東京大学未来ビジョン研究センター・東京大学大学院法学政治学研究科共催シンポジウム「AIと知的財産制度:中期的展望」
-
日程:2025年02月27日(木)
-
時間:15:00-18:00
-
会場:Zoom Webinar によるオンライン開催
-
主催:
東京大学未来ビジョン研究センター 知的財産権とイノベーション研究ユニット/産学および社会連携システム研究ユニット
東京大学大学院法学政治学研究科 先端ビジネスロー国際卓越大学院プログラム -
協力:
一般社団法人日本知財学会
-
言語:
英語(同時通訳あり)
-
申込:
事前申し込み制(参加無料)
下記申込みフォームからお申込みください。※未来ビジョン研究センターと先端ビジネスロー国際卓越大学院プログラム事務局は、本イベントのZoom URL情報を提供するため、また、今後の活動についての情報を提供するため皆様の個人情報を収集させていただいております。この情報はいかなる第三者にも開示いたしません。
人工知能(AI)の急速な発展は、現在、社会や産業に大きな変化をもたらしています。知的財産権の 分野においても、AIと知的財産権の問題は世界的に最も重要な課題となっています。知的財産制度は、自然人による創造を促進し、人類の文化や産業の発展を支えてきました。しかし、高度なAIの登場により、知的財産制度の根幹に関わる問題が生じています。
本シンポジウムの目的は、現在の問題への短期的な対応を議論することではなく、今後5年から10年の間におけるAIと知的財産権の関係について考察することにあります。特に、発明および著作権に焦点を当て、2名の講演者による発表の後、学生や若手研究者、専門家といった未来のステークホルダーを交えたディスカッションを行い、AIと知的財産権の中長期的な関係を探ります。
-
1. 基調講演「AI and IP」
Dr. Ulrike TILL
(Director of the AI Policy Division at WIPO)田村 善之
(東京大学大学院法学政治学研究科 教授) -
2. Q&A パネルセッション
[学生/若手研究者]
東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻(TMI)
東京大学公共政策大学院
東京大学大学院法学政治学研究科先端ビジネスロー国際卓越大学院プログラム
ほか調整中[コメンテーター]
田丸 健三郎
(デジタル庁ガバメントソリューション技術統括、一般社団法人AIデータ活用コンソーシアム(AIDC)理事、日本マイクロソフト株式会社技術統括室 業務執行役員)柴野 相雄
(TMI 総合法律事務所パートナー 弁護士)山本 英一
(内閣府知的財産戦略推進事務局 参事官)吉岡(小林) 徹
(一橋大学経営管理研究科 准教授)ほか調整中
-
3. クロージング
東京大学未来ビジョン研究センター
知的財産権とイノベーション研究ユニット事務局
Email:wlab★ifi.u-tokyo.ac.jp (★→@)
本シンポジウムは、東京大学未来ビジョン研究センターと大学院法学政治学研究科が共催し、AIの進化が知的財産(IP)制度に与える影響について議論するものです。特に、発明や著作権に対する影響に焦点を当て、今後10年間で予想される変化について専門家や若手研究者が討論しました。
1. フロンティア技術と知的財産
AIは、ビッグデータ、メタバース、バイオプリンティング、量子コンピューティングなどの「フロンティア技術」の一部であり、2020年時点で約1兆5000億ドルの市場価値を持つと推定され、2030年には9兆5000億ドルに達すると予測されている。この経済的影響は知的財産制度にも大きな変化をもたらすと考えられる。
特許出願の動向を見ると、AI分野の特許出願数は2017年以降で800%以上の成長を遂げ、著作権分野では世界中のミュージシャンの60%以上がAIツールを利用するようになった。このような変化は、知的財産権のあり方に新たな課題をもたらしている。
2. 知的財産制度におけるAIの影響
従来、知的財産制度は「人間の創造と発明を保護する」ことを目的としていた。しかし、AIが関与することで、以下のような課題が生じる。
1.発明の主体性問題
AIが創作や発明を行った場合、その権利を人間が有するべきか、AI自身が発明者として認められるべきかが問われる。
・「DABUS事件」では、AIが発明者として特許を取得できるかが争点となり、現行の特許法では発明者は人間でなければならないとされた。
2.特許制度の適用範囲
・AIモデルそのものを特許として保護できるか?
・AIを用いた発明を、どの程度「人間の発明」と見なすべきか?
・AIが過去のデータを学習し、統計的に最適な解決策を導く場合、それは「進歩性」がある発明とみなせるのか?
3. 著作権とAI生成コンテンツ
・日本の著作権法では「自然人」が創作したもののみが著作物として保護されるため、AIが創作した作品に著作権が認められない可能性が高い。
・ただし、AIがツールとして利用された場合、創作過程における「人間の関与度」が重要な判断基準となる。
3. 今後のシナリオ
本シンポジウムでは、AIの進化に伴う知的財産制度の未来について4つのシナリオが示された。
1. 現状維持
・AIは現在の知的財産制度の枠組みの中で扱われる。
・既存の特許法・著作権法を適用しながら、個別のケースでガイドラインを策定する。
2. AIが発明への関与を強める世界
・AIが発明の主体として重要な役割を果たすが、人間の関与も維持される。
・AIが発明の補助的な役割を果たす場合でも、特許制度の要件(進歩性、新規性、開示要件)を適用可能かが議論される。
3. AIが完全に自律的に発明する未来
・AI自身が発明者となる可能性があり、特許制度の枠組みを再考する必要がある。
・AIの発明を特許として保護しない、あるいは新たな知的財産権(短期間の権利付与)を導入する選択肢が考えられる。
4. 量子コンピューティングなどの他の技術と融合する未来
・AIのみならず、量子コンピューターなどの技術が発展し、知的財産の管理がより複雑化する。
・知的財産制度が急速な技術革新のスピードに追いつけなくなる可能性がある。
4. 著作権侵害の問題
AIが既存の著作物を学習し、新たなコンテンツを生成する場合、著作権侵害が問題となる。特に、次の点が議論された。
1. 依拠性(原作品に基づいているか)
・AIが既存の作品を「学習」している場合、それは著作権侵害にあたるのか?
・AIによる創作が独立したものなのか、既存の著作物の派生作品なのかを判断する基準が必要。
2. 類似性の判断基準
・AI生成作品が既存の著作物とどの程度類似していれば侵害となるのか?
・スタイルやアイデアの模倣は著作権侵害にならないが、AIによる模倣が「創作」と見なされる可能性もある。
3. データマイニングと著作権法の適用
・日本では「TDM(Text and Data Mining)例外」として、機械学習のためのデータ利用が一定範囲で認められているが、その適用範囲の見直しが求められる可能性がある。
5. まとめ
AIが進化し、知的財産制度に与える影響は今後ますます大きくなる。現行の制度では、AIを「ツール」として捉えた上で、その関与度によって権利の帰属を判断する必要がある。しかし、一般的な人工知能(AGI)の実現や、AIが発明・創作を主体的に行うようになれば、特許や著作権の考え方を根本的に見直す必要がある。今後の政策立案では、技術の発展速度に対応しながら、多様な利害関係者の意見を取り入れた柔軟な制度設計が求められる。