SDGsセミナー「難民統合に向けた組織の役割 スウェーデンにおけるボスニア・ヘルツェゴビナ難民とシリア難民の声」

  • 日程:
    2020年01月23日(木)
  • 時間:
    15:30-17:00
  • 会場:
    東京大学 本郷キャンパス 伊藤国際学術研究センター地下1F ギャラリー1
    https://www.u-tokyo.ac.jp/adm/iirc/ja/access.html
  • 題目:

    難民統合に向けた組織の役割
    -スウェーデンにおけるボスニア・ヘルツェゴビナ難民とシリア難民の声-

  • 言語:

    英語

  • 主催:

    東京大学 未来ビジョン研究センター(IFI) SDGs協創研究ユニット

定員に達したため申込みを締め切りました。

未来ビジョン研究センター(IFI)SDGs協創研究ユニットは、スウェーデンのヨーテボリ大学公共経営大学院のグレッグ・バッケン・ナップ教授を講演者に、慶應義塾大学法学部の錦田愛子准教授を討論者に招き、セミナーを開催しました。
 

 

開会に際してIFIセンター長の藤原帰一教授は、IFIの学際的な研究を紹介し、国連による持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて平和と安全保障に注目する必要性を強調しました。

セミナーの司会を務めるナジア・フサイン特任助教は、難民に関する研究が、SDGs協創研究ユニットが実施している幅広い研究の中にどう位置づけられるのかを説明しました。世界では予想を超える難民が発生し、2018年には7千万人が難民となる状況の中で、都市化の進行、気候変動によるストレス、難民・移民の増加、資源の不足といった多様な要因が絡み合って政治的・社会的不安定化がもたらされるプロセスに注目することが重要になっています。危機の渦中にいる人々が抱える問題は地域だけにとどまらず、グローバルに拡大しています。そうした人々の経験について議論し、「生の声」を聴くことは時宜を得た取り組みであるとフサイン助教は説明しました。
 

 
講演においてバッケン・ナップ教授は、難民の声を手掛かりとしながら、スウェーデンに定住したボスニア・ヘルツェゴビナ難民(1992-1995年)とシリア難民(2014-2018年)の経験を比較しました。特に、スウェーデンが提供する公式・非公式の生活支援プログラムに参加した難民が語る経験に注目しました。

1990年代にスウェーデンに来たボスニア・ヘルツェゴビナ難民の70%以上は労働年齢であり、家族をともなっていました。経済の停滞にもかかわらず住宅の余剰があったことが、難民への住宅提供を可能にしました。やがて労働市場への統合も進み、2013年までにはスウェーデン人と同様の雇用率になっていきました。
2012年からシリア難民が来始めると、スウェーデンはドイツに続いてヨーロッパで2番目の難民受け入れ国となりました。しかしながら、2016年にはスウェーデン民主党政府が緑の党の支援のもとで厳格な政策を取り始めました。例えば、一時居住許可、国境でのIDチェックの実施などです。それによって、2016年と2017年には庇護申請者の数が減少しました。
シリア難民のための統合政策は、言語トレーニング、スウェーデン社会の学習、労働市場への統合など、独特なものでした。ボスニア・ヘルツェゴビナ難民の経験とは異なり、シリア難民は住宅不足に直面し、郊外の特定の地域に集中して標準以下の住居に住むことになりました。

 

 

一方、数十年の間隔があいているにもかかわらず、ボスニア・ヘルツェゴビナ難民とシリア難民の経験には共通項がありました。例えば、担当機関が難民のニーズに対応できていなかったこと、難民が感じる劣等感は統合の過程で高まったこと、こうした機関によってもたらされる問題に直面しても難民は主体性(あるいは根気強さ“sticktoitiveness”)を持ち続けたこと、受け入れ国で新たに「普通の」生活を始めるためには職探しが重要だったことです。

最後にバッケン・ナップ教授は、難民、受け入れ社会や政府、非政府主体などのすべてのステークホルダーがお互いを理解するために忍耐強くあることが必要であると語りました。そして、難民と公的機関の実務者の双方にとって有益な政策を協力して作り上げていくこと、および研究と実務の連携モデルを構築することを提案しました。

討論者の錦田准教授は、自身の調査で発見した中東の難民・移民の認識とスウェーデンのそれとの間に共通項があると述べました。「根気強さ“sticktoitiveness”」はアラビア語では「不動“sumud”」と表現される概念と共通しています。
錦田准教授は2点の質問をしました。1点目は、難民危機以降に移民政策がどのように変化したか、2点目は、スウェーデンにはイスラム恐怖症があるのか、また、それによるシリア人への差別はあるかどうかです。

バッケン・ナップ教授は、難民危機後にスウェーデン政府が国境管理を強化し、身分証明書を持たない移民が入国しないように国境でのIDチェックを強化したと説明しました。イスラム恐怖症については、スウェーデン内でのムスリムやモスクへの攻撃が何件かあり、聖所でのムスリムの保護が行われるようになりました。また、シリア難民には正教徒もいるにもかかわらず、シリア人はムスリムであるという固定概念によって彼らのアイデンティティが見過ごされています。
 
参加者との質疑応答では、研究者と実務者の両方から、以下のような幅広い質問が出されました。
二度の難民流入に際して、寛容な政策を実施する人々はどのような規範意識を持っていたのか。難民の受け入れを義務と感じているのか、あるいは慈善なのか。この研究プロジェクトでは、庇護申請を選んだ難民と第三国定住を選んだ難民を比較したのか。難民は多様であるにもかかわらず、統合指標などの手法は政策目標に合わせて設定されているのではないか。本研究プロジェクトはそうした点を考慮したのか。統合政策は地元住民と難民の文化的な違いを考慮しているのか。スウェーデンでの移民政策が転換した2016年には、背景として何があったのか。異なる事情があるにもかかわらず、なぜ二度の難民流入の経験に共通する、受け入れ機関へのフラストレーションが存在するのか。難民の声によってその経験を説明する方法は、政策目標に照らして効果的なのか、などでした。

充実した意見交換の後、ワークショップは終了しました。