• 論文

    古月 文志 未来ビジョン研究センター特任教授
    坂田 一郎 工学系研究科教授

古月文志特任教授らの研究成果がAdvanced Energy & Sustainability Researchに掲載されるとともに、表紙を飾りました

水から作ることができ、燃焼させても二酸化炭素を排出しない水素は、クリーンなエネルギーとして注目をされています。日本政府も、カーボン・ニュートラルの達成を目指して、今年の6月、新しい「水素基本戦略」をとりまとめたところです。水素生成が水素利用の出発点となりますが、金属粉/水反応は、オンデマンドな水素生成、すなわち、必要な時に必要なだけ水素を生産するための最先端の方法として知られています。金属粉の中でも、アルミニウム(Al)は、その高い安定性、取り扱いの安全性、高い還元電位という固有の性質と、酸化アルミニウム等の副生成物のリサイクルが可能ということから、この方式の実用化の要となる金属と考えられています。

しかしながら、アルミニウム粉末(Al)/純水反応は、現時点では、特に50度以下の低温ではその反応が極めて遅いことがボトルネックとなって、本格的な水素生成に利用できる方法とはなっていません。反応の遅さの大きな原因は、アルミニウム粉末(Al)の表面に自然に生成される酸化アルミニウム(Al2O3)薄膜の不浸透性です。この点を解決するために、これまで、苛性ソーダの添加や加熱水や水蒸気の利用、アルミニウム粉末のナノサイズ化といった方法が考えられてきましたが、いずれも大きな課題を抱えています。

今回、0.1-0.5重量パーセントという少量のTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TEMPO-CNFs)を純水の中に添加することで、セルロースナノファイバーと水からなる凝縮ネットワークが酸化アルミニウム(Al2O3)の薄膜上に形成され、いわばセルロースナノファイバーが擬似触媒となることで、50度以下の温度でもアルミニウム粉末(Al)/純水反応を効果的に促進できることが確かめられました。

植物由来のTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TEMPO-CNFs)を介したこのようなアルミニウム粉末(Al)/純水反応は、安全で、クリーンかつコスト効率に優れており、また、本格的なオンデマンド水素生成に向けて、スケールアップも可能と考えられます。さらに、反応の副生成物であるベイヤライトについても、再生可能エネルギーを用いて電気分解を行えば、ゼロエミッションでアルミニウム(Al)粉末に戻すことが可能です。

クリーンな水素製造の実現に向けて、本グループでは、今後、この手法の実用化を目指していきます。当センターの古月特任教授と坂田教授らのこの研究成果は、Advanced Energy & Sustainability Research誌(略称:Adv. Energy Sustainability Res.)に掲載されるとともに、その第4巻8号の表紙を飾りました。

https://onlinelibrary.wiley.com/toc/26999412/2023/4/8

タイトル:


TEMPO-oxidized Cellulose Nanofibers (TEMPO-CNFs) as pseudo-Catalysts for in situ and on-demand Hydrogen Generation via Aluminum-Powder/Pure-Water Reaction at a Temperature below 50°C.

著者:


B.Fugetsu, S.Yoshinaga, A.Kimura, T.Hoshino, I.Sakata, A. Isogai

ジャーナル:


Advanced Energy & Sustainability Research (2023), 2300070.
https://doi.org/10.1002/aesr.202370016

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特任教授 古月 文志