第9回日韓対話

  • 日程:
    2020年11月07日(土)
  • 時間:
    14:00-17:20
  • 会場:
    WebExによるオンライン
  • 題目:

    9th Korea-Japan Dialogue on East Asian Security (2020)

  • 主催:

    ソウル大学 Program on US-China Relations (PUCR)
    東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)

プログラム

14:00-14:05 開会挨拶
Jae Ho CHUNG (ソウル大学教授)
藤原帰一 (東京大学教授)

14:05-15:35 セッションⅠ
“The Presidential Election and US-China Relations”
司会: Jae Ho CHUNG (ソウル大学教授)
発表者1: Wooseon CHOI (韓国国立外交院教授)
発表者2: 中山俊宏 (慶應義塾大学教授)

15:35-15:50 休憩

15:50-17:20 セッションⅡ
“Japan’s and Korea’s Responses to FOIP, Trade/Technological Competition, INF, and Hong Kong/Xinjiang”
司会: 高原明生 (東京大学教授)
発表者1: 佐橋亮 (東京大学准教授)
発表者2: Jae Ho CHUNG (ソウル大学教授)

2020年11月7日午後、今年度の日韓対話が開催され、安全保障分野の日韓両国の研究者が、今回の米国大統領選挙後の米中関係や日韓両国が直面する政策課題等について意見交換を行いました。今年度で9回目の開催であった中、今回はオンラインでの開催となりました。今回の日韓対話では、2つのセッションが設けられ、第1セッションでは「米国大統領選挙後の米中関係」、また第2セッションでは「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP),貿易・科学技術競争、中距離核戦力(INF),香港・ウイグル問題における日韓の対応」を議題としました。各セッションでは、冒頭、日韓双方から基調報告者1名を得たうえで、全体で議論が行われました。昨年度に引き続き、今回の日韓対話は、外務省外交・安全保障調査研究事業費補助金の支援を得て開催されました。

第1セッション「米国大統領選挙後の米中関係」

午後2時より開始した第1セッション(モデレーター:Jae Ho CHUNGソウル大学教授)では、「米国大統領選挙後の米中関係」を議題として、冒頭、Woos eon CHOI韓国国立外交院教授、および中山俊宏・慶応義塾大学教授が基調報告を行いました。

まず、Wooseon CHOI教授は現在の米中関係についての現状分析を述べました。現時点で米中関係は冷戦状態とは言えないが、両国は2009年以降、経済面での相互依存関係を深める一方で、中国の急速なパワーの拡大により力関係に変化がみられる中、両国の対立は不可逆的な状態に入りつつある。つまり現在の米中関係は、今後、中長期的に続く激しい競争の入口にある状態であると述べました。またWooseon CHOI教授は、今回の大統領選挙の結果、バイデン政権が誕生する可能性が高まる中、米国の次期政権は、国際協調路線に回帰する一方、対中国政策では現トランプ政権と異なりエンゲージメントとヘッジとの間でバランスをとった政策に代わるだろうと述べました。

中山俊宏教授は、今回の米国大統領選挙において、現時点で最終結果を予断できないものの、トランプ大統領が7千万票を獲得したことや今回の連邦議会選挙の結果を含めて考えれば、必ずしもアメリカ国民がトランプ大統領を拒絶したとは言えないのではないかと指摘しました。加えて、中山教授は、オバマ前政権からトランプ現政権に至る米国の対中国政策の変容を、日本の視点から見た場合にどのように説明できるか示し、そのうえで米国次期政権の政策課題を述べました。

中山教授によれば、日本にとって都合の良い米国の対中姿勢は、日本よりも米国が少し中国に強硬であることであるが、オバマ政権は、のちにリバランス政策に転換したものの、当初は気候変動等の地球規模課題を念頭に中国との協調関係を志向していたこと。またオバマ政権内で、気候変動と対中国政策の間に明確な優先順位付けがなかったことから、日本側に混乱が生じたことを指摘しました。トランプ政権では、中国との対立路線が前面に打ち出されたものの、当初、トランプ政権は中国を戦略的な脅威というよりも、経済的な脅威として認識していた。しかし最近では、ポンペイオ国務長官が中国に体制転換を求める発言を行う等、トランプ政権は日本よりもさらに強硬な姿勢を中国に示していること、これが日本にとっては懸念となっている点を指摘しました。

そのうえで、中山教授は、仮にトランプ政権が続く場合、同政権は再選戦略を最優先としていることから、現時点で再選後の政策に具体性がないこと。また米中対立の長期化が見込まれる中、米国政府内で争点を単純化してとらえる傾向があること。またあるいは、バイデン氏が政権を担う場合には、中国に対して安易に妥協はしないものの、体制転換を求めるような発言まではしないという意味でのノーマルな政策への回帰が見込まれること。他方、バイデン新政権内部で、2つのC(気候変動重視派(親中派)と対中強硬派)の間のシステマティックな対立状態がみられることに注意が必要だと述べました。いずれにせよ、米国の次期政権が国際協調路線に完全に回帰する可能性は低く、また国民的な支持の点からも、現在のトランプ政権の政策からの完全な転換も見込めないだろうと中山教授は述べました。

以上のCHOI教授と中山教授の基調報告を踏まえ、全体討論では、米中が冷戦状態にあると認識する上でどのような指標に着目すべきか、あるいはトランプ政権とバイデン政権の間にはどのような政策上の継続性や違いがみられうるのか、特にFOIP,TPPや対台湾協力等のトランプ政権の政策がどの程度、バイデン政権に引き継がれるだろうか、さらに米国新政権内の政策対立はシステマティックなものなのか、あるいは国際システムの構造的要因に起因するものなのか、といった点について議論が行われました。
この中で、TPPについては、これはオバマ政権が推進した政策であったものの、バイデン政権が成立した場合、民主党内の事情も考慮しても、米国としてなかなかTPPへの回帰は難しいのではないかとのが指摘されるとともに、FOIPについては、米軍内でインド太平洋軍の呼称がすでに公式化され定着していること等を踏まえれば、政権交代が行った場合にも基本的に継承されるのではないかとの議論がみられました。また米国新政権の対中国政策が、日本や韓国といった第三国のファクターによって規定される側面にも考慮に入れる必要性が指摘されました。

第2セッション「自由で開かれたインド太平洋(FOIP),貿易・科学技術競争、中距離核戦力(INF),香港・ウイグル問題における日本・韓国の対応」

午後3時45分から始まった第2セッション(モデレーター:高原明生・東京大学法学部教授)では、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP),貿易・科学技術競争、中距離核戦力(INF),香港・ウイグル問題における日本・韓国の対応」を議題として、冒頭、佐橋亮・東京大学東洋文化研究所准教授およびJae Ho CHUNGソウル国立大学教授が基調報告を行いました。

佐橋亮准教授は、現在のトランプ政権の対中国政策に対する懸念として、経済安全保障が象徴的であるように、米国が同盟諸国と協議しないままに中国に対して一方的に強硬な政策を規定しようとする動きがみられていることを踏まえ、そのような政策は不健全な面もあり、そもそも米国が同盟諸国と協調しないままの政策は機能しないのではないかと述べました。そして、バイデン氏が次期政権を担う場合、同盟諸国との協調を重視した対中国政策への転換が図られるのではないかと指摘しました。

菅新政権による日本の外交政策の特徴として、佐橋准教授は、実利主義に基づく対応がみられること。たとえば、韓国に対して、また中国にも対しても関係強化に前向きなメッセージを送っている点を指摘しました。他方、米中の構造的対立が、菅政権の外交政策上の制約要因になるだろうと指摘しました。

FOIPについて、佐橋准教授は、日本政府部内で若干混乱がみられるものの、当面、今後の日本の外交・安全保障政策の基本的な指針として使われ続けていくだろうと指摘しました。さらに、QUADと呼ばれる日米豪印の協力枠組みについて、佐橋准教授は、米・印は、この4か国の枠組みがインド太平洋地域における安全保障協力の主軸になるとして重視しているが、この枠組みにはASEAN諸国が含まれていない以上、地域安全保障アーキテクチャの一部を構成するに過ぎないと述べました。またTPPへの米国の復帰について、佐橋准教授は、バイデン政権が誕生した場合でも、その実現性は低いのではないかと述べました。

経済安全保障問題について、佐橋准教授は、今年4月、日本では国家安全保障会議の事務局にあたる国家安全保障局内に経済班が設置されたこと、また現在、日本政府部内で具体的な法制化の準備が進んでいることに言及するとともに、与党自民党内には、米中対立や中国の強権化への対応を念頭にかなり踏み込んだ議論もあり、政府と与党の間の合意形成に一定の時間を要するのではないかとの見通しを述べました。

人権問題について、佐橋准教授は、日本政府はウイグル等の問題で、米国やEUと歩調をそろえた姿勢を声明等で示すことはあっても、米国やEUのような経済制裁に踏み切る等の政策対応はとる可能性は依然低いのではないかとの観測を述べました。

ミサイル防衛問題について、佐橋准教授は、先般、日本政府は、配備候補地域の地方自治体の反対もありイージス・アショアの導入を断念したものの、現在、代替案として浮上している案はコスト面と実効性の面で疑問があり、今後、さらに慎重な検討が行われるのではないかと述べました。

Jae Ho CHUNG教授は、米中対立が激しくなるにつれて、米国または中国が関係第三国に対して何らかの形で強制を迫る局面が、今後より多くなっていくではないか、そしてそれはバイデン氏が政権を担う場合においてもそのような傾向は強まるだろうと述べました。また韓国が日本よりもはるかに経済面で中国への依存度が高いことを考慮する必要があり、まさにその点が文政権の現在の中国政策にも反映されていることを指摘しました。

FOIPについて、Jae Ho CHUNG教授は、韓国では、2017年当初、文政権が打ち出した「新南方政策」を踏まえ、米国政府が提唱するFOIPと中国の「一帯一路」の間で一定の親和性を見出そうと試みたように、FOIPそのものについての関心度は低かったものの、米国の自由航行原則作戦(FONOP)やQUADの組織化に直面するなかで、FOIPに対する当初の姿勢に変化がみられるようになっていることを指摘しました。

経済安全保障問題、特にHuawei問題について、Jae Ho CHUNG教授は、当初、韓国は、シンガポール等の他の東南アジア諸国と同様、限定的に同社製品の導入を認める英国の政策モデルを採っていたが、米国の要請を受けて英国が一転して全面的にHuawei製品を排除する方針に転換した中で、韓国国内では、政府あるいは企業のどちらが責任をもって対応すべきなのかという点でジレンマがみられることを指摘しました。

ポストINFミサイル開発問題について、Jae Ho CHUNG教授は、韓国にはTHAAD問題のトラウマがあり、米国と中国の間で微妙なバランスを採らざるを得ない現状があることを指摘しました。

人権問題について、Jae Ho CHUNG教授は、韓国ではウイグル問題単独で扱われることは少なく、台湾、香港、ウイグルといった一連の問題として取り上げられる傾向があること、また特に、香港問題については、韓国にとって香港が第4位の貿易相手国であることから、米欧との協調姿勢は一概には採れない点を指摘しました。

最後に、このような韓国が直面する現状を踏まえ、Jae Ho CHUNG教授は、もし、韓国が軍事的な脅威に直面した場合、米国は同盟国として支援してくれるだろうが、韓国が経済面で報復的な制裁措置を受けた場合に、同盟国としての米国は韓国を支援してくれるのだろうか。このような点の考慮が必要なのではないかと述べるとともに、平素から我々は「同志国」という言葉を、あまり精緻に定義することなく用いることが多いが、それは民主主義諸国という意味なのか、あるいは軍事的な同盟国という意味なのか。そこには、国家体制や同盟関係を超えた「共同行動」も含まれるのか、検討する必要があるのではないかとの問題提起を行いました。

以上の佐橋准教授とJae Ho CHUNG教授の基調報告を踏まえ、その後の全体討論では、米中対立の中で、日韓両国はそれぞれどのように行動すべきかを中心として率直な意見交換が展開され、今回の日韓対話を了しました。  (以上)

※本会議は外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたしました。