SSUフォーラム/GraSPPリサーチセミナー:”UN Peace Operations: Today and Tomorrow”

  • 日程:
    2019年10月16日(水)
  • 時間:
    10:30-12:00
  • 会場:
    東京大学本郷キャンパス 国際学術研究棟4F SMBCアカデミアホール
    MAP
  • 題目:

    “UN Peace Operations: Today and Tomorrow”

  • 言語:

    英語

  • 定員:

    80名

  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット
    GraSPPリサーチセミナー
    未来ビジョン研究センターとGraSPPリサーチセミナーは、今後の活動についての情報を提供するため皆様の個人情報を収集させていただいております。
    この情報はいかなる第三者にも開示致しません。

定員に達したため申込みを締め切りました。
講演者

アトゥール・カレ(国連活動支援担当事務次長)
岩井 文男(内閣府国際平和協力本部事務局長)

概要

現在、世界には50の紛争地域があり、また、武力紛争の形態は国際紛争から内戦や国家の境界を越えた勢力間の紛争へとより複雑化してきている。国連PKOもまた、より複雑化した紛争に対峙することを課せられている。
このセミナーでは、持続可能な平和を実現する為に、国連PKO活動の効率化に向けての現在の取り組みと将来の展望を考察することを目的とし、来日中のアトゥール・カレ国連活動支援担当事務次長を迎え、日本の国連PKO活動への参加をサポートする内閣府国際平和協力本部事務局の岩井文男局長と共に考察する。
登壇者は、それぞれ代表する機関の立場から、国連PKO活動が今日対峙するオペレーション側面からの課題と対策を活動支援局の改革、国連PKOの行動計画や女性のPKO活動への参画や、日本が現在国連と参加国と共に行っている三角協力プロジェクトなどの能力構築支援活動などに言及しながら、将来への取り組みを考察する。

講演者略歴

Mr. Atul Khare has been Under-Secretary-General for Field Support, Department of Field Support of the United Nations since 2015. In prior to his current appointment in New York, Mr. Khare was Assistant-Secretary-General leading the Change Management Team, and Assistant Secretary-General for Peacekeeping Operations and Deputy Head of the Department of Peacekeeping Operations. He had also served as Special Representative of the Secretary-General for Timor-Leste and Head of the United Nations Integrated Mission in Timor-Leste (UNMIT), Chief of Staff and Deputy Special Representative of the Secretary-General with the United Nations Mission of Support in East Timor (UMISET). Before joining the United Nations, he has served in various countries with the Indian Foreign Service. Born in India in 1959, he is married.
Mr. Fumio Iwai has been Director General of Secretariat of the International Peace Cooperation Headquarters of the Cabinet Office of Government of Japan since 2018. In prior to his current position in Tokyo, he was Ambassador Extraordinary and Plenipotentiary in Iraq. He has served for 34 years in foreign service, holding positions such as Deputy Director-General of Middle Eastern and African Affairs Bureau of the Ministry of Foreign Affairs, Deputy Consul-General of Japan in New York, and Minister and Deputy Chief of Mission of Embassy in Saudi Arabia. He studied law at Kyoto University. Born in 1960, he is married.

未来ビジョン研究センター(IFI)の安全保障研究ユニット(SSU)は、公共政策大学院との共催により、国連活動支援担当事務次長(Under-Secretary-General for Operational Support, United Nations)のアトゥール・カレ氏と、日本の内閣府国際平和協力本部事務局長の岩井文男氏を迎えての講演会を開催しました。

講演会の司会を務める藤原帰一法学部教授・未来ビジョン研究センター長は、開会に際して、大学の使命は、国際平和協力のように差し迫った問題に対処するための助言を社会に提供することにあり、国際平和協力を実現するためには、平和維持活動に代表される具体的な行動が求められると強調しました。続いて藤原教授は、二人の講演者を紹介しました。カレ氏は、平和維持活動という、多大な事務的・組織的な運営努力と、複雑な政治的背景への考慮を求められる業務を担当する国連職員です。岩井氏は、前駐イラク日本大使を務めた後、現在は日本の平和維持活動を担当している、経験豊富な外交官です。

カレ氏は、東京大学および日本政府への感謝を述べた後、多くの方が講演会に参加しているのは日本人が平和維持活動に高い関心を持っているためであり、喜ばしいことであると述べました。また、台風被害に遭った方へのお見舞いと、救援活動への政府の尽力に称賛の意を述べました。

日本は長い間、国連を通じて国際の平和と安全に寄与してきました。日本は国連に世界第3位の資金的貢献を行うとともに、多くの外交要員、文民要員、軍事部隊要員を派遣してきました。平和維持活動は、140以上の国から100万人以上の要員が世界各地に展開する、協調的な活動です。国連だけでは平和を回復・維持することはできません。コートジボワールやリベリアで見られたように、多くの国々が安定と復興のために力を尽くすことで平和は実現できるのです。日本は、カンボジアと東ティモールでの成功事例に直接的な貢献をしました。カレ氏は、カンボジアでの平和交渉に尽力した明石康氏を思い起こし、彼を尊敬していると述べました。カンボジアでは、残念なことに日本人2名が命を落としました。一人は警察官で、もう一人は文民でした。東ティモールでカレ氏は、国連ミッションの事務総長特別代表として多くの日本人と一緒に活動する機会を得ました。東アジア地域出身の副代表を任命してほしいとアナン事務総長に依頼し、川上貴久氏が選ばれました。川上氏は経験豊富な外交官であり、東ティモールの安定した平和を実現するという目標のために休みなく働きました。2010年に亡くなりましたが、彼の遺志は今も引き継がれています。

年月が経つとともに、国連平和維持活動の目的と性質は変化してきました。国家間戦争ではなく、和平プロセスが存在しないような地域の国内紛争に従事するようになりました。犯罪とテロリズムが、国連ミッションが直面する重要な問題となりました。紛争はますます複雑になり、インフラが整わないへき地への物資供給や感染症の脅威によって安全を確保、維持することはますます難しくなりました。同時に、資金的な困難もあります。そうした困難を克服するためには、平和維持活動を支援するすべての人々の力を結集し、調整する必要があります。

アントニオ・グテーレス事務総長は昨年、次の3つの原則に基づき、平和維持活動を含む国連システムの大幅な改革を開始しました。1)現実的な期待、2)平和維持活動の強化と部隊の安全確保、3)政治的解決および要員の訓練と装備のための加盟国のコミットメントを得ることです。事務総長はまた、「政治、女性の平和と安全、保護、安全保障、パフォーマンスと説明責任、平和構築・維持、パートナーシップ、PKOの実施」という8分野を含む「PKOのための行動(Action for Peacekeeping:A4P)イニシアティブ」に着手し、測定可能な目標を設定しました。20加盟国が、いずれかの分野で目標を実施するためのリーダーになることを宣言しています。日本は、パフォーマンスとアカウンタビリティの改善に名乗りを上げました。

カレ氏は、担当である国連フィールド支援局の説明に話をうつしました。パフォーマンスとアカウンタビリティの分野においては、供給システムを集中化して効率性を高めるために、新しい部局が設立されました。署名のない覚書の数は記録的に減少し、今後も減少していく計画です。要員提供国によって配備される装備の品質に応じた支払いに関する新しいフィードバック・システムが導入されました。治安と安全保障の分野では、残念ながらすべての死が予防できるわけではありませんが、行方不明や時宜を得ない支援による死はなくせるはずです。フィールド支援局はデータ収集のみならず、ベスト・プラクティスを評価・実践して、平和維持ミッションの医療・病院チームを改善するために技術を活用しています。活動の更新のために5年プログラムが設定されているため、技術は重要です。しかしながら、適切な訓練を受けた要員なしでは技術は有効活用できません。日本は、安倍首相の指揮下で、特に技術者養成のための訓練を積極的に提供しています。日本はそのような目的のために8300万ドルを拠出し、アフリカで訓練コースを運営するために自衛隊を派遣しました。現在はアジアでも、要員提供国の兵士に対してブルドーザーや掘削機などの重機の操作方法を訓練したり、信号受信について女性兵士を訓練したりしています。

結論としてカレ氏は、PKOは過去数十年間に多くの成功を収めてきたが、改善が必要な分野もあると述べました。更なる改善のために国連は協力を必要としています。加えて、成功の鍵はイノベーションにあります。最後にカレ氏は、日本の政府、警察、自衛隊、そして市民による多大なる尽力に感謝を述べました。

岩井氏は、はじめに藤原教授および公共政策大学院のヘン・イー・クアン教授に感謝を述べてから話を始めました。岩井氏は、平成時代とは、自衛隊の海外派遣を含むPKOの実施方法を日本がゼロから学んだ時代であったことを強調しました。1991年、日本はクウェートを解放する国際社会の活動に自衛隊を派遣しませんでした。そのため、莫大な資金的貢献を行ったにもかかわらず日本は評価を受けませんでした。その直後から、そうしたミッションを可能にする法的および実践的条件を整備する必要があるとの議論が始まりました。その結果として、1992年にPKO協力法が成立し、カンボジアに最初の派遣が行われたのです。それ以降、日本は28件のPKOミッションに参加し、計1万2500名の要員を派遣してきました。要員の97%は自衛隊員です。

全体的な傾向として、国連の軍事要員の構成はこの数十年で大きく変化してきました。現在では、軍事要員の大部分は開発途上国から提供されています。そのために、適切な訓練によって要員の能力を強化することが必要不可欠になっているのです。カレ氏が述べたように日本政府が最初はアフリカ、現在はアジアでも国連PKO支援部隊早期展開プロジェクト(RDEC)のような技術訓練プロジェクトを創設した理由はそこにあります。これまでに、17か国からの約300名の兵士が重要な技術を身につけてプログラムを完了しました。訓練は比較的短期間で行われますが、その効果は長く、現場での活動に大きな違いをもたらします。訓練と同時に、日本は国連でのマニュアル作成と基準作りおよび標準化に尽力しています。それによって、世界中に広がる部隊が同じ仕様にしたがって作業を進められるようになります。

さらに日本は、女性・平和・安全保障の国別行動計画を策定しました。女性が平和プロセスに関わることは重要であり、女性が積極的に参加した和平合意は安定化することが研究により示されています。また岩井氏は、最も多くの国連PKOが実施されているアフリカに日本が関わることの重要性を強調しました。最後に、多くの課題は残されているが、より多く、より良い関与こそが必要であると述べました。

※※本フォーラムは、当センターが委託を受けた外務省外交・安全保障調査研究補助金事業と関連したテーマで開催されたものです。