• 社会提言

    No.2

    グローバル・コモンズ・センター

世界の化学産業のサステナブルな事業モデルへの移行に関する提言

社会提言の背景

化学産業が生み出す製品は様々な形で現代の生活を支えている。最近では社会が新型コロナと戦う中で、医療現場や日常における感染からの防護用途として、また食品デリバリの容器としてプラスチックが多用されている。実際、化学製品はほぼすべての産業において原料素材として用いられている。一方で、化学産業やそのサプライチェーンは温室効果ガスの排出、海洋などへの廃プラスチックの流出、肥料に用いられる窒素・リンの自然界への流出など、環境への影響に関して大きな課題を持っている。

特に温室効果ガス排出のネットゼロに関しては喫緊の課題となっているが、化学産業はネットゼロの技術的な困難さに加えて、3つの不確実性1に直面しているため、ネットゼロに向けた進展が遅れている。加えて、ネットゼロはプラネタリ・バウンダリーズ (Planetary Boundaries)2の範囲内で実現する必要があり、ネットゼロ実現のために生物多様性等のプラネタリ・バウンダリーズの他の項目を悪化させるのは本末転倒である。このような背景のもと、グローバル・コモンズ・センターでは、三菱ケミカル株式会社の支援を受けて、システミック社とともにこれら3つの不確実性について解明し、世界の化学産業がプラネタリ・バウンダリーズの範囲内でサプライチェーンでの排出まで含めたネットゼロを実現するための道筋を示し、化学産業、マルチステークホルダー・コアリッション、そして政策立案者に向けた提言を行った3

社会提言の概要

提言においては、例えば化学産業に対しては、原料の移行(化石由来原料からリサイクル材料・バイオ由来材料・DAC-CCU4等へ)、再生可能エネルギーへの移行、CCS5の強化等の供給側の対策に加えて、サプライチェーン川下でのサーキュラーエコノミー強化に伴う化学製品需要の抑制を受け入れる必要があることを挙げている。また、これらの移行を実現するためには、原料移行関連の技術開発とスケールアップの加速、ファイナンス、サプライチェーン内での原材料・排出等に関するデータ連携が重要である。さらにこれらを支える枠組みとして、例えば炭素価格やリサイクル含有率等の規制、先進的な川下需要家によるネットゼロ化学製品への将来需要表明を通じた川上・川下連携の確立、関係者による世界レベルでの移行原則を定めた憲章の確立が重要である。

この社会提言は、東京大学未来ビジョン研究センター グローバル・コモンズ・センターの研究成果の一つです。全文は以下よりダウンロードいただけます。


1 (1)高コストになるネットゼロ化学製品の将来需要量の不確実性、(2)ネットゼロ実現に関連する様々な候補技術に関わる不確実性、(3)ネットゼロ実現までの道筋に関する不確実性
2 地球システムの安定化を担っている9つのプロセス(気候変動、生物多様性等)において、超えてはいけない一線を定めたコンセプト
3 本提言は、客観性・公平性を担保するために、独立コンサルタント・本学以外の学識経験者・産業界の専門家で構成されるエキスパートパネルとの議論の上で作成された。
4 Direct Air Capture – Carbon Capture and Utilization (大気中から直接二酸化炭素回収し、新たな製品製造の原料として有効利用する)
5 Carbon Capture and Storage (二酸化炭素回収・貯留)