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No.7
未来ビジョン研究センター カーボン・オフセット検討タスクフォース
東京大学における出張に伴う温室効果ガス排出対策の一検討
No.7
未来ビジョン研究センター カーボン・オフセット検討タスクフォース
要約
世界全体で温室効果ガス(GHG)排出削減対策が急務になってきており、最近では間接排出の対策も重要視されてきている。この課題は東京大学に限らず、幅広い組織が取り組むべき普遍的な課題である。
東京大学はUTokyo Climate Action のもと、2050 年までに直接排出やエネルギー購入による排出のみならず、その他の間接排出(GHGプロトコルでいうScope3に相当、具体的には出張、教職員や学生の通勤、廃棄物処理など)を含む温室効果ガス正味排出量ゼロを目指している。しかしながら、間接排出の一種である国内外の出張に伴う航空機からの排出量1の削減対策は短期的には難しいことが知られている。海外の大学では先進的な事例が見られるが、国内では対策も限定的である。本報告書は航空便の利用による出張のGHG排出削減について、東京大学の対策について検討し、海外のベストプラクティスを調査し、今後の短期的な試行方策案についてまとめたものである。
本提案は実施にあたって多くの課題があると思われ、全学での検討に先立って一部の部局での検討・試行・評価を行うことが望ましい。また、対策は教育研究の水準を落とさないことを前提とする必要性がある。
第一に、持続可能な出張・通勤方針を打ち出すことが必要である。電車酔いしやすいなど健康に不安のある人は無理に飛行機を避ける必要はないが、不要な出張を控えることや、より環境に好ましい交通手段による出張の選択を促進することが必要である。
第二に、排出削減および行動変容を促すためのアナウンス効果を目的として、大学内部で炭素価格付けを行うことが望ましい。直接排出対策と間接排出対策、またオフセットの等価性についての考え方にもよるが、収集された資金は削減困難な排出を相殺するためのオフセット購入以外にも様々な使い道が考えられる。資金は東大基金などに集めることが考えられる。オフセットの購入は、除去期間が短く低品位のものはグリーンウォッシュ(見せかけの環境対策)になってしまう懸念があり、高品位のクレジットに限ると高額になると見積もられ、慎重な検討が必要である。実際の炭素価格付けは一部の部局で試行を早急に始めることが望ましい。
第三に、様々な対策が同時並行に進んでいる中、持続可能な航空燃料の普及や国内排出量取引制度の航空部門への適用、国際的な航空部門の対策などの進展を確認し、定期的に東京大学の方針を改訂する必要性がある。
1 2023年度のScope3, カテゴリ6(出張:従業員の出張に伴う排出)排出量算定値は、東京大学全体の排出量(Scope1,2,3)の約11%、Scope3全体の約15%である。但し、現段階では、出張の移動手段のデータを収集する手段がなく、出張費用全体に航空移動のファクターを乗じただけの不確定性の大きい算出値である。
この社会提言は、東京大学未来ビジョン研究センターの研究成果の一つです。全文は以下よりダウンロードいただけます。