SSUフォーラム/GraSPPリサーチセミナー:デイビッド レーニー教授(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科)

  • 日程:
    2019年05月10日(金)
  • 時間:
    10:30 - 12:00
  • 会場:
    東京大学本郷キャンパス 国際学術研究棟4F SMBCアカデミアホール
    地図
  • 題目:

    “Empire of Hope:The Sentimental Politics of Japanese Decline”

  • 講演者:

    デイビッド レーニ―教授(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科)

  • 言語:

    英語

  • 定員:

    80名

  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット
    GraSPPリサーチセミナー
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定員に達したため申込みを締め切りました。
概要

In this talk, Leheny will introduce his book Empire of Hope: The Sentimental Politics of Japanese Decline (Cornell University Press, 2018), focusing on case studies illustrating how a national narrative of “the long postwar” has shaped the ways in which emotion can be deployed in Japanese debates about politics, status, and international relations. The book challenges new analyses of emotion and politics more broadly by focusing on the role of narrative in structuring emotional claims that are usually distant from the actual feelings of actors themselves.

未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)は、早稲田大学アジア太平洋研究科のDavid Leheny教授をお招きし、公共政策大学院との共催による講演会を開催しました。講演タイトルである 「Empire of Hope:The Sentimental Politics of Japanese Decline(希望の帝国:日本の衰退に関する感傷的政治学)」は、2018年11月に出版された同名の著書に基づいています。

司会を務める藤原帰一教授は、講演者と参加者に感謝を表明し、第二次世界大戦後の日本のアイデンティティ形成と再形成に関する書籍を著した、日本政治の卓越した研究者としてLeheny教授を紹介しました。Leheny教授は、コーネル大学のPeter Katzenstein教授の弟子であり、東京大学、ウィスコンシン大学マディソン校、そしてプリンストン大学で研究したのちに早稲田大学に着任されました。

Leheny教授は主催者に感謝し、東京大学社会科学研究所の若い研究者として自身の職歴が始まったことを語りました。そのうえで、今回出版した著書の目的と構造を説明しました。それは昭和後期からバブル後の平成時代までの日本にまたがる一連の出来事を通して日本国民の集団感情を研究するというものです。

感情と政治のつながりに関する研究は近年増加し、研究分野として確立されてきました。しかし既存研究の多くは、行動モデルに基づいた説明に合わせるため、感情をある種の変数に変換してとらえてきました。こうした研究は、ある政治的共同体がある感情の高まりへの反応としてどのように振舞うかを予測することを可能にするでしょう。また、集団感情の創出に焦点を当てた研究もあります。政治権力者が「わが国はこのように感じている」と言うとき、どのような論理を背景としてこうした集団感情は表明されるのでしょうか。これは「語り」に関する研究、すなわちどのような表象を用いて世界を表現するかという研究にもつながっています。これらの研究は国際政治という非常に複雑な環境において私たちが方向性を定める際の助けになります。

一方で、本書での議論は、合理的な政治プロセスには常に感情が埋め込まれているというものです。同時に、感情は政治的共同体の輪郭を形作ります。例えば日本の場合、第二次世界大戦後の長年の変化は、壊滅的な敗北からの復興に成功した国という語りと、達成感および自己満足感という感情によって特徴づけられてきました。

この点を説明するため、Leheny教授は「ベトちゃん、ドクちゃん」について中心的に書かれた第3章の内容を紹介しました。1981年に生まれたベト(Viet)とドク(Duc)は、ベトナム戦争中に米軍が散布した枯葉剤の影響による連結双生児でした。枯葉剤の散布は、ベトナム農村住民の健康に深刻な影響を与え、特に先天性障害の発生を招きました。ベトとドクは生後間もなく育児放棄されましたが、ベトナムにおける急速な健康の悪化を問題視した活動家や医師によって、日本での市民連帯運動が始まりました。治療のために双子が日本に移送されると、彼らの物語は世間の注目を集め、感情を揺さぶりました。日本には、ベトナムでの米軍に対する日本の兵站支援を止められなかったという罪悪感があると同時に、日本は米国との戦争に敗れたが復興に成功し、ベトナムは米国との戦争に勝利したが経済的には貧しく、社会基盤や自国民を助ける専門知識を欠いているという気持ちもありました。ベトとドクの物語は、政治的示唆を含んでいたのです。双子を日本に移送してきたベトナムチームのメンバーが米国に亡命し、ベトナムとの関係に亀裂が生じるという出来事もありました。さらに、この活動自体は日本の左翼活動家によるものであったとしても、保守的な中曽根首相が、米国とは対照的に他のアジア諸国に配慮する日本というイメージを国際的に広める機会にもなりました。ベトとドクの物語は、日本ではとても有名です。国内メディアは彼らの分離手術とその後の経過を取材しました。悲しいことにベトは2007年に亡くなりましたが、ドクは幸運にも生き延び、日本とベトナムの関係において重要な人物となりました。

※本フォーラムは、当センターが委託を受けた外務省外交・安全保障調査研究補助金事業と関連したテーマで開催されたものです。