第26回社会情報システム学シンポジウム「PHR/PLRの活用に向けた取り組みと課題」

  • 日程:
    2020年01月31日(金)
  • 時間:
    9:30-17:00
  • 会場:
    立命館大学東京キャンパス(東京都千代田区丸の内1丁目7-2 サピアタワー内)
  • 主催:

    社会情報システム学研究会、社会情報学会

  • 後援:

    計算社会科学研究会

  • 協力:

    エムスリー株式会社m3.com編集部、東京大学未来ビジョン研究センター

プログラム
  • 10:00-12:00
    一般セッション講演
  • 12:00-13:15
    休憩
  • 13:15-14:45
    オーガナイズドセッション「PHR/PLRの取り組み〜事例編」

    ・PLRに関する研究動向(仮):20分
    諏訪博彦氏(奈良先端科学技術大学院大学)

    ・医用画像をつなぐPHR活用(仮):20分
    依田佳久氏(株式会社NOBORI)

    ・神戸市PHR「MY CONDITION KOBE」(仮):20分
    三木竜介氏(神戸市)

    ・PHRアプリ「MeDaCa」を用いた患者と医療機関との架け橋:20分
    西村邦裕氏(メディカルデーターカード株式会社 代表取締役社長)

  • 14:45-15:00
    休憩
  • 15:00-17:00
    シンポジウム「PHR/PLRの活用に向けた課題と今後」

    ・講演①:PHRを巡る政策:20分
    藤岡雅美氏(厚生労働省健康局健康課)

    ・講演②:PHRに関する法律、制度的視点:20分
    落合孝文氏(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業パートナー、弁護士)

    ・講演③:オンラインデータ活用の現状と課題 ~MyData・情報銀行~:20分
    太田祐一(DataSign代表取締役社長/MyDataJapan常務理事)

    ・パネルディスカッション:60分
    上記の登壇者+ディスカッサント:
    藤田卓仙氏(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター ヘルスケア・データ政策プロジェクト長)
    江間有沙氏(東京大学未来ビジョン研究センター)

社会情報システム学研究会は1月31日、社会学情報学会との共催、計算社会科学研究会の後援、エムスリー株式会社m3.com編集部、東京大学未来ビジョン研究センターの協力を受けて、「第26回社会情報システム学シンポジウム」を開催した。講師に奈良先端科学技術大学院大学の諏訪博彦氏、医師で神戸市保健福祉局健康部健康政策課健康創造担当課長の三木竜介氏、メディカルデータカード株式会社の代表取締役社長の西村邦裕氏をお迎えし、「PHR /PLRの取り組み~事例編」と題したオーガナイズドセッションでは、産官学それぞれの領域から事例が紹介され、「PHR /PLRの活用に向けた課題と今後」と題したシンポジウムでは、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)やPLR(パーソナル・ライフ・レコード)を活用する際の法律や政策、運用の面からの課題についてお伺いした。

最初に登壇した奈良先端科学技術大学院大学の諏訪博彦氏は、「PLRに関する研究動向」と題して自身が取り組む研究を含めて様々な事例を紹介した。

スマホとAIでデータを活用

様々な方法で収集されたデータは機械学習を通して分析され、アプリなどを介したサービスとして展開されている。スマートライフやスマートシティもそうした取り組みの一つで、人とモノが全て繋がって情報共有できるようになるというsociety5.0の概念とも関連がある。諏訪氏は、PLR(Personal Life Repository)やPHR(Personal Health Record)をスマートデバイスで吸い上げて、ビッグデータとしてまとめ、人工知能(AI)でフィードバックをするというサイクルを回して、世の中の様々なニーズに応えていくことができるようになるとした。

Society5.0を目指すに当たって、大阪大学は「ライフデザイン・イノベーション研究拠点」を設置した。パーソナル・レコードを活用し、ライフスタイルやウェルネス、心の健康など生活の質を上げるためのライフイノベーションを起こしていこうという活動を展開している。PLRやPHRは個人の行動や医療機関での診察の記録、健康に関するデータ、日常生活の嗜好などが含まれ、データにも反映されるような様々な特徴をそれぞれに持った人間が、互いの相互作用によって社会が出来上がるため、データを集めることが重要だとした。

データ収集、負担少なく・新規データ狙い・特殊デバイス使わず

ではどんなPLRが収集可能で、どんな技術を活用しているのか。諏訪氏は、データ収集時に考えるべき課題として、利用者に負担をかけないこと、今まで収集できなかったデータを集めること、特殊なデバイスをできるだけ使わないことの3点を挙げた。最初は特殊な装置を使い、今まで取れなかった特殊なデータが集められるようになった場合でも、そのデータが有効だと分かれば特殊なデバイスを使わずに済む方法を考えるべきだとした。

実際にスマートホームの実験では、1LDKの間取りの空間にセンサーを複数設置し、データを収集したところ、ある一⽇の行動を解析できた。家電の消費電力と部屋のどこに人がいたかの2種類のデータを使えば、例えば食事をしていた、読書をしていた、顔を洗っていたなどの行動が判別できたという。こうした研究を発展させると、介護のデイケアセンターで高齢者の一⽇の活動を記録することもできるようになる。名札型のビーコンをそれぞれの人が身につけて、建物側には受信デバイスを設置し、電波の強度から居場所を推定すれば、休憩をしていたのか入浴をしていたのかなど見分けられ、行動の記録もPLRとして活用できる。諏訪氏が所属する研究室ではほかにも岡村製作所との共同研究を進めており、センサー付きの椅子で着座姿勢をリアルタイムに推定することを目指している。座ったり立ったりするだけではなく、体の傾き具合を読み取って正しく座れているかを判別できるような椅子を開発している。

ライフログも活用

行動以外のデータを収集する取り組みもしているという。例えばQOLの推定は、従来はアンケートを通してデータを収集していたが、簡易版でも26項目あり、毎日データ収集をすることは現実的に難しかったが、年1回程度のアンケート実施では日常生活の理解と改善につなげにくかった。そこで、スマートウォッチを活用してアンケートを9項目の簡易的なものにでき、正確さと簡便さを両立しながらデータを集めることが可能にした。スマートウォッチで記録されるライフログがPLRの推定に使えることを示す結果だという。

スマートフォンを活用した別の研究も進めている。仕事への意欲を推定するためにPLRを収集して解析するというもので、スマートフォンで5~10秒ほどかけて顔の写真を撮ると、計算モデルに基づいて仕事への熱意や疲れからの回復度合いなどを読み取り、指標を自動で計算する。毎日使えば、日々の仕事の意欲だけではなく体調変化も捉えることができるという。

健康管理、リアルタイムにアドバイスも

健康に関連する研究では、糖尿病予防のための血糖値コントロールに向けた予測モデルの開発に取り組んでいるという。これまで血糖値のデータは毎回針で実際に血を採って測定していた。諏訪氏らは腕に装着すると2週間連続して血糖値を測定できる装置を使用した。具体的な利用方法は今後医師と相談しながら検討していくとしているが、例えば糖尿病の予備軍の発見や、血糖値の変動を予測して間⾷をやめるようにアドバイスを出したり、食事の内容をリアルタイムで見ながら血糖値の状況と比較して何を食べるかを提案したりということが可能になるという。

また、PLRを収集する装置は電力が必要になるが、環境発電素子をセンサーとして使う方法も研究している。例えばウェアラブルデバイスなどに太陽光パネルをつけると、当たる光の量で発電量が変わる。この変化から、装着している人がどこで活動しているかを推定できる。センサーがなくても太陽光発電の素子自体がセンサーになる。

実用化に向けて異分野との連携

諏訪氏は本オーガナイズドセッションの企画者でもある。自身でもセンサーとなるデバイスの開発、データを効率よく取り出す手法、PLRの推定、データ解析というように、データの収集を中心にPLRの活用について研究しているが、実用化を考える際の課題や連携の仕方などのアイデアが欲しくて、企画したという。具体的にどんなサービスが可能かや、個人情報でもあるデータの適切な扱い方など、複数の分野で連携しながらサービスとして展開できるところまで進めたいとした。

続いて登壇した医師で神戸市保健福祉局健康部健康政策課健康創造担当課長の三木竜介氏は、「神戸市民PHRシステム『MY CONDITION KOBE』」と題して、現在神戸市で構築しているPHRシステムの可能性と挑戦などについて話した。

神戸市は「健康創造都市」を目指して政策や事業を展開する一環で、自治体としてPHRの活用を進めているという。三木氏は4年前まで臨床医だった経験を生かして、PHR活用のプロジェクトを現在率いているという。「だれもが健康になれるまち」という神戸市のビジョンを実現するための推進会議が設置されていて、産学官民の垣根にこだわらない82団体がマッチングをしながら、課題解決のための協議を進めている。

健康のために何をすべき?悩む市民向けにアプリ

神戸市の課題の一つとして、市民の生涯にわたる健康支援の仕組みの構築があった。病気の予防と健康づくりが大事とは分かっていても、インターネット上には不確かな情報が多く選別が難しいことや、自分自身の健康に関するデータがあちこちに散らばっているということもあり、市民は何から始めるべきかが分からないのではないかと考えた。そこで(株)Link & Communicationと協業し、スマートフォンのセンサーを使って記録した生活データと市が保有している健診データが可視化されるサービスを開発した。2019年4月のサービス開始当初は神戸市民が対象だったが、2020年1月から在勤の人も利用できるようにした。企業単位で契約し、利用した個人が使えるサービスだ。

また、集まったデータに基づいて、具体的な健康アドバイスをしていく仕組みを構築した。アプリではキャラクターと対話する形で情報を入力する。例えば食事の写真をスマホのカメラで撮ると、AIが自動的に画像を認識し、メニューや量、栄養素を分析する。油が少なければオリーブオイルの追加を提案したり、カルシウムが不足していればシャケを勧めたり、数日分のログから個人に最適化されたアドバイスが自動で作成される。他にも健康面で悪玉コレステロールが基準値を超えたら、健康とされる範囲と比較してどれくらい外れているかを可視化し、健康維持を心がけるように促す。

ゲーム要素で持続的利用を促す

また、利用者が楽しんで使えるようにゲーミフィケーションの要素も盛り込み、行動に応じて健康ポイントがもらえる仕掛けも用意した。データを入力したり、健康に関するコンテンツを読んだりすると1ポイント、1日に1万歩以上歩いたら5ポイント、健康イベントに参加するとさらに加算、というようにポイントが付与される。集めたポイントは様々な特典と交換したり、商品購入の割引に利用したりできる。健康情報を活用して、利用者の健康に関するリテラシー向上を促すという狙いもある。

サービス開始から約10カ⽉が経ち、4000人を超えるユーザーを獲得しているという。女性の方が多く、メインのターゲットにしていた40代から60代の人が全体の3分の2を占める。アクティブなユーザーが3割とかなり高比率なのも特徴だ。利用者にアンケートで感想を聞くと、健康にいい影響があると答える人もいるという。

データとエビデンスに基づいた政策

神戸市では、集めたデータをさらに活用するためのプラットフォームも構築しているという。研究基盤や、実証の基盤など、研究者や企業によって見方は様々だが、外部の人たちと一緒に行政のデータを活用することで新たなエビデンスを得ることができる。データ収集、分析と評価、政策の立案と実行という流れのEBPM(Evidence-based Policy Making)を回していくのが理想だとしている。

これまでに国から研究費の支援を受けて、高齢者の介護予防を目指すデータ収集のプロジェクトを実施している。高齢者を4年間追跡して、その後4年以内に要介護になるリスクを推測するというものだ。地域の住民のうち、介護が必要になりそうな高リスクな人の割合を試算する「地域診断」が可能になる。そうすると、次の段階として、リスクがありそうな人のリスクを下げるために、例えばアプリを使って介護予防の体操をするように勧めるということに繋げられる。地域から参加者を選び、データを収集して実際に効果があるかどうかを今後検証していくという。

企業やアカデミアを呼び込む基盤に

神戸市はヘルスケア周辺産業を活性化することで、経済の活性化も目指している。集めたデータを使いたい営利企業にはそのままのデータを渡すことはできないが、例えばアカデミアとの共同研究を促したり、神戸市の基盤をデータ収集に活用できるように開放したり、新しい枠組みも近く用意する計画だという。神戸市のデータを使って製品化されたものやサービスには付加価値がつくと考えており、一方で、神戸市民はこうしたものやサービスを他よりも身近に使えるようにするという形にできれば、企業と市民サービスの関係としても成り立つ可能性があると見ている。

PHRを活用した神戸市のサービスについて、現在のアプリは成人の利用を想定したものだが、高齢者向けのものや、高齢者のケアをする人が使って医療と介護の連携を後押しする仕組みの開発も進めているという。救急や災害など、関心ある分野の情報を共有して希望に沿ったケアを提供する実証実験も始めている。また、子供の教育に関連するコンテンツの開発の計画もあり、全世代からデータを集めて健康を促すような介入ができる体制の実現を目指しているという。サービスを使ってもらうことでデータが集まるように、システムの設計が大事だと強調した。

続いて登壇したメディカルデータカード株式会社の代表取締役社長の西村邦裕氏は、同社が開発したサービスについて「PHRアプリ『MeDaCa』を用いた患者と医療機関との懸け橋」と題して説明した。

メディカルデータカード株式会社は2014年に慶應義塾大学医学部発のベンチャーとして設立された。病院や検査会社と患者をつなぎ、自分のデータを自分で管理できる患者中心の医療の実現に貢献することを目指しているという。現状では医療機関などに患者のデータは分散している。他の医師にセカンドオピニオンを求める際に手元にデータがなく、また引っ越しでこれまでの病院に通院できなくなった時もデータを置いていくような状態になっている。病院にあるデータと患者自身が持っているデータを揃えて活用できるようにするのがPHRアプリ「MeDaCa」だ。

現在、このアプリは患者向けのMeDaCaと、医療機関向けのMeDaCa PROを展開している。利用者は増えており、すでに1万人以上がアプリをスマートフォンにダウンロードしているという。病院で受けた検査の結果を見ることが目的のアプリで、スマートフォンで集められる歩数計などのデータは使わず、また、体重などを患者が入力する形にはなっていない。電子カルテは対象外だが、患者は病院で測定した血圧や心電図、エコー、血液検査などの結果を受け取ったり、送ったりできる。そしてクリニック側からは休診日などのメッセージを送ることもできる。

検査結果を翌日スマホで受ける

患者自身がデータを管理するためには、どのように同意を得るかが一つの課題だったが、必要に応じてその都度同意を得る形にし、データの連携を進めた。患者がアプリを最初に使う時、診察券の情報を登録する。するとどの医療機関に通っているかが分かるので、医療機関側には「承認待ち」の案件としてアプリを介して連絡する。こうすることで、患者と医療機関を結び付けて登録することができる。現在は5社の検査会社と連携しており、この検査会社を利用している医療機関に通っている患者であればアプリが使える。サービスの開始が名古屋市からだったため、利用できる範囲は同地区周辺だったが、利用範囲を全国に拡大しているという。

検査は通常、クリニックなどで血液検査や尿検査を実施し、採取した試料を検査会社が回収し、夜中に検査して翌朝には結果が出ている場合が多い。これまではその検査結果を紙に印刷してクリニックに戻し、患者が来院する時に知らせていたが、アプリを使えばデータで医師に送り、医師の判断で同じデータを患者に送ることができる。場合によっては診察しながら、医師が直接結果について説明した後にデータを送るということも可能だ。早ければ、検査翌日の朝に患者は検査結果を知ることができる。現状では一枚ずつ検査結果をPDF形式のファイルにして送っているが、将来的には検査値を自動的に時系列に沿ってグラフ化するような機能も付けたいという。

妊娠している女性向けに、赤ちゃんの画像も提供

検査結果の連携以外に、妊娠している女性向けに、胎児の超音波画像をデジタルデータで渡すという取り組みも実施している。対象となる女性の大多数が静止画像のデータを受け取っていて、最近は4Dエコーを撮像する医療機関が増えていることを受けて今年は動画を共有できるようにしたいという。他にもアプリを使うと、医療機関の待ち時間を患者のスマートフォンに通知することもできる。医療機関の掲示板システムとアプリを自動連携し、待ち時間をそのまま送る仕組みだ。

実際に慶応義塾大学病院のAIホスピタル事業での実証実験に参加し、MeDaCaアプリの運用をしている。2019年3月から胎児の超音波デジタル画像の共有や診察までの待ち時間のアプリでの表示を試している。院内の待合室の椅子は少ない場合でも患者はカフェに行ったり、院内で発行された処方箋がすぐにMeDaCaに届いて患者が見られる状況になったりしている。本格運用後、同病院では4000人以上が利用しているという。

医師側も使い方を工夫

利用している医師も、それぞれに工夫しながら活用しているという。例えば男性患者の検査結果の場合、これまでは本人ではなく妻が代理で聞きに来ることもあったが、直接スマートフォンにデータを送れるので、本人に説明ができるという意見があった。ほかにも、最初は本人に診察室で結果全体を説明し、2回目以降はアプリに先にデータを送り、診察室では変化があった部分だけを詳しく説明するという使い方をしている医師もいた。結果が翌日に分かるので、胃がんがすぐに分かって患者に喜ばれたという事例もあったという。患者への説明を効率化しながらも、詳しい説明が必要な部分に集中することができるため、信頼関係の構築や再診率の向上につながる実感があるという意見もあった。患者自身のデータが手元のスマートフォンに送られてくるのが今後は当たり前になるという見方もあるとした。

当初は研究費の補助を受けて研究として始まったプロジェクトだが、現在は独自の資金調達を進めており、1月末には3度目の調達を公表した。医師と患者の間を結ぶ懸け橋として、事業を拡大していきたいとした。

続いて登壇した渥美坂井法律事務所・外国法共同事業パートナーの弁護士、落合孝文氏は「PHRに関する法律、制度的視点」と題してPHRと個人情報保護法の関わりなどについて講演した。

落合氏はPHRの民間での利活用について、厚生労働省の「情報通信機器を用いた診療に関するガイドライン作成検討委員会」などで委員として検討に加わってきた。こうした視点から、PHRに関連する法律や制度の現状についての見方を示した。

「要配慮個人情報」に含まれる医療関連情報

PHRの議論では、個人に関する情報の保存や、その情報の利活用によってサービスの展開する際の第三者への提供についての問題があるという。個人情報の中身が問題になってくるが、医療やヘルスケアに関連する情報、例えば病歴や障害、健康診断の結果は特に配慮が必要で厳重に取り扱われるべき情報として、個人情報保護法では「要配慮個人情報」に該当する。

個人情報に関して、例えば行政機関個人情報保護法などのように、行政機関や独立行政法人、地方公共団体でそれぞれに適用される、個人情報保護制度が異なる。そして地方公共団体がそれぞれに条例を定めていることが「個人情報保護法制2000個問題」と呼ばれていることなど、共通化されていないことが課題だと指摘されている。個人情報保護法の改正とは別途検討されているとした。

本人同意の理想と現実

日本ではこれからPHRの民間での利活用について具体的な検討が進められるところだが、法律的な観点で見ると同意取得の在り方やポータビリティーなども焦点になるとした。 まず同意取得については、あらかじめ広い範囲に利用できるように同意を取り付けて医療情報として使うのがいいとは、一般的には必ずしも考えられない面があるとした。

一方で、同意を取るにしても、新たに別のデータ活用者にデータを渡す場合も毎回同意を得る必要があるのか、医療情報基本法の制定を求める論者による本人の判断能力の有無も含めて専門機関で審査できるような体制が必要ではないか、などの議論もある。先行する形で内閣官房が進めているデータ流通と活用についての検討で、同意の取り方やデータの管理のあり方について整理されているため、参考になるという。対象となるデータや提供先、同意をしない場合のデータへのアクセスをどのように制約するか、などを確認することで、本人の意思をより配慮した形になるとしている。実際どこまで突き詰めて取り組むか、難しい場合もあるが、本人の意思をきちんと配慮しつつ、実際の運用と折り合いをつけてサービス提供ができるようにすべきだとした。

「ポータビリティー」も課題

PHRサービスを利用している間はデータを事業者に渡すが、契約終了後はデータが消されてしまうのか、それともその後も引き続き使えるのかを考える必要があるとした。EUのGDPRでもこうしたデータのポータビリティーについて条文が定められており、機械で処理できる形で情報を個人が受け取れることが個人の権利として定められているという。また、標準化の議論も重要だと指摘した。

規制の形、議論が必要

適度なバランスを見ながら、ある程度のルールを定めながら、細かいセキュリティーの議論などは民間の自主規制にも頼りながら、PHRの利活用を進めるべきだとした。また、データの民間利用について、ガイドラインに留めたルール作りをするのみを行う場合もあるとした。法規制はしなくても共同規制や自主規制など、適切な形を考えて仕組みを作ることが今後重要になるとした。