのかと問いました。それに対し、マストロ博士は、中国は何を追求するにせよ、その費用対効果を考慮するだろうが、最終的に何を望むかは、世界の力のスペクトルの中で中国が実際にどのような位置を占めるかに応じて決定されると答えました。彼らの目標は、可能な限り多くの力と影響力を持つことなのです。
最後に、アップスタート理論は過去あるいは現在の他の新興国にも適用できるのかと、益尾教授が尋ねると、マストロ博士は、その通りだと答えました。歴史を振り返ると、米国は、多くの植民地宗主国とは異なる革新的な方法(国際機関の創設、ソフトパワー重視など)を採用することにより、やがて大国として台頭するに至ったのに対し、日本は、列強の仲間入りをしようと力をつけ始めた当初、英国を模倣し、国家資源を強力な海軍の構築に振り向けたと、マストロ博士は述べました。
最後に、会場からの質問を受け付けました。アップスタート戦略は米国にも適用できるのか、またどうすれば適用できるのかという質問に対し、マストロ博士は、米国の現在の戦略は、ビジネス文献で言うところの「ストラドル・ポジショニング」(二つ以上のカテゴリーにまたがること)に似ていると答えました。これは、大企業が、小さな新興企業にとって有益と思われるビジネスと同じビジネス活動に着手しつつ、今まで通りのビジネスも同時並行で行うことを言いますが、ビジネス文献によれば、こうした試みは多くの場合、両方の分野で失敗するようです。というのも、新規のビジネス分野で新興企業を打ち負かすことができず、コアビジネスの戦略にも悪影響が生じるためです。このようなビジネス戦略に言及し、マストロ博士は、米国が競合できない分野で中国の活動を模倣しようとすれば、米国の今ある競争優位性まで損なわれる可能性があると警告しました。他にも、現在米国が行っている電気自動車・バッテリー開発支援投資の価値、グローバルサウス市場における人民元の国際化、中国のソフトパワーなど、会場からの他の質問に対しても、マストロ博士は、具体的な詳細を交えながら回答しました。最後にマストロ博士は、著書で強調している通り、中国が実際にどう機能しているのかを解明する分野別研究の重要性を指摘して議論を終えました。

*本フォーラムは、外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたしました。

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