アフリカ大湖地域における紛争解決プロセスの誤導 -コンゴ紛争とRPFの言説をめぐって-

  • 日程:
    2021年02月25日(木)
  • 時間:
    20:30-22:00
  • 会場:
    ZOOMでのオンライン開催となります
  • 言語:

    日本語、フランス語(通訳あり)

  • 主催:

    東京大学未来ビジョン研究センター SDGs協創研究ユニット
    科研基盤研究(B)「紛争下の資源採掘と人権侵害 -コンゴの紛争鉱物取引規制がもたらすメカニズム変化」

  • 共催:

    NPO法人RITA-Congo
    三菱財団助成研究「コンゴの紛争資源問題と性暴力に対する先進国の責任」

  • 参加登録:
  • お問合せ先

    congowebinar202102★gmail.com (★→@)

概要

戦争犯罪に関して流布される言説はときに真実を覆い隠し、国際平和に向けた取り組みを誤導することがある。多くのアクターの政治、経済、社会、文化的な利害関係が複雑に絡み合う紛争においては、「民族紛争」「資源紛争」「イスラム・テロ」「内戦」などとラベリングすることで紛争を「理解」しようとする分析がときに学術研究においてさえ行われ、横行する戦争犯罪もまたその範疇でとらえられてきた。同時に、ラベリングは紛争アクターによって自らを利する言説として流布され、紛争の長期化を支える構造的要因や政治的意図を覆い隠す戦略として利用されることもある。国際社会による紛争解決および平和構築策が成果を上げるためには、戦争犯罪をめぐる言説の信憑性を検証し、歴史的事実に基づいて修正したうえで、紛争の根源的要因を理解して政策を実施することが必要である。
人の移動と資源をめぐる利害関係が複雑に絡み合うアフリカ大湖地域では、こうした言説が紛争解決、平和構築を誤導する現象が典型的に観察される。ルワンダではジェノサイド後の平和構築としての国連平和維持活動(PKO)が本来の成果を上げられず、コンゴでも出口の見えないPKO駐留が20年続いてきた要因として、本セミナーは、言説による国際平和への取り組みの誤導を検証する必要性を提唱する。ルワンダのジェノサイドとコンゴ紛争は切り離すことができない「双子の戦争犯罪(twin crime)」であるにもかかわらず、視野を狭めた分析が行われてきたことにも大きな問題がある。
本セミナーでは、両紛争を長年調査してきたジュディ・レヴァー氏を講師として招き、1996年から続くコンゴ紛争において、隣国ルワンダ政権を担うルワンダ愛国戦線(RPF)が流布してきた言説とその影響を分析する。それによって、戦争犯罪に関する言説が平和構築に向けた様々な枠組みや政策を誤導し、紛争解決が実現できずにきた可能性を検証する。

プログラム
  • 20:30-20:35
    開会挨拶

    華井 和代(東京大学未来ビジョン研究センター講師)

  • 20:35-20:40
    趣旨説明

    米川 正子(筑波学院大学准教授)

  • 20:40-21:20
    基調講演

    ジュディ・レヴァー(国際ジャーナリスト)

  • 21:20-21:25
    コメント

    クリスチャン・ムカディ(上智大学カトリック・イエズス会センター員)

  • 21:25-21:55
    質疑応答
  • 21:55-22:00
    閉会挨拶

    米川 正子

講師略歴

ジュディ・レヴァー(Judi Rever)
カナダ在住の国際ジャーナリスト。Radio France Internationale、AFPで勤務し、アフリカと中東で取材・報道した。著書の『In Praise of Blood: The Crimes of the Rwandan Patriotic Front』(Random House Canada 2018年)は、2018 Quebec Writers’ Federation Literary Award: Mavis Gallant Prize for Non-Fictionを受賞し、また2018 Hilary Weston Writers’ Trust Prize For Nonfictionの最終候補にノミネートされた。現在は、Globe and Mail(カナダ)、Le Monde Diplomatique(フランス)、Foreign Policy Journalなどに執筆している。同時に、世界の難民の法的保護を促進する団体「Rights in Exile Programme」のルワンダに関する出身国情報専門家を務めている。

コメンテーター略歴

クリスチャン・ムカディ(Christian Mukadi)
コンゴ出身の学者、人権活動家。上智大学カトリック・イエズス会センター員。

開会あいさつ:華井和代 東京大学未来ビジョン研究センター講師
はじめに、研究プロジェクト「紛争下の資源採掘と人権侵害」の代表者である華井講師が、2016年から続く本研究プロジェクトの趣旨を説明し、講演者と参加者への感謝を述べた。

趣旨説明:米川正子 筑波学院大学准教授
続いて、研究分担者であり本セミナーのモデレーターを務める米川准教授が、セミナーの趣旨を説明した。一般的に、紛争にまつわる事象やアクターには様々なラベリングが行われ、それが紛争解決手段にも影響を及ぼす。1994年にルワンダで起きた大量殺戮は「ジェノサイド」と認定され、「加害者はフツ(民兵)、犠牲者はツチ、ルワンダ愛国戦線(RPF)のカガメ氏(現大統領)はジェノサイドを終わらせた救世主」とラベリングされている。そのジェノサイドが飛び火して1996年に勃発したコンゴ紛争は、2003年の和平合意・暫定政府樹立によって「終結」したとされ、コンゴは「紛争後」にあると位置づけられているが、現実には紛争が続いている。また、コンゴには多数の紛争アクターが存在するが、政府との対話が遮断されているアクターと、政府との和平合意を結び、権力分有や国軍統合が認められているアクターに分かれる。問題は、表面的な対立の裏で、RPFが紛争アクターを創設・支援しており、国際的な紛争仲介者もRPFの利害関係者になっていることにある。本セミナーでは、元RPF要員の亡命者を徹底的に取材してきた世界唯一のジャーナリストであり、ルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)の機密文書を世界で初めて公開し、ルワンダのジェノサイドの真相を暴露したジュディ・レヴァー氏に講演いただき、問題の真相に迫る。

基調講演「コンゴにおける戦線なき戦争:欺瞞を戦術とするRPF」:ジュディ・レヴァー氏 国際ジャーナリスト
レヴァー氏は、自身の調査結果に基づいて、一般的に流布しているルワンダ・ジェノサイドの言説と現実の間には差があること、その言説が、コンゴの紛争構造をつくり出していることを、以下の点から説明した。
第1に、ジェノサイドに関してRPFが形成した「フツによるツチに対するジェノサイドをRPFが止めて、平和をもたらした」という言説のおかげで、カガメ氏は統治の正当性を確保した。同時に、「国際社会は最悪の時期にルワンダを見捨てた」という語りは欧米政府に罪悪感を抱かせ、RPFが国際法を犯しても欧米からの援助が得続けられる状態を作り出している。現実には、RPF支配地域ではフツの虐殺が行われていたことを、ルワンダの難民や人権活動家、米コンサルタントなどが報告したが、国連と米国政府によって秘匿され、検察局に提出されたICTR特別捜査報告書も隠蔽された。コンゴ紛争発生当時、米国企業は通信衛星の映像提供や資金援助によってRPFと武装勢力AFDLを支援した。米国は約150の軍事衛星を保有しており、ルワンダとコンゴにおける犯罪の証拠を示すことができるが、衛星写真は一度も公開されていない。
第2に、ジェノサイド後にコンゴ東部に流入したルワンダ難民に関して、「フツ民兵が難民キャンプを拠点としてルワンダを攻撃している。フツ民兵の人質にされている難民を救い出し、ルワンダに帰還させるためには、難民キャンプを攻撃しなければならない」というRPFの言説が虚偽であることは、難民や元RPF要員の証言によって確認されている。この言説を隠れ蓑としてRPFはコンゴに侵攻し、コンゴ人とフツ難民を大量虐殺するとともに、コンゴの天然資源の支配にも成功した。それにもかかわらず欧米の知識人はRPFのプロパガンダを拡散し続けている。フツ難民に実証調査を行わなかったことは、研究者と国連の失敗であった。情報は紛争の勝者であるRPFに統括されている。研究者がボトムアップで情報収集をしていれば、世界の言説は違うものになったであろう。
第3に、コンゴで継続している紛争に関して、RPFは「安定」を口実に軍事行動を正当化しているが、現実には、フツを含む「敵」との交渉を習慣的に行い、武装勢力すべてに要員を潜入させることでコンゴに対するルワンダの優位性を維持している。国際社会とコンゴ政府は、和平合意が行われると武装勢力の元兵士をコンゴ国軍に「統合」させているが、この方式が、カガメ氏の指揮下にある兵士や司令官がコンゴ国軍に統合され、昇進し、コンゴ国内で何でもできるようになることに加担している。RPFはコンゴの政府、軍、国民の絆、家族、女性たち、市民社会、豊かさなどを破壊することに成功した。それによって領土を支配し、富を搾取している。コンゴ人女性に対する性暴力はRPF要員が潜入したコンゴの武装勢力の兵士によって行われている。
第4に、欧米諸国の政策決定者にとって重要なのは現場での現実ではなく、安定しているという感覚である。そのため誰もカガメ氏の罪と何百万人の犠牲に関心を示さず、コルタン採掘が欧米にもたらした利益が重視されている。国連専門家は、ルワンダ軍がコンゴ領土に駐留していると発覚した際も、コンゴ東部の安定のためにルワンダは寄与できる、コンゴ国軍はフツ民兵を無力化できると言い続けている。政府や国連高官の中にRPFの共犯者がいる。
最後にレヴォー氏は、これらの状況から、コンゴ人がなぜ侮辱され、裏切られたと感じているかが理解できると共感を示し、私たちは常に真実を示す義務を負っていること、政治的干渉があっても、複数の法廷が司法正義を否定したとしても、努力は続けなければならないことを強調した。

コメント「コンゴにおける平和イニシアティブ:正義の言説から正確な言説への移行の重要」:クリスチャン・ムカディ 上智大学カトリック・イエズス会センター員
ムカディ氏は、コンゴでの暴力がルワンダの政治史と密接に関連していること、RPFの権力追求は多国籍企業と特定の大国、特に米国の庇護のもとで行われていることを強調したうえで、「正義の言説」について以下のように述べた。
国際社会の大きな誤りの1つは、コンゴでの平和イニシアティブにおいて、ルワンダ・ジェノサイドとコンゴの天然資源をめぐる暴力と略奪の両方に関する言説の反証可能性を検証しなかったことである。2つの悲劇は共通の起源を持っている可能性が高いため、同時並行での真実の追究が必要である。1994年以降のRPFによるコンゴ侵攻とコンゴ反政府勢力による侵攻に関する言説を精査して、紛争解決と平和構築を実行する前に毒の種と良き種を区別しなければならない。どんな言説も批判的思想をもって受け止める必要がある。プロパガンダとイデオロギー的・政治的分裂に支配され、また多国籍企業の経済利益が人命よりも重視されている大湖地域のような地域では、真実の追究に勇気を持たなかければならない。

質疑応答
Q.著書『In Praise of Blood』に対する研究者からの批判やコンゴ政府の反応について
A.レヴァー氏
:裁判所が審判を下していないため、ジャーナリストが「RPFがフツに対してジェノサイドを犯した」と結論づける権利はないとの批判があった。しかし、1994年7-9月、裁判所が審判を下す前から、ジャーナリストや研究者らがツチに対する行為を「ジェノサイド」と表現した。私は長年の研究蓄積と多数の証拠をもとに結論づけた。コンゴ政府による拙著への反応はなく、同政府は常に真実に関して曖昧な態度を取っているが、同国の市民の反応は好意的である。

Q.コンゴとルワンダにおける司法の正義は実現できるか
A.レヴァー氏
:米政府は自国の戦争のためにルワンダ軍を利用し、ルワンダはPKOを利用している。カガメ氏は米政府にとって利用価値がある。一方、コンゴで国連マッピング報告書に記された犯罪を訴追するためには裁判所設立が重要だが、そのためにはコンゴ政府の政治的合意と意志、国連と国連安保理を管理する米政府の支援が必要である。コンゴ政府の一部がRPFと協力を続け、また米政府の政治的意欲が欠乏する限り、国際刑事裁判所の設立と犯罪者の裁きは非常に難しい。

Q.国連は強いもののためだけに存在するのか。
A.レヴァー氏
:司法正義を設立し、重要な決定を下すのは国連安保障理事国だが、コンゴでの多数の犠牲者の司法正義が否認されている。また、地政学的・商業的・金融的要素が西欧諸国の戦略的利益とも結びついている。それでも、私達はこの犯罪を資料で裏付けることに成功した。コンゴ政府の下では実現できないが、欧米かアフリカの裁判所で被害者による集団訴訟を行う可能性もある。

Q.ガバナンス、民主主義、人権、若者の雇用などで改善がなければ、若者の過激化が続き、ルワンダとコンゴが地獄戦争に突入する恐れがないか
A.レヴァー氏
:そのリスクは常にある。コンゴの市民社会の抵抗運動に関心を寄せてきたが、ルワンダとコンゴにおける暴力を懸念している。コンゴの事態を治め、コンゴ国軍内の不処罰を止め、自由で透明な選挙を実施し、ルワンダからの内政干渉を止めることが重要である。

Q.ルワンダによる犯罪行為を提訴するためにコンゴには何が足りないのか。
A.ムカディ氏
:コンゴ政府は1999年にルワンダに提訴したが2001年に取り下げた。2001年にコンゴの和平「交渉」が開始したが、コンゴ人らと対話していたのはルワンダによって支持・援助された反政府組織だった。彼らに押しつけていた非公式の条件は、ルワンダへの提訴を取り下げることで実現された。その翌年から2019年まで、ウガンダがコンゴで犯した罪への有罪判決が下された。責任感を持って国を率いる政治指導層の不在こそが根源的な問いである。