第8回日韓対話

  • 日程:
    2019年11月16日(土)
  • 時間:
    9:45-17:40
  • 会場:
    東京大学本郷キャンパス 国際学術研究棟4F SMBCアカデミアホール
    MAP
  • 題目:

    “U.S.-China Competition: Securitization of Technology and Its Implications for the International Relations in Northeast Asia”

  • 言語:

    (午前)英語 (午後)日韓同時通訳

  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット
    ソウル大学 Program on US-China Relations (PUCR)

プログラム

09:45-09:55 開会挨拶
藤原帰一 (東京大学教授)
Jae Ho CHUNG (ソウル大学教授)

10:00-12:00 セッション 1
“The US-China Conflict and Technologies – The Trade War and Huawei”
司会: 佐橋亮 (東京大学准教授)
発表者1: Dukgeun AHN (ソウル大学教授)
発表者2: 森聡 (法政大学教授)

12:00-13:15 昼食

13:15-15:15 セッション 2
“The US-China Conflict and Issues at Hand – The East/South China Seas and the Indo-Pacific Vision/Strategy”
司会: Jae Ho CHUNG (ソウル大学教授)
発表者1: 飯田将史 (NIDS主任研究官)
発表者2: Hyun Wook KIM (韓国外交院准教授)

15:15-15:30 休憩

15:30-17:30 セッション 3
“The US-China Conflict and Bilateral Relations: Japan-China Relations and Korea-China Relations”
司会: 高原明生 (東京大学教授)
発表者1: Hankwon KIM (韓国外交院准教授)
発表者2: 加茂具樹 (慶応義塾大学教授)

17:30-17:40 閉会挨拶

18:00-20:00 夕食

 

2019年11月16日、米中対立やテクノロジーの安全保障問題化が北東アジアの国際情勢にもたらす影響について議論する日韓対話が東京大学公共政策大学院のSMBCアカデミアホールで開催された。

午前10時から始まった第1セッション(司会:佐橋亮東京大学准教授)では、米中の競争とテクノロジーについて、特に貿易摩擦と米国のファーウェイへの対応に焦点を当てて、まずはDukgeun AHNソウル国立大学教授が報告を行った。次世代の移動通信方式「5G」を巡る覇権競争で米国が危機感を抱き、中国のファーウェイ製品の排除に向けて動いている現状を振り返った。一方で、安い通信機器を求める各国は米国と中国の間で板挟みになっているとした。これまでも米国は中国が世界貿易機関(WTO)に加盟する際に規制改革を要求したり、2007年には国際通貨基金(IMF)に働きかけて為替相場政策を変えようとしたり、様々な形で中国に圧力をかけて来た。現在も自由貿易協定(FTA)を利用して新たなルールの導入も進めていて、WTOを中心とする新たな貿易のルールの枠組みの構築も目指している。今回のファーウェイ排除もそうした圧力の一環と捉えることもできる。米国が単独で中国と対立を深めるのか、他国を巻き込む形になるのかは引き続き注視が必要だとした。
続いて森聡法政大学教授は、中国とのテクノロジーの覇権争いで米国側が必ずしも一枚岩ではないという分析について発表した。軍事、産業、情報といった複数の分野で優位に立つためには、基盤となるテクノロジーの開発で優位に立つ必要がある。その中で、官僚と議会を含む政治の中枢「ワシントン」では、政策や戦略の幅広い観点からテクノロジーの覇権争いを捉えているのに対し、トランプ大統領の陣営は貿易赤字の解消など、経済や産業の保護という観点を中心軸に据えているとした。例えばファーウェイ製品の排除も、ワシントン側は安全保障の面で考えていて、米国発のイノベーションを促しながら、新技術の流出を防ぐ「デカップリング」を目指す中での規制としている。それに対してトランプ陣営は、中国政府に圧力をかけて譲歩を引き出すための材料との見方が強いとした。ただ、ワシントン側が目指すデカップリングは現実的には難しいとの見解も示した。
2人の報告を受けて、米中の対立の状況や、日本や韓国が取るべき戦略についての議論がされた。これまでは中国の市場開放を促すために様々な政策が取られてきたが、今米国はテクノロジーの面でのデカップリングを模索するようになり、かつてない状況に世界は直面している。ただ、韓国などのように中国の経済と自国の経済を切り離せなくなっている国も多く、ファーウェイなどの安い中国製品を高い欧米の製品に置き換える場合、コスト補てんの課題もあり、排除の実行性については限界があるとの意見があった。また、米中も相互に頼っている部分があり、両国がテクノロジーの領域ですぐに自立できるようになる可能性は低く、改めてデカップリングの難しさが指摘された。米国社会に入り込んでいる中国の研究者や企業などから技術が漏洩する可能性が危惧されているが、一方で米国発のイノベーションを起こすためには国内にいる中国の人材や技術も必要なため、デカップリングを進めることでイノベーションの土台を自ら崩してしまうことになりかねないという見方もあった。結局、中国が譲歩して米国の要求を部分的に受け入れたり、政権交代によって政府の戦略が変わることなどによって二国間の緊張関係が緩む可能性を期待するなど、日本や韓国は引き続き動向を見守ることしかできないのではないか、という意見もあった。

第2セッション(司会:Jae Ho CHUNGソウル大学教授)では米中対立と喫緊の課題、特に両国の東・南シナ海やインド太平洋での戦略について議論された。まずは飯田将史防衛研究所主任研究官が「東・南シナ海域における米中対立」と題して、中国の最近の東・南シナ海とその先への強硬な侵出の状況を報告した。侵出の狙いは大きく分けて4つあるとし、1つ目は台湾の統一や尖閣諸島やスプラトリー諸島の支配といった領土・主権の問題を有利に解決するための海洋進出、2つ目は経済発展に伴い、強まっているエネルギーや天然資源の対外依存から脱却するための海洋権益の確保と拡張、3つ目はエネルギーの輸入経路でもあり、貿易網を支えてもいる海運という経済成長の要の安全面の確保、最後の4つ目は想定される米国との将来の衝突に備えた軍事的優位性の確立だとした。そして侵出の具体的な行動例として、東シナ海での公船や軍艦、軍用機の活動の活発化、南シナ海の海南島での海軍基地建設や、米軍艦に対する妨害行為の増加などを挙げた。こうした状況を受けて、米国も中国への警戒を強めて対抗策を実施していることから、今後は政治的価値観の違いも踏まえてさまざまな領域で二国間の対立が起き、この対立がインド太平洋の安全保障を構造的に規定する要因になっていくとの見方を示した。

続いて、Hyun Wook KIM韓国国立外交院教授が米中関係、米国のインド太平洋戦略、そして米中の対立に対して韓国を含む周辺国の対応と主に3つのテーマについて話した。まず米中の対立をどう捉えるかについて、中国のGDPがまだ米国の70%程度だということや、双方の国が公式に表明している立場から、現状ではまだ「覇権争い」の域には達していないとの見方を示した。「秩序の対立」や「共通秩序の中での対立」だとする見方については、冷戦時代の米ソとは違って今の米中は同じ国際秩序の枠組みの中にいて経済的な交流もあるため、適切ではないとした。そして現状のトランプ政権は自国の優位性を維持するために同盟国との連携強化や省の再編を進めていることなどから、中国との対立を「戦略的対立」と捉えているとの見解を示した。米国のインド太平洋戦略については、現状では政府を挙げて中国に圧力をかける政策になっていると分析。ただ、要であるはずの途上国への経済的な支援については予算が十分ではなく、中国とこの分野で対等に渡り合える状況になっていないとした。欧州の中にはイタリアやトルコのように、中国との関係強化を前向きに捉える国もあり、現状では戦争が不可避な状態まで新旧対立が進む「ツキジデスの罠」よりも、覇権の空白が国際秩序の混乱を招く「キンドルバーガーの罠」を警戒すべきだと指摘。一方で韓米関係は戦時作戦統制権(戦作権)の移管を控えており、米国が軍事的な影響力をどう維持するのか、引き続き注視が必要だとした。
2人の発表を受けて、中国が目指すところについて議論された。現状ではグローバルな覇権ではなく地域内での覇権を狙っているという意見や、一路一帯構想を読み解いていくと、中南米やアフリカ、ヨーロッパまで視野に入れていることから、やはり長期的にはグローバルな覇権を取ることを考えているという意見があった。また、米国のインド太平洋戦略は、同盟国に経済的負担を負わせるようなものになっているため、米国の覇権維持にどれだけ効果があるか疑問視する意見もあった。

最後の第3セッション(司会:高原明生東京大学教授)では米中の衝突が日中関係、韓中関係に与える影響がテーマに掲げられた。ますはHankwon KIM国立外交院教授が米中の戦略的競争について分析して意見を述べた。これまでは支配国家が世界の規範と秩序を作り、自国の経済的・軍事的な強さを維持してきたが、現状では米国の作った規範と秩序のもとで中国が最も利益を得ていて、米国が新しい規範と秩序を提示している状況になっているとの見方があるという。そして米国の要求に対してこれまで部分的に譲歩してきた中国だが、「核心利益」、つまりは絶対に譲れないと主張している国家利益にまで踏み込んで米国が要求をし続けると、対立が覇権争いへと一段深まりかねない。すでにトランプ政権は中国の核心利益に関わる台湾を支援する政策を実施しており、さらには香港でのデモをきっかけに、新疆ウイグル自治区やチベットもまとめて人権問題として言及するかもしれない。人権は国際社会の中では普遍的価値を持つため、米国がこの機会を政治的に利用する可能性があるとした。韓国の場合、「ろうそく革命」後に誕生した文在寅政権は人権を重視する姿勢を取らざるを得ず、今後難しい選択を迫られることになるとした。
続く加茂具樹慶應義塾大学教授は「最近の日中関係」をテーマに、二国間の関係を政府、安全保障、経済、国民感情の4つの側面から報告した。特に最近改善傾向が見られる政府間の関係について、中国の一帯一路構想が提起された2014年まで遡って分析した。当時安倍晋三総理大臣が積極的な支持を表明したこと、自民党が総裁の任期延長を決定して安倍長期政権の見通しが立ったことで、中国が正当な交渉相手として安倍総理を認識するようになったことなどが、中国側が関係改善に向けて動き出す要因になったとの見方を示した。また、日本の国際協力銀行と中国の開発銀行が第3国でのプロジェクトで協力をするという覚書を2017年に交わすなど経済交流も改善が見られるが、一方で安全保障については、中国側が「建設的安保関係の構築」を提案したものの、尖閣諸島周辺海域では中国の公船などの活動が2008年以降続いており、改善が見られない状況だとした。国民感情についてはどちらの国でも相手国を脅威と認識する人の割合が高く、経済協力についてもポジティブなイメージが描けていない。こうした複雑に入り組んだ状況だという。
2人の発表を受けた議論では、米中関係の変化について、中国が核心的利益と捉える範囲を拡大し、海洋権益などを含めるようになったことや、中国が世界の規範や秩序を自国に有利になるように変えようとしたことから米国が警戒心を強めたという見方もあった。また、北朝鮮問題については、米中対立の下位にある問題として位置付けられるようになってしまったという指摘があった。「時間は中国の味方」という見方が強く、そのため中国は長期戦を狙い、米国はなおさら短期戦に集中するため、二国の対立は今後2、3年が山場とする意見があった。一方で、中国の成長は鈍化していて、財政赤字も拡大していることを挙げて、中国の巧みな心理戦の影響で米国が過度に自信喪失しているだけなのではないか、との見方もあった。いずれにしても状況を注視し続ける必要があり、日本と韓国が協力して対応について議論することの重要性について強調されて議論は締めくくられた。

*本セッションは外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたしました。