平和と繁栄をもたらす豊かな未来への道筋を示す グローバル・コモンズ・スチュワードシップ・フレームワークの発表

東京大学グローバル・コモンズ・センターは、システミック社(英)、ポツダム気候影響研究所(独)、持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(国連)とともに、グローバル・コモンズの責任ある管理のための科学的かつ実践的なフレームワークを提示します。

私たち人類は今、人類史の重大な岐路に立っています。様々な科学的証拠が示すように、人類の厚生、繁栄、安全が依存する安定的で回復力のある地球システム(グローバル・コモンズ)がそのバランスを失いつつあります。私たちは、グローバル・コモンズを守るために地球環境を損ない続ける社会経済システムを変革する必要があり、そうしなければ、遠からず地球システムの異変が自己強化的かつ不可逆的になる転換点(ティッピングポイント)を超える危険性があります。こうした転換点を回避するには、世界のリーダーたちは、一部の分野で見られつつある進展を加速させ、その成功に向けた社会経済システム転換の望ましい「転換点」を発動するために、協調的な行動をとる必要があります。

この度、東京大学グローバル・コモンズ・センター(CGC)が、システミック社、ポツダム気候影響研究所(PIK)、持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)の支援を受け作成した「グローバル・コモンズ・スチュワードシップ・フレームワーク」は、政府、企業、金融、市民社会、国際機関のリーダーたちに刺激を与え、その指針とするためのものです。最新の科学的知見に基づくこの行動のためのフレームワークは、グローバル・コモンズの保全と責任ある管理のために、ステークホルダーを結集させ、変革を導き、巧みな協働に役立てることができます。

グローバル・コモンズ・スチュワードシップ・フレームワークは、(1)エネルギー、産業、輸送の脱炭素化、(2)持続可能な都市とコミュニティ、(3)持続可能な生産と消費、(4)持続可能な食料、森林、土地、水、海洋という4つのシステム転換を起こすことを目指して構成されています。各システム転換は、4つの共通のアクションレバーを通じて推進することができます。このレポートでは、主要なステークホルダーが、グローバル・コモンズを守るためのシステム転換を駆動する際に参考となる具体的なアクションを示し、行動の呼びかけを行なっています。

東京大学グローバル・コモンズ・センターのダイレクターである石井菜穂子氏は、「人類の生命、繁栄、安全が依存している複雑に絡み合った地球システムの崩壊を回避するには、世界は4つのシステム転換を同時に行い、前例のない発展を遂げる必要があります。このフレームワークは、リーダーたちが、政治、社会、経済の力を活用し、協調によってグローバル・コモンズの保全と回復を迅速に進めるためにとるべき具体的な行動を明らかにし、この困難で複雑な課題への糸口を示すものです。 」と述べています。

しかし、世界は地球システムの危険な転換点を回避するために必要な規模と速度で行動できていません。「この報告書は、世界の平均気温の上昇を1.5℃以内に抑えるために必要な社会経済システム転換のあり方を示しています。これは十分なスピード感をもって起こっているわけではありません。システム・チェンジ・ラボの評価では、システム転換の40の指標のうち、2030年までに目標を達成できそうなものはありません。残された時間は少ないにもかかわらず。」と、世界資源研究所(WRI)のアニ・ダスグプタ所長兼CEOは述べています。

ロシアによるウクライナ侵攻とその悲惨に世界が注目しているときに、グローバル・コモンズの重視を提唱するのは場違いに見えるかもしれません。各国は競って軍事費を増やしています。国際社会には亀裂が走り、主要国間の分断も広がっています。戦争は、エネルギー、食料、肥料を輸入に頼る多くの国々に、欠乏と危機を生み出しています。

「グローバル・コモンズの劣化に歯止めがかからなければ、欠乏と危機がさらに深刻化します。不安定化した地球システムがこのような脅威を高め、難民や紛争を拡大している状況が増えています。私たちは今、健全で回復力のある地球システム、すなわち私たちのグローバル・コモンズこそが、私たちの生命、繁栄、安全の中核であることを認識し、協力して責任を持って管理する必要があるのです。」と、ポツダム気候影響研究所のヨハン・ロックストロム所長は述べています。
ロシアによるウクライナ侵攻が犠牲にしたもう一つのものは、気候システムその他のグローバル・コモンズを守るための国際協力でしょう。「国際協力の拡大なくして、様々な世界の課題に取り組むことは不可能です。この点は、コロナ禍によってさらに明らかになりました。各国は、外部からの侵略やグローバル・コモンズの劣化などの脅威から身を守る必要があります。そのためには、世界の共通目的のために効果的な協力を促進する新しいガバナンス・メカニズムが必要です。」と、システミック社のマネージングパートナーであるグイド・シュミットトラウブ氏は述べています。

グローバル・コモンズを守ることはすべての国の利益ですが、先進国はそのためのより大きな責任を負っています。このことは、持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)、イェール大学、グローバル・コモンズ・センターが発表した「グローバル・コモンズ・スチュワードシップ(GCS)指数」が、明らかにしています。この指数によると、豊かな国(先進国)の経済活動が、途上国の環境に対し多大な悪影響を与えていることが分かります。「豊かな国の繁栄の一部は、より貧しい国の環境に悪影響をもたらす持続不可能な生産と消費のパターンに依存しています。先進国には、グローバル・コモンズを守るのに要する社会経済システム転換を主導する責任があり、そのための能力もあります。先進国は、すべての国々と協力し、外交、投資、貿易を通じて、グローバル・コモンズを尊重し、保全し、回復するための平等で相互に有益なパートナーシップを構築しなければなりません。」とSDSN 副所長である ギョローム・ラフォーチュン 氏は、述べています。

報告書賛同者の声(アルファベット順)

ポール・ポールマン(企業経営者、活動家、”Net Positive”の共著者)
「私たちの繁栄を支えているグローバル・コモンズの保全と再生は、途方もなく大きな課題であり、ビジネスが環境に良い方向に向かい、環境に良い方向にむかうことがビジネスにとっても良いことである場合にのみ、この課題を克服することができるのです。炭素排出量ゼロを目指す「レース」は順調に進んでいますが、ビジネスリーダーやその他の意思決定者にとって、気候システムや陸域生物圏などのグローバル・コモンズ間の複雑な相互関連とトレードオフを把握することは困難です。本報告書のフレームワークは、この複雑さを一掃し、意思決定者がグローバル・コモンズの保全に必要な変革をもたらすための、科学に基づく具体的な行動指針を提供するものです。」

ジェフリー・D・サックス(コロンビア大学持続可能開発センター所長)
「経済発展、社会的包摂、地球システムの健全性という課題は、持続可能な開発の諸解決策がそうであるように、相互に密接に関連しています。経済的な厚生と環境の持続可能性は、相反するものであってはなりません。グローバル・コモンズ・スチュワードシップ・フレームワークは、この核心となる真実を捉え、社会にあまねく利益をもたらし、国内および国家間の不平等を解消するのに役立つ、公正で持続可能な移行のための行動計画を提示しています。」

フェイケ・シーベスマ(Royal Philips監査役会会長、Royal DSM元CEO)
「今日、すべてのビジネスリーダーは、甚大な被害をもたらす可能性のある環境リスクに関する明確な科学的根拠をある程度理解しています。しかし、前向きな姿勢で取り組んでいるCEOでさえ、これらの脅威がどのように関連し、企業がそれに対して何ができるのか、何をすべきなのかを理解するのに苦労しています。このフレームワークは、4つのシステム転換と行動指針を示すことで、科学をビジネスのための具体的なアクションに変換することに貢献しています。グローバル・コモンズの健全性と回復力を維持するために、こうした変革に資金を提供し、推進するためには、民間部門が不可欠です。企業にとって目的志向のビジネスモデルのための実際のコストと機会を理解することは、非常に優先順位が高くあるべき議題なのです。」

ニック・スターン(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 教授、グランサム気候変動環境研究所 所長)
「グローバル・コモンズは、この地球上で私たちが繁栄を続けるための基盤です。このような地球システムの健全性と回復力を維持するためには、経済・社会システムの抜本的な転換が必要です。このフレームワークは、科学的な証拠と脱炭素化の国際的な進展から得た教訓を基に、4つのシステムの転換の概要を、プラネタリー・バウンダリーの範囲内で持続可能な開発を達成するために必要な経済、政治、社会の変革をもたらすことができるアクションレバーとともに示しています。」

イザベラ・テイシェイラ(国連環境計画 国際資源パネル(UNEP-IRP) 共同議長)
「本報告書は、人間の活動、特に資源消費がグローバル・コモンズをどのように形成しているかについて、説得力のある概観を提供しています。消費と貿易による波及効果は豊かな国々によってもたらされ、一方、被害を受ける人々や最も脆弱な人々の多くは開発途上国に集中しています。世界的なコモンズの悲劇を回避するためには、国を超えた協調的なマネジメントが必要であり、特に高所得国にはその責任が課せられています。このフレームワークは、人間の福利を損なうことなく環境破壊を減らすことができる需要側の措置など、これを達成するために関係者が起こすべき変革や取るべき行動を示しています。」

ナイジェル・トッピング(COP26気候行動ハイレベル・チャンピオン)
「企業は、科学的根拠に基づく目標の設定、資本の再配分、イノベーションの推進、新しいビジネスモデルへの投資によって、ゼロエミッション経済への移行を進めています。このプロセスは、パリ協定によって加速され、産業を変革するマルチステークホルダー連合という素晴らしい結果をもたらしています。脱炭素化の成功はまだ確実ではありませんが、本報告書は、こうした有望な成功例から学び、我々の継続的な健康、繁栄、安全保障が依存するグローバル・コモンズを保護するための効果的なガバナンス・メカニズムを開発する重要性を示しています。」

機関紹介

グローバル・コモンズ・センター
グローバル・コモンズ・センターは、「人類が直面する課題の根本的な解決に向けて、学問の枠を超えた幅広い分野のリーダーとの協創により、大学が社会変革を牽引する役割を担う」という五神真総長(当時)のビジョンを実現するために、2020年8月に設立されました。初代センター長には、設立直前の8年間、地球環境ファシリティ(GEF)のCEO兼議長を務めた石井菜穂子氏が就任し、「持続可能な未来のためにグローバル・コモンズを管理する新しいフレームワークを構築する」ことをミッションに掲げました。

ポツダム気候影響研究所
地球規模の持続可能性のための学際的な気候影響研究のフロンティアを開拓し、安全で公正な気候の未来のために知識と解決策を提供する-これが、ライプニッツ協会のメンバーでこの分野のリーダーであるポツダム気候影響研究所(PIK)の2つのミッションです。PIKは、地球システムの最新の理解と気候リスクの評価、そして管理可能な気候の未来に向けた政策や経路の探求を統合しています。そのため、PIKの研究の指針となる枠組みは、「プラネタリー・バウンダリー」と「グローバル・コモンズ」の統合です。PIKは、分野やスケールを超えた研究とソリューション志向をユニークな方法で融合させ、社会との関連性が科学的な卓越性に基づいていることを強調しています。

持続可能な開発ソリューション・ネットワーク
国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)は、学術界、市民社会、民間セクターの科学的・技術的専門知識を結集し、地域、国、地球規模での持続可能な開発のための実践的な問題解決を支援することを目的としています。SDSNは、国連事務総長の支援のもと、2012年に発足しました。SDSNは、国や地域の知識機関のネットワークの構築、リサーチや政策分析ツールの作成、主要なオンライン教育であるSDGsアカデミーを通じたSDGsに関する教育を行っています。

システミック
システミック(SYSTEMIQ)は、再生可能な土地利用、循環型素材、クリーンエネルギー、持続可能な金融という4つの主要な経済システムにおいて、市場とビジネスモデルを変革することにより、パリ協定と国連の持続可能な開発目標の達成を推進するために2016年に設立された企業です。同社はBCorp認証を受けており、ハイレベルな研究とインパクトのある現場での活動を組み合わせ、ビジネス、金融、政策立案者、市民社会と連携して変革を実現します。SYSTEMIQは、ブラジル、ドイツ、インドネシア、オランダ、英国にオフィスを構えています。

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東京大学未来ビジョン研究センター
グローバル・コモンズ・センター
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