-
No.9
グローバル・コモンズ・センター
日本の化学産業のサステナブルな事業モデルへの移行に関する提言
No.9
グローバル・コモンズ・センター
はじめに :
化学産業は日本の産業界では鉄鋼業に次ぐ温室効果ガス (GHG) 排出源です。化学反応が高温を要することや、化学製品の多くが炭素を含み、製品廃棄時にもGHGが発生することなどが排出削減を困難にしています。さらにGHG排出削減に際しては、プラスチック汚染や生物多様性の喪失等の他の環境題に対して負荷を転嫁しない取り組みが求められ、それには科学的な道筋が必要となります。本提言では基礎化学製品からのGHG排出をネットゼロにする道筋を定量的に算出した査読論文と日本の化学産業に関する知見を統合し、ネットゼロ実現のための戦略やアクションを示し、特に企業に対して提言を行っています。本レポートの提言は、日本と同様の制約に置かれた他国・地域にも適用できると考えています。
主な提言内容 :
- ネットゼロ実現に必須な資源への早期アクセス確保が企業・国家にとって重要である。必須な資源とはバイオマス、リサイクル材、CCS (二酸化炭素地下貯留) である。電気自動車のサプライチェーンにおいて、上流のリチウムやコバルトの確保が電池のみならず、電気自動車の競争力をも左右するのと類似した状況が、今後、化学産業でも起こり得る。
- 新たなサプライヤー・顧客との関係構築が必要となる。従来の石油産業に加えて、バイオマス等の新資源確保に新たなパートナーが必要となる。また、基礎化学品のコストは従来の2~3倍となるが、化学製品はサプライチェーンが長いため、最終消費者製品のコスト増は約1%にとどまる。従って、直接顧客ではなく、ブランド・オーナー等の最終顧客との対話、グリーン市場の共同開拓が重要となる。
- 中長期投資を可能にする業界再編が必要である。ネットゼロ実現には、新パートナー構築や技術確立のための中長期投資が必要となるが、その規模は企業体力に左右される。クリティカル・マスを超える中長期投資と投資判断の迅速化のためには、化学産業の業界再編は避けて通れない。化学企業のリーダーシップが求められる。
- 政府と産業界が連携して新産業育成に取り組むべきである。政策面では、低GHG製品のルール形成、規制導入、政府調達、設備投資・運転経費の支援を産業界と連携して行うことが重要である。また、高コストと低需要の「ニワトリと卵」から各国が脱却できていない中で、新産業を先に立ち上げる国家間競争も始まっている。電機製品分野で市場拡大期に他国に後れた歴史を繰り返してはならない。
- サステナビリティは化学産業の新たな成長源となり得る。国内需要は人口減少で縮小し、主要顧客である自動車・電機産業は付加価値の焦点を化学製品が使われるハードウェアからソフトウェアへ移しつつある。その中で、素材の性能向上が付加価値向上につながる分野は限られる。今後の化学産業の付加価値向上には、GHG 削減やリサイクル・プラスチック汚染防止等の環境価値の創出が鍵となる。
謝辞:
本研究は三菱ケミカル株式会社の支援を受け、英国システミック社と共同で実施しました。
この社会提言は、東京大学未来ビジョン研究センター グローバル・コモンズ・センターの研究成果の一つです。全文は以下よりダウンロードいただけます。