第11回五大学会議 “In Search for Common Security in an Age of Deglobalization”

  • 日程:
    2019年12月06日(金) 2019年12月07日(土)
  • 時間:
    12月6日:9:30-15:00 16:20-18:00 12月7日:9:00-13:10
  • 会場:
    伊藤国際学術センター中教室(12月6日)、山上会館山上ホール(12月6日)、 鉄門記念講堂(12月7日)
  • 題目:

    “In Search for Common Security in an Age of Deglobalization”

  • 言語:

    英語

  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター 安全保障研究ユニット

1日目 2019年12月6日(金)

 

パネル1 危機に瀕する米中関係

最初のパネルでは米中対立の背景と、対立が地域や世界の秩序にどのような影響を与えるか、さらには米中関係の展望について議論された。

1人目の発表者の北京大学のQingguo JIA教授は、米中関係を悪化させている要因について分析した。米国と中国は異なる成長戦略を選んだ根本的に考え方の異なる国であり、相手の思惑に対して疑心暗鬼になっていたところ、次世代通信技術の5Gや人工知能(AI)といった新技術の登場によってさらに対立を深めているとした。それでも冷戦時代のような対立は双方の国にとってあまりに不利益が大きいため、当時のような深刻な事態には発展しないとの見通しを示した。自国の利益を守るために、中長期的には米中は互いの違いを受け入れ、協力体制を構築するための妥協点を見つけられるはずだとした。

次に登壇したシンガポール国立大学のYuen Foong KHONG教授は、中国の米国追い上げに伴い、これまで米国一強の影響下にあったアジアが、米中二強体制に移行しているとの見方を紹介した。自国が米国と対等な強国だと認められるべきだとする中国に対し、米国側はまだ対等な相手だと認めようとしない。こうした認識の違いは二国の対立を激化させて、いずれ冷戦時代の米ソの対立よりも深刻な事態を招きかねないという。対立の中で、米中はそれぞれにパートナーを獲得するためにこれまで以上に他国に圧力をかけるようになる。どちらの陣営にも属さないことで地域の結束を強めてきたASEANだが、中立性を選ぶ戦略を今後も続けることは難しくなっていくとした。

3人目の発表者のロンドン大学のPeter TRUBOWITZ教授は、冷戦時代の米ソの対立を振り返り、現在の米中関係と比較した。冷戦時代の米国は、「封じ込め」「統合」「ロールバック」の3つの選択肢の中から、ソ連に対して「封じ込め」の戦略をとった。その背景には、当時のソ連政府の振る舞いや、米国内に政治的課題があった。現在の米中関係に目を移すと、米国は同じように再び「封じ込め」戦略を選ぶ可能性が高いと見られているという。だが米国内は当時以上に分裂しており、対立の行方は今後二国どんな選択をするかにも左右されるという面もある。戦争が避けられない「トゥキディデスの罠」に米中がはまってしまうかどうかはまだ確定していないとした。

第1パネルの最後の話者の東京大学の高原明生教授は、中国と日本のそれぞれのインド太平洋構想をテーマに話した。米国と「新型大国関係」を構築しようという試みが失敗した中国は、ユーラシア地域に焦点を移し、東アジアとヨーロッパをつなぐ「一帯一路」構想を提唱した。一方の日本も、アジアとアフリカの結び付きを強化することを目指す「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」ビジョンを発表した。対象地域が重なる2つのイニシアチブは、戦略的には地政学的な対立を深める原因になりうるが、その一方で、経済的には協力することで共存でき、地域の成長に貢献できる可能性も秘めているとした。

4人の発表の後、会議の参加者は米中対立の現状についてさらに議論を深めた。冷戦時代の米ソ対立を振り返り、当時存在していたような共存のための暗黙のルールは、対等な2つの強者がいて初めて生まれていくものだという指摘があった。そのため、現状でもしそうしたルールが出来上がっていくとしたら、米国が中国を自国と対等な強国と認めた後からで、今はまだルールがない状態ということになるという。また、中国が歩みを進めている近代化は米国などとは異なり、リベラリズムや民主主義とは一線を画した資本主義で、米中の対立は正当な近代化モデルを探る争いだという見方についても議論された。中国は今も経済発展を続けている段階のため、米国型のリベラリズムを原動力とする近代化モデルを改めて選択する可能性もまだあるが、中国の独自の近代化の試みによって未来の世界の秩序のあり方が決まるかもしれない、とする意見もあった。

パネル2 経済と貿易:衰退するグローバリズム

2番目のパネルは、「なぜ国際貿易の成長が鈍化しているのか」という問いに対してそれぞれの話者が意見を述べた。グローバリズムの衰退の原因と、その影響、さらには現在の貿易戦争をどう読み解くかについても議論された。

最初に登壇した東京大学の飯田敬輔教授は、世界貿易機構(WTO)が発表している世界の貿易規模の成長予測値から、まだマイナス成長にはなっていないものの減速傾向にあるという現状をまずは紹介した。この減速の背景にある主な要因は、WTOの加盟国による貿易を制限するような政策だという。成長鈍化につながる保護貿易主義的な傾向が強まっているのは、ポピュリズムの台頭によるとする一般的な見方に対して、特に米国の場合は強まる中国への恐怖感に着目すべきだとした。そして2つの強国の貿易戦争が軍事力を使った実際の戦争に発展するとは考えにくいものの、その余地はまだあるため、適度な警戒が必要だとした。

シンガポール国立大学のDanny QUAH教授は、世界の貿易における各国の関係の強さを分析した。過去40年の間に米国の貿易相手国の数や貿易量が減っているのに対し、中国は存在感を強め、特にASEANの国を中心に重要な貿易相手国としての地位を確立した。こうした状況は、米国の視点ではグローバリズムの衰退と表現できるかもしれないが、ほかの国にすれば選択肢が増えたということを意味する。これまでは貿易量は多ければ多いほどいいとされてきたが、グローバリゼーションを貿易量と比例させて考える見方は今では成り立たなくなってきているとした。グローバリゼーションに伴うコストや得られる利益は国によって異なるため、各国が自国の状況に合わせて取捨選択をするようになっている状況が紹介された。

3番目に登壇したダートマス大学のMichael MASTANDUNO教授は、経済と安全保障の関係性について話した。リベラリズムのこれまでの考え方では、良好な経済関係を維持している二国では、安全保障面でも安定した関係性を築けるとされてきた。だが経済の相互依存が強まっている中でも米中の衝突が起きており、逆に安全保障上の課題が経済関係に影響するようになってきている。こうした状況を踏まえ、地経学の新たな展開が始まっていると捉えることができるとした。米中の二大強国のどちらも国内情勢を鑑みて経済面でのリベラリズムを推し進める状況にはないため、日本やドイツなどいわゆるミドルパワーが代わりにその役割を担う必要がある。そしてリベラルな世界経済が機能しているうちに、米中は安全保障上の課題を解決していくべきだとした。

高麗大学のMoonsung KANG教授は、国際貿易の減速傾向と、保護貿易主義的な政策の復活についての見解を示した。現状のまま事態が進展していくと、WTOのような複数の国が参加する貿易の仕組みはますます弱体化が進み、代わりにFTAが増えていくとした。実際、米国がWTOの効力については疑問を呈している。一方で、KANG教授は東アジアでは多数の自由貿易協定が乱立していて、重複が多く、冗長であることを指摘し、多国間で締結した協定によって分かりやすい仕組みにすることが必要だとした。こうした仕組みの統一は、地域全体の経済発展を促すような形を目指すべきだと強調した。

最後に登壇した北京大学のZhaohua DONG准教授は、グローバリズムの衰退の背後にある原因を分析した。グローバリゼーションの負の側面によって国内で蓄積していく不満を和らげるためには、貿易で利益を得た側から徴収した税金を不利益を被った人々の社会保障に活用したり、再就職の支援や職能訓練によって人材の流動性を高めたりする政府主導の還流システムを確立することが1つの方法になると提案した。

以上の5人の発表の後、参加者らは国際貿易の中で強国がリーダシップを発揮しない機能不全になっている状況についてさらに議論した。複数国が参加しているような貿易の仕組みに米国が不信感を抱いている理由として、自国の制御できる範囲が狭まっていると感じているためと捉えて理解しようとする見方もあった。特に米国がWTOで紛争解決に関わる上級委員会の改革を求めているのも、こうした背景があるからではないかと推測した。また、強国の機能不全に対して、いわゆるミドルパワーとされる国が責任を果たすことが必要だという意見への賛成が多く聞かれた。また、国の安全保障を重視する専門家らはこれまでも貿易をリスクとして捉えてきたが、次世代通信技術の5Gのように新しい技術という地政学的に影響を与える要因が増えている中では、安全保障はこれまで以上に貿易の枠組みを決める重要な位置付けを占めるようになったという指摘もあった。

パネル3 朝鮮半島:非核化の展望

3番目のパネルでは、米トランプ大統領就任後に劇的に変化した朝鮮半島の地政学的な状況を改めて捉え直した。現状では半島の非核化の達成は困難と見られるが、参加者は安全保障面で地域を安定化させるための他の選択肢について探った。

最初に登壇したシンガポール国立大学のYongwook RYU助教は、「論外だった選択肢も考慮すべき時か?北東アジアに核保有地域が存在するということ」と題して話した。これまで北朝鮮の非核化を目指して2通りのアプローチが取られてきた。外交的な交渉によって北朝鮮の自発的な非核化を促す方策と、国際的な経済制裁によって圧力を加えて強引に非核化に追い込む手法だ。どちらも状況を変えることに繋がっていないため、RYU助教は残された第3の現実的な道として、抑止というこれまで粗暴ともみなされた選択肢を考慮することも視野に入れなければならないとした。

続く東京大学の小原雅博教授も、2018年に米トランプ大統領と北朝鮮の金正恩最高指導者がシンガポールで会談したものの、非核化交渉で進展がない現状に言及した。進展がない間にも北朝鮮は短距離ミサイルの開発を続け、米国には新しい取引条件を用意するように要求している。取引が可能であるかが議論され、ありうる3種類の合意内容について小原教授は見通しを示した。すなわち、具体的な目標が盛り込まれていない漠然とした政治的な合意、完全な非核化を目指すという合意、そして部分的もしくは段階的に非核化を進めるという合意だ。3つの中でどれを選ぶべきかについては国際的な経済制裁の効果と、核が存在する朝鮮半島を安全保障の側面からどれくらい喫緊の課題と捉えるか次第だとした。

高麗大学のSung-han KIM学部長も、「プランB」を考えるべきだと提案した。トランプ大統領と金最高指導者の個人的な関係に頼るのではなく、特に米国発の案が必要だとした。外交交渉は双方の国にとって負担が大きくなってきている。韓国や日本も協力することで米国を中心とする軍事的な抑止力の増強、経済制裁の強化、そして米国の朝鮮半島での軍事的な存在感の向上という3点を、新たな方策で目指すべき目標だとした。

最後に話題提供した北京大学のXiaoming ZHANG教授は、米トランプ大統領の北朝鮮政策がなぜ失敗したかを分析した。冷戦後に社会主義国家からの支援が途絶えたために、北朝鮮は自国の生存を保証する術として核を利用するようになった。だが、複数の国が国際連合による北朝鮮に対する経済制裁の一部を解除することを支持したにも関わらず米国は反対し、その結果、二国の指導者による交渉は決裂したとした。その状況も、激化する米中対立、米国と同盟国の関係性の変化、そして近付く米国大統領選挙という要因を受けて、大統領が経済制裁の部分的解除に性急に合意して変わる可能性もある。ZHANG教授は、代替案として中国が提案している段階的な非核化や、複数の国や地域が関与して安全保障政策に取り組む枠組みの構築を挙げた。

4人によるプレゼンテーションの後に、参加者らは再度、米トランプ大統領の北朝鮮政策が確固たる成果を挙げていないという現状を確認した。そのため、朝鮮半島の非核化の実現への道のりを考えると、悲観論が優勢になってしまう。また、米国が状況を利用して、同盟国である日本や韓国から米軍経費を引き出そうとしているという指摘もあった。北朝鮮は核保有国として肯定されているわけではないが、各国がある程度諦めとともに受け入れているように見える現状に対し、改めて核兵器の恐ろしさを強調し、やはり最終的には非核化を実現しなければならないと訴える参加者もいた。加えて、経済制裁の内容を見直すべきだという意見もあった。制裁はある程度有効であっても万全ということはなく、抜け道を見つける国もあるからだ。米国と中国、ロシア、日本、韓国が協議を再開して、北朝鮮が少しずつ核の保有量を減らしていくように、数年先まで見越した基本的な方針を探るべきだという提案もあった。ただ、米中対立が激化している中では、協議再開自体のハードルも高くなっているという指摘もされた。

2日目 2019年12月7日(土)

パネル1 移り変わるテクノロジーと各地域への影響

 

会議の2日目の最初のパネルは、移り変わるテクノロジーの影響がテーマだった。次世代通信技術の5Gやファーウェイ製品に関する米国の規制などからも分かるように、テクノロジーを掌握することが政治問題化していて、テクノロジーが貿易や地政学、国際関係に関与することも増えている。また、新技術は雇用にも影響する。技術の影響について幅広く理解するために、4人の発表者がそれぞれ専門分野の立場から話した。

最初に登壇した東京大学のYee Kuang HENG教授は、人工知能(AI)が様々な分野でどのように受け止められているかを紹介した。人間の実存に関わるリスクとしてのAI、地政学的な対立に重ね合わされるAI研究開発、競争や戦争の比喩表現を使って説明されるAI、そしてゼロサムゲームを回避すべく企業間の共同研究を促すAIというように4種類の異なる見方に触れた。これらの見方を通じて、経済成長や経済の相互依存、そして競争はどれも地政学的なライバル関係や安全保障問題と複雑に絡まり合っていることが改めて指摘された。また、一捻りあるものの、AIが抱える人間の実存に関わるリスクがもたらす好ましい影響として、人類全体にとっての悲惨な状況を回避するために、AI研究の企業や研究機関が協力して共通の妥協点を探るようになるかもしれないとした。

続いて東京大学の佐橋亮准教授は、米中対立が東アジアの秩序にどのような影響を与えるか、日本の視点を紹介した。新技術の研究開発は制約がない状況で進められるのが理想だが、米国の規制や政策はイノベーションの開放性を制限する方向に作用している。米国は、特に中国製のICTS関連製品・技術を中心に、中国への輸出管理、中国からの調達制限に乗り出している。一方の日本は、米国同様、ルールに則った経済を志向しているが、テクノロジーに関しては必ずしも米国に同調しているわけではないとした。日本は経済的にも技術面から見ても中国との結びつきが強く、安全保障の面からテクノロジーの規制がある程度は必要ではあるものの、中国との技術的デカップリングの実現は困難との見方を示した。

3番目の高麗大学のJae-Seung LEE教授は、再生可能エネルギーに着目して技術開発について話した。気候変動に対処するために、再生可能エネルギーの利用拡大が各国で進められている。この移行によって、競争する分野と協調する分野も変わりつつあるとした。例えば各国が化石燃料を取り合う必要性は弱まる一方で、電力の供給を安定化するグリッドが導入された際には各国のエネルギーの相互依存は強まり、また、関連する新産業や技術革新、再生可能エネルギー生産に必要な資源獲得などの競争は増えると考えられる。短期的には米中対立や他の外交問題の影響を受けて国家間の協力は阻まれるものの、長期的には技術革新の影響で利益を優先した協力関係構築が進むとした。

最後の北京大学のShaohua LEI准教授は、革新的技術の開発と実用化の競争が国家間の覇権争いでも中核を占めるようになってきたことに着目した。この状況では競争を優位に進めるためには産業構造、革新的技術、市場の大きさといった3要素が鍵を握り、そのため、かつての冷戦時代の米ソのライバル関係とは違い、この競争の先にある危惧すべき事態は戦争ではなく、グローバル・バリュー・チェーンや国際的な市場の分断だとした。米国と中国は世界経済を戦略的に安定させる役割を担っているため、世界的な金融危機の可能性が再燃している今、米中の協力関係の構築が欠かせないと結んだ。

4人の発表を受けて、参加者は技術革新の影響についてさらに議論した。日本を含む米国の同盟国は、新しいテクノロジーへの米政府の規制に同調するか。それとも中国製の安価なハイテク製品を使うことの利益を追求するか、ジレンマに陥っている。米国の要求は、自国の優位性を維持するための、国の影響力の新しい使い方だという。金融の分野でも米国は要求した規制が導入されていることを確認するために、外国の銀行に監視員を送り込んでいるという事例が紹介された。一方で、こうした状況に対して、中国では自前のデジタル通貨の開発を進めていて、米国主導の金融システムを丸ごと回避しようと目論んでいるという。現状を踏まえて、今後も技術に限らず様々な分野の政治問題化や安全保障化が進むとの見方が共有された。

パネル2 着地点:大国の主導権争いへの対処

 

五大学会議の最後のパネルでは、国際社会での覇権の移行と、アジア太平洋の各国が変化する状況にいかに対応すべきかについて話し合われた。最初の登壇者のシンガポール大学のKanti BAJPAI教授は、中国の躍進によって東アジアへの影響力も米国の単独覇権から二強時代に移っているということを受け入れることがまずは地域の安定化に向けた最初の一歩だと指摘した。この新しい力関係のバランス維持の鍵となるのが武力による抑止力で、単なる戦力拡張合戦に走らないようにするためには各国の軍隊が共同訓練を実施したり、プロトコルを明確にするなど定期的にコミュニケーションをとることが重要だと強調した。また、覇権争いやその影響を専門的に分析するようなアジア発の組織など、地域の機関が担える役割への期待も語った。

ロンドン大学のPeter TRUBOWITZ教授は、「西側諸国の後退:グローバリズム、ポピュリズム、そして衰退するリベラル国際主義」と題して話した。西側諸国の政府は国際化を推進しようとしているが、有権者が国際化を望んでいないすれ違いが起きていると最初に指摘した。だがリベラル国際秩序を維持するためには、各国政府が国際化を推進し続けることが必要で、政府と有権者のすれ違いを解消しなければ国内の分断の原因になってしまう。米国をはじめ西欧諸国は、社会保障の充実など国内の課題にしっかりと向き合う姿勢を示すことで有権者の支持を再び得ることが最適な解決策だとした。現在すでに取り組んでいるものよりも持続性のある政策でなければ、国際化に反対する勢力の過激な反動を封じ込めることができないとも警告した。

3番目に登壇したプリンストン大学のJohn IKENBERRY教授は、約70年にわたって世界を支えてきたリベラル国際主義の成果を振り返った。米国と英国という20世紀の二大覇権国家がともに反旗を翻し、今やリベラル国際主義は崩壊しかかっている。トランプ政権の政策や、ブレグジットはいずれ失敗すると見なされていて、リベラル国際主義が再び世界の秩序として返り咲くという見通しを示したものの、二強が対立した冷静時代の枠組みの中で土台ができた秩序のため、ある程度の更新や再定義も必要だとした。一方で、ナショナリズムよりもグローバリズムを優先するのではなく、それぞれの国家が利益を追求できるような国際社会を構築することを目指すという方針は、今後も維持すべきだとした。

最後は中国の外交政策を専門とする北京大学のQingmin Zhang教授が発表した。近年の中国の発展と、中国の変化に応じて変わっていった米中関係を3段階に分け、それぞれ中国自立の時期、豊かさを追求した時期、そして2018年ごろに始まって現在も続く大国になっていく時期との捉え方を示した。覇権の移行は米中二カ国の対立として説明されることが多いが、ZHANG教授は対等な国として扱われたい中国と、まだ認めたくない米国の関係性として現状を説明した。そして過去の歴史を踏まえて、かつてのような冷戦時代の再来を防ぎ、二国が共存するためには、対話が必要だと強調した。

4つのプレゼンテーションの後、参加者はリベラル国際主義の元に民主主義ではない異なる秩序も収容することができるかどうかを議論した。リベラル国際主義の推進者は可能だと主張しつつ、非民主主義国家も中長期的にはいずれはリベラル民主主義に向かうとした。自由と平等のように、同時に最大化はできないがどちらか一方が犠牲になってはいけない価値観をバランスをとって両立させることができるのがリベラリズムなのであって、リベラル国際主義の元に対立する価値観を共存させる枠組みを構築すべきだとした。中国が米国に対等な相手として受け入れられていない点については、国のあり方を批判されるのではなく、同じように機会を与えられるべきだという意見もあった。

*本セッションは外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたしました。