SSUフォーラム “米国大統領選挙後の日米中関係ー科学技術・経済・安全保障の観点から”

  • 日程:
    2021年01月15日(金)
  • 時間:
    9:30-11:30(JST)
  • 会場:
    Zoomによるオンライン
    ご登録完了後、会議前日に事務局より招待URLをお送りします
  • 言語:

    パネル1:英語
    パネル2:日本語
    (interprefyを使用しての英→日の同時通訳有)
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  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット

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    この情報はいかなる第三者にも開示致しません。

定員に達したため申込みを締め切りました。
概要

2020年大統領選挙が終了し、米国で新たな政権が誕生しようとしている。米国の新政権の下、今後、日本・米国・中国の3か国関係はどのように展開していくのだろうか。近年、米国と中国の間で、最先端科学技術をめぐる激しい対立がみられる。とりわけ、米国の現政権は、中国に対する技術投資規制・輸出管理の厳格化を進め、そして中国もそれに対抗する措置を具体化してきた。このような科学技術をめぐる米中対立は、米国の新政権の誕生により、今後どのような局面に入るのだろうか。そして、その中で日本はどのように行動すべきなのだろうか。
今回のSSUフォーラムは、米国新政権誕生前夜のタイミングをとらえて、科学技術・経済・安全保障の観点から、今後の日米中の3か国関係の動向と日本の採るべき行動について、国内外の有識者から幅広く知見を得つつ、議論を深める機会とする

プログラム

パネル1:「米国新政権の中国・アジア政策とその日本への含意(仮題)」
基調講演: シーラ・スミス・外交問題評議会(CFR)シニアフェロー
司会、ディスカッサント:藤原帰一・東京大学未来ビジョン研究センター長/東京大学法学政治学部教授

パネル2:「科学技術・経済・安全保障:米中の政策動向と今後の政策の役割(仮題)」
発言者1:鈴木一人・東京大学公共政策大学院教授(バイデン政権の課題、米国の対応)、
発言者2:伊藤亜聖・東京大学社会科学研究所准教授(五中全会後の中国政府・企業の動き)
司会、ディスカッサント:佐橋亮・東京大学東洋文化研究所准教授

未来ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)はこのたび、シーラ・スミス米国外交問題評議会(CFR)シニアフェロー、鈴木一人東京大学公共政策大学院教授、伊藤亜聖東京大学社会科学研究所准教授を講師としてお招きし、公開シンポジウムを開催しました。なお、本シンポジウムは外務省補助金事業「米中競争による先端技術分野の安全保障化の背景とグローバル経済への影響」の一環として開催されたものです。
シンポジウムの司会を務める藤原帰一法学部教授・未来ビジョン研究センター長は、開会に際して、本日の主題が地政学的、経済学的な広がりを持つ重要なものであることを強調しましたうえで、3人の講演者を紹介しました。以下は、2つのパネルにわたる3人の講演者の発言部分を中心に、今回のシンポジウムの概要をまとめたものです。

パネル1. 米国新政権の中国・アジア政策とその日本への含意
最初のパネルでは、シーラ・スミス米国外交問題評議会(CFR)シニアフェローによる基調講演を踏まえて、パネル討論が行われました。

基調講演 「日米同盟と中国の挑戦―バイデン就任式を前に」
シーラ・スミス 米国外交問題評議会(CFR)シニアフェロー
 スミス氏は、日本の対中政策において、米国人が中国をどう認識しているか、そしてその認識が日本にどう影響するのかを理解することの重要性を強調しました。トランプ政権にとって中国懸念論は、反共産主義のイデオロギーに深く根差した問題です。特に、新型コロナウイルスの世界的な流行の原因が中国にあると強調されたことで、米国内での中国警戒論が高まり、今回の大統領選挙では外交に限らずあらゆる政策において対中政策が争点になりました。バイデン次期大統領の政策は中国に対してソフトであると批判されています。
 日本で対中政策を議論するときには経済的利益が中心になりますが、米国では経済的な相互依存性が政策に反映されるとは考えられてきませんでした。キッシンジャー時代にとられた、ソ連から中国を切り離し、中国を市場に呼び込むという政策が長年踏襲されてきたのです。近年になってようやく、中国が米国の技術を買い上げようとしているのではないかという見方が現われ、中国から技術を守ろうとする傾向が強まってきました。
 中国の影響力は価値観の問題にもみられます。反共産主義のイデオロギーが政治的議論で前面に現れるようになっているのです。1970年代から、中国の人権問題は左派によって問題視されてきました。今日においては、新疆ウイグルの回教徒に対する抑圧や、香港を含めた反政府勢力への締め付けが強まっていることが問題視されています。米国は対中政策において日本ほど強硬ではありませんでしたが、現在では、中国の軍事力の増強や東南アジアでの影響力の拡大を含めて、中国を脅威とみなすようになっています。
 新型コロナウイルス問題も否定的な面での影響力を持ちました。中国の対応に対するトランプ大統領の批判が懐疑主義を強めました。かつては中国との共存を主張していた外交コミュニティのエリート層からも、中国の影響力を封じ込めようとする意見が聞かれるようになりました。
 バイデン次期大統領のアジア対応チームにはオバマ政権での担当者が戻ってくる予定です。インド太平洋調整官のカート・キャンベル氏は、オバマ政権期に南シナ海や尖閣諸島での問題を担当した経験を持っていますし、インドとの国境問題、オーストラリアとの関係悪化といった問題に際して米国の対中制裁措置を実施した安全保障の専門家など、中国、アジアをよく知っている人々がチームに入っています。国際的な連携を強化し、中国が行っている民主主義への挑戦に制裁を加えなければなりません。香港に関しては、バイデン氏もトランプ氏と同様の政策を行うでしょう。米国の技術や研究を守る政策は維持しされるでしょう。司法省も、従来と整合性の取れた政策をとるでしょう。
 日本の菅政権に対して助言ができるならば、台湾問題に早急に関与することを勧めます。中国がかける経済的プレッシャーに対して、国際コミュニティとして対応する準備が必要です。中国に対する関与の足並みがそろわないことは避けなければなりません。国によって対中認識や利害関係が異なることを理解したうえで合意を形成しておくことが重要です。

パネル討論
 スミス氏の基調講演に続いて、藤原教授の司会によりパネル討論が行われました。まず、藤原教授からは、中国の影響力の拡大を抑止することと、中国の政策を変えさせることの違いが指摘されました。トランプ大統領による厳しい政策は中国の政策を変えることができず、人権問題などではむしろ強硬化させたのではないかとの疑問が提示され、アメもムチもうまくいかないときの代替案について質問が出されました。スミス氏は、中国の政策を変えさせることはできないとの前提に立ち、中国が強硬政策をとった場合に日米がとるべき行動の合意を形成しておく、オーストラリアなど国際的な連携を固めておくことが重要であると強調しました。このパネル討論に続いて、参加者からの質疑応答が行われました。

パネル2. 科学技術・経済・安全保障:米中の政策動向と今後の政策の役割
 後半のパネルでは、鈴木一人教授、伊藤亜聖准教授による発表に基づき、SSUメンバーである佐橋亮東洋文化研究所准教授の司会によるパネル討論が行われました。
 はじめに佐橋准教授は、民主党と共和党が異なる政策を掲げる中で、トランプ政権において実施された科学技術に関する規制がバイデン次期政権ではどう変わるのか、デカップリングに関してどのような動きが起きるかを予測しておく重要性を強調しました。

発表1. 「米中技術覇権競争と日本の経済安保」
鈴木一人 東京大学公共政策大学院教授

 鈴木教授は、技術覇権をめぐる競争は経済安全保障の問題であると指摘しました。近年急速に発展した情報通信・IT関連技術を含む新興技術分野では、米中のどちらの方が進んでいるかが明確ではありません。例えばバイオテクノロジーでは米国が優位ですが、中国がキャッチアップしています。一方、量子情報およびセンシング技術では中国が優位です。先進的サーベイランス技術では中国が既に社会実装しています。こうした状況の中で、どちらの国が技術覇権を握るかが問題となっています。西側諸国が優位性を有している技術を維持するためには、連携が重要です。米国では米中対立は党派を超えてコンセンサスがあるため、バイデン次期政権に代わってレトリックや姿勢が変わったとしても、根本的な変化はないでしょう。中国の技術に依存することへの警戒感は残ります。ただ、バイデン政権で懸念されるのは、GAFAと呼ばれる巨大IT企業に対する批判です。米国では反トラスト法による提訴が起きており、民間主導のデータを利活用した新興技術開発に水が差される可能性があります。量子情報技術やサーベイランス技術など、巨大IT企業が中心を担っている分野で投資が減少し、技術者の分断が起きる懸念があります。西側諸国には、半導体製造装置などの付加価値の高い上流技術を独占的に持っているという強みがあります。中国の強みは、大量生産の下流にあります。そうした中で中国が技術覇権を握ることができるのかどうかが問われています。
 中国の状況は近年、大きく変わってきています。技術の水準に自信を持ち、技術を奪う側から守る側に代わりつつあります。昨年の習近平講話では、キラー技術を開発して他国を中国に依存させ、他国を脆弱化して中国の政治的パワーを強める方針を打ち出しています。ただ、それだけでは中国が覇権を握ることには必ずしもつながりません。覇権を握るには、製品が良いだけではなく、社会システム全体の魅力も重要です。ただし中国は、顔認証のサーベイランスを使って強権的に新型コロナウイルスの封じ込めに成功しました。その成功が社会システムの魅力になる可能性はあります。
 日本はこれまで、技術を奪われないようにする守りの経済安全保障政策をとってきましたが、日本の技術をどうパワーに変えるかという攻めの経済安全保障も必要になります。日本の技術に他国を依存させることが鍵になります。素材や工作機械、ロボティクスに強みがありますので、その強化が重要です。国際標準やルール作りに参画することが必要です。従来のように、市場が日本の製品を選択することで日本の技術が標準になっていくというデファクトではなく、国際交渉におけるリーダーシップをとり、米国とも協力しながら技術の標準を担っていくことで、中国に対抗するのです。それによって、サプライチェーンの中心に立つことが攻めの安全保障ではないでしょうか。

発表2. 「五中全会後の中国政府・企業の動き」
伊藤亜聖 東京大学社会科学研究所准教授

 伊藤准教授は、この20年で中国経済が大きく変化したことを強調しました。2000年代の中国には遅れた製造業のイメージがあり、デジタル経済もコピーにとどまり、遅れているという実態およびイメージがありましたが、20年で大きく変わりました。重点投資、人口効果に基づく外部性を活用したイノベーションを通じて世界最先端に躍り出ました。
 中国政府、共産党が過去1年間に開いた重要な会議のひとつとして、直近では、12月の中央経済工作会議が挙げられます。2020年を評価し、2021年の重点政策を決める会議です。もうひとつは、10月の五中全会です。2021年から2025年までの次期5か年計画の骨子が作成され、2035年までの長期計画が議論されました。ここでも、国家戦略的に科学技術を高めることが強調され、国内循環論が強調されました。米中対立および新型コロナの影響で海外市場を新たに開拓することが難しいため、内需を起点として発展する政策を立てたのです。
 五中全会に先立ち、民間企業家、経済学者、社会学者などと習近平の座談会が行われ、9月には科学研究者との座談会もありました。そこで習近平が語ったのは、「科学に国境はないが、科学者には祖国がある」という言葉です。大方針として掲げられているのは、0から1を創り出すオリジナルなイノベーションです。各論としては、中国に一流の学術雑誌を作ること、飛び級で学生を育成・選抜して、数学、生物など自然科学の最優秀研究者集めて基礎研究を強化することが掲げられています。公衆衛生や気候変動の分野では、国際協力を進めることも掲げられています。SDGsへの協力を宣言し、国連総会でのビデオ演説では2060年までにカーボンニュートラルも宣言しました。
 こうした状況を踏まえると、米中経済を切り離すデカップリングが本当に有効なのか、どのような影響をもたらしたのかを議論する必要があります。中国の国内企業では、幅広い分野でビジネスを創り出すエコシステムが出来上がってきています。確かに、川上の特定技術、設備にはボトルネックがあるということが、トランプ政権期に可視化されました。しかし、中国はこれから技術を内製化しようとするでしょう。本来、中国経済は中所得国レベルなので、キャッチアップに注力して最先端技術は外国から買ってくればいいというのがメリットでした。しかし、米中摩擦でその一般的な中所得国が持つメリットは棄損され、内製化しなければならなくなりました。内製化にはコストがかかりますが、中国内の合意としては、そのコストも払うという発想になっています。
 日本にとっては、米中経済のデカップリングに日本がどう接するのかが課題です。去年夏に伊藤准教授が日本経済新聞社と協力して行った世論調査では、トランプ政権でのデカップリング政策に日本もどの程度賛同して参画するか、意見が分かれました。参画すべきかどうかについての合意はまだないというのが日本のビジネス界の現状です。中国は日本にとって重要な相手であり、新型コロナの流行によってその重要性はさらに高まっています。大平正芳首相時代からの対中政策を大きく変更するという事実はまだありません。ですが、どこを修正するかを議論するときを迎えているのではないでしょうか。
 北京の研究者の中には、「時がたてば中国に有利になる」という自信を持っている方がいます。どのように中国を説得し、中国自身の利益のために戦略を調整した方が良いですよと説得する際に、「時は中国に味方している」という見方が存在することを考慮に入れることは重要であると、伊藤准教授は強調しました。

パネル討論
 二人の発表に続いて、佐橋准教授の司会によりパネル討論が行われました。まず、佐橋准教授から鈴木教授には、バイデン次期政権においても根本姿勢は変わらないとして、それでも予想される政策の違いは何か、伊藤准教授には、米国の技術規制による中国経済の成長鈍化はどのようなものか、という質問が出されました。鈴木教授は、第1に、米国は中国との人事交流の制限を継続する一方で、インドなどとの交流は増加させるであろう、第2に、プライバシーにかかわる問題や個人の人権にかかわる問題が研究開発のアジェンダに載るなど、倫理的なイノベーションでは変化が起きるであろうとの見方を示しました。伊藤准教授は、2019年のInnovative Chinaという報告書ですでに成長率2%のシナリオが出されたことがあると紹介しました。中国は中所得国段階の経済力で大国化し、技術的な開発もしなければならなくなっているため、一般的な中所得国に比べて課題を多く抱えています。それにどう対応するのかが課題になっていると指摘しました。
 続いて、パネル1の講演者であるスミス氏が、米国の司法省が中国プログラムを進めており、第一線の中国人研究者・技術者が逮捕・起訴されていることを指摘し、このような政策がバイデン次期政権でどうなると予想するかという質問を提示しました。これに対して鈴木教授は、米国が経済的に優位であり続けるためには、技術的な優位性を維持することが重要であるため、技術接収に対する警戒は強まり、いわゆる「千人計画」などへの警戒は続くであろうと述べました。ただし、その厳しさには政権による差があり、トランプ政権はインドなどの研究者も含めていたものの、バイデン政権では緩めるのではないかとの予想を示しました。このパネル討論に続いて、参加者からの質疑応答が行われました。

閉会挨拶
 シンポジウムの閉会に際して藤原教授は、登壇者と参加者に感謝を述べると同時に、大学では真実の究明が重要であると強調し、今後も考える機会を提供していきたいとの抱負を述べました。

*本開催報告では、パネル1の基調講演とその後のディスカッションの映像を公開いたします(パネル2の公開は予定しておりません)。

パネル1:


基調講演: シーラ・スミス・外交問題評議会(CFR)シニアフェロー
司会、ディスカッサント:藤原帰一・東京大学未来ビジョン研究センター長/東京大学法学政治学部教授

※本フォーラムは、外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金により開催いたしました。