• 論文

    杉山昌広 未来ビジョン研究センター准教授、他

気候工学とフューチャー・アース:解決主義科学の限界と超学際研究の今後の展望

朝山慎一郎 早稲田大学政治経済学術院日本学術振興会特別研究員/ケンブリッジ大学地理学部客員研究員、杉山昌広 東京大学未来ビジョン研究センター准教授、石井敦 東北大学東北アジア研究センター准教授、小杉隆信 立命館大学政策科学部教授の研究グループが、フューチャー・アースの文脈における気候工学の超学際研究の課題についての研究成果を発表しました。

近年、人新世(Anthropocene)の概念の下、学問分野の垣根を超えた学際研究に加えて、社会の利害当事者(ステークホルダー)との協働も含めた「超学際研究(transdisciplinary research)」の必要性が謳われ、2012年に地球システム科学分野の新たな国際研究プラットフォームとしてフューチャー・アースが設立されました。

一方で、人間活動による二酸化炭素排出を起因とする地球温暖化が地球システムの安全な閾値を超えてしまうことの懸念から、人為的に地球平均気温の上昇を抑える気候工学(またはジオエンジニアリング)と呼ばれる技術に対する関心が科学者や政策決定者の間で広まっています。

本研究では、フューチャー・アースの文脈における超学際研究と気候工学研究の関係性、特にステークホルダーとの協働による研究課題のコ・デザイン(co-design)における課題について調査および理論的な検討を行いました。

本研究チームは、フューチャー・アースにおける超学際研究が、地球規模の持続可能な発展を目指す解決主義的な科学研究に強く傾いており、それゆえに研究開発の是非をめぐって論争の絶えない気候工学では、知識の統合や合意形成を目的としたステークホルダー関与がかえって政治的な分極化をうながすおそれがあることを明らかにしました。

また、科学における公衆関与のあり方に関する理論的なレビューを通じて、超学際研究ではステークホルダーが意思決定に参与すること、とりわけ、気候工学のような論争的なテーマでは公正かつ透明な意思決定メカニズムを整えることの必要性を明らかにしました。

さらに、研究者とステークホルダーによる投票の手法を用いたコ・デザインの経験を踏まえて、投票には公衆関与のための効率性・包摂性・学習といった利点があることも明らかにしました。

最後に、フューチャー・アースの今後のあり方について、解決主義科学からの脱却と、超学際研究の試みを一つの社会実験として捉え、失敗から学ぶ実験主義的なアプローチへの転換の必要性を提案しました。

今回の研究成果は、ジャーナル「The Anthropocene Review」に掲載されました。

謝辞

本研究は(国研)科学技術振興機構フューチャー・アース構想の推進事業により支援を受けました。