SSUフォーラム「”European Responses to Chin-Integration or Fragmentation?”
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日程:2019年05月28日(火)
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時間:10:30-12:00
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会場:東京大学本郷キャンパス 国際学術研究棟4F SMBCアカデミアホール
地図 -
題目:
“European responses to China – integration or fragmentation?”
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講演者:
Ulf Sverdrup教授(ノルウェー国際問題研究所所長)
Wrenn Yennie Lindgren研究員(ノルウェー国際問題研究所) -
言語:
英語
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定員:
80名
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主催:
東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット
GraSPPリサーチセミナー
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While the increasingly tense relationship between the US and China captures
most of the attention in international affairs today, there are also
considerable dynamics in the relationship between Europe and various Asian
partners. Recently, Japan has further intensified its relationship with the
EU, establishing both an Economic Partnership Agreement and a Strategic
Partnership Agreement, and Prime Minister Abe visited the EU in April. A
key issue for Europe is how Europeans can best deal with China. Is it
through the development of a more united and integrated policy, or is it
through more fragmented policies shaped by the different interests of the
various member states? A better understanding of this issue will help us
shed light on the nature of the EU as a global actor and the future of
multilateralism. In this talk, Ulf Sverdrup and Wrenn Yennie Lindgren will
discuss some of the recent developments in Europe’s approach to China,
including attempts to create more unified policies, as expressed by the
2019 EU-China Strategic Outlook. In their presentation they will also shed
light on issues related to Sino-Nordic relations.
中国に対する欧州の対応:統合か分裂か
未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)は、ノルウェー国際問題研究所(NUPI)の所長であるUlf Sverdrup教授とWrenn Yennie Lindgren研究員をお招きし、公共政策大学院との共催による講演会を開催しました。
司会者の青井千由紀公共政策大学院教授は二人の講演者を紹介した後、欧州諸国および組織体としての欧州連合(EU)が東アジアで果たす役割の重要性を指摘しました。
Sverdrup教授は、主催者、司会者、およびSSUの責任者である藤原帰一教授に感謝の意を表明したうえで講演を始めました。
はじめに、タイトルにある「統合」と「分裂」に込められた意味を説明しました。中国に対する欧州のアプローチは、足並みがそろっているといえるでしょうか。ほんの数年前に東京大学で同様のセミナーが行われた際の論点は、直面する危機をEUが乗り越えられるかどうかでしたが、EUは今もなお存在しています。EUと中国の関係に注目すると、米中関係の現在と将来的な展開によって欧州が大きな影響を受けるであろうことは明白です。それは貿易戦争に限らず、米国が中国への戦略的関与を見直していると思われる出来事が起きているためです。欧州も同様の変化に向かって動きつつあります。
欧州にとっての中国の重要性は、2つの意味において高まっています。第1に、世界のGDPに占める中国の割合が高まっていること、第2に、欧州への中国の投資が今や米国をしのいでいるためです。欧州から中国への投資よりも、中国から欧州への投資のほうが多くなっているのです。中国に対するEUのアプローチは、安全性を犠牲にすることなしに開かれた社会の利益を維持し、不要なセキュリティリスクを回避しながらも保護主義を避け、EUの構造的弱体化を避けることを重視しています。もし誰かが「欧州と中国の取引は、より一貫性を持ち、相互依存し、構造的に結びついたものになっていますか」と尋ねたならば、その答えは「イエス」です。Sverdrup教授は、当然のことながら、こうした結びつきの強化にもかかわらず、欧州と中国とのやりとりは欧州内の多くの経済的、政治的、文化的な違いを反映しており、そのために複雑なプロセスになっていると指摘しました。かつてのEUは中国との取引において近視眼的でしたが、欧州委員会が最近発表した「EU-中国:戦略的見通し」と題された白書にも反映されているように、現在は戦略的ビジョンが描かれるようになっています。この白書は数多くのコメントや批判を集めていますが、それは、中国に対する欧州の対応が変化していることを示しています。EUと中国は様々なレベルで関係を構築し、各国がそれぞれ異なる見方で中国を見ています。ときには国際協力などにおける連携相手として、ときには経済的競争相手や制度上のライバルとして。EUは、米国の国家戦略用語にある「戦略的競争相手」というラベルを中国に貼ってはいません。欧州委員会は、中国とのより良い関係性は、二国間関係の深化から生じるべきであり、よりバランスのとれた完全な相互主義の条件を達成するべきであると考えています。欧州はまた、産業基盤、価値観、社会モデルを維持するために、いくつかの主要分野における国内政策を強化すべきです。なかでも重要な政策は、EUの市場力を生かし、市場にアクセスするために遵守すべき規範を圧力として活用し、中国との関係性を築くことです。
続いてYennie Lindgren研究員は、ノルウェー、デンマーク、アイスランド、スウェーデン、フィンランドの5か国と中国との関係について説明しました。北欧諸国はその多様性にもかかわらず多くの歴史的、文化的特徴を共有し、一つの共同体を形成しています。共同体としての北欧諸国は、どのように中国と向き合っているのでしょうか。Lindgren氏は、この問いを分析した編著China and Nordic Diplomacy (2017)を提示することで答えを示しました。中国の最大の関心は、グリーンテクノロジーに関する北欧諸国の専門知識とノウハウにあります。確かに、北極圏は中国の活動が増加している地域であり、また気候変動の影響を受けて、将来さらに活動が増加する可能性があります。2013年以降、中国は北極評議会のオブザーバーを務めています。一方、北欧諸国は、中国の行動が国際法の原則に沿うよう維持することに関心があります。より一般的には、北欧諸国はグローバルガバナンスに多額の投資をしており、現在の自由な国際秩序の構造を可能な限り維持しようとし、またより広い欧州の文脈の中でそしてEUを通じて活動しています。
※本フォーラムは、当センターが委託を受けた外務省外交・安全保障調査研究補助金事業と関連したテーマで開催されたものです。