開催中止:国際シンポジウム「AIと司法」

  • 日程:
    2020年03月13日(金)
  • 時間:
    16:00-19:00
  • 会場:
    本シンポジウムは、新型コロナウイルスの感染拡大を受け開催を中止し、少人数のクローズド研究会に変更いたしました。お申込みいただいておりました皆様には大変申し訳ありません。ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター、フランス国立社会科学高等研究院・日仏財団、AIR

  • 共催:

    人工知能学会倫理委員会

  • 言語:

    日本語・英語(日英同時通訳あり)

概要

近年、人工知能をはじめとしたさまざまな情報技術が、司法などの法執行機関で利用されつつある。また、ディープフェイクなどの悪用も容易に行われるようになる中、法執行機関関係者は人工知能がもたらす変化や、できることとできないこと、また課題について理解を進めていく必要がある。
本イベントでは、著書”Justice digitale”をフランスの法学者/裁判官であるGarapon教授とともに執筆したフランス国立科学研究センター(CNRS)の科学哲学者のジャン・ラセーグ氏(Jean Lassègue)と、AIの利用/悪用についての研修や教育プログラムを諸外国に提供している国連地域間犯罪司法研究所(UNICRI)の所長であるイラクリ・ベリゼ氏(Irakli Beridze)をお招きする。
パネルセッションでは、ラセーグ氏とベリゼ氏に加え、日本から稲谷龍彦氏(京都大学准教授:刑事法)、大屋雄裕氏(慶応義塾大学教授:法哲学)と黒崎将広氏(防衛大学校准教授:国際法)を招き、「AIと司法」について議論を行う。

※本イベントはJST-RISTEX JPMJRX16H2「多様な価値への気づきを支援するシステムとその研究体制の構築」の一環として実施するものです。

プログラム
  • 16:00
    開会挨拶

    セバスチャン・ルシュヴァリエ氏(フランス国立社会科学高等研究院・日仏財団 理事長、同研究院教授)

  • 16:05
    講演1:「デジタル変革が法の支配に与える影響」

    ジャン・ラセーグ氏(フランス国立科学研究センター(CNRS) 上席研究員)

  • 16:35
    講演2:「平和と正義、司法のためのAI利用の機会と課題」

    イラクリ・ベリゼ氏(国連地域間犯罪司法研究所(UNICRI)所長)

  • 17:05
    指定討論者からのコメント

    稲谷龍彦氏(京都大学法学部准教授)
    大屋雄裕氏(慶応義塾大学法学部教授)
    黒崎将広氏(防衛大学校総合安全保障研究科准教授)

  • 17:45

    休憩

  • 18:00
    パネルディスカッションと質疑応答

    パネリスト:ジャン・ラセーグ氏、イラクリ・ベリゼ氏、稲谷龍彦氏・大屋雄裕氏・黒崎将広氏
    司会:江間有沙氏(東京大学未来ビジョン研究センター特任講師)

  • 18:50
    閉会挨拶

    城山英明氏(東京大学公共政策大学院/大学院法学政治学研究科/未来ビジョン研究センター 教授)

講演要旨

ジャン・ラセーグ氏 「デジタル変革が法の支配に与える影響」
本発表では、法の制定と法秩序の構築に影響を与える主なデジタル変革に焦点を当てる。変革は (1) 新しい形態のリテラシー、(2) 新しい社会的インターフェース、(3) 新しい形態の社会的調停と、(4) 新しい形態の判断の4カテゴリーに主に分類される。これらはすべて、(ほとんどテキストの)伝統的な合法性と(ほとんどがデジタルの)新しい合法性の間の競争を引き起こす一因となっている。
1. 新しい形態のリテラシー:すべての文字システム(アルファベットまたは観念文法)は、現在、デジタルネットワーク上で実行されるため、裏で動いてるデジタルコーディングに依存している。このデジタル符号化の歴史的起源は、アルファベットと数字の位置表記の組合せ能力にある。しかし、システムの裏で行われているこれらの文字システムのアルファベット化と算術化を、ほとんどのユーザーは学習しない。コンピュータ科学者だけがソフトウェアを書く方法を知っており、社会的なグループとしての彼らの重要性は古代の筆記者のそれに匹敵する。法律の専門家は、今まで通り法的な判断を下さなければならないが、従来の方法で法律を読むことができない。法律文書を読むためにはコンピュータ科学者に頼らざるを得なくなる。
2. 新しい社会的インターフェース:デジタル化によって、私的な生活領域と公的な生活領域の間に線を引く法的な方法が混乱していること、また単に統計的なルールに置き換えることによって法律の規範的な次元が挑戦されている事例を示す。
3. 新しい形態の社会的調停:法制度のデジタル化には4つの新しい社会的調停が含まれる。(1) 法的な判断を下すのに役立つソフトウェア、(2) 各種訴訟を組織するプラットフォーム、(3) データ収集と行動予測を同時に行うデータベース、(4) 契約や商品の交換が確実に行われると思われるブロックチェーン。こうした新しい調停の基本的な目的は、伝統的な法制度に支えられている象徴的な側面を取り除き、厳密な技術的解決策に置き換えることである。
4) 新しい形の判断:大規模なデータベース上に構築されたソフトウェアの予測力は、法律の専門家に対して、判断を部分的にアルゴリズムに委ねることを強いる。したがって、法的な判断は国家(主権)と私的(営利)の関心事を結びつける集団的事業となる。
これらの4つの主要なカテゴリーは、デジタル化が法の支配に与える影響を明らかにするのに役立ち、同時にその影響に制限を加えることになる。

イラクリ・ベリゼ氏「平和と正義、司法のためのAI利用の機会と課題」
本発表は、人工知能と刑事司法システムの関連、特に法執行と裁判所システムにおける技術的進歩との関連性に焦点を当てる。
人工知能は、法執行機関、司法機関、法曹関係者が犯罪を防止、制御、捜査、訴追する能力を高める。例えば機械学習は、疑わしい人、盗難車、不審な音や行動をより効果的かつ効率的に特定したり、犯罪やテロ行為の傾向を予測したりすることで法執行機関を支援する。一方、裁判所で用いられる人工知能は、判例の特定と判断の自動生成によって法的調査と分析を支援する。この潜在的可能性にもかかわらず、その使用は論争的であり、人権と市民の自由という観点から懸念されているおり、法執行機関、裁判所制度、刑事司法アプローチ全般からの信頼を損なっている。
同時に、人工知能をめぐっては、今後取り組むべき新たなデジタル、物理的、政治的脅威がある。これらの技術を利用した犯罪はまだ十分に確認はされていないが、これらの技術は社会全体に普及している。そのため新たな脅威や犯罪の発生に備える必要がある。ディープフェイクなど悪意ある利用は当面の懸念事項の1つにすぎない。

講演者略歴

ジャン・ラセーグ氏
フランス国立科学研究センター(CNRS) 上席研究員。
科学哲学者であり、情報科学と法の支配の関係について科学哲学、人類学的な観点から調査や研究を行っている。詳細については英語サイトのプロフィールを参照。

イラクリ・ベリゼ氏
国連地域間犯罪司法研究所 人工知能・ロボット研究所所長。
国際安全保障や新技術による犯罪防止、治安などに関する問題について、政府や国際機関に働きかけており、世界経済フォーラムや欧州委員会などのメンバーでもある。詳細については英語サイトのプロフィールを参照。

パネリスト略歴

稲谷龍彦准教授
京都大学大学院法学研究科准教授及び理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員。
専門は刑事法であり、現在の主要研究領域は,科学技術と法及び企業犯罪対応。具体的には,人工知能の開発・使用をめぐる刑事責任や,グローバル企業による犯罪への適切かつ効果的な対応について検討している。詳細については英語サイトのプロフィールを参照。

大屋雄裕教授
慶應義塾大学法学部教授、専攻は法哲学。内閣府「人間中心のAI社会原則検討会議」構成員、総務省「AIネットワーク社会推進会議」構成員、総務省情報通信政策研究所特別研究員などを務める。詳細については英語サイトのプロフィールを参照。

黒﨑将広准教授
防衛大学校総合安全保障研究科准教授。専攻は国際法(主に国際安全保障法、武力紛争法[国際人道法]および国際刑事法)。近年では、人工知能・サイバーセキュリティの国際的規制についても関心を広げている。詳細については英語サイトのプロフィールを参照。

問合せ先

東京大学未来ビジョン研究センター
技術ガバナンスユニット事務局
ifi_tg★ifi.u-tokyo.ac.jp(★→@に置き換えてください)