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No.8
人生100年を設計する超高齢社会まちづくり研究ユニット
個人の生きがいと地域社会の持続可能性の両立を目指した提言~ローカル・コモンズ概念の新たな側面の探究~
No.8
人生100年を設計する超高齢社会まちづくり研究ユニット
要約
日本では、2020年に100歳以上の高齢者が8万人を超え、さらに2025年には高齢化率が30%を超えることが予想されている。さらに、2025年問題を取り上げてきた経緯を踏まえ、まさにその年であるタイミングを迎えた今、次には「2040年問題」とも言うべき、高齢社会の複雑な諸課題に向き合いながら持続性のある地域コミュニティ協創が求められている。そのなかで、健康寿命の延伸は最大関心領域であり、その実現のためには、従来の各疾病別の管理・治療戦略ではなく、日常生活を包括的にとらえ、総合的なアプローチを必要とする「フレイル(虚弱)」の予防が重要なテーマとなる。したがって、そのフレイル予防を国家戦略として位置付けながら、地域社会でいかに実践していくか、地域コミュニティをいかにリデザインしていけるのかが鍵となる。
さらに、フレイル予防を通じて「健康長寿とともに『幸福長寿』との両立を実現する」ことも重要である。言い換えれば、心身ともに健康を維持することも大きな課題であるが、同時に、健康状態を実現できた際に、その上で、いかに自分が納得し達成感を感じることできるような日々の活動ができ、最終的に自己実現に向かうことが出来る。この視点から再考してみると、わが国においてもまだ大きな課題が残されている。そのために、フレイル概念の多面的側面(身体的、精神心理的、社会的)も十分考慮した上で、地域コミュニティのあり方および個々人の気持ちの醸成においても次なるステージに入ることが求められる。最近、日本人において「生きがい」を持っている人は健康であり、かつウェルビーイングを感じることが研究結果として改めて示されている。つまり、生きる張り合いや生きる価値や意味・意義などの肯定的な感情を持っていることが、その人の身体的状態や行動に大きな好影響を与えることを意味している。しかし、生きがいのために好きなことや得意なことを追求することは、地域コミュニティの持続可能性の観点からは十分に議論されておらず、今後の課題を残している側面もある。また、その両立のために、社会貢献活動や就業を推奨すべく、その環境づくりを工夫していくことの重要性と同時に、その価値を科学的に示す(見える化する)ことも必要である。
全国の自治体における人口の推移などを見直してみると、時には消滅可能自治体などというフレーズも用いられて比較されている。多面的な視点における自治体間の差は存在することも事実であるが、都市部でも地方部でも、そこに住み続ける住民にとっての必ず必要なものや共通認識すべきものがある。それを熟考していくと、『ローカル・コモンズ』という言葉が浮かんでくる。従来から言われている内容としては、コモンズの一種であり、地域コミュニティの集団が実質的に所有し、共同事業として現地住民が相互利益に配慮しながら管理したりしているため、無償利用は可能でも、アクセスが地域コミュニティのメンバーに限定されていたりする、という解釈がされている。時代背景も加速して進み、従来の考え方から「新しい要素や付加価値を含んだローカル・コモンズ」というものを模索すべき時に来ているのかもしれない。
以上より、持続可能な地域コミュニティ協創を考えるにあたり、従来のローカル・コモンズ概念も踏まえながら、個々人の生きがい感をどう醸成していけるのか、地域全体としての総和のボトムアップをどう実現していけるのか、さらには、そのためのどのような産学官民協働が求められているか、等々について、シンポジウム議論を重ねた内容も盛り込みながら社会に向けて提案したい。そして、ローカル・コモンズにおける地域住民の「主体性とそこに芽生える新価値」を述べる。
提言1:
個人の生きがいと地域コミュニティの持続可能性のそれぞれの考え方を踏まえ、その両立を目指し地域づくりに取り組む
提言2:
個人の生きがいと地域社会の持続可能性の両立を目指すにあたり、充実感・満足感・新たな価値観を感じることのできる社会活動の場と機会を創造する
提言3:
多様な社会活動の場と機会を創造するためには、産学官民協働における個々の役割を最大限活かした新たな連携が必要である
この社会提言は、東京大学未来ビジョン研究センター人生100年を設計する超高齢社会まちづくり研究ユニットの研究成果の一つです。全文は以下よりダウンロードいただけます。