SSUフォーラム “科学技術と安全保障―米中技術競争の行方と日本の政策課題”

  • 日程:
    2020年07月09日(木)
  • 時間:
    15:00-16:30
  • 会場:
    ZOOMでのオンライン開催となります
    ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします
  • 言語:

    日本語

  • 定員:

    100名

  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット
    未来ビジョン研究センターでは、今後の活動についての情報を提供するため皆様の個人情報を収集させていただいております。
    この情報はいかなる第三者にも開示致しません。

定員に達したため申込みを締め切りました。
講演者
  •  基調講演:兼原信克 同志社大学特別客員教授 前内閣官房副長官補 前国家安全保障局次長
  •  ディスカッサント:佐橋亮 東京大学東洋文化研究所准教授
  •  ディスカッサント:伊藤信悟 国際経済研究所主任研究員
  •  司会:藤原帰一 東京大学法学部教授 未来ビジョン研究センター長
概要

近年、米中間で科学技術をめぐる競争が激しさを増している。その中で、米国政府は対中技術投資規制・輸出管理を一段と厳格化している。日本はどう対応すべきか。日本政府の安全保障政策の「司令塔」を担う国家安全保障局の次長を務め、また早くから経済安全保障に着目し取組んできた兼原信克氏より、今後の米中技術競争の行方と日本の政策課題についての講演を得る。

略歴

兼原信克:1959年、山口県生まれ。同志社大学特別客員教授。東京大学法学部卒業後、外務省入省。国際法、安全保障、ロシア(領土問題)が専門分野。条約局法規課長(現国際法課長)、北米局日米安全保障条約課長、総合政策局総務課長、欧州局参事官、国際法局長を歴任。在外では欧州連合、国際連合、米国、韓国の大使館や政府代表部に勤務。第二次安倍政権で、内閣官房副長官補(外政担当)、国家安全保障局次長を務める。2019年退官。今年4月より現職に就任。2018年12月、フランス政府よりレジオン・ドヌール勲章を受章。

佐橋亮:東京大学東洋文化研究所准教授。専攻は国際政治学、とくに米中関係、東アジアの国際関係、秩序論。イリノイ大学政治学科留学を経て、国際基督教大学教養学部卒。東京大学大学院博士課程修了、博士(法学)。オーストラリア国立大学博士研究員、東京大学特任助教、神奈川大学法学部准教授、同教授を経て、2019年から現職。2019年7月より東京大学未来ビジョン研究センター准教授(兼務)。スタンフォード大学アジア太平洋研究センター客員准教授、ジャーマン・マーシャル・ファンド研究員、参議院客員調査員などを歴任。現在は公財)日本国際交流センター客員研究員を兼ねる。日本台湾学会賞、神奈川大学学術褒賞など受賞。

伊藤信悟:1970年生まれ。東京大学卒。富士総合研究所国際調査部、台湾経済研究院(客員研究員)、みずほ総合研究所調査本部 (中国室長 兼 主席研究員)などを経て、2018年1月より現職。専門は、中国・台湾経済、中台関係。主要著書に『WTO加盟で中国経済が変わる』(共著、東洋経済新報社、2000年)、主要論文に「BRICsの成長持続の条件」(みずほ総合研究所『BRICs-持続的成長の可能性と課題-』東洋経済新報社、2006年)、「中国の経済大国化と中台関係の行方」(経済産業研究所『RIETI Discussion Paper Series』11-J-003、2011年1月)など。

2020年7月9日午後、東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット主催により、「科学技術と安全保障―米中技術競争の行方と日本の政策課題」と題する研究ウェビナーが、約150名の参加者を得て開催されました。冒頭、兼原信克・同志社大学特別客員教授(前内閣官房副長官補・前国家安全保障局次長)より「米中技術競争の行方と日本の政策課題」と題して基調講演を行い、続いて、討論者として、佐橋亮・東京大学東洋文化研究所准教授及び伊藤信悟・国際経済研究所主席研究員から、兼原氏の基調講演に対するコメントを行いました。その後、質疑応答に入り、10名の一般参加者から質問が提示され、議論が行われました。座長は、藤原帰一・東京大学未来ビジョン研究センター長(東京大学法学部教授)が務めました。

近年、米中間の科学技術戦争が激しさを増しています。この状況をどのようにとらえることができるのか。今後、米中関係はどのように展開するのか。その中で日本はどのように対応すべきか。このような問題意識を踏まえ開催された今次セミナーにおいて、兼原氏は、なぜ米中が最先端技術をめぐって競争するのか理解するためには、まず、宇宙・サイバー空間も含まれる現代における戦争の様相を理解することが必要であると指摘しました。また、国境を越えた市場経済がますます深化する中、GAFAに象徴されるように、近年、米国では民間の技術開発投資が政府に猛追する状況がみられること。他方、中国は軍民融合により経済成長を進めつつ急速に自国のパワーを拡大させる中、周辺諸国が懸念を深める状況がみられること。このような中で米国政府は、自国の軍事的優位の維持のためにも、安全保障上、機微な技術の流出を阻止する必要性を認識し、日本や欧州との間で対中輸出管理・投資規制を通じて連携すべく試行錯誤しているのが現在の状況であると兼原氏は説明しました。現状では、米側が一方的に協力を求めているような状況であるが、今後、米国政府は、自由主義諸国との協議を通じて一定のコンセンサスの構築を図ることになるだろう。そのうえで、兼原氏は、今後、日本としては、政府と産業界が一体となって、公益の観点から、技術を「知る」・「守る」・「育てる」・「活かす」ための政策の具体化が今後の課題であると述べました。

この兼原氏の議論を踏まえ、佐橋氏及び伊藤氏から提示された論点は次のとおりです。佐橋氏は、米中関係を専門とする観点から、次の点を指摘しました。まさに技術と安全保障が一体となった米中の競争関係が近年みられる中で、たしかに機微技術を日本としても守る必要性はある。他方、そもそも、多額の投資や大規模な留学生の受入れを通じて、中国の科学技術を育ててきたのは米国や先進国である。また米国政府の政策対応に一貫性がみられない中、米国は政府のみならず民間も含めて対中規制にどれほど転換できるのか。また、対中規制により失われる産業界の商機や大学等の研究機関による科学発展への機会を、政府は十分に補填できるのか。どの程度まで規制を行うことが適当なのか。米国は独自の規制措置のみではなく、既存の国際協調枠組の活用を検討する余地があるのではないか。さらに、日本として中国との関係管理は究極的にはあきらめるのは得策ではなく、備えを進める中でどのようにして中国をつなぎ留めるべきなのだろうか。また、中国経済を専門とする伊藤氏からは、経済安全保障政策をより効果的なものにするうえでは、国際的な支持とともに、まず国内的な支持が不可欠であり、この観点から民主的な統制はどうあるべきか。また、国家の安全保障の原資を作り出すうえでも、産業界にとっては新たなイノベーションを起こすことが求められている。他方、規制が広範囲にわたってしまうと、このようなイノベーションを起こすための利益はどのように政府によって確保されることになるのか、という論点が示されました。

これら討論者からのコメントに加えて、一般参加者からも、多角的にさまざまな質問が提示され、兼原氏と今次セミナーの討論者・出席者との間で、時宜を得た大変興味深い議論が展開されました。今次セミナーの動画は、下記東大TVで視聴いただけます。ご関心があれば、ぜひこちらもご確認ください。

※本フォーラムは外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたしました。