紛争鉱物取引規制への対応に関する提言

政策提言の背景

2021年1月1日、欧州連合(EU)の紛争鉱物取引規制が全面開始された。コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)東部において紛争の資金源になっていると指摘されているスズ、タングステン、タンタル、金の4鉱物(まとめて3TGとよばれる)をEUに輸入したり、製錬する企業に、デュー・ディリジェンスの実施が求められた。これは、2010年に経済協力開発機構(OECD)が公表した紛争鉱物に関するデュー・ディリジェンス・ガイダンスに沿ったものであり、従来の紛争鉱物取引規制と方向性を一にしている。2010年にはアメリカで金融改革法(通称ドッド・フランク法)1502条として紛争鉱物取引規制が法制化されており、過去10年間の取り組みが行われてきた。独自の国内規制を制定していない日本においても、欧米企業と取引を行う場合には規制への準拠が求められるため、3TGを利用する日本企業は紛争鉱物調達調査を実施している。

一方で、紛争鉱物取引規制によって鉱物産出地域の紛争を解決しようとする取り組みがいかに難しいか、国際社会は過去10年ですでに経験してきた。規制導入以降のコンゴでの紛争に関連する暴力は減っておらず、むしろ増加傾向にある。こうした状況でのEU規制の開始、さらには規制対象外でありながら実質的に調査の対象になっているコバルトへの対象拡大によって、企業は岐路に立たされている。この状態にどう対処すべきか、本提言は紛争研究の視点から現状を分析し、政策方針への提言を行う。

なぜ紛争鉱物取引規制は紛争解決に貢献できていないのか。本提言は、規制が紛争を止められない要因として以下の4点を指摘する。

  1. 紛争鉱物取引規制は、企業、コンゴ政府、周辺国政府、欧米政府、武装勢力、コンゴ国軍、企業、 援助機関などの関係主体の行動変化をもたらしたものの、紛争と資源が結びつくメカニズムを変えることができていないため、紛争解決手段として有効に機能できていない。
  2. 紛争に関わっていない(紛争フリー)と認証された鉱物のみを流通させるclosed-pipelineはサプライチェーンの上流において大きな問題を抱えており、実態としては構築できていない。
  3. 武装勢力兵士のリクルートや軍事訓練、鉱物密輸を通じて周辺国がコンゴ東部の紛争に介入し続けており、アフリカ大湖地域の政治力学が紛争解決に向かっていない。
  4. サプライチェーンの下流企業および援助国からのプレッシャーは、紛争継続が関係主体の利益になっているメカニズムを変えるほどの十分な力になっていない。

これらの要因分析を踏まえて、日本の政府、援助機関、研究者、企業、市民社会がとるべき方針として4点を提言する。

政策提言

複数モデルの分析とその含意を以下にまとめる。

提言1:紛争鉱物取引規制が紛争と資源が結びつくメカニズムに与える影響の分析


紛争鉱物取引規制の導入によって関係政府、紛争主体、企業の行動変化があった一方、紛争と資源が結びつくメカニズムを変えることは現状ではできていない。鉱物採掘・取引が紛争継続の手段として利用され、同時に紛争を継続する動機にもなっている状況が続いているために、紛争は解決に向かっていない。規制による関係主体の行動変化のみならず、規制が紛争と資源が結びつくメカニズムに与えた影響の分析を深めることが必要である。

提言2:紛争鉱物調達調査および紛争フリー鉱物認証スキームの強化


紛争鉱物取引規制が紛争解決手段として機能するためには、規制が設計通りに実施されることが第1段階として必要である。規制が完遂されない現状において規制の緩和を検討するのではなく、紛争鉱物調達調査および鉱物認証スキームを強化する必要がある。

提言3:Closed-pipeline構築に向けたサプライチェーンの上流(鉱物産出地域)への支援強化


紛争フリー鉱物のclosed-pipelineを構築するうえでの問題点は、サプライチェーンの上流である鉱物産出地域にある。中流の製錬所以降のトレーサビリティを強化しても、鉱物産出地域での「徴税」によって鉱物採掘・取引の利益が紛争主体に利用されているならば、パイプラインは汚染されていることになる。デュー・ディリジェンスを実施する下流企業には、下流におけるトレーサビリティの確保に尽力するのみならず、鉱物産出地域において紛争フリー鉱山および輸送経路が確保されるよう、上流の鉱物認証機関への支援を強化するよう推奨する。

提言4:コンゴ、ルワンダ、ウガンダ、ブルンジを含むアフリカ大湖地域の政治力学に基づく問題分析


コンゴ東部の紛争に周辺国が関与し続けている状況を踏まえて、コンゴ国内のみならずルワンダ、ウガンダ、ブルンジを含むアフリカ大湖地域の政治力学のなかでコンゴ東部紛争の実態をとらえ、紛争解決に向けて国際社会からの働きかけを行っていく必要がある。

この政策提言は、東京大学未来ビジョン研究センターSDGs協創研究ユニットの研究成果の一つです。全文は以下よりダウンロードいただけます。