SSUフォーラム「米中対立と中国における産業政策の変容」

  • 日程:
    2024年10月03日(木)
  • 時間:
    16:00-17:30
  • 会場:
    Zoomによるオンライン
    ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします。
  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター 安全保障研究ユニット

  • 言語:

    日本語/英語 (Zoomによる同時通訳あり)

  • お申込み:

    下記お申込みフォームからお申し込みください。

    ※東京大学未来ビジョン研究センターは、今後の活動についての情報を提供するため皆様の個人情報を収集させていただいております。
    この情報はいかなる第三者にも開示致しません。

定員に達したため申込みを締め切りました。
概要

2010年代以降、中国政府が打ち出した強力な産業政策は、中国の産業高度化に貢献しただけでなく、米中対立の引き金にもなってしまいました。米国は ①対中輸出規制の強化、②重要新興技術戦略の確立、③独自の産業政策の実施等を通じて、中国に対して技術デカップリングを進めてきました。それに対応するために、中国は ①先端技術の独自開発とそのためのイノベーションシステムの強化、②製造業を中心とする先端技術の社会実装の加速、③「新質生産力」と呼ばれる新たなハイテク産業発展戦略の実施、という三つの面を中心に、産業政策を強化してきました。本講演では、産業政策をめぐる中国の最新の動向を取り上げながら、米中ハイテク競争の今後を展望します。

登壇者

基調講演:丁可 (アジア経済研究所 主任研究員)

討論者 1:菅原淳一 (オウルズコンサルティンググループ シニアフェロー)

討論者 2:李昇柱 Seungjoo Lee (韓国 中央大学 教授)

司会:佐橋 亮 (東京大学 東洋文化研究所/未来ビジョン研究センター 准教授)

 

※本フォーラムは、外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたします。

10月3日、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニットは丁可主任研究員(アジア経済研究所)をお迎えし、米中ハイテク競争下で産業政策をめぐる中国の最新の動向について基調講演をいただきました。発表の後、菅原淳一様(オウルズコンサルティンググループ)と李昇柱教授 (韓国中央大学)が議論に加わり、その後、聴衆から質問を募りました。同フォーラムでは、佐橋亮准教授が司会を務めました。

基調講演
まず、冒頭丁主任研究員は、2010年代以降中国が顕著な産業高度化を経験し、世界第一の製造大国になった経緯等をデータを示しつつ説明しました。また、その背景には大規模な補助金を含む産業政策があったこと、中国の産業政策の目標はキャッチアップというよりリープフロッグを狙ったものであったこと等につき指摘がありました。その後、米中対立の文脈で米中双方がとった措置について触れられました。特に、中国がとった措置として、①先端技術の独自開発とそのためのイノベーションシステムの強化、②製造業を中心に先端技術の社会実装、③「新質生産力」の発展の推進を挙げられました。
① については、特に、中国における地域間競争が激しい企業間競争を呼び、勝ち残
った企業が成長する一方、過剰生産や地方の深刻な債務問題を引き起こすこととなったことについて説明がありました。また、②については、中国製造2025や一帯一路に沿って中国発のIoTシステムが社会実装されていった過程について説明がありました。③については、中国政府が重視する新興産業と未来産業の育成について述べられました。
その後、中国側から見た今後の課題として、加熱する競争の中で協調が見られるか否か、グローバルサウスの取り込みの可能性等について指摘されました。最後に将来の展望として、今後中国側がコア技術の独自開発に成功し、かつ独自のエコシステムやソリューションをグローバルサウスに広げることができれば、先端技術に関しては、ある程度の“one world, two systems”が生まれる可能性がある、その場合、米中とも部分的にとはいえ、相互依存の武器化に由来する不安や焦りから解放される可能性があると述べられました。

ディスカッション及び質疑応答
これに対して、菅原様からは、①中国の産業政策と西側諸国の産業政策の違いは何か、②中国の過剰生産は政権による戦略なのか、また、成功しているのか、③日本企業はどのように対応すべきか、について疑問が投げかけられました。①については、各国とも「保護」(技術規制)、「振興」(産業政策)、(同志国との)「連携」の組み合わせで経済安全保障の確保を進めている点は共通しており、産業政策では、バイデン政権も日本政府も半導体の研究開発・製造などに多額の補助金を供与している点等につき紹介がありました。また、②過剰生産についてその構造的要因やG7等国際社会での取り上げられ方、③米中分断により企業が直面する課題と対応策についても説明がありました。
次に李教授から、世界で産業政策が広まっている背景について説明があり(WTOの機能障害、FTAの限界、金融危機による行き過ぎたグローバリゼーションへの警戒感の高まり、地政学的要因等)、中国の昨今の産業政策は伝統的な産業政策とどう異なるのか(経済効率性の追求、特定のセクターか産業全体に亘るものか、科学技術政策との関係性、社会的課題解決への貢献度等)について質問がありました。その後、韓国の産業政策について、その受動性や国内の産業政策の特徴等に触れつつ説明がありました。
これに対し、丁主任研究員から、中国の産業政策と欧米諸国の産業政策の類似点と相違点、中国の過剰生産は、政府政策の影響は一定程度あるが、本質的には地域間競争の構造が原因となっている側面が大きい、今後欧米諸国は高関税政策をとる見込みであるが、中国企業の対内投資は歓迎する可能性もある、日本企業にとっては、中国で活動する企業はin China for Chinaということで中国国内で完結する活動を進めれば良いし、第三国で活動する日本企業にとって現地に進出する中国企業との競争は企業の発展への良い意味での圧力になりうるので、必ずしも悪いことではないとの回答がありました。
また、その後フロアからは、中国における地方を含めた補助金は持続可能か、20年前に中国は炭素繊維等に補助金を拠出したが成功しなかった、昔と今で補助金とどう異なるか、過剰生産問題について中国はどれほど真剣に向き合っているのか、米国の次期政権によって中国の産業政策にどう影響があるか等の質問があり、丁主任研究員からは、現在の中国の補助金は地方政府の土地売却収入を重要財源にしている限り持続可能とは言えない、イノベーションや技術革新に長く時間がかかるような累積的イノベーションの分野への補助金は中国においてはうまくいかない可能性がある、地域間競争の構造がある限り、過剰生産は続いていく可能性がある、トランプ政権も高関税政策はとるであろうが、中国企業による対米投資は認める可能性があるといった回答がありました。

*本フォーラムは、外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたしました。
*動画はオリジナル言語のみとなります(一部英語あり)

動画1


動画2