• 政策提言

    グローバル経済リスクの分析と政策研究ユニット

日本企業における内部監査機能の強化に向けた政策提言

政策提言の背景

  1. 内部監査の使命には、企業の「価値の保全」への寄与と企業の「価値の向上・創造」への寄与の二つの機能がある。前者はコンプライアンス等の監査を行い、「守りのガバナンス」を担うものであり、後者は業務の有効性、効率性の監査やビジネスモデルや経営戦略などの価値向上創造に関わるリスクの監査を行い、「攻めのガバナンス」を担うものである。
  2. 企業経営を取り巻く環境が急速かつ激しく変化している中、価値創造のためのビジネスモデルや経営戦略を円滑に機能させ、持続的成長を果たすことが大きな課題となっていること、コンプライアンスに関して内部監査ができることには限界があることを考慮すると、これからの内部監査は、価値の保全を中心とする監査から、価値の保全のみならず価値の向上・創造をもカバーする監査へと、その機能を拡充し、攻めのガバナンスにおいても役割を果たしていくことが有益である。欧米の主要な企業における内部監査の機能はそのように強化されてきているし、また、金融庁が2019年6月に公表した文書「金融機関の内部監査の高度化に向けた現状と課題」でも日本の金融機関について、内部監査の機能強化の必要性が強調されている。
  3. このような観点から、内部監査部門が20人以上で統合報告書を作成している日本企業49社を分析したところ、価値の向上・創造に関する機能を有するに至っている企業がある一方、依然として価値の保全に関する機能を重視し、機能強化が課題となっている企業も多数存在した。
  4. 内部監査部門が20人にも満たない日本企業の多くは、規模の制約からその機能が価値の保全にとどまっていることは容易に推察できる。そこで、49社について、機能の差が何に由来するのかを明らかにすることで、そこから日本企業全般について、内部監査の機能強化を実現するには何が必要かを政策として提言することにした。
  5. 49社の内部監査の機能の差を説明する要因としては、第一に、各企業のリスクマネジメントに関する意識のレベルの差を、第二に、最上位のガバナンス組織からの信頼の差を分析した。ただし、信頼の差を直接観察することが困難なので、内部監査部門と最上位のガバナンス組織(具体的には、社長、取締役会(社外取締役)や監査役(会)、監査委員会、監査等委員会を指す)との関係レベルの差を実際には分析した。その結果、その二つの要因とも、内部監査の機能の差とゆるやかな相関関係を有していることが判明した。

政策提言

1. 日本企業は、その内部監査の機能を次のような方向で強化することが必要である

  • 「守りのガバナンス」(コンプライアンスなど価値保全を中心した監査)と同時に「攻めのガバナンス」(ビジネスモデルや経営戦略などの価値向上創造に関わるリスクの監査)の担い手へと進化する
  • そこでは、リスクの視点がコンプライアンスなど価値保全に関わるリスクから、ビジネスモデルやビジネスプロセスがその目的を達成できないリスクへと広がる
  • いずれはTrusted Advisorへと内部監査部門が歩みだす

2.このような内部監査の機能強化を実現するため、49社の機能の差を説明する要因に関する分析結果から、2-1.リスクマネジメントの意識を高めるルート、2-1.内部監査部門への信頼を向上させるルートの2つのルートに関わる以下の政策を提言する

2-1. リスクマネジメントの意識を高める施策

  • IIRC統合報告フレームワークに沿って、真の「統合思考」に基づいた統合報告書が作成されるように促していくこと
  • 統合報告書の誠実性に関して、内部監査部門に一定の役割を与えること
  • リスクマネジメントの基礎的なフレームワークに関する認識を向上させること
  • 内部監査部門自身がマネジメントのリスク意識の向上に積極的に取り組むこと

2-2. 内部監査部門への信頼を向上させる施策

  • 内部監査部門と最上位のガバナンス組織とのインターアクションを真に有益なものとすること
  • 社外取締役を含めた取締役会とのインターアクションをさらに増やすこ
  • 二重レポート・ライン(dual reporting line)を適切に整備すること
  • コンサルティング業務(アドバイザリー業務)へのマネジメントの認識を高め、活用を促していくこと
  • 経営上層部における内部監査部門への理解を長期的に高めるために内部監査部門での経験を経営上層部へのステップとして人事上運用すること

この政策提言は、東京大学未来ビジョン研究センター仲浩史教授「日本企業における内部監査機能の強化に向けた提言~変化の激しいビジネス環境におけるリスク・マネジメントと内部監査~」(『月間監査研究』2019年12月号, Vol.45, No.12)の研究成果の一部です。エグゼクティブサマリーは、下記PDFをご覧ください。