SSUフォーラム『タブーを破った外交官 田中均回顧録』出版記念講演会
-
日程:2025年12月22日(月)
-
時間:16:00-18:00
-
会場:【オンライン】Zoomによるウェビナー 【対面】東京大学国際学術総合研究棟4F SMBCホール
対面参加会場 地図 -
主催:
*東京大学東洋文化研究所佐橋研究室
*東京大学未来ビジョン研究センター 安全保障研究ユニット (SSU) -
言語:
日本語
-
お申込み:
下記お申込みフォームからどちらかお選びいただき、お申し込みください。
*Zoom参加用のURLはイベント前日に事務局より送信いたします。
*未来ビジョン研究センター(IFI)と東洋文化研究所は、今後の活動についての情報を提供するため皆様の個人情報を収集させていただいております。
この情報はいかなる第三者にも開示致しません。
このたび、本学の公共政策大学院元客員教授で外務審議官であった田中均氏が本学の佐橋教授らの編集で回顧録を出版しました。日朝平壌宣言や日米安保「再定義」、韓国との歴史問題、東アジア共同体など、冷戦終結後の日本が直面した数々の外交案件に取り組んだ外交官が、どのような思いで外交に取り組んできたのかや、これからの日本外交があるべき姿について語ります。編者である井上正也・慶應義塾大学教授、佐橋亮本学教授らと共に鼎談も行います。
2025年12月22日、元本学公共政策大学院客員教授であり、元外務審議官、現・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問の田中均氏の回顧録が10月に出版されたことを記念し、講演会が開催されました。本講演会は、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニットと東洋文化研究所佐橋研究室の共催により実施されました。
田中氏による講演の後には、回顧録の編者である井上正也・慶應義塾大学法学部教授、佐橋亮・東京大学東洋文化研究所教授を交えた鼎談が行われ、最後に参加者との質疑応答が行われました。参加者は、対面出席者が約80名、ウェビナー出席者が約240名にのぼり、盛況な講演会となりました。
講演の中で田中氏は、回顧録を執筆することについて、「自分を美化することになりかねないため、当初はネガティブだった」と述べつつも、「自分が何をやったかということよりも、今の時代に妥当性のあるメッセージを発信したかった」と語りました。
田中氏は、本書のタイトルにもなっている日本外交の「タブー」として、米国、政治、そして世論の三つを挙げました。米国との関係については、日本自身が自国のために何が必要なのかを主体的に考え、先んじて行動することの重要性を強調しました。また、アジア諸国との協力こそが、対米関係における「テコ」になると述べ、東アジア共同体構想や小泉純一郎総理の北朝鮮訪問などの具体例に言及しました。さらに、たとえ米国から反対される場合であっても、粘り強く説得を続けること、そしてその前提として信頼関係を構築することが重要であると指摘しました。その文脈の中で、当時米国務副長官を務めていたリチャード・アーミテージ氏に小泉首相の訪朝について説明した際、「同盟国である米国が、日本が自らのアジェンダを追求することを妨げるはずがないではないか」と返されたという逸話を紹介しました。
政治と世論の関係について、田中氏は、この二つが結び付いたときに生じ得る最も恐ろしい現象としてポピュリズムを挙げ、警鐘を鳴らしました。1990年代に日米同盟のガイドライン策定に関与した経験を踏まえ、高市早苗総理の発言をきっかけに世論の注目を集めた「存立危機事態」という概念について、その内容が過度に単純化されて理解されていると指摘しました。その上で、十分な情報提供がなされないまま実施された世論調査の結果を前提に政治判断が行われることの危険性を訴えました。また、政治と官僚の関係の在り方として、外務官僚がプロフェッショナリズムに基づき、政治に対して正しい決断を促す関係性の重要性についても強調しました。
講演会に続いて行われた鼎談では、東京大学の佐橋教授が、田中氏のオーラル・ヒストリーを企画した理由について説明しました。それは、優れた業績を残した外交官の記録を後世に残すことに加え、田中氏が重視してきた「大きな絵を描き、戦略を立てた上で交渉に臨む」という考え方が、将来の外交官のみならず、企業で働く人々や研究者にとっても応用可能性が高いと考えたためであると述べました。
また、慶應義塾大学の井上教授は、回顧録のタイトルである「タブー」について、冷戦期の憲法や日米関係のバランス、GATTなどを念頭に置いていたと説明しつつ、読者の立場からは、さらに多様な解釈が成り立つ余地があると語りました。加えて、佐橋教授と井上教授は、田中氏がこれまで数多くの発信を行ってきたことを踏まえ、既存の枠組みにとらわれない応答を引き出すために、質問の立て方を工夫したことを明らかにしました。
質疑応答では、政治が大衆迎合的になる中で官僚の弱体化が進んでいる現状に対する懸念が参加者から示されました。また、「北朝鮮外交において突破口を開くことは可能なのか」「過去にはなぜそれが可能だったのか」といった趣旨の質問も寄せられました。これに対し田中氏は、「歴史、価値観、経済力、将来の展望といったあらゆる要素を含む大きな絵を描き、相手を引き込むことができれば、日本にも希望はあるのではないか」と述べました。さらに、北朝鮮は日本を強い国として認識しているのだから、日本の力を過度に悲観する必要はなく、北朝鮮を説得するための材料を丁寧に準備することが重要であると強調しました。